本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『じつはスゴい股関節』(深代千之)

 お薦めの本の紹介です。
 深代千之先生の『じつはスゴい股関節』です。

 深代千之(ふかしろ・せんし)先生は、教育学がご専門の博士です。
 スポーツバイオメカニクスの第一人者として知られた方です。

「股関節」のスゴい力

 「股関節」は体幹とともに、身体を動かすうえで大切な役割を果たしています。

 股関節は、身体の中心にあり、「上半身」と「下半身」をつないでいる要の部分。
 たくさんの大きく太い筋肉が集まるため、他の部位よりずっと大きな力を発揮できます。

 股関節を効率的に使えば、同じ仕事量をするのでも、「ラク」に感じることができます。

 すべての身体の動きに欠かすことができない存在。
 まさに、「縁の下の力持ち」ですね。

 本書は、股関節に関する正しい知識を解説し、正しい使い方やエクセサイズをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「股関節」ってどこを指す?

 深代先生は、股関節の機能や働きについて、以下のように説明します。

 股関節は、私たちの太もものつけ根にあって、「体幹」つまり胴体と両脚をつないでいます。
 狭い意味でとらえれば、骨盤の両側の開いた臼状のくぼみに、太ももの骨(大腿骨)のいちばん上の球状の部分が収まった関節が、股関節です(下図1の左参照)。太ももの骨の球状の部分が骨盤のくぼみの中をグルグルと回るので、ほかの関節に比べて、股関節は前後左右と、三次元的によく動きます。この股関節の上に骨盤があり、さらに背骨が伸びて、人間の体幹は形成されているのです。
 この「股関節」を動かしているのが筋肉です。左頁の図(下図1の右参照)のように、股関節の周りには、大きなものから小さなものまで非常にたくさんの筋肉が集まっています。これらの筋肉は、それぞれが複雑に組み合わさって筋力を発揮し合いながら、さまざまな動きを可能にしているのです。

 『じつはスゴい股関節』 CHAPTER 1 より 深代千之:著 ポプラ社:刊

股関節P18  股関節P19
図1.股関節の形状(左)と股関節周りの筋肉(左)
(『じつはスゴい股関節』 P18、19 より抜粋)

ラクな「直立姿勢」とは?

 立つ、座る、歩くなど日常の動作。
 それらも、股関節をうまく使えば、余分な力を使わずに楽に行うことができます。

 例えば、「直立姿勢」について。
 もっともラクな立ち方は、 くるぶしの上に、膝、股関節、頭がまっすぐ乗るように立つことです。

 関節には、一方の骨ともう一方の骨が押し合い、拮抗(きっこう)する力が働いています。これを「関節間力」といいます。
(中略)
 くるぶしの上に、膝、股関節、頭をまっすぐ乗せれば、関節間力だけで立つことができ、ふくらはぎなどの筋肉をほとんど緊張させることなく、立っていられます(下図2の左参照)。
 ところが、膝を曲げて立っているときには、イラストの矢印(下図2の右参照)のように、膝が曲がるような方向に「回転する力」が重力によって働きます。このままの姿勢を維持するためには、「回転する力」の反対向き、つまり膝を伸ばす方向に筋力を使わなければいけません。
 直立姿勢でも中腰姿勢でも、体重はもちろん同じですし、膝などに働く関節間力も同じです。しかし、右図の中腰姿勢のほうがキツいのは誰でもわかりますね。体重などが同じでも、姿勢によって筋肉の使われ方が異なるのです。左図のように関節間力を十分に使えば、筋力の貢献をコントロールできます。
 つまり、姿勢を調節して関節間力を使えば、筋肉を緊張させる必要がない、ということです。

 『じつはスゴい股関節』 CHAPTER 2 より 深代千之:著 ポプラ社:刊

股関節を使ってP37
図2.直立姿勢時と中腰姿勢時の筋力の使い方
(『じつはスゴい股関節』 P37 より抜粋)

 もっとも正しい姿勢が、結果的に、もっともラクな姿勢です。

 ポイントは、膝、股関節、頭をまっすぐ乗せること。
「関節間力」を最大限に利用したいですね。

「膝を抜く」ということ

「膝を抜く」という身体技法があります。
 これは「落ちる」こと、つまり、重力を利用した動きです。

「膝を抜く」とは、あえて意識して「落ちる」動作を行なうことです。

 この動きをどこで使うかというと、もともとは剣術などで相手に斬りこむ一瞬に身体を落とし、瞬時にして足を前に踏み出すときのためにできた言葉だと言われています。現在では、剣道の踏み込みや野球の盗塁のスタート指導などで、ときどき耳にします。立った状態から1歩目を速く踏み込むには、一度身体を落とす必要があるのです。2歩目以降は、地面を蹴って推進力をつけるのですが、それにつながる1歩目の重要性は、剣道に限らずなにかスポーツを経験したことのある人なら、身にしみて感じているのではないでしょうか。
 ここで、膝を抜くとき、どの筋肉がどのように働いているか、考えてみましょう。
 まず、自由落下を生むために膝関節と股関節を曲げます。そして、一定の高さで落下をくい止めますが、この衝撃を受けとめるのもまた、股関節なのです。
 さらに、膝を抜いたあとの姿勢は腰を入れた状態になっています。股関節を使いやすい姿勢ですね。そう、「膝を抜く」という動作においても、股関節が鍵になっているのです。

 『じつはスゴい股関節』 CHAPTER 3 より 深代千之:著 ポプラ社:刊

 人間は、「落ちる」より速く、下方向に動くことができません。

 跳び上がる高さや速さは、トレーニングを積めばつけることができます。
 しかし、下にしゃがむ速さは、鍛えることはできません。

 サッカーのゴールキーパーにとって、足元のボールが一番対処しにくい。
 それは、このような理由があったのですね。

ピッチャーが脚を高く上げる理由

 野球のピッチャーは、大きく振りかぶったあと、脚を高く上げる動作をします。

 動きの中で片足を上げるというのは、バランスを取るのが難しいものです。
 フラフラしてしまっては、速い球をコントロールして投げることができませんね。

 それでも脚を高く上げる理由は、「位置エネルギー」が「運動エネルギー」に変換されることにあります。

 物体は、地面より高い位置にあると、下に向かって落ちていきます。つまり、高い位置にある物体は、「下に向かって移動する能力を持っている」ということです。これが、位置エネルギーです。脚を上げることで、その脚は重さの分だけ「位置エネルギー」を持ちます。脚を振り下ろすときに、この位置エネルギーを運動エネルギーに変えると同時に、その運動の向きを股関節を使って前向きに変えているのが、ピッチャーが脚を上げてから下ろすまでの動きなのです。
 そうすると、腕だけを使って投げるよりも身体をラクに前に動かすことができ、ボールにエネルギーを伝えられるので、より速い球を投げることが可能になります。
 さらに、前の足を着くときに膝を曲げないようにすると、着地の地面反力が股関節まできて、ピッチャーの上半身がパタンと前に倒れます。それで肩のスピードが上がり、あとは腕のムチ動作とかいなを返すことで、ピッチャーは速い球を投げているのです。
 当たり前のように受け入れられ、慣れ親しんできたフォームは、かつての経験からその効果が予想されてきましたが、こうして科学的に根拠を得ることによって、自分のフォームを見直すきっかけにもなりますし、動きの意味を理解して練習することで、上達もぐんと早くなるはずです。

 『じつはスゴい股関節』 CHAPTER 4 より 深代千之:著 ポプラ社:刊

 普段何気なく目にするピッチャーのフォーム。
 やはり、科学的な根拠がありました。

 科学的な根拠をもとにフォームを見直すと、より体に負担の少ない効率的な動きができる。
 それは、私たちが日常的に行なう動作も一緒です。

 自分の“フォームのクセ”を見つけて、直していきたいですね。

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 深代先生は、「関節間力」を理解しているかどうかということは、そのまま普段の姿勢やスポーツの動作の巧みさに直結しうるとおっしゃっています。

 関節間力の中心、要となるのが「股関節」です。
 股関節は、普段の生活で意識することはほとんどありません。

 ここを痛めると、動くことはもちろん、上体を起こすこともできなくなります。
 すべての動きが、この股関節を起点に始まります。

 そんなスゴい力を持つ股関節。
 普段から有効に使い、自分の身体の可能性を広げたいですね。

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