【書評】「金子みすゞの詩とたましい」(酒井大岳)

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 お薦めの本の紹介です。
 酒井大岳さんの『金子みすゞの詩とたましい』です。

 酒井大岳(さかい・だいがく)さんは、曹洞宗の禅僧です。

金子みすゞが遺したもの


 金子みすゞ(かねこ・みすず)さんは、大正時代末期に活躍した日本を代表する詩人です。
 みすゞさんは、短い生涯の間に、素晴らしい作品を次々と生み出しました。

 昨年の今頃、彼女の詩が再び脚光を浴びています。
 東日本大震災直後、公共広告機構(AC)のCMで繰り返し流れた、「こだまでしょうか」という詩。
 本書の冒頭にも、その詩が掲載されています。

こだまでしょうか

「遊ぼう」っていうと
「遊ぼう」っていう。
「馬鹿」っていうと
「馬鹿」っていう。

「もう遊ばない」っていうと
「遊ばない」っていう。

そうして、あとで
さみしくなって、

「ごめんね」っていうと
「ごめんね」っていう。

こだまでしょうか、
いいえ、誰でも。


 「金子みすゞの詩とたましい」 序章 から  金子みすず・詩 酒井大岳・文  さくら舎:刊 

 酒井さんは、以下のように述べています。

 自分がいけなかったと反省し、さびしくなって「ごめんね」と素直にあやまれる自分のなかにはもう一人の自分がいて、やはり「ごめんね」と答えてくれます。
 こだまは遠くのほうからばかり応えてくれるものではなくて、自分のこころのなかにもこだまするものがあり、このこころは人間すべての人が失うことなく持ち続けてゆくものだ、みすずさんは呼びかけました。
 この純粋さは、いつでも、どこでも、だれにでも、永久にこだましてゆくのです。

 「金子みすゞの詩とたましい」 序章 から  金子みすず・詩 酒井大岳・文  さくら舎:刊 

 この詩の中にある、純粋さ。
 それが心を打ち、震災で震えていた人々の不安を和らげたのでしょう。

 みすゞさんには、独特の「視点」があります。
 私たちが気にも留めない、些細で小さな存在。
 それらの目を借りて、そこから世界を覗くことができます。
 そして、その眼差しは、限りなく優しいものです。

 みすゞさんの、観察力の鋭さや感受性の豊かさには、ただただ驚くばかりです。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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 私と小鳥と鈴と

私が両手をひろげても、お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面(じべた)を速く走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のように、
たくさんな唄は知らないよ。

鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。


 「金子みすゞの詩とたましい」 第4章から  金子みすず・詩 酒井大岳・文  さくら舎:刊 

 蜂と神さま

蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は土塀のなかに、
土塀は町のなかに、
町は日本なかに、
日本は世界のなかに、
世界は神さまのなかに。

そうして、そうして、神さまは、
小ちゃな蜂のなかに。


 「金子みすゞの詩とたましい」 第10章から 金子みすず・詩 酒井大岳・文 さくら舎:刊 

 酒井さんは、宇宙物理学者の佐治春夫先生の次のような言葉を引用して、彼女の詩の素晴らしさを表現しています。 

「私たちはどんなに目をこらして見ても、耳をそばだててみても、人の苦しみや悲しみをそのままに経験し、見ることはできません。
 その人の表情やしぐさから想像することができるだけです。
 したがって、人の悲しみや痛みをそのまま理解することはできないという自覚が“やさしさ”の原点であるといってもいいのではないでしょうか。
 “やさしさ”とは、物理的に知覚できることがらの裏にかくされている真実を単なる幻想としてではなく、きちんとした論理に裏打ちされた想像力で正しく理解していくという感性だと思います。
 金子みすゞさんの“やさしさ”はまさにそこにあります。やさしい日常の言葉で論理の糸をさりげなく紡いでいく豊かな想像力!
 それは感性豊かな詩人のまなざしであると同時に、ものごとを冷静に見抜いていく科学者の目でもあります。
言葉を変えれば、私たちがふつう気づかない“すきま”から宇宙のすべてを見通す感性をもち、しかもみずみずしい直観力と美しい論理で彩られた限りなくやさしい世界、それが“みすゞコスモス”の魅力です」

 「金子みすゞの詩とたましい」 第3章から  金子みすず・詩 酒井大岳・文  さくら舎:刊

 100年経った今も、全く輝きが失せない、金子みすゞさんの言葉の数々。
 それだけ、日本人の心の奥底(ルーツ)に流れる感情に触れるものだということでしょう。

 感性豊かな詩人のまなざしであると同時に、ものごとを冷静に見抜いていく科学者の目
 それらは、私たち日本人に最も必要であり、無くしてはいけないものです。

 みすゞさんの詩は、それを思い出させてくれます。

 みすゞさんが、26才の若さで亡くなったことが残念でなりません。
 生まれてくるのが早すぎたと言えるかもしれません。

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 最後に、みすゞさんから、日本人への力強いエールをご紹介します。

 悲風

人間のちからは小さい
悲風に逆らうことはできない
しかし
悲風を受け止め
悲風のなかで生き
悲風を乗り越えるちからは
悲風よりも大きい


 「金子みすゞの詩とたましい」 序章 から  金子みすず・詩 酒井大岳・文  さくら舎:刊

 この悲しみを正面から受け止めよ。
 そして、乗り越えよ。

 みすゞさんの、厳しくも優しい言葉。
 今こそ、私たちはしっかりと受け止めるべき時です。

 この国には、みすゞさんのように優れた才能を生む力があります。
 自信を持って、前を向いて歩いていきましょう。

 
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