【書評】『IoTの衝撃』(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部)

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 お薦めの本の紹介です。
 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部の『IoTの衝撃―――競合が変わる、ビジネスモデルが変わる』です。

 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューは、世界最古のマネジメント誌として知られる「Harvard Business Review」(HBR)の日本語版です。

「IoT」とは何か?


 最近、よく「IoT」という言葉を耳にするようになりました。
 IoT(Internet of Things:モノのインターネット)とは、あらゆるモノがインターネットにアクセスする可能性を持つ状態になることです。

 IoTを説明する時、筆者はよくインテルの「エジソン」を例に挙げる。
「エジソン」はSDメモリーに実装されているチップでありながら、フルスペックのコンピュータの機能を持つ。ネットワーク機能も、TCP/IPのプロトコルも、CPUもメモリーも、すべてSDメモリー、すなわちデジタルカメラ等に使用する一つのメモリーに実装されているのだ。もちろん、インターネットにつなぐこともできる。「エジソン」は、コンピュータ・ネットワークがモノを知的につなげるというモデルの将来ビジョンを導く技術である。
 SDメモリーを装着できれば、あらゆるモノはPCのようにインターネットにつなぐことができる。たとえば時計や温度計、速度計など、計測データを持つセンサーがインターネットでつながることで、その情報を共有できるばかりか、必要な情報処理も実行できるようになる。
 このようにセンサー・ネットワークが広がり、それに自由にアクセスでき、そこから生まれるデータの処理が自由にできるようになると、コンピュータ・ネットワークで人間がつながっただけの時代とはまったく異なる状況が生まれる。いまは、その新しい時代のスタートポイントに立っているところだ。

『IoTの衝撃』 第1章 より DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部:著 ダイヤモンド社:刊

 ITの進化により、コンピュータは高性能化、小型化が進みました。
「エジソン」も、その大きな流れに乗って生まれてきた、画期的な技術です。

 いまや、自動車にも、家電にも、組み込み型のコンピュータが組み込まれています。
 今後、あらゆるモノがインターネットにつながっていくでしょう。
 その流れは、もはや、止まることはありません。

「新産業革命」ともいわれるIoTの進展により、モノづくりのビジネスは、どう変わるのか。

 本書は、「IoTの衝撃」実態を明らかにし、それに対する企業側の対策や戦略をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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IoTでサービスの概念が変わる


 人やモノがつながり、データを共有できる世界。
 そこでは、何が起きるのでしょうか。
 著者は、IoTのもたらすサービスとして、大手家電メーカー・フィリップスの例を挙げています。

 フィリップスは最近、利益率が低い、韓国や中国との家電分野の競争から撤退すると発表した。安価な家電づくりからヘルスケアの分野に注力し、健康をモニターする機能を備える、いわゆる「医電」に切り替えるというのだ。こうした動きは加速すると思われる。
 たとえば、洗濯機はどのように変わるのか。洗濯する時、まずは洗剤を出さずに水を入れてかき混ぜる洗濯機がある。水の中に汗などの成分が染み出るため、それをバイオ分析すれば体調を知ることができる。継続的にやれば、家族一人ひとりの体調をトラッキングできるようにもなる。掃除機も同様だ。掃除機で吸い込んだゴミからバクテリアの状態を見て健康への影響を判断したり、吸い込んだ髪の毛を自動的に分析して、体調を判断したりすることもできる。
 ただし、それらの分析は洗濯機や掃除機で実行するわけではない。クラウド上に専用のコンピュータ機能があり、そこにデータを送るのだ。クラウドのインフラがあってこそ可能になるサービスであり、まさにIoTの成果である。
 家電メーカーが消費者の健康管理を行うなど、昔は考えられなかったことだが、将来的には不思議なことではなくなるだろう。インターネットによってモノがつながり、そこから抽出した膨大なデータの計算や分析、既存データや他人データとの参照はクラウド上で行う。「あなたの部屋にこんなバクテリアがいる。それを除去するためにはこの装置をつければいい」などというアドバイスも、IoTで初めて実現できるサービスだ。
(中略)
 サービスとは、社会の要求から生まれてくるものだ。家電から医電へという流れを見ると、高齢社会や高額な医療費、医師不足などの問題を解決するために創造された新しいサービスだといえる。

『IoTの衝撃』 第1章 より DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部:著 ダイヤモンド社:刊

 今後IoTにより、あらゆる産業分野で、革新的なアイデアが生み出されるでしょう。

 サービスが社会の要求から生まれる。
 そう考えると、深刻な人手不足に悩む分野が真っ先に飛びつくのではないでしょうか。
 例えば、医療、介護、農業、水産業、保育、運輸などです。

 IoTが、人手不足の切り札になる。
 そんな日も、遠くないかもしれません。

IoTがメーカーのビジネスモデルを変える


 著者は、接続機能を持つスマート製品の普及は、インターネットを起爆剤とした過去のIT化の波と同様、多くの業界の構造を激変させると指摘します。
 そして、その影響を最も強く受けるのは、「製造業」です。

 接続機能を持つスマート製品は、製品差別化の機会を劇的に拡大するため、競争の軸は価格だけではなくなる。製品の実際の使われ方がわかると、顧客セグメンテーション、製品カスタマイズ、価格設定を通してよりよく価格を引き出し、付加価値サービスを拡充する手腕が高まる。接続機能を持つスマート製品はまた、顧客との関係性をひときわ深めるきっかけにもなる。豊富な時系列データや製品利用データを入手すると、買い手が新たなサプライヤーに乗り換える際のコストは上昇する。さらに、接続機能を持つスマート製品の恩恵により、サービス業務の提携先や流通業者への依存度を下げ、中抜きすることさえ可能になるため、利益が増大する。以上の諸要因により、買い手の交渉力をかわしたり、削いだりしやすくなる。
 具体例を示したい。ゼネラル・エレクトリック(GE)のアビエーション(航空)事業部門は現在、以前よりも多くのサービスを最終顧客にじかに提供できる体制にある。これは、直接の顧客である機体メーカーに対する交渉力の強化につながる。たとえば、何百ものエンジンセンサーから得られる情報を活かすと、GEと航空会社はエンジン性能の期待値と実測値との乖離を探り出して、最適化を図ることができる。イタリアのアリタリア航空は、GEによる燃料使用データの分析結果をもとに、着陸時の下げ翼の位置を改めるという操縦プロセスの変更を行い、燃料使用量を減らした。GEは、航空会社との緊密なつながりを活かしてともに差別化を推進する一方、機体メーカーへの影響力を強めている。
もっとも、接続機能を持つスマート製品は、買い手の交渉力を高める役割をも果たす。製品の実際の性能をよりよく理解する機会を買い手にもたらし、メーカー同士を競わせることを可能にするのだ。買い手はまた、製品の使用データを入手すれば、メーカーの助言や支援に頼る度合いを減らせると気づくかもしれない。なお、「製品のサービス化」を目指すビジネスモデルや共有サヒビスの下では、製品の買い切り制度と比べて乗り換えコストが低くなり、買い手の交渉力が増す可能性がある。

『IoTの衝撃』 第2章 より DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部:著 ダイヤモンド社:刊

 IoTを導入することにより、膨大な製品利用データを入手できるようになります。
 そのデータを利用して、顧客にメリットをもたらす、さまざまなサービスを提供することが可能です。

 製品そのものではなく、「システム」を売り物にする。
 それにより、顧客を長期につなぎとめ、価格交渉力を高める。

 メーカーのビジネスモデルが、これまでとまったく違うものになるのは、間違いありません。

機能や特性のうち、どれを追求するか


 接続機能を持つスマート製品の実現により、製品が備えうる機能や特性は劇的に拡大します。
 ただ、新機能を提供できるからといって、それらをすべて盛り込むべきではありません。
 機能の絞り込みによる、「戦略の差別化」が必要になります。

 接続機能を持つスマート製品に盛り込む機能は、どのようにして決めるべきだろうか。まずは、コストの割に大きな価値を顧客にもたらす製品特性がどれか、見極めなくてはならない。
 AOスミスは家庭向け給湯器を対象に、作動不良の監視・通知機能を開発したが、給湯器は製品寿命が非常に長く信頼性も高いため、コストに見合う料金をこの機能のために支払おうとする家庭はわずかである。このためAOスミスは、一部の機種にオプションとして付加するに留めている。ところが産業用の給湯器やボイラーに関しては、このような機能の利用率は高く、なおも上昇している。法人顧客は往々にして、熱源や湯がないと業務を遂行できないため、遠隔による監視や運用の価値がコストと比べて大きく、この機能は広く普及しつつあるのだ。
 給湯器の例でもそうだが、接続機能を持つスマート製品に新機能を追加するためのコストは、次第に低減していく傾向がある点に留意してほしい。このため、どの機能を提供するかを決める際には、コストと価値の比較に常に立ち返らなくてはならない。
 第二に、特徴や機能の価値は市場セグメントごとに異なるため、どのセグメントに狙いを定めるかによって提供機能の価値は異なってくるはずだ。シュナイダーエレクトリックは、ビルディング向け製品や統合型ビル管理ソリューションの提供に付随して、電気・ガスの消費量など、ビルの稼働状況を示す大量のデータを収集している。ただし、全面的なアウトソーシングソリューションを望む顧客セグメントに対しては、シュナイダーエレクトリックみずから機器の遠隔管理を引き受け、顧客のために電気・ガスの消費を最小限に抑え込む。
 第三に、企業は自社の競争優位の強化につながる機能や特徴を製品に取り入れるべきである。ハイエンド戦略に基づき競争を展開しているなら、豊富な機能を盛り込むことによってよりいっそうの差別化を図れる場合が多い。かたや低コスト戦略を掲げる企業は、製品の主なパフォーマンスを左右したり、運用コストを低減させたりする。最も基本的な機能だけを搭載する道を選ぶかもしれない。AOスミスは、ロッキンバー給湯器ラインに関して徹底した差別化戦略を採用し、主力製品にはスマート製品ならではの数々の特徴を標準装備している。これとは対照的に高級腕時計メーカーのロレックスは、接続機能やスマート機能での競争には加わらない決断を下した。

『IoTの衝撃』 第2章 より DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部:著 ダイヤモンド社:刊

 IoTにより、製品の利用者から得られる情報は、多岐にわたります。
 メーカー側からすると、まさに“宝の山”といえます。

 これまで知り得なかった、利用者側の情報が得られる。
 だからこそ、その情報をいかに還元するかが、重要になってくるわけです。

IoTの導入で必要になる「新たな専門性」


 インターネットへの接続機能を持つスマート製品のメーカーは、ソフトウエア企業と従来のメーカーを足して二で割ったような存在。
 そのため、必要とされる人材や仕事のやり方も、従来と異なるものが要求されます。

 接続機能を持つスマート製品の設計、販売、アフターサービスに必要なスキルは、需要が大きい半面、供給が少ないのが実情である。事実メーカーは、機械エンジニアからソフトウェア・エンジニアリングへ、製品の販売からサービスの販売へ、修理から稼働時間の管理へと必要スキルが変化する状況の下、「何とかして適材を探さなくては」と切迫感を募らせている。
 メーカーは、アプリケーションエンジニアリング、ユーザーインターフェースの開発、システムインテグレーション(SI)の専門家を雇う必要があるだろう。特に、データをもとに行動を起こすための自動解析ツールを構築・運用することができる、データサイエンティストを採用する必要性は、極めて大きい。従来の業務アナリストやデータアナリストは、新しい種類のプロフェッショナルへと進化を遂げている。つまり、技術とビジネス、両分野の見識を持ち、分析から得た知見を事業リーダーとITリーダーにうまく説明できなくてはならないのだ。
 これら新しいスキルの不足は、伝統的な製造業の中核分野てひときわ顕著である。というのも、そのような分野の多くはテクノロジー系の主要業界と異質だからである。したがって、メーカーの一部には、ボストンやシリコンバレーといった先進的な地域に拠点を設ける動きがあるある。これにより、製造の最先端に身を置くとともに、大学や学術拠点、法人向けのハードウェアやソフトウェアの開発・製造元、接続機能を持つスマート製品の新興メーカーなどと接点を持つことができる。たとえばフランス企業のシュナイダーエレクトリックは、米国本社のボストンへの移転を進めている。このように産業クラスタ―に属することによって、製造系の企業は今後10年間に、学習スピードを速め、優秀な人材の採用でも優位に立つだろう。その一方では新しい採用手法も必要になるはずだ。具体的には、近隣の大学からインターンを受け入れる、あるいは有力な技術ベンダーと提携して人材を派遣してもらう、といった方法が考えられる。

『IoTの衝撃』 第3章 より DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部:著 ダイヤモンド社:刊

 上記のようなITエンジニアを確保すること。
 それは、企業の存亡に関わる重大事となります。
 各企業の努力はもちろん、国を挙げて、早急に対処していかなければならない問題です。

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 あらゆるモノが、インターネットを介してつながる。
 IoTの導入により、私たちの社会は、近い将来、想像もつかない世界になります。

 その衝撃は、産業革命以来の大きなものになるでしょう。
 とくに、製造業が国の根幹産業である日本にとっての影響は、計り知れません。
 IoTの大波に乗った企業は大躍進し、乗れない企業は淘汰されます。

 企業側は、このような大変革の時代を、大きなチャンスととらえたいところ。
 IoTは、「ものづくり大国」日本の復活のカギを握ります。
 IoTの大波にうまく乗って、新たな価値を創造する企業が、日本からもたくさん出てくることを願っています。

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