【書評】『「怒り」を上手に消す技術』(吉田たかよし)
お薦めの本の紹介です。
吉田たかよし先生の『「怒り」を上手に消す技術』です。
吉田たかよし(よしだ・たかよし)先生は、メンタル・ヘルスケアがご専門の医師です。
現在、東京都内でクリニックを経営するかたわら、大学の客員教授として、ストレスや自律神経に関する研究に取り組んでおられます。
「怒り」のエネルギーが、人間を成長させる
気がついたら、いつもイライラしている。
しつこい怒りが、波のように押し寄せ、そのたびに何も手に付かなくなる。
誰でも、このような「怒りのスパイラル」に悩んだ経験は持っているでしょう。
「怒り」という感情は、不必要で無用なもの、なくす努力をすべきもの。
それが、世の中の常識です
しかし、「怒り」は本来、人間の生存のために備わる、根源的な働きです。
無理に消そうとしたりしてしまうと、かえって体に負担をかけてしまいます。
反対に、脳の仕組みを知ったうえで怒りに対する認識にきちんと対処さえできれば、自分に余計な負担をかけずに「怒りを上手に消す」ことができ、怒りを「自分にプラスのエネルギー」にして活用することも可能
です。
どういうわけか、一般の方にはあまり知られていませんが、怒りのエネルギーは、うまく使えば人間を何倍も成長させてくれます。それだけ、すごい力を持っているからこそ、使い方を間違えると他人や自分まで傷つけてしまうのです。 それが怖くて、みなさんはできるだけ怒りを遠ざけようとするわけです。 そうなんです。実は「怒り」そのものが怖いのではなく、怒りの取り扱い方に失敗して人間関係を壊してしまったり、イヤな思いをするのが怖くて、私たちは怒りというものを、良くないもの、早く消したいものと考えてしまっているだけなのです。
『「怒り」を上手に消す技術』 第1章 より 吉田たかよし:著 ソフトバンク クリエイティブ:刊
「怒り」の感情は、緊急事態が起こったときに、脳が出す信号です。
「怒り」がきっかけとなり、アドレナリンが放出され、血圧が上昇し、瞬時に“戦闘状態”となります。
怒りは、人類の進化と種の保存に欠かせないものとして備わる、根源的な感情の一つです。
[ad#kiji-naka-1]
本気の怒りは、人間関係にも効く
吉田先生は、自らの体験からも、「きちんと怒った方が人間関係はうまくいく」と自信をもって言い切れる
と述べています。
逆に、中途半端な怒りで、相手への怒りを溜め込むと、面倒なことに巻き込まれるケースが多いです。
ポイントは、「短く、本気で」自分の怒りを伝えること。
大事な関係だからこそ、相手に「怒っている」ことを、しっかり伝えることが大切です。
では、なぜ大切な相手から怒られることの方が人間には良いのか。 実は、私たち人間にとっては「人間関係がない」ことの方が恐怖だからです。何も言われないよりは、何か言ってくれた方がいい。 私たちの人生に起こる、さまざまな出来事でのストレスの度合いを数値化した「社会的再適応評価尺度」というものがありますが、それによると離婚と死別、別居がストレス度を高く感じる上位の3つにランクされています。これは、言い方を変えれば、どれも人間関係が消滅する状態を表しています。大切な相手であればあるほど、何も言われなくなることのストレスは、怒られることよりもはるかに大きいのだといえます。 相手から本気で何か感情をぶつけてもらえるというのは、それだけ大切な関係であるということの証。 怒りも人間にとって必要なコミュニケーションであるということです。
『「怒り」を上手に消す技術』 第1章 より 吉田たかよし:著 ソフトバンク クリエイティブ:刊
正直に、率直に、相手に伝えること。
その場限りにして、後に引きずらないこと。
怒りの感情の対処としては、それが何よりも大事です。
感情豊かで、思ったことが、すぐに表情に出る。
そのような人のほうが、いつも無表情で、何を考えているのか分からない人よりも安心感がありますし、近づきやすいですね。
「怒り」の感情は、押し殺さない。
自分のためにも、相手のためにも、習慣にしたいですね。
怒らないとうつ病のリスクが高まる!?
「怒り」の感情のエネルギーは、想像以上に大きいです。
自分の中に押し込めておくことは、大きなストレスとなります。
その状態が続くと、現代病として社会問題になっている「うつ病」などの精神疾患につながります。
健康な状態では、ストレスが生じると怒りのホルモンであるノルアドレナリンが放出されて、「闘争」か「逃走」の行動に素早くうつることができます。 そのおかげで、長期間ストレスにさらされず、こういったストレス系のホルモンを溜め込まないで済むわけですね。 ところが、このノルアドレナリンが不足している状態が続くと、怒りのホルモンが体内に作用せず、“怒る”ということができなくなります。それはつまり「闘争」も「逃走」もどちらの行動も取れなくなるということです。さらにそれだけではなく、何に関しても、無関心、無気力になり、場合によっては「うつ病」とされる状態になっていくケースもあります。 このようなときは快感を増幅させる神経伝達物質であるドーパミンと、精神に安定をもたらす神経伝達物質セロトニンも同時に不足していることが多く、「自分では怒りたいと思っても、怒れない」「何か行動しようと思っても、やる気が出ない」というような、感情と行動がうまく機能しない状態になっているのです。 「怒らない」のは、とにかくいいことなのだから、と怒りを抑え続けているうちに、本当に必要なときにも怒れなくなってしまうということです。
『「怒り」を上手に消す技術』 第2章 より 吉田たかよし:著 ソフトバンク クリエイティブ:刊
使うべき機能を使わないと、いつの間にか、その機能は衰えていきます。
そして、いざというときに役に立たなくなります。
それは、「怒り」などの感情も一緒です。
本書では、「怒り」のエネルギーを上手く活用し、上手に発散させる方法をまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
急性イライラに効く「ゲーム」
突発的な事件などによる、「急性の怒り」は、かなり激しいものです。
そんな時に役に立つのが「ゲーム」です。
シューティングゲームなどを10分程度集中してプレイするのがいい、とのことです。
怒りのホルモン、ノルアドレナリンが放出されているときに、激しいゲームをするとノルアドレナリンがどんどん消費されるのです。具体的には、ノルアドレナリンが脳のシナプスに分泌されて情報を伝達した後、元の神経細胞に回収されるのですが、100%は回収されません。回収されそこなったノルアドレナリンは代謝されて逆に脳を沈静化する物質に変わっていきます。だから怒りがおさまっていくと考えられるのです。 長くなりましたが、ここで重要なのは、短期間の怒りを長期化・慢性化させないこと。ゲームなどに集中することで、急性の激しい怒りをある程度処理できるのなら、そうした方がいいということです。放置して、長期間の怒りになると、それは恨みの感情となり、処理に手間がかかってしまうからです。
『「怒り」を上手に消す技術』 第4章 より 吉田たかよし:著 ソフトバンク クリエイティブ:刊
今なら、携帯からでも無料でダウンロードできるものも多いです。
また、スマートフォンのゲームアプリなども簡単に入手できます。
試してみる価値はありますね。
ネット時代の怒りとどう向き合うか
インターネットが普及し、新たな種類の「怒り」が問題となっています。
見ず知らずの人からの中傷のコメントなどの、“言葉の暴力”ともいえるような「怒り」です。
ネットの世界で生まれる、「新たな種類の怒り」の特徴は、次のふたつです。
①非言語の情報がないこと
②匿名化されていること
このような怒りには、どのように対処するべきでしょうか。
私の場合、視聴者サービスのために思ったことをできるだけ刺激的に言うように心がけているので、反応しやすいというのもあるかもしれません。 このため何をどうネット上で書かれていても、炎上しないようにする2大原則を守っています。 まず、ひとつ目。絶対に反論しないことです。 人間の生存のための怒りの本能として、反論したくなるものですが、あえてしないようにする。すれば必ず炎上をうながします。相手は、わざわざ、何の見返りもないのにコメントしているということは「自分が正しくて、相手が間違っている」と考えているからコメントするわけです。(中略) ふたつ目の原則。どうしても腹が立ったとしても受け流し、決して相手の土俵に乗らない。 よくあるのが、自分は直接見聞きしていないのに、どこからか拾ってきた断片情報をもとに、他人の発言に乗っかって曲解したコメントをする人です。 みなさんの場合でも、もしネットの発言やコメントで怒りを感じたときには、まず「深呼吸をして」冷静に相手の分析をしてみてください。非難のコメントを返したり、怒りのメッセージを発するのは、相手と同じ“土俵”に上がることになります。土俵に上がってしまうと不毛な戦いをする羽目になってしまいます。 そうではなく、自分の理性で考えられるように“相撲の行司”として行動するのがベストです。自分の意識を行司にセットしたら相手と自分の分析をして「自分の何が相手を反応させたのか」、「相手はきっと、こう言いたいのだろう」というような分析をしてみます。
『「怒り」を上手に消す技術』 第5章 より 吉田たかよし:著 ソフトバンク クリエイティブ:刊
ここでのポイントは、自分が分析する側。相手は分析される側
となること。
決して、自分の視点を相手と戦っている関係にしないのが重要です。
あくまで、自分が上に立ち、相手を下におく。
そのことで、大人と子どもの関係のようなものにしてしまいます。
[ad#kiji-shita-1]
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
日本人はもともと、感情を伝えるのが下手な民族です。
それは、嫌なことがあっても、全体の輪を乱さないために、ひたすら耐えることを強要してきた、社会全体の特徴に起因するところが大きいです。
一人当たりの仕事量の急増や過度の競争など、ストレスの元となる要因が急増している今の世の中。
自分の中に感情を抑え込んで対処しようとするには、やはり限界があります。
ストレス社会に生きる私たちだからこそ、「怒り」に対するネガティブな常識を一新する。
そして、「怒り」の感情をプラスに利用する。
健康的な生活を送れるようにしたいですね。
(↓気に入ってもらえたら、下のボタンを押して頂けると嬉しいです)

【書評】『日本の国境問題ー尖閣・竹島・北方領土』(孫崎享) 【書評】『図解 すごい集中力』(児玉光雄)