【書評】『自滅するな日本』(ケビン・メア、田原総一朗)

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 お薦めの本の紹介です。
 ケビン・メアさんが書いた『自滅するな日本』です。

 田原総一朗(たはら・そういちろう)さんは、主に政治・経済関係の放送ジャーナリストとして活躍されています。

 ケビン・メアさんは、駐日大使館の経済担当を務められて以来、20年近く日本に滞在する親日家の米国人です。
 2006年から3年間沖縄総領事を務められました。

米国が日本にいらだつ理由とは?


 本書は、田原さんとメアさんの対談形式で書かれています。
 田原さんの、某テレビ番組さながらの鋭い切り込みに、メアさんが米国側からの視点で丁寧かつ理知的に答えています。
 個人的には日本に対する愛情も感じるし、とても「ゆすり発言」をするような方ではない、との好印象でした。

 メアさん含めた米国人は、日本の政治家に対して、いらだちや不満を持っています。
 日本の政治家は、自ら決断せず、国民への説明責任回避して米国のせいにしているとのこと。
 田原さんも日本の政治に対して同様の強いいらだちや不満、危機感をお持ちで、その現状を踏まえて以下のように述べています。 

 日本が、国の安全をアメリカに委ね、ディズニーランド状態を謳歌してきた時代がいま終わろうとしている。このまま古い発想と体制を続ければ、日本は自滅の道をたどりかねない。この大転換期を、日本はどう生きればよいのか。アメリカは何を考えているのか。アメリカと、どのように付き合っていけばよいのだろうか。
 そんな思いをめぐらしているときに、私はケビン・メアというアメリカの元外交官と出会った。30年近く外交官だった親日派の彼は、日米間 に横たわる川の深みや浅瀬や難所に、とても詳しい。彼は、決断できない日本にイラだちを募らせているようだ。彼のイラだちは、アメリカという国が日本に対して感じているイラだちと同じに違いない。

  「自滅するな日本」 はじめに より  ケビン・メア 著 田原総一朗:責任編集  アスコム:刊

 本編では、お二人の豊富な経験と知識をもとに日本の外交の問題点について次々と議論しています。
 内容は、日本と東アジアの安全保障に関わる事案について多岐にわたります。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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沖縄の「普天間基地問題」について


 田原さんのなぜあれだけ多くの米軍基地が存在するのか?という問い。
 に対して、メアさんは、沖縄の地政学的・軍事的な重要度を説明します。

 メア 中国は「接近阻止・領域拒否」という対米軍事戦略を掲げている。敵を第一列島線の内に入れさせず、突破されても領域内では自由な行動を許さないという考え方ですね。第一列島線は九州南端から、南西諸島(大隅諸島、トカラ列島、奄美群島、沖縄諸島、宮古列島、八重山列島、尖閣諸島など)、台湾の太平洋側、フィリピンの西側、ボルネオ島(インドネシア)の西北側まで結び、南シナ海を囲んでベトナムに至るライン。沖縄は第一列島線上にあるから、ものすごく重要なところです。
(中略)
田原 地図上で那覇を中心にコンパスで円を描くと、半径1000キロ圏に韓国の釜山、中国の上海や南京が、1500キロ圏に東京、韓国のソウル、北朝鮮の平壌、香港、フィリピンのマニラが、2000キロ圏にロシアのウラジオストク、中国の北京、ベトナムのハノイが入る。沖縄は東アジアの主要都市の中心に位置しているのですね。
メア そうそう。だからアメリカは戦後、沖縄を「太平洋の要石(かなめいし)」と呼びました。そんな戦略的な位置にあるから米軍基地が多い。とくに海兵隊は機動力、即応展開能力が重要ですから、沖縄に常駐していることで朝鮮半島、台湾、東南アジア、もちろん日本本土にもすぐ駆けつけることができる。

  「自滅するな日本」 第1章 より ケビン・メア:著  田原総一朗:責任編集  アスコム:刊

 沖縄に米軍が駐留して睨みを利かせることで、中国などの軍事的な脅威を未然に防いでいたということ。
 メアさんは、米国のみでなく日本にとっても大きなメリットがあるし、今までも多大な利益を享受していたと力説します。

 日本には、「安全はタダで手に入るもの」という甘い認識を持つ人が多いです。
 このような事実を知らずに、「日本の国土である沖縄に米軍基地がたくさんあるのはおかしい!」と批判しがちです。
 米国からすれば、日本人のその「平和ボケ」した感覚が理解できないのでしょう。

 メアさんは、日本政府はその事実を沖縄県民を含め、日本国民に全く説明していないと厳しく指摘します。 

 田原 ちょっと聞きたい。日本政府は沖縄の人たちにどんな説明をしていますか?
メア たとえば、なぜ米軍再編を実行すべきか説明するとき、日本政府はよく「米政府と合意したから」というふうに言うんです。つまり、日本として理由をきちんと説明せずに、アメリカが決めたせいにしてしまう。これがよくない。
 なぜに日米が米軍再編で合意したかと聞けば、日本政府は「米軍再編計画が日米同盟に有利に働き、沖縄にも有利に働くから。沖縄にとっても大規模な負担軽減となります」と説明する。でも、いつも出発点は「アメリカとの合意」で、それより後のことしか説明しない。その前に日本政府は、なぜ日本はアメリカと日米安全保障条約を結んだのか、なぜ日本に米軍がいる必要があるのかを説明すべきです。
(中略)
 説明責任から逃れようとする政治家や官僚が多いんです。これは日米同盟の弱点という意味で深刻な問題です。なぜ米軍の存在が必要なのか、日本の国民にわからないままだと、同盟関係の基盤がどんどん弱くなってしまう。


  「自滅するな日本」 第1章 より ケビン・メア:著 田原総一朗:責任編集  アスコム:刊

 もし、メアさんの言っていることが事実ならば、卑怯なのは米国ではなく、日本ということになります。
 都合の悪いことは言わない、すぐ人のせいにする日本の政治家達の言動を見ていると、十分あり得ます。

 もちろん、海外から日本はそういう国だと思われているということです。

 今話題の「普天間基地移設問題」についても議論が交わされています。
 しかし、日本側の対応のまずさは、呆れるほどです。

TPP交渉参加問題について


 田原さんの環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は、アメリカが日本に強引に「入れ!」と言ったのでは?という問い。
 それに対して、メアさんは、それは違う、アメリカが日本に圧力をかけた事実はなく、日本が自分から「参加したい」と言ってきたと答えています。
 省庁ごとに「賛成(経産省など)」と「反対(農林水産省など)」が真っ向から対立している状況で参加してくる日本に米国は困ったと率直に述べています。

 さらに田原さんは切り込み、メアさんに日本はTPPに参加すべきか?と問いかけます。
 それに対するメアさんの答えは、参加すべきです。
 もちろん、例外のない関税の自由化をすることが条件です。

 問題となっている農業分野の自由化については、以下のように述べています。

 メア 農業がGDPの5%しか占めていないなら、影響も小さいから、自由化すればいいじゃないですか。5%の農業を守るためだけに頑張って「日本の市場は閉鎖的だ」と世界から相手にされなくなるより、開放したほうがいいでしょう。
田原 そこは僕も同感。日本の農業は自由化したほうがいいと思っている。
メア 日本の農業は自由化していないし、輸出もあまりしない。でも、日本の農業が国際的に競争できる部分もある。たとえば果物とか、ものすごくおいしいお米とか。そんな強い競争力のある分野にシフトして、日本の農業を強くすべきです。

  「自滅するな日本」 第4章 より ケビン・メア:著 田原総一朗:責任編集  アスコム:刊

 米国人らしい、とても合理的な考えですね。
 日本人、特に農業関係者がそのまま抵抗なく受け入れられるかどうか。
 それは別として、そういう事実や考えがあることは、押さえておいた方がいいですね。
 
 メアさんは、日本の政治家に対してこんなメッセージを送っています。

 でも、政府の基本的な役割は国民を守ることですから、もっと政治家も安全保障問題に関心を持つべきですね。経済面での政治家の仕事は、既得権益を守るのではなく、経済を回復するために競争力をある分野を開放することです。自信がないからと、競争力のないところを保護するのが間違い。日本の国民こそが日本の力なのだから。開放してその力を集中すれば、経済は回復できるでしょう。でも競争しなければダメで、競争できるという自信を持つべきだと思います。

  「自滅するな日本」 第6章 より ケビン・メア:著 田原総一朗:責任編集  アスコム:刊

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 政治家に限ったことではありませんが、日本人はとかく内側に視線が向きがちです。
 ただ、これからの時代はそんなこと言っている場合ではありません。

 視線を外に向けるように意識を変えていかないと、メアさんが言うように、日本は『自滅』します。
 そんな切羽詰まった状況であることを、日本人はまず認識することでしょう。
 それはともかく、まずは日本が東アジアで置かれている現状と、懸案となっている日本の主な外交問題を知ることが第一歩。
 それには本書は、打ってつけの一冊といえます。

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