本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『思うように人の心を動かす話し方』(榎本博明)

 お薦めの本の紹介です。
 榎本博明先生の『心理学者が教える 思うように人の心を動かす話し方』です。

 榎本博明(えのもと・ひろあき)先生は、ビジネス関係がご専門の心理学者です。
 心理学をベースとした企業研修や教育講演を行うかたわら、多くの著書を出版されています。

人間は「理屈」よりも「気持ち」で動く

 モノやサービスが過剰な今の時代。
 商品の品質や性能に差がつかなくなり、販売や契約の成否は、顧客との「コミュニケーション力」にかかる比重が大きくなりました。

 そこで役に立つのが「心理学」の知見です。

 本書は、人間すべてに共通する心理法則から、「説得の技術」に関わるものをまとめた一冊です。

 ここで紹介する心理メカニズムや心理テクニックは、心理学の実験により科学的に実証されたものばかりであり、すべての人間に当てはまるものです。
 使用する人の個性や資質は問われずに、誰が使っても同様の効果が得られるわけですね。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」とは?

 心理学のテクニックに「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」(門前払い法)があります。

 最初に必ず断られるような無理難題をぶつけていったん断らせます。
 そして、その後により小さな要請を出すと、こちらの要求が通りやすくなります。

 ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックは、このような心理効果を狙った方法です。

 普通ならすんなりと受入れ難い話でも、無理難題をぶつけられて断ったあとでは、なぜか気やすく受け入れていしまう。そうした心理を証明した実験がある。
「献血をお願いできませんか」
 と歩行者に頼むと、了承してくれた人はほぼ3割であった。これに対し、
「今後数年間、2ヶ月ごとに献血する契約を結んでくれませんか」
 と、いきなりとても受け入れ難いような要求を出す。当然断られるわけだが、そこで、
「それでは、今回一度だけでいいですから献血をお願いできませんか」
 と頼むと、5割の人が応じてくれたのである。いきなり頼んだ場合の3割と比べてかなり高い比率といえる。
 一度相手の要請を断ったあとでは、「ちょっと悪かったかなあ」という気持ちがあり、次に出されるそれより軽い要請を受け入れやすい心理状態がつくられる。さらに、とんでもない大きな要請のあとに出される小さな要請は、対比効果により実際以上に小さなものに感じられる。それで、いつのまにか受け入れてしまうことになる。

 『思うように人の心を動かす話し方』 第1章 より 榎本博明:著 アスコム:刊

 同じ高さのハードルでも、その前により高いハードルを見た場合と、より低いハードルを見た場合では、違う高さに感じます。
 そんな人間の心理的な錯覚を用いたテクニックです。

 人がいかに主観的で相対的にものごとを判断するかを示した心理法則ですね。

「聞く」というテクニック

 心を開かせるテクニックのひとつに「聞くことに徹すること」があります。

 心療内科では、カウンセラーはクライエントに「こうしなさい」とは言いいません。
 あいづちなどを挟みながら、クライエントの思いを引き出すことに専念します。

 他人に心を開くというのは、勇気を要するものだ。最大のネックとなるのは聞き手の反応である。私が大学生を対象に行なった調査からも、率直に自己開示できない理由として、
「相手がどのような反応をするのかわからないから」
 という聞き手の反応に対する不安が最大のものであることがわかっている。
 逆にいえば、「あなたの話すことはよくわかります」と共感を示し、じっと耳を傾けることによって肯定的な関心をもっていることを伝えれば、相手は自己開示しやすくなる。だれでも、せっかく自己開示したのにクールな反応が返ってきたり、無視されたりするのを恐れている。

 そこで、カウンセラー、クライエントの言うことに反論したり、批判を加えたり、説教したりせずに、ただひたすら温かい関心を向け、共感を示す。
「ふん、ふん」
「そうですか」
「なるほど」
 とうなずいてあいづちを打っていればよいのだから楽な仕事だ、などと茶化した言い方をされることがあるが、たしかに形式だけみればそんなものかもしれない。
 しかし、うなずいて共感を示し、じっと耳を傾けてくれるというだけで、実際クライエントの気持ちはとても楽になり、率直に心を開きやすくなるのである。

 『思うように人の心を動かす話し方』 第2章 より 榎本博明:著 アスコム:刊

 自分の意見に批判的な意見を返されると、相手に対して警戒心を強くもつのは当然です。
 逆に、「自分が言ったことに反論せずに、受け入れてくれる」という安心感が、相手の心を開くのも当たり前ですね。

 相手の気持ちに寄り添い、ただじっと耳を傾けること。
 簡単にできそうですが、なかなかできるものではありません。
 意識的な訓練が必要ですね。

たった5人のサクラで8割の人が影響される

 ある実験で、ニューヨークの繁華街で、歩道を歩いている実験協力者(サクラ)が突然立ち止まって向かいのビルの上の方を見上げたとき、通りがかった人がどんな反応を示すかを調べました。

 その結果、サクラの人数によってサクラの行動につられる人の数に差が出ることがわかりました。

 結果を見ると、サクラが1人のときでも通行人の4割強がサクラの行動につられて空を見上げた。2人、3人、4人、5人とサクラの人数が増えるごとに空を見上げる通行人の人数も急増し、サクラが5人のときには通行人の8割近くが空を見上げた。
 サクラの行動につられる人は、サクラが5人の段階ではほとんどつられてしまうようであり、サクラの人数がそれ以上増えてもその行動につられる通行人の比率はそれ以上増えなかった。

 街を歩いていると、アクセサリーや絵画を路端に並べてすわっている人や、包丁やおろし器のような調理小物をマイク片手に実演販売している人に出くわす。楽器を演奏したり小猿に簡単な芸をさせたりといったストリート・パフォーマンスも時折見かける。
 だれも見物人がいないところでは立ち止まって見る気にはなりにくいが、人だかりができていると、「どれどれ」と覗き込みたくなる。
 サクラが5人いると効果が絶大であるということは、裏返せば、5人以上の人たちが飛びつくのだから損はないだろうと思っていると、そのほとんどがサクラで、あとはサクラにつられてよく考えずに群がった人かもしれないのである。

 『思うように人の心を動かす話し方』 第3章 より 榎本博明:著 アスコム:刊

 1人の人が「いい」と言っても半信半疑ですが、5人の人が「いい」と言ったら、つい信用してしまうのが人間の心理ですね。

 ネットショッピングが当たり前となった現在、サクラによる商品評価が問題にもなっています。
 ステルスマーケティング、いわゆる「ステマ」です。

 人間心理のスキを狙った悪徳商法にも十分注意したいところです。

もっとも説得されやすい人

 説得するターゲットの性格によっても、当然、有効な説得方法は変わってきます。

 榎本先生は、何といっても説得されやすいのは、対人関係や知的能力に自信のない人だと指摘します。

 人に話しかけるのに勇気がいる人。人とのやりとり、とくによく知らない人との交渉に自信のない人。会話が苦手な人。このように社会的能力に自信がなく、そのため引っ込み思案になりがちな人は、人との交渉を極力避けようとする。したがって、相手の言うことはちょっとおかしいなと感じても、話すのがめんどうなので、すぐに受け入れていしまう。

 論理的能力、批判的能力に自信のない人も同様だ。人と議論するのが苦手なため、意見をぶつけられると反論する気力が失せ、すぐに自分の意見を引っ込めてしまう。
 いずれにしても、自信のない人にとっては、自分の意見を曲げることの心理的負担や多少損をするかもしれないという計算よりも、人と意見を闘わすことの心理的負担のほうが大きいのである。

 『思うように人の心を動かす話し方』 第4章 より 榎本博明:著 アスコム:刊

 話の中身は関係なく、自信たっぷりに見える政治家が圧倒的に人気がある。
 それは、何かにつけて控えめで自信のない国民性の表れなのかもしれません。

 相手の言いなりにならない。
 そのためには、普段から対話や議論に慣れておくことが大事だといえます。

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 テレビのCMでも、街中の看板にも、心理的効果を狙った誇大な広告があふれかえっています。
 それらを日常的に見続けている私たちも、真贋(しんがん)を見極める目が曇りがちです。

 人の心を動かすスキルをもつということは、同時に、安易に人に心を動かされないスキルをもつことでもあります。
 本書にある「説得の技術」をマスターして、日々の生活の中で有効に活用したいですね。

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