【書評】『がんばらない技術』(西多昌規)

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 お薦めの本の紹介です。
 西多昌規先生の『がんばらない技術』です。

 西多昌規(にしだ・まさき)先生は、精神神経学や睡眠療法などがご専門の精神科医です。
 臨床医として診療を行うかたわら、企業産業医としても活躍されています。

「がんばることを少しだけがんばってやめる」


 日本人の典型的な習性として、よく「完全主義」という言葉が出ます。
 完全主義の定義は、「自分自身や周囲を評価するときに、過剰なまでに完全性を求めること」
 完全主義は、ある時はプラスに作用しますが、マイナスに作用することも多々あります。


 西田先生は、多くの日本人の心に影を落とす「マイナスの完全主義」は、簡単な思考の転換で健康的に結果の出せる「プラスの完全主義」に変えることができると強調します。

「マイナスの完全主義」は、イノベーションの力を削いでしまいます。
 さらに、個人のエネルギーをもダウンさせて、うつや不安などのメンタル面での不健康を招きます。

 がんばりすぎて心がつらい、しんどくなったと感じているときには、勇気を出してがんばることをやめることが精神衛生上もとても大切です。

 本書は、「がんばることを少しだけがんばってやめる」ための“技術”をまとめた一冊です。
 その中からいくつかご紹介します。

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「なんとかなるさ」で成功に近づく人々


「プラスの完全主義」と「マイナスの完全主義」。
 その違いは、「7~8割の出来でいい」とするか、「100%の出来でないといけない」とするかの差です。
 2~3割程度の「心の余白」を常に持っていることが、結果的に高いパフォーマンスを生み出します。
 成功している人、結果を出す人は、失敗恐怖症に対する免疫力、「楽観主義」を身につけています。
 もし失敗しても「まあなんとかなるさ」と、楽観的に捉えることができます。

 自分の思考のなかに、白黒つけないグレーの部分を、2割程度入れる。
 そういう考え方を身につけることは重要です。

「グレーゾーン」を作るといっても、あまりピンとこないかもしれませんが、ひとつの方法として、裁判所での「弁護士」イメージトレーニングが役に立ちます。「自分が悪い」と考えているとき、あなたは「被告」です。そのときは、あなた自身が「弁護士」になって、自分を弁護して無罪を勝ち取ってみましょう。逆に、「他人が悪い」「社会が悪い」と考えているときは、他人や組織を弁護して減刑を狙ってみます。嫌でも利点や長所を強調していかなければならないので、自然に「黒」と「白」とが混ざって、グレーな思考に変わっていきます。

 失敗は成功のもと、と言いますが、失敗の分析だけに固執してしまっては前に進むことはできません。失敗した原因をあれこれ考え、次の挑戦へと活かすことができる人は、プラスの完全主義者です。片や、失敗したことだけに取りつかれてしまい、挑戦できなくなってしまう、麻痺してしまう状態が、マイナスの完全主義なのです。実にもったいないですよね。
 あくまでゴールは、「自分の成長」にあります。それを見失わない心の工夫が必要なのです。困難なときこそ、陽気になんとかなるさと考え、行動し、部下の失敗や自分のふがいなさを受け入れる隙間を持つ。これができればexcellenceを達成できるのではないでしょうか。

  『がんばらない技術』  第1章 より  西多昌規:著   ダイヤモンド社:刊

 失敗に対して、ネガティブな感情を持たないようにする。
 一朝一夕には、できることではないかもしれません。

 足元の現実にとらわれず、「自分の成長」という、もっと遠くの目標を見据えること。
 そうすれば、目の前で起こった失敗も、「いい経験を積むことができた」と前向きに考えられます。
 そのような心構えは、是非とも習慣づけたいですね。

今日からできる「楽しい仕事」のための心構え


 仕事のみが生きがいで、毎日遅くまで残業し、休日も仕事のことを考えている。
 そのような状態を「仕事依存症候群」、あるいは「ワーカホリズム」と呼びます。
 この症状にかかった人は、私生活を犠牲にしてでも、何かに強制されたように働き続けます。
 自覚症状がないのが特徴で、細部まで手抜きなく完全にこなしたいという「強迫性パーソナリティ」と呼ばれる性格の持ち主が多いです。

 強迫性パーソナリティの大きな特徴は、強すぎる完全主義です。
 ものごとの本質以外の部分に多大なエネルギーを費やし、自分が満足のいく目標に、一定時間内に到着できません。
 また、柔軟性も乏しいので、融通が利きません。
 対人関係は、当然悪くなり、仕事や家庭生活でも、トラブルが生じやすくなります。

 西多先生は、「ワーク・エンゲイジメント」という概念が、「強迫性パーソナリティ」克服のヒントになると述べています。

 ワーク・エンゲイジメントとは、オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授が提唱し、東京大学大学院の島津明人准教授が日本に紹介した概念です。仕事に対するポジティブな心構えであり、楽しい、意義のある、現実的な目標設定、自己評価を確認できるなど、自ら働きかける前向きなエネルギーを持っています。特に「きっとできる」「できそうだ」という自信が重要です。仕事に誇りややりがいを感じている「熱意」、仕事に熱心に取り組んでいる「没頭」、仕事から元気を得て生き生きしている「活力」。ワーク・エンゲイジメントが高い状態では、「熱意」「没頭」「活力」の3つの要素が、いずれもみなぎっています。
 ワーカホリズム傾向の人は、真逆の傾向を持っています。仕事をしていないと落ちつかない、不安を紛らわすための仕事、仕事が楽しくない、他人にやらされている、仕事の意義がわからない、自己評価がはっきりしない、などの特徴があります。他者からの影響が強く、自分の意志が欠けてすべてにおいて受け身の体勢です。
「やり終えないと不安」「やらないと迷惑をかける」といった気持ちで仕事を長々としているのならば、それは燃え尽き症候群やうつなどメンタル不調につながる危険性があります。

  『がんばらない技術』   第3章 より   西多昌規:著   ダイヤモンド社:刊

「熱意」「没頭」「活力」の3要素をすべてもって仕事に臨むというのが理想論です。
 しかし、現実的には難しい問題です。

 西多先生は、個人でかかえこみすぎず、仲間と協力して仕事を進めていくことで精神的負担をこれ以上重くしないことが、自身や組織の仕事環境をワーカホリズムに染まらせない工夫だと述べています。
「全部自分でやらなければ」と思ってしまうことも、「マイナスの完全主義」です。

 困ったときは、お互い様。
 支え合いの精神で周りに甘えることも、ときには必要です。

それでもつきあえないときの選択肢


 自分の非を絶対に認めずに、人の意見や指摘もまったく無視する困った人が大勢います。
 赤の他人だったらともかく、会社の上司にそのような人がいると、大問題ですね。
 西多先生は、そんな「自己中」上司への対処法について、以下のように述べています。

「自己中」、すなわち自己愛性パーソナリティには、じつのところいい治療法はありません。自己愛的な欠点を指摘してあげて、直してもらう・・・・・その方法は、逆効果の場合がほとんどです。なぜなら、こういうタイプの人がもっている「オレを認めてほしい」欲求を根本から否定してしまうことになってしまうからです。
 カウンセラーや医師が指摘してもなかなか理解できないのですから、部下であるあなたが指摘することは、タブーです。彼らの認めてほしい欲求を否定することは、結果的にはわかりあえるどころか、激しい怒りを買い、取り返しのつかないことにもなりかねません。
 それよりも大切なのは、双方の関係を悪化させないこと。これにつきます。関係の現状維持こそがこの場合の最善の方法です。完全主義がへんに顔を出し、「話し合えばなんとかなる」「この人を変えてあげよう」と張り切ってはいけません。
 相手にしない、反面教師として活用する、表面的なやり取りはするが、必要なときだけコミュニケーションなどの考え方にシフトするしかありません。辛抱強さも大切ですが、相手のナルシシズムの壁はあなたの想像をはるかに超えるものです。
 逆に、自分がこういう上司にならないよう、記憶に刻んでいくことも重要です。そういった考え方ができれば、自己中上司と出会えたことにも、意味があると前向きに考えられるかもしれません。

  『がんばらない技術』   第4章 より   西多昌規:著   ダイヤモンド社:刊

「自己中」につける薬はない、ということ。
 精神科医の西多先生が言うのだから、その通りなのでしょう。
 相手を変えようというムダな努力はやめて、極力触らないようにして、反面教師として心に刻んでおきましょう。

完全主義者は、孤独死、無縁死の可能性が高い?


 最近、「主人在宅ストレス症候群」と呼ばれる症状の心療内科の外来患者が増えています。
 主人在宅ストレス症候群とは、還暦前後の主婦が定年後に夫が一日中家にいるストレスが主な原因で発症するさまざまな不調のことです。
 家にずっといて何もせずに、「食事の支度が遅い」などと文句を言い続けられたら、たしかに奥さんもたまったものではありませんね。
 西多先生は、定年後に円満な家庭生活を送るためには、家族や友人など会社以外の人とのつながりを、植林計画のように若い頃から育てていく必要があると述べています。

「主人在宅ストレス症候群」は、突き進む孤独死、無縁死にいきつく可能性があります。有名政治家や芸能人ではないが、熟年離婚のリスクもあります。
 正確な統計はわからないのですが、一般的に女性は男性配偶者が亡くなったあとも長生きしますが、逆はあまり聞きません。奥さんに先立たれた男性は、あとを追うように世を去るケースが多いようです。
 もうおわかりでしょう。仕事だけ完全にやればいい、人間関係は仕事だけ、こういう仕事人間は、さびしい老後を迎える確率が高くなります。会社以外のつながりが、老後に限らず人の成長や幸福感において重要になってくるのではないでしょうか。
 その意味では、家族はもちろん、近所づきあいなど会社以外のつきあいは重要です。起きて活動している時間の何割を、仕事以外のつきあいに費やしているか、自問してみてください。
 平日は仕事のみで遅い帰宅、土日の休日も土曜日はゴルフで家族サービスは日曜だけ。このパターンですと、1週間のうち家族とまともに過ごしたのは1日だけになります。
 実際には平日の朝食などの時間が含まれるかもしれません。しかし、働き盛りの人が家族や近所と接する時間を持つのは、案外やさしくないのです。油断すると、どんどん仕事に時間をとられてしまいます。着々と奥さんは「主人在宅ストレス症候群」予備軍になっていくでしょう。

   『がんばらない技術』   第4章    西多昌規:著   ダイヤモンド社:刊

 会社は退職金は出してくれますが、それ以上のことは何もしてくれません。
 残業をいくらがんばって遅くまで働いても、いざという時に助けてくれるわけでもありません。
「その時」になって困らないように、今のうちからしっかり準備をしておきましょう。

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「がんばっていればいつか報われる」
「がんばれば、結果が出なくてもみんなが認めてくれる」

 これまでの日本では、このような考え方が主流でした。
 時代の流れとともに、その考え方が通用しなくなりつつあります。
 結果を出し続けている人をみると、いつも100%の力でがんばっているわけではないことがわかります。
 仕事をしているときはものすごい集中力ですが、それ以外のときはとてもリラックスして力を抜いています。
 その「オン」と「オフ」の切り替えの上手さが、がんばり続けることができる秘訣です。
 そう考えると、がんばらないでいられることは、がんばれることと同じ位に重要です。
「がんばらない技術」を身に付け、8割位の力で軽快に人生を走り抜けたいですね。

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