【書評】『宇宙ビジネスの衝撃』(大貫美鈴)

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 お薦めの本の紹介です。
 大貫美鈴さんの『宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』です。

 大貫美鈴(おおぬき・みすず)さんは、宇宙ビジスネコンサルタントです。

なぜ、ITの巨人は、「宇宙」に投資するのか?


 民間による「宇宙ビジネス」が、この10年あまりで、一気に加速しています。

 電気自動車の「テスラ」で有名なイーロン・マスクが経営する「スペースX」。
 アマゾン・ドット・コムの創業者、ジェフ・ベゾスが経営する「ブルーオリジン」。

 その他にも、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、アップルなどの巨大IT企業。
 それに、数多くのベンチャー企業やベンチャーキャピタルが、宇宙ビジネスに熱い視線を送っています。

 IT関連の技術や資金が流れているのは、宇宙をインターネットの延長と見ているからです。宇宙にネットワークを張り巡らせることで、「地球のビッグデータ」が手に入る。これが、さまざまなビジネスを生み出すと期待されているのです。
 例えば、小型といえども高性能になってきている小型衛星の撮影機能を使えば、コンステレーション(複数の人工衛星を連携させる運用法)で連続的に周回して地球を捉えることで、一刻一刻その変化を見ることが可能になります。
 あるショッピングモールの駐車場に停まっている車の数を、時系列で分析することができる。植えられた作物の生育状況を宇宙から把握することができる。牧畜では、牧羊犬に代わって牛を管理することができる。魚群探知機の精度を高めていくことができる・・・・・。
 こうした情報は商品市場にも影響を与え、投資銀行やヘッジファンドなどの金融機関にとっても望まれるものです。大気のビッグデータを集めて天気予報の精度を高めたり、衛星写真を用いてゴルフ場やイベント場所など局所的な天気予報も可能になれば、どうなるでしょうか。
 小型通信衛星によるコンステレーションで安定したネットワークをつくることができれば、今はまだインターネットがつながらないエリアもカバーできるようになります。地図情報と組み合わせることで、車の自動運転に結びつけることができる。バスの運行状況が適切なのか、どの時間帯が混むのかがわかれば、時刻表づくりも変わっていくでしょう。決済システムが導入され、eコマースが地球の隅々までいきわたれば、大きな経済発展がもたらされます。
 そうした地球を観察することで手に入るビッグデータや通信環境は、今後、IoTやAIの進化と結びついて、製造、サービス、流通、医療、金融、娯楽、教育、農業、漁業、防災などのあり方を激変させ、私たちの生活を大きく変える可能性秘めています。このデータは、第4次産業革命を駆動させる大きなピースとなるのです。そして、この通信環境は5G時代にシームレスなコネクティビティ―を実現します。事実、現在打ち上げが計画されている小型衛星の数は、地球観測衛星で約1000機、通信衛星で2万機を超えるほどの規模になります。
 宇宙はもはや、特別な場所ではありません。それはビジスネチャンスを大きく拡大する場所です。デジタル化が急速に進む中で、宇宙は再びイノベーションのフロントとして期待されているのです。

『宇宙ビジネスの衝撃』 はじめに より 大貫美鈴:著 ダイヤモンド社:刊

 これから、さらに成長が加速するであろう「宇宙ビジネス」。
 そこには、限りなく大きなポテンシャルが秘められています。

 本書は、激変する宇宙ビジネスの「今」と「これから」を、わかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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なぜ、ベンチャー企業が宇宙に向かい始めたのか?


 スペースXやブルーオリジンなど、米国の企業が宇宙ビジネスに大きな可能性を見出すきっかけ。
 それは、2005年にNASAが打ち出した「商業軌道輸送サービス(COTS)」です。

 きっかけになったのは、スペースシャトルの老朽化でした。スペースシャトルの後継機の開発には、巨額の費用がかかります。
 そこでNASAは2004年、スペースシャトルの退役を決断、それとともにもう後継機はつくらないことを宣言しました。2011年7月にスペースシャトルは最後のフライトを終えることになります。
 では、この先、スペースシャトルの後継機開発をどうするのか。そこでつくられたのがCOTSでした。この仕組みづくりには、シリコンバレーの投資顧問も含まれていました。
 COTSは、国際宇宙ステーションへの補給輸送を民間企業に任せる。その能力開発の支援プログラムです。COTSによって民間の活力と資金が競争原理のもとに、宇宙開発に流れ込んでくる仕組みをつくったのです。
 かつてスペースシャトルの製造も民間企業が担っていましたが、それは国から発注を受ける公共事業でした。COTSのもとでも、国際宇宙ステーションへの補給輸送は、NASAの求めに応じて企業が契約することになりますが、輸送に使うロケットの設計や開発は自ら進め、資金も調達しなければなりません。その結果、コスト削減や新たな技術開発が進みました。
 国際宇宙ステーションへの補給は現在、スペースXとアメリカの航空宇宙企業オービタルATKが引き受けています。NASAは、スペースXやオービタルATKから国際宇宙ステーションへの貨物便サービスを購入しています。こうして、NASAが開発するのではなく、一顧客として民間からサービスを購入するというパラダイムシフトが起きたのです。
 当時のオバマ政権は、2010年6月に出した新国家宇宙政策で、民間企業から商業宇宙技術やサービスを購入して使用、宇宙技術の活用や競争に通じる起業を促進、政府による宇宙技術やインフラの商業利用、輸出の促進などを強力に推進しました。
 COTS形式はNASAの既定路線となり、宇宙開発を手がけるベンチャーが次々に生まれることになっていったのです。

『宇宙ビジネスの衝撃』 第1章 より 大貫美鈴:著 ダイヤモンド社:刊

 電話、鉄道、電気、ガス・・・・。

 国の事業としてスタートし、ある程度育った段階で、民間のサービスに移管する。
 巨大なインフラが必要なサービスのほとんどは、そのように発展してきました。

 COTSは、宇宙事業が、サービス普及に向けた新たなステージに入ったことの象徴といえます。

宇宙は「低軌道」「静止軌道」「深宇宙」の3つ


「宇宙」とひとくちに言っても、とても広大です。
 その中で行われる宇宙ビジネスは、「場所」によってやっていることが異なります。

「場所」には、大きく分けて、以下の3つがあります。

  • 低軌道
  • 静止軌道
  • 深宇宙

「静止軌道」は1980年代にかけて、各国が通信衛星や放送衛星を打ち上げて、2000年以前にすでに商業化しています。
 2000年以降に商業化が急速に進んだのは「低軌道」です。
 低軌道は名前の通り、最も低い位置にある軌道。地球に近いところの軌道を指しています。宇宙と定義される高度100キロを超えたところから、2000キロあたりまでのエリアのことです。
 低軌道には、さらに「サブオービタル(準軌道)」「太陽同期軌道」「極(きょく)軌道」などの軌道があります。サブオービタルは弾道飛行のことで、打ち上げられた機体は軌道にのって地球を周回することなく、再び地上に戻ってくるという飛行経路です。
 太陽同期軌道は低軌道の中でも少し高めの位置で、太陽の軌道と同じように旋回します。主に地球観測衛星は高度700キロあたりの「極軌道」に、通信衛星は高度1200〜1500キロの「太陽同期軌道」に打ち上げられます。
 宇宙ビジネスが大きく活性化しているのは、「低軌道」です。高性能な小型衛星により、さまざまな事業化や利用が進んでいます。
 小型衛星の打ち上げ需要の激増にともない、小型衛星を打ち上げる手段も開発されてきています。小型衛星を大型・中型ロケットの相乗り(ライドシェア)で打ち上げる他、小型衛星専用のロケット開発も盛んです。また、小型衛星を地上400キロの国際宇宙ステーションに貨物便で打ち上げて持っていき、そこから衛星を放出させる手段もあります。
 なお、静止軌道と低軌道の間(高度8000〜2万キロ)は「中軌道」と呼ばれ、測位衛星や通信コンステレーションで利用されています。

「静止軌道」は赤道上約3万6000キロの軌道ですが気象衛星、通信衛星、放送衛星、測位衛星などは、この静止軌道を周回しています。日本でよく知られる「気象衛星ひまわり」は、この静止軌道を周回しています。
 静止軌道に打ち上げられる衛星は数トン級の大型衛星ですが、その衛星を軌道上で修理したり、燃料を注入したりして延命する軌道上サービスの事業化が行われつつあります。
 アメリカの宇宙企業大手のオービタルATKやスペースシステムズ・ロラールでは衛星に延命モジュールを接続する方法で、寿命が尽きた衛星や故障して使えなくなった衛星の再生事業を進めています。

『宇宙ビジネスの衝撃』 第2章 より 大貫美鈴:著 ダイヤモンド社:刊

図1 宇宙ビジネスのセグメント 宇宙ビジネスの衝撃 第2章
図1.宇宙ビジネスのセグメント
(『宇宙ビジネスの衝撃』 第2章 より抜粋)

 地球は、土地や空間が限られています。
 それと較べて、ケタ違いに広いスペースを持っているのが、宇宙です。

 技術の進歩とともに、使える範囲も、使い方も広がっていくことでしょう。
 楽しみですね。

無重力環境下での研究が「医療」を変える!


「宇宙空間」の最大の特色。
 それは、「空気がない」「重力がない」ことです。

 宇宙ならでは、特徴を活かしたビジネスには、どのようなものがあるのでしょうか。

 宇宙の無重力環境を利用した象徴的な適用例が、創薬です。無重力になると、地上の重力下では見られないような、DNAの変化などが見えてくると言われています。そのデータを参考にしながら、地球で薬の研究を進めるのです。
 アメリカでは、国際宇宙ステーションにネズミの実験装置を打ち上げ、無重力の環境における実験に取り組んでいました。日本も宇宙の無重力環境でのネズミの実験を行っています。
 これを通常のデータと比較するだけでも、地球上だけで研究しているだけでは出てこないヒントが見つかるということなのかもしれません。血液や骨、筋肉など、さまざまなデータが創薬や医療へと反映されています。
 タンパク質の結晶成長も、無重力環境で研究されているテーマのひとつです。タンパク質とひとくちに言っても多くの種類があります。地球上で重力のあるときは、対流や沈殿が結晶の品質に悪影響を及ぼしますが、宇宙では無重力の効果で高品質な結晶ができます。
 それを使った新たな医療分野の発見があったり、今まで治せなかった病気の特効薬のきっかけがつくれたりという話にもつながっていくのです。
 今まで治せなかった病気で日本が取り組んでいるものに、筋肉が衰弱してしまう筋ジストロフィーがあります。詳細はまだ公表されていませんが、創薬開発の裏側では、難病がいくつか名前として挙がってきています。アメリカでも同様の開発が進んでいますが、実際に完成するまでは詳しい情報は公表されないことになっています。
 創薬の例を出しましたが、他にもバイオ、材料など、無重力環境を利用したいろいろな取り組みが進められています。

『宇宙ビジネスの衝撃』 第2章 より 大貫美鈴:著 ダイヤモンド社:刊

 大貫さんは、宇宙環境の利用では、新たなプラットフォームとして「サブオービタル(準軌道)飛行」が有力視されていると述べています。

 サブオービタルを使うと、4分程度の無重力時間を、軌道における実験よりも手軽に、はるかに安い費用で行うことができるとのこと。

 この技術が確立すれば、創薬だけでなく、新素材の開発などでも、画期的な成果が期待できますね。

月の市場規模は、2020年に3000億円に!


 月は、地球に最も近い天体です。
 実際、地球からは3日間で到着できる距離です。

 大貫さんは、月は「探査の場所」であるとともに、「開発利用の場所」として見られていると述べています。

 商業としての有人宇宙開発は、2005年に宇宙旅行代理店のスペース・アドベンチャーズが月旅行の販売を開始したことから始まりました。この月旅行は、9日間ほどかけて月をぐるりと一周して地球に戻ってくるという行程です。料金は110億円です。最少催行人数が2名で、1名はもう決まっているということですが、あと1名の契約が成立したところで、月旅行のための宇宙船の製造を始めるのだそうです。
 Xプライズ財団が2013年に実施した市場調査では、10年後に月の市場規模は1900億円、25年後には6400億円になり、約70%が商業顧客と予測されていますが、これは5年前のもの。今はもっと大きな数字になっている可能性があります。月面輸送サービスを開発しているアストロボティックスの調査でも、2020年時点の月の市場は、1500億〜3100億円という試算があります。
 さらに、大手ロケット打ち上げ企業のULAが2016年に発表した「シスルナ1000」では、15年後の2030年には500人が宇宙に住み、スペースエコノミーは現在の33兆円から100兆円になるとしています。
 いずれにしても、民間の月事業で、まったく新しい巨大な市場がつくられるのです。
 例えば、アメリカのベンチャー企業、ムーンエクスプレスは、世界で初めて民間企業が月面で事業をするための承認を政府から得ています。グーグル・ルナ・Xプライズにも参戦している企業で、月に物資を運ぶ月面輸送サービスの事業化を目指しています。
 2010年に設立されたムーンエクスプレスは、まずは月面着陸機を打ち上げ、その後、低コストのロボット宇宙機による月への輸送ビジネスを手がけるとし、将来的には月の資源利用事業へと発展させていく事業プランを持っています。
 月面での事業について承認を政府に求める申請には、他にも数社が提出していますが、ムーンエクスプレスの承認が初めて。これは今後、期待される月資源のゴールドラッシュに向けた大きな一歩になるとみられています。
 また、アメリカのシャクルトン・エナジーは、月の極地に豊富にあるとされている水をターゲットにしています。
 水を得て何をするのかといえば、燃料です。水を水素と酸素に分解し、液体化すれば、ロケットを動かす燃料として使うことができます。
 シャクルトン・エナジーは、地球の低軌道上にガソリンスタンドのような宇宙燃料ステーションを建設しようとしています。彼らの最終的な目標は、「地球、月そして火星に、水、燃料と太陽光を供給し、宇宙フロンティアを促進させること」です。
 2020年代に、低軌道と月面での燃料供給を開始することを目指しています。
 商業宇宙ステーションを開発しているビゲロー・エアロスペースは、NASAジョンソン宇宙センターの協力のもと、「月面軌道ステーション」「月面基地計画」も進めています(下の図2を参照)。

『宇宙ビジネスの衝撃』 第5章 より 大貫美鈴:著 ダイヤモンド社:刊

図2 ビゲローの月面基地構想 上 とNASAの月面基地構想 下 宇宙ビジネスの衝撃 第5章
図2.ビゲローの月面基地構想(上)とNASAの月面基地構想(下)
(『宇宙ビジネスの衝撃』 第5章 より抜粋)

 人類が初めて月面に降り立ったのが、1969年。
 それから半世紀近くが経ちます。

 月での開発やビジネスは、私たちの想像以上のスピードで進んでいるのですね。

 海外旅行感覚で、月に旅行へ行く。
 そんな日は、もう間近に迫っています。

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 宇宙に行けるのは、特別な能力をもち、特別な訓練をした人だけ。
 多くの人は、そう考えているのではないでしょうか。

 しかし、この10年あまりの間に、宇宙開発を取り巻く環境は、激変しました。

 大貫さんは、これからは宇宙を利用することが特別ではなく、当たり前のものになっていくとおっしゃっています。

 宇宙は、目の前に開かれた、まったく新しい開拓地(フロンティア)。
 開発競争は、今後ますます白熱化し、私たちもその恩恵を受けることになるでしょう。

 無限大の広さを持つ宇宙。
 まだまだ始まったばかりの宇宙ビジネスも、無限大の可能性を秘めています。

 人類の将来も左右するかもしれない、宇宙を巡るプロジェクト。
 私たちも、その行方をしっかりと見守りたいですね。

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