本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『学校の勉強だけではメシは食えない!』(岡野雅行)

 お薦めの本の紹介です。
 岡野雅行さんの『学校の勉強だけではメシは食えない!―世界一の職人が教える「世渡り力」「仕事」「成功」の発想』です。

 岡野雅行(おかの・まさゆき)さんは、日本を代表するプレス加工会社「岡野工業株式会社」の経営者です。
 リチウムイオン電池のケースなど、従来の深絞りなどのプレス技術では不可能とされてきた金属加工を次々と実現させ、“金型の魔術師”とも呼ばれている方です。
「刺しても痛くない注射針」を作った方としても有名です。

いちばん大事なことは「世渡り力」

 岡野さんは、いちばん大事なことは世渡り力を勉強することだと述べています。

「世渡り力」とは、人情の機微(きび)、世の中の約束事。
 岡野さんは、それらを小さい頃から、隣近所の人たちから学びました。

 人間には、「利口な人間」と「頭のいい人間」の二種類がいます。

 頭のいい人間は、学校の勉強はできるけど、世渡りの下手な人。
 利口な人間は、世渡りが上手くて、何かと応用が効く人。
 
 利口な人は、どんなときにもアイデアがある人でもあります。

 アイデアマンに共通すること。
 それは、世の中でいろいろ遊んで、いろんな失敗した経験があることです。

 岡野さんは、仕事上手な人はうんと失敗をしてきている。それを糧(かて)に二度と同じ失敗をしなくなる。言っちゃなんだけど、失敗しないやつはなんにも出来ないと指摘します。

 やりたいことをとことんまで追求する。
 常識に縛られず、誰もやらなかったことにどんどんチャレンジしていく。

 それが岡野さんの生き方です。
 
 本書は、新たな挑戦をし続ける、岡野さんの型破りな人生哲学をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

スポンサーリンク
[ad#kiji-naka-1]

井戸を掘ってくれた人を忘れるな

 岡野さんは、人間関係で一番大切なものは、「義理人情」だと強調します。

 とくに、「大変だったとき、つらかったときに受けた恩は絶対に忘れてはならない」とのこと。

 最初に井戸を掘ってくれた人を忘れちゃいけないんだよ。その恩を忘れるから、水が出なくなっちゃうんだ。ちょっと羽振り(地位、勢力)がよくなると、昔のことを忘れる人っているだろ? 俺は昔のことは忘れないよ。いいことが起こるのも、そういうことがまわり回っているからかもしれない。
 もしまわりに人がよってこないのなら、まず自分がつまらない顔をしていないか考えてみるんだ。人が寄りつかない人はたいてい「こっちに来るな」というオーラを出しているもんだ。まわりからかわいがられる人というものは、言葉ではうまく言えない要素を持っている。その人の人間性みたいなものかな。世渡り上手な人はそういうものをうまく表に出せるんだろう。
 反対の悲しいこともある。ひとつのことに突出すると、昔一緒にがんばってきた人が離れていってしまうことも経験するようになるんだ。まぁ、やきもちなんだろうけどさ、離れていくっていうのはもったいないよ。仲間が他のどんぐりから頭を出したとしても、今までどおり付き合わなくちゃ。俺は自分から人との関係を切ったりしないよ。だって、こっちから切らなくても、自然の摂理でいなくなってくんだから(笑)。わざわざ好き好んで人間関係を狭める必要なんてないだろう?
 それからね、付き合う人間もちゃんと見極めたほうがいい。俺の場合、痛くない注射針で俺の名前が知られるようになってからも、「知らない親戚」っていうのは増えなかったよ。よくいうだろ? 有名、金持ちになったとたんに、知らない親戚がどこからかいっぱい現れるって。

 『学校の勉強だけではメシは食えない』 第1章 より 岡野雅行:著 こう書房:刊

 周りの人からかわいがられる人、助けられる人。
 彼らには、それなりの理由があるということです。

「情けは人のためならず」ということわざもありますね。

 人から受けた恩は忘れない。
 そして、人の幸せや成功を素直に喜べる。

 そんな人間でいたいものです。

コンプレックスを自分の強みに!

 自信を持ちすぎてしまうと、かえって足元をすくわれてしまいます。

 岡野さんは、コンプレックス(劣等感)は持っていたほうがいいといいます。

 岡野工業が、東京・下町にある、たった6人の町工場だということは周知の通りだ。そして、そんな小さな工場が「技術の駆け込み寺」とまで呼ばれている。これは学歴によるものでは全くないということがわかってもらえるだろうか? 学歴でも地位でもない。経験に裏打ちされた技術力が、他にはできないようなプレスを可能にしたんだ。
 よく、職人をつくるのには長い時間がかかるって言うけれど、それは、技術っていうのは、誰かに教えてもらうものじゃないからなんだ。毎日毎日見て、触れて、考えて暮らしてゆくうちに、いつの間にか身に付いている。つまり、学校へ通って試験を受けて、免許を貰ったら今日から職人っていうわけにはいかないんだ。技術を積み重ね、経験を積んでゆくと、そのうち自分にしかないものが生まれてくる。それが感性なんだよ。そこを大切にしろ。
 そのためには、失敗を重ねるんだ。コンプレックスもうまく使えばバネになる。ただし、「失敗してもいいや」と思って失敗するんじゃないぞ。常に成功を前提として試行錯誤を続けろ。「ここでいい」なんて満足せずに、転んでもただでは起きない精神を持ち続けていれば、気がついたときには、他の誰も来ないような高みに上っているはずだから。

  『学校の勉強だけではメシは食えない』 第2章 より  岡野雅行:著  こう書房:刊

 人は誰でも、何らかのコンプレックスを持って生きているものです。

 そのコンプレックスを「今にみていろ、見返してやる」という気持ちに変える。
 そうすることで、大きな推進力を得ることができます。

「常に成功を前提として試行錯誤を続けろ」

 失敗を恐れず、自分で限界を定めず、日々研鑽したいものです。

ボーッとしていたら何も見えない

 岡野さんは、高い技術力を買われ、いろいろな国の仕事を経験しています。
 しかし、それにあぐらをかくことなく、常に発想力を高める刺激を求め続けます。

 だけど、実は他の国から学べることもたくさんある。
 例えば東南アジアの一流レストランで使っているスプーン。日本も含めた世界中の金属のスプーンは、1枚の板から作られているだろ? だけどそのレストランで見かけたスプーンは、握るところが円柱状になっている。板を丸めて、持つところをつくっているんだ。テルモの痛くない注射針と作り方は一緒だ。すごいよな、すごい発想だと思うよ。
 多分、レストランでこんなスプーンがでてきても、普通の人はどうってこと思わないだろう。だけど俺たち職人はこれを見て、「ああ、こうやって作っているんだ」と思うんだ。刺激っていうのは、実はどこにでも落ちている。要はそれに気づけるかどうかなんだ。何事もボヤーっと見ていたら、何にも吸収できないぞ。

 『学校の勉強だけではメシは食えない』 第5章 より 岡野雅行:著 こう書房:刊

他の国のレストランで出された、普通のスプーン。
 そこに注目する人は、ほとんどいないでしょう。

 関心が向いたのは、金属プレス一筋に生きてきた、岡野さんならではです。

 成長し続けられるかどうか、意識の持ちようの問題です。
 どこでも、誰からでも学ぶことができ、刺激を受けることができるということ。

 自分の目や耳などの感覚を働かせ、刺激を探し出せる感性。
 いつまでも失いたくないものです。

失敗のノウハウが未来に生きてくる

「継ぎ目のないステンレス製のライターケースを作ってほしい」

 高度経済成長の頃、岡野さんのところにこのような依頼がありました。
 ステンレスは鉄系の金属より、絞る加工が技術的に難しいです。

 他にチャレンジするプレス会社はありませんでした。
 しかし、岡野さんは、「誰もやらない仕事ができる」と、わくわくしてこの仕事を引き受けます。

 そして、何度も失敗を重ね、完璧なステンレスのライターケースを作る技術を確立しました。

 時が流れて、30年後。
 携帯電話の軽量化のため、リチウムイオン電池のケースの薄型化・小型化する技術が求められます。

 それを聞いた岡野さん。

「ステンレス製のライターケースを作る技術を応用することができるのでは」

 とひらめいて、すぐに実行に移しました。

 かくして俺は、ステンレスのリチウムイオンケースを量産することに成功した。その結果、携帯電話普及の功労者のひとりに数えられ、「携帯電話を普及させたおじさん」としてマスコミにも取り上げられることになった。
 よく講演などで「未来はどうなると思いますか?」と質問されるんだけど、20年、30年後の日本は、正直いって予想もつかない。今の世の中を見ていると、日本から何もかもなくなっちゃうかもと、不安になったりもするよ。
 だって、誰だってラクなほうがいいもんな。ラクな道があるんだったら、そっちへ行きたくなっちゃうよ。でもそうやって、技術や知識を磨かないと、いざ時代が変わってみると、何もできなくなっちゃうぜ。
 バブルのころに努力しなかった同業者は、ステンレス加工から乗り遅れた。だから3Kだなんて嫌がったりするな。研究して、何度も失敗して身につけるノウハウこそが、未来に生きてくるのだから。

  『学校の勉強だけではメシは食えない』 第6章 より  岡野雅行:著  こう書房:刊

 高度経済成長期にも、バブル期にも、周りに状況に踊らされなかった岡野さん。

 冷静に時代の流れを読んで、技術力を高め続けてきた。
 だからこそ、今の岡野さんがあります。

「アリとキリギリス」の寓話でありませんが、状況がいいとき、追い風が吹いているときこそ、自己研鑚に励んでその先を見据えた備えをする必要があります

 浮かれて楽をすると、そのツケはあとで払わなければなりません。
 肝に銘じたいですね。

スポンサーリンク
[ad#kiji-shita-1]
☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 学校で習うことは、どれも大事なことばかりです。
 しかし、すべて「決められた答えがあって、やり方さえ分かれば誰でもできること」です。

 それらを身につけただけでは、社会では通用しません。
 求められるのは、「まだ答えの出ていない問題を解決する能力」です。

 人と同じことをやっているだけでは仕事になりません。
 他の人と違うこと、他の人ができないことをやるという視点。
 これからの時代、それがますます重要になってきます。

 自分の目指す道をひたすら追い求め、切り拓いてきた岡野さんの生き方。
 私たちも、そこから学ぶべきことは多いです。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ(←気に入ってもらえたら、左のボタンを押して頂けると嬉しいです)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です