【書評】『「怒り」がスーッと消える本』(水島広子)
お薦めの本の紹介です。
水島広子先生の『「怒り」がスーッと消える本』です。
水島広子(みずしま・ひろこ)先生は、対人関係療法がご専門の精神科医です。
怒りは、スーッと消せる!
長引く不景気に震災まで加わって、殺伐とした空気が流れる、今の世の中。
誰もが、つい、怒りを溜め込んでしまいやすい状況といえます。
「怒り」がスーッと、消えてなくなってくれれば・・・・・。
そう思っている人も多いはず。
この本は、「怒り」という感情をいろいろな角度から分析して、根本の原因を見つけ出して、対処するという、とても理に適った内容となっています。
はじめに、水島先生は、以下のように述べています。
本書は精神科医としての私の経験に基づく、ごく合理的な本です。ポイントは怒りを「消す」のではなく、怒りが「消える」というところにあります。
怒りは「結果」です。「ひどい」と思う何か(原因)があったとき、結果として出てくるのが「怒り」という感情です。「結果」に過ぎない「怒り」を抑え込もうとすると、かえってひどくなったり、爆発したりすることもあります。
しかし、原因を取り除けば、もちろん結果でもある怒りもスーッと「消える」のです。
(中略)
「怒り」という感情をどう扱うかが、心の健康や人間関係の質、ひいては人生の質を決めるということです。『「怒り」がスーッと消える本』 はじめに より 水島広子:著 大和出版:刊
どんなトラブルにも、原因があります。
その原因を取り除けば、結果であるトラブルも消える。
論理的で、説得力がありますね。
「怒り」をコントロールすることについて。
水島先生は、怒りをコントロールすることと怒りを抑えることは全く別物
だと述べています。
「怒りをコントロールする」と聞くと、「怒りを抑える」という意味だと思う人も少なくないでしょう。
「怒りを抑える」つまり「本当は怒っているのに怒っていないふりをする」ということは、表面的な「怒りのコントロール」です。確かに、怒っていないふりをすれば、とりあえずは人間関係がよくなったり、仕事がうまくいったりするかもしれません。
しかし、怒りをコントロールすることで本来得られるはずの、のびのびした幸福感は決して得られませんし、健康にもよくないのです。
そもそも怒っているときには心身はリラックスすることができません。
(中略)
怒りの扱い方が上手になることは、健康を守るためにもとても大切なのです。『「怒り」がスーッと消える本』 プロローグ より 水島広子:著 大和出版:刊
どんな感情も、抑えつけるほど、自分の中に溜まっていきます。
抑圧された感情は、圧力が増して、いずれ爆発する可能性があります。
抑え込むのではなく、コントロールすること。
うまく逃がしてあげることが、大事だということです。
本書は、怒りの感情のコントロールの方法を段階的に学べるよう、まとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「怒り」の感情は、自分を守るためにある
怒りの感情は、自分を守るためのもの
です。
身体の感覚は、一般に、「その状況が自分の身体にとってどういう意味を持つのか」を教えてくれますが、感情にも同じように自分を守る機能があります。
感情は「その状況が自分の心にとってどういう意味を持つのか」を教えてくれるのです。
(中略)
怒りの感情もまた、私たちを守るためのものだということができます。
例えば怒ったときの最もシンプルな行動は、相手への反撃でしょう。「ムカッとして言い返す」というようなことです。こんなとき、怒りは「自分に加えられた攻撃に気づき、反撃のエネルギーを生む働きををしている」と言えます。『「怒り」がスーッと消える本』 ステップ1 より 水島広子:著 大和出版:刊
アドバイスには、相手の現状を否定してしまうニュアンスも含まれています。
だから、必要がないと感じたものは、真に受けなくてもいいです。
アドバイスというのは「つい言ってしまう」ということが多いものです。他人の現状をただ静観することができずに、ついアドバイスしてしまうのです。
ですから、アドバイスとは、現状に耐えられない相手の悲鳴、と考えることができます。どれほど「あなたのため」という言い方であっても、「現状に耐えられない」という相手側の問題なのです。
こちらの領域に「侵入」されたわけでなく、相手は相手の領域の中で悲鳴を上げているに過ぎない、と考えると自分の領域は守られます。『「怒り」がスーッと消える本』 ステップ4 より 水島広子:著 大和出版:刊
不快に思っていることを曖昧に言うと、相手は、余計に怒りを溜めることになります。
直接言う必要がありますが、ただ、言い方には気を付けなければいけませんね。
なぜ私たちがあいまいなことを言ったり、間接的なコミュニケーションをしたりするのかと言うと、それは、「直接言うと角が立つ」からです。
でも本当にそうなのか、ということを見ていくと、そこで「角が立つ」と思われるコミュニケーションは、「君は案外だらしないんだね」というように、「あなたは 」式のものであることがほとんどなのです。
こういう言い方は確かに角が立ちますが、それは、直接的なコミュニケーションだからではなく、相手に評価を下しているからなのです。
直接的に「自分の事情を話す」ことに徹してけば、最もずれを作らないコミュニケーションになります。そして、ずれを作らないということは、それだけ怒りも起こらない、ということなのです。『「怒り」がスーッと消える本』 ステップ4 より 水島広子:著 大和出版:刊
「あなたは~」という言い方は、相手に対する評価も含まれています。
だから、相手が不快に感じることも多いということです。
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最後に、「正しさの綱引き」について。
私たちにはそれぞれ「自分なりの正義」があります。これはあくまでも「自分なりの正義」であり、個人個人の事情を反映したものです。実は世の中には唯一絶対の正義があるわけではなく、ある立場の人から見れば正しいことが、別の立場の人から見ると間違っている、ということもあります。
「自分なりの正義」を主張し続けると、それは必ず他人の正義とぶつかることになります。
(中略)
どうも私たちは「強く言えば何とかなる」と思い込んでいる節があるのですが、現実にはそんなふうにはなりません。
(中略)
ですから、「正しさの綱引き」に勝つことはあり得ない、ということをよく覚えておいた方がよいと思います。
(中略)
怒りを手放すためには、「正しさの綱引き」から手を放さなくてはなりません。
それは、「あなたが正しくて私が間違っている」と認めることではありません。「どちらが正しいか 」という「評価の次元」から脱するということです。
もちろん自分の考えを曲げる必要はないですし、大切にしている価値観は大切にしたままでよいのですが、「相手には相手の事情がある」ということを認め、どちらの正義が正しいかを決めない、という姿勢を取るのです。
「自分の正しさを手放す」と考えると難しいのですが、「相手の事情を知ろうと努力する」ということを意識すれば、自然とできるようになってきます。『「怒り」がスーッと消える本』 ステップ5 より 水島広子:著 大和出版:刊
「正しさの綱引き」は、どこの世界にも、多かれ少なかれ、ありますね。
とくにひどいのは、「政治」と「宗教」の世界です。
どちらも「正義がどちらにあるのか」が、すべての世界。
仕方がないと言えば、仕方がないです。
実際、そっちの方面の方々は、いつも怒っているような人たちが目立ちます。
ただ、「正しさの綱引き」には勝者はいないし、結論も出ない
のは、わかりきったことです。
「相手の事情を知ろうと努力する」
すなわち、寛容さを身に付けることが、いろいろな問題を解決に導くカギです。
自分を怒りから開放して楽になるのに、周りの人や世界が変わる必要はありません。
自分の「心の姿勢」を変えるだけでいいです。
本書は、それを解りやすく教えてくれる価値ある一冊です。
実行あるのみ、とにかく、続けることですね。
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