【書評】『ブランド』(岩田松雄)
お薦めの本の紹介です。
岩田松雄さんの『ブランド 元スターバックスCEOが教える「自分ブランド」を築く48の心得』です。
岩田松雄(いわた・まつお)さんは、日本を代表する経営者のお一人です。
複数の会社のCEO(最高経営責任者)を経験、51歳の若さでスターバックスのCEOを就任されました。
宣伝しないスターバックスがブランドになれた理由
スターバックスには、「一杯のコーヒーを通して人々に活力を与える」というミッションがあります。
働くパートナー(従業員)たちは皆、このミッションに基づいて働いています。
そして、質の高いコーヒーを提供し、素敵な空間を維持し続けているわけですね。
(↓スターバックスの「ミッション」について、もっと詳しく知りたい方はこちら)
【書評】『ミッション』(岩田松雄)
スターバックスは、「ミッション」を守り続けることで、高いブランドイメージを築き上げることに成功しました。
企業にとって大切な「ブランド」。
それは私たち一人ひとりにもいえることです。
自分自身を“ブランド化”することで、人を惹きつけ、共感を呼びます。
また、ブランドは、人と人をつなぎ、ひとりではできないことを実現する大きな力を持つことができます。
本書は、「自分ブランド」を確立し、スターバックスのような、個性的で愛され続ける人になる心得をまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
[ad#kiji-naka-1]
「セルフ・ブランディング」では人を惹きつけられない
ツイッターやフェイスブックなどのソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)が普及し、「セルフ・ブランディング」という言葉が世の中にあふれるようになりました。
岩田さんは、この「セルフ・ブランディング」という言葉には、違和感を感じています。
セルフ・ブランディングの議論は、得てして「どう見せるか」「どう見られると自分が得をするか」に終始していて、ただのテクニックになってしまっているからです。
「世のため、人のために何かをしたい」という、人間として本来もつべきミッションがあり、それを実現するために具体的な行動をすることで、外見にその志が滲み出して現れてくるものが、私の考える「ブランド」です。ただ外見だけを整えても意味がありません。問題はどう見せるかではなく、“結果として滲み出てくるもの”なのです。
人通りがない道端で、小さな子どもが転んで泣いていたら。あるいは、ホテルやビルの個室トイレが汚れていたら、どうするでしょうか。
他人の視線はないのですから、子供を助けようが助けまいが、トイレをあとの人のために掃除しようがしまいが、自分自身のレピュテーション(世間での評判)にはいっさい響きません。人に見られていない以上何も実利がなく、「得」しない。だから放っておいてもいいのかもしれません。
しかし、本当の意味で自分を「ブランド化」できている一流の人は、自然な行動として、子どもを助け、トイレを掃除します。
「自分をどう見せるか」という世間体だけのセルフ・ブランディングを考えているうちは、一流にはなりえないのです。『ブランド』 第1章 より 岩田松雄:著 アスコム:刊
「私はこういう人間です」と、ことさらアピールしなければ伝わらない。
それでは、一流のブランドにはなりえません。
人目につかない部分、普段の何気ない行動が積み重なる。
それにより、「自分ブランド」が醸(かも)し出されます。
「私はこういう人間です」をつねに行動で示すこと。
それが、自分を「ブランド化」するための秘訣ですね。
「よいイメージ」はどうやってつくられるのか
ブランドというと、表面的な「見てくれ」の話だと誤解されることがあります。
岩田さんは、外から見えやすい部分であるイメージは、外から見えにくい下層の部分にあるミッションやそれを具体化するためのさまざまな要因によって支えられて
いると指摘します。
ブランドとして表に見えている部分は、「氷山の一角」に過ぎません。
多くの企業は、氷山の水面上の部分だけをコピーして、ブランド構築に失敗します。
ブランドは、決して表層的な部分だけでつくられるような底の浅いものではない。ミッションを土台とした、いくつかのレイヤーの上に成立しているものなのです。
そしてこれは、決して企業のことだけを指すのではありません。私たち、個人にとっても同じことです。人に対するイメージは、その人がどれだけの志をもって生きているかによって、まったく異なります。
少なくとも私は、志をもって愚直に進む人に対してよいイメージがあります。
恋人や友人も同じではないでしょうか。若いうちは、髪型や服装、持ちもの、口が上手かどうかなどで相手を判断しがちです。ところが、ちょっとかっこいい人、きれいな人とつき合ってみたら、尊大だったり、わがままだったり、ケチだったり、薄っぺらだったりすることも、よくある話です。
しかし、さほど意識していなかった相手であっても、内面にどんな思いが存在するのか、どんな背景が隠れているのかを知る機会があると、共感し、惚れ込み、尊敬し、応援し、一生つき合うような関係を築けることがあります。また、そういった人の風貌(ふうぼう)は素敵に見えてくるものです。
それは長く深くつき合うことで、普段は人前に出ないその人の志に触れる機会があったからです。つき合えばつき合うほど、もっと仲よくなりたい人もいれば、その逆の人もいます。
結局はその人がどういった志で生きているか、それをどう表現しているかがとても大切だということです。『ブランド』 第2章 より 岩田松雄:著 アスコム:刊
表面的な部分だけ取り繕っても、いつかはメッキは剥がれます。
一流の人間とは、中の地金がそのまま表面に現れている人のことです。
どこを切り取っても、その人らしさが現れる。
そんな個性的で魅力的な人間を目指したいですね。
ブランド人は細部に目を配る
どんなに成功をおさめたブランドでも、無理をすれば歪みが生じてしまいます。
企業にとって「成長」は、不可欠なことです。
ただ、必要な人材の確保などの準備が間に合わなければ、拡大のペースを緩めることも時には必要となります。
これは個人にも言えることです。新しいこと、大きな取り組みは大切なことですが、急に無理をし始めるとどうしても「まあいいか」とおざなりになる部分が増えてきます。大きな取り組みをしているのだから、細かいことに目を向けられなくても仕方がない、と自分に言い聞かせ始めます。
しかし、「神は細部に宿る」のです。
細部に意識が届かない人は、ブランドにはなりえません。
「オーガニック・グロース」という言葉があります。企業は買収などに頼らず、自らもっている資源を活用しながら成長していくという意味です。個人におき換えるなら、今の自分が持っている「よいところ」を活用しながら、自律的に成長していく、ということです。それができているかを検証する、とてもわかりやすいチェックポイントがあります。
お金です。
企業の経営者であれば、それまでミッションを語ってきたのに、「◯◯◯億円」といった無茶な売上目標、対前年比何パーセント増などといった数字への言及が急に増えてくると危険な兆候です。
個人の場合であれば、唐突に「年収1億円を目指す!」などと言い始めるような思考は危険です。いきなり大きな借金をして、一発勝負をかけるようなことは、できるだけ避けるべきです。『ブランド』 第3章 より 岩田松雄:著 アスコム:刊
企業にしろ、個人にしろ、「背伸びし過ぎは危険」ということですね。
地に足をつけて「自分ブランド」を確立することに100%注力すること。
外に広げていくのは、それからです。
「神は細部に宿る」
頭に刻み込んでおきたい言葉です。
岩田式「怒らない技術」とは
会議などで、どんなときに発言し、どんなときに黙っておくべきなのか。
会社員なら誰でも頭を悩ませる問題です。
岩田さんは、すぐに「おかしい!」と思って発言してしまうタイプです。
不用意に発言をして、敵をつくり、後悔することもあったとのこと。
そのような反省を活かし、反射的に言葉を吐き出さない方法を編み出しました。
その名も「棺桶テスト」です。
私と同じように、ひと言多いと指摘される人には、ぜひおすすめしたい方法です。
どうも発言者の言っていることがおかしい、ビシっと言わずにいられない、という感情がムラムラ湧いてきたとします。そこで私は一度、頭の中で自分が死んだことにして、棺桶に入っている姿を想像するのです。
この世を去るに当たり、やっぱりあのとき、あの会議で指摘しておくべきだったと後悔するのか、それとも、まあそこまで気にするほどのことではないような、細かい話と思えるのか。
それを判断するため、一度頭の中で棺桶に入る。今のところ、これが私にとって有効な判断の手段になっています。
イライラしがちな自分に一瞬ブレーキが利き、無用なノイズを発することを抑え、どうしても言うべきことだけを落ち着いて発現することができるのです。『ブランド』 第5章 より 岩田松雄:著 アスコム:刊
自分ブランドを築きあげるのは、自分自身の言動です。
同様に、自分ブランドに傷をつけるのも自分自身の言動になります。
感情のコントロールには細心の注意を払わなければなりません。
特に、怒りなどのネガティブな感情をそのまま爆発させることは避けたいですね。
[ad#kiji-shita-1]
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
岩田さんは、「一隅を照らす」という言葉を紹介されています。
「一隅を照らす」とは、大きくて立派なことではなく、まずは自分にできる、自分の受けもつ責任をしっかり果たそうという意味です。
一人ひとりが、自分にできること、自分の受けもつ責任をしっかり果たすこと。
それが、世の中を明るくすることにつながります。
一人ひとりの放つ“光”が、「ブランド」という輝きとなります。
晴れの日も雨の日も、変わらずに輝き続ける灯台。
そのように人々を勇気づけ、引きつける存在を目指したいですね。
【書評】『健康は「時間」で決まる』(根来秀行) 【書評】『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』(藤原和博)