【書評】『人生を動かす仕事の楽しみ方』(新津春子)
お薦めの本の紹介です。
新津春子さんの『人生を動かす仕事の楽しみ方~才能よりも大切な「気づく力」~』です。
新津春子(にいつ・はるこ)さんは、日本テクノ株式会社社員で、環境マイスターです。
現在、羽田空港の各ターミナル清掃の実技指導者をされています。
仕事は、いまよりずっと楽しくできる!
新津さんは、20年以上にわたり、清掃の仕事に携わっています。
その間に、イヤなことや大変なことを、数え切れないくらい経験してきました。
それでも、清掃の仕事を、きついとか、辞めたいとか、思ったことはありません。
新津さんは、その理由をきっと「やさしさ」の大切さに気づいたから
だと述べています。
やさしくなろうとすることで、気づきが得られ、気づくことで工夫やアイデアが生まれ、その結果、お客様に感謝されたり、評価されたりします。
工夫は仕事を楽しくしてくれますし、人からの感謝や評価は仕事への意欲を高めてくれます。
もっともっとがんばろうという気にさせてくれます。
仕事をする、評価される、感謝される。もっとやろうと思う。
さらに仕事をする、評価される、感謝される。さらにもっとやろうと思う。
この繰り返しで仕事はどんどん楽しくなり、どんどん好きになっていきました。
仕事が好きになる、気持ちの良いスパイラルにいる気がします。かつての私のように、他人との間に壁をつくり、「言われたことをやっていれば誰にも文句は言われないでしょう」と自己完結している限り、仕事は楽しくならないでしょうし、楽しくなければ好きにだってなれないでしょう。
(中略)
「生きている以上は楽しく過ごしたい」
私の人生のモットーです。
私はいつも楽しいことはないかなと探しています。見たことのないものは全部見てみたいし、行ったことのない場所には行ってみたいし、おいしいものは毎日でも食べてみたい。
だって死ぬときに後悔するのはイヤじゃないですか。
それは仕事だって一緒です。
やりたくもない仕事をイヤイヤやり続けるのは絶対にイヤ。
だから、ずっと仕事が楽しくなる方法や楽になる工夫を考え続けてきました。もう一度言います。
私は清掃の仕事が大好きです。
60歳になっても、70歳になっても清掃の仕事を続けたいと思っています。
清掃の仕事は誰にでもできるかもしれませんが、とことん突き詰めることが難しい仕事でもあります。
公共の施設に使われる設備や素材は時代とともに変わり、それに合わせて清掃する道具や洗剤類も進化していきます。
清掃の仕事に終わりはありません。
清掃は一生かけて取り組む価値のある仕事。
私の人生そのものです。
こんなに清掃の仕事を好きになるまでの私のお話が、みなさんが毎日楽しく働ける助けになったらいいなと思っています。
みなさんが仕事を、いまよりも少しでも楽しく、いまよりもずっと好きになれることを心から願っています。『人生を動かす仕事の楽しみ方』 はじめに より 新津春子:著 大和書房:刊
本書は、新津さんが、清掃という仕事を通じて学んできた、「いまの仕事を楽しくする方法」をまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「どうぞ」と一緒に、笑顔になっていますか?
新津さんは、清掃の仕事を始めた当初、いくらきれいにしても、お客様から褒められず、卑屈になっていました。
しかし、「やさしさ」を意識し始めてから
、その原因は自分にあることに気づきます。
たとえば、トイレを清掃している最中にお客様が入ってきたとします。いまならお客様の顔を見て、笑顔で一言「どうぞ」と声をかけます。
また何かを探しているようでしたら、「お客様、何かお探しですか。ゴミ箱でしたらこちらにありますよ」などとご案内します。
ところがどうでしょう。
「やさしさ」を知らなかった私は、お客様が入ってきたことなど見て見ぬふり、気づかぬふり。
私の頭の中にあったのは、お客様のことではなく、いま清掃している場所を一刻も早くきれいにすること。
無表情で目の前のことに夢中になっている私は、自分でも気づかないうちに、お客様との間に壁を築いていました。
「いま、私に声をかけないで! 清掃中だからこっちには近づいてこないで!」
と人を遠ざけるオーラを発していました。これでは私に声をかけるどころか、「早く用を足して出ていこう」
って気持ちになりますよね。
逆にこちらがお客様の存在に気づいてあげれば、お客様だって私たちのことを見てくれます。
自分から先に壁をつくっていたら誰も寄ってきてはくれません。
当時の私はそのことに気づいていなかったのです。「やさしさ」の大切さに気づいてからは、いつも笑顔でいられるようにしました。
前に鈴木課長(当時)から「それと顔はスマイルですよ。スマイル、スマイル」と指摘を受けていましたが、自然にできるようになったのはずっと後のことです。
清掃に限らず、人は目の前のことに夢中になると無表情になりがちです。
仕事(自分のこと)優先でお客様の存在を忘れてしまうことが多くなります。
だからこそ、日頃から笑顔でいることを心がける必要があるのです。
とはいっても、いきなりは難しいかもしれません。
笑顔が苦手な人は、私のようにかたちから入りましょう。
鏡を前にいろいろ試してみたところ、口を「い」のかたちにすると左右の口角が上がって笑っているように見えます。
口角を上げると自然とやさしいまなざしになります。試してみてください。『人生を動かす仕事の楽しみ方』 第1章 より 新津春子:著 大和書房:刊
他人は、自分を映し出す「鏡」だと言われます。
自分が、相手に関心を寄せれば、相手も、自分に関心を寄せてくれます。
自分が、相手に壁を築けば、相手も、自分に壁を築きます。
相手との距離を近づける。
それには、「笑顔」が一番強力なツールです。
新津さんのように、まずは、かたちから入ってみるのも大切ですね。
モノの仕組みを知れば、のちの楽につながる
ホコリ、砂や泥、髪の毛。
それに、食べかす、飲みこぼし、カビ、サビ。
家庭で見られる汚れには、たくさんの種類があります。
新津さんは、清掃をするときは、「固形、水性、油性」の3つに分けて考えれば大丈夫
だとして、以下のように解説しています。
固形の汚れは、まずヘラで削り落としてやります。いきなりゴシゴシこすってはいけません。傷やへこみに汚れが入りこんでしまうからです。
水性の汚れは、軽いものならお湯やぬるま湯をつけて水拭きします。落ちない場合は、中性洗剤を使うといいでしょう。
油性の汚れは、弱アルカリ性の洗剤を使って落とします。油分をアルカリ溶液で溶かしてきれいにするわけです。
次に清掃に使う洗剤。
お店では用途別にいろいろな種類のものが売られていますが、それらを全部揃えなくても、実は家庭で使うものは次に紹介する5種類があれば十分です。
食器用洗剤、クエン酸、重曹、セスキ炭酸ソーダ、クレンザーです。
食器用洗剤には、中性と弱アルカリ性があり、後者のほうが油汚れに強い。
クエン酸には、水あか(ミネラル成分)を分解する働きがあり、主にキッチン、トイレ、お風呂などの水回りで用います。
重曹とセスキ炭酸ソーダは弱アルカリ性の洗剤として使用できます。ひどい油汚れや皮脂汚れ、手あかなどをきれいに落としてくれます。また、重曹よりもセスキ炭酸ソーダのほうが高い洗浄力を持っています。
クレンザーには研磨剤が含まれているので、こびりついた汚れを落とすのに向いています。
ただし、汚れを削って落とすために素材を傷めてしまうことがあります。なぜ私がこのような話をしたかというと、汚れの特徴と洗剤の種類を知ることで毎日の清掃が楽になるからです。
「これは油汚れだから、弱アルカリ性の洗剤を使えばきれいになりそう。まずは重曹を使ってみて、それでも落ちないようならセスキ炭酸ソーダを使ってみよう」
こんな具合に見通しが立てられるようになります。
自分の見立てどおりにきれいにできたら、それはもううれしいですよね。
作業を楽にできる上に達成感も味わえる。
モノの特徴や仕組み知ることが、のちの「楽」や「喜び」につながっていくのです。
こうしたことは、みなさんの仕事が専門的であればあるほど、大事になってきます。
それさえつかめれば、どんな工夫も思い浮かぶからです。
工夫さえできれは、仕事が楽になりますし、楽しくなっていくはずです。『人生を動かす仕事の楽しみ方』 第2章 より 新津春子:著 大和書房:刊
何か1つのことを極める。
それには、まず、とことん「知る」ことです。
その分野の知識やノウハウを、幅広く調べ尽くす。
そのうえで、自分に合った方法を試し、改善を重ねる。
それが上達の秘訣です。
頑張ったモノを休ませてあげる
やさしくされると、うれしくなる。
そう感じるのは、人だけではありません。
モノも、同じです。
新津さんは、私たちの体と同じように、普段お世話になっているモノたちもがんばった部分を休ませてあげ
ることを勧めています。
旅行や出張で使うキャリーバッグがありますね。
ケースの底に車輪が付いていてゴロゴロと引いて運ぶバッグです。羽田空港でも頻繁に目にします。
みなさんは、キャリーバッグ、使わないときはどうされていますか?
実は保管の仕方にもポイントがあるんです。
まずは置き方。車輪を下にしてしまってはいけません。
横向きにして車輪に荷重がかからないようにします。
一番がんばってくれた部分を休ませてあげます。
車輪は油汚れやホコリが付着しやすいので、しまう前にぞうきんなどで汚れを落とし、風通しのよい場所に保管してあげるとよいでしょう。この「がんばった部分を休ませてあげる」という考え方は、いろいろなモノに応用できます。
たとえば、よく使う仕事道具。
普段の忙しさのせいで、メンテナンスがおろそかになっていませんか?
もしかすると、そのせいでパソコンなら動きが鈍くっていたり、ハサミなら切れ味が悪くなっていたりしているかもしれません。
それって、とっても損なことです。
モノだって人と同じく、消耗してしまうものですから、定期的にメンテナンスをしたり、きれいにしたりすると、もっと力を発揮してくれるものです。
また、道具を常に万全の状態に保っておけば、不具合が出たときでも、その原因がすぐにわかります。
清掃を例にしてみる、たとえば自宅のお風呂場にあるイス、洗面器、浴槽のフタ、すのこ。
お風呂のイスと洗面器は、壁に立てかけたりして、ひっくり返してあげます。
普段、床に接している部分を浮かしてあげればいいのです。
いつも同じ向きだと、通気性の悪い部分や水が溜まりやすい部分にカビが発生します。
裏返すことで、普段目につきにくい部分が見えて「ここに汚れが溜まっているな」と気づきます。
ほんのちょっとなら、その手間も少しで済みますし、ストレスなく作業が進む手助けにもなります。
「モノを休ませる」というやさしさを持つことは、あなたが仕事をスムーズに、楽しくするために大事なことなのです。『人生を動かす仕事の楽しみ方』 第4章 より 新津春子:著 大和書房:刊
一流の人ほど、自分の商売道具を大切にする。
そういいますね。
気持ちを込めて、大切にすればするほど、モノも、それに応えてくれます。
「モノにも魂がある」
と、親しみを持って接すること。
それが、モノの能力を引き出し、長持ちさせるコツですね。
知らないことは、身をもって覚える
「清掃」という仕事を通じて、知ることの大切さを学んだ、という新津さん。
頭だけじゃダメ。自分の体で体験しなくっちゃ
と、実践することの大切さを説いています。
確かにパソコンやスマホがあれば、知らないことやわからないことはすぐに調べられます。
でもそれはただ情報を見つけただけ。
本当の意味でわかったことにはならないと思うんです。
だって、さっきの新人さんのように実際にやろうとするとできないわけだから。
知ったうえで、体験することが必要なんです。
私が「体で知ること」を大事に考えている理由のひとつに、「あらかじめ知っておけばあとで取り出して使える」ということがあります。
私は「いざ」というときに、できるだけ困らないよう準備しておきたいんです。
これまでにたくさんの研修を受けてきました。
何かになりたかったわけではありません。
ただ、すべてクリアしておきたかっただけ。
「清掃の技術として、あるいは清掃の資格としてこういうものがありますよ」と耳にしたら放っておけない。
結局は、知ることで楽をしたいからなんですけどね。
清掃の世界には終わりがありません。
洗剤ひとつとっても毎年新しいものが出てきます。
清掃の道具だってそう。床に使われている材料だっていまと昔では違います。
続々と現れるそれらをひとつひとつテストし、よいものを取り入れていく。
それも私のいまの仕事。
使いやすくなっていたり、汚れを早く落とせるようになっていたりと時代とともに変わっている。
メーカーの担当者に基本的なことは教えてもらいますが、最後はやっぱり自分で体験するしかありません。
数が多いから大変ですけど、楽しいんですね。
だって、新製品を取り入れることで仕事は楽になるんですから。
そのための苦労と考えれば何てことはありません。『人生を動かす仕事の楽しみ方』 第5章 より 新津春子:著 大和書房:刊
知識や知恵は、私たちを助けてくれます。
ただ、それは「情報として知っている」だけではだめです。
「経験として知っている」ことが必要です。
体で知ること。
何ごとも、まずは、自分の体で試してみる。
それが、本当に使える技術習得の基本になります。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「どうすれば、目標を持てるのか」
新津さんは、そんな質問に対して、とりあえずいま目の前のことを一生懸命にやってみたら
どうかと答えられています。
その上で、その中で自分を楽させる方法、つまり工夫を考えてみて
ほしいとおっしゃっています。
「つまらない」
「きつい」
「嫌い」
と、毎日の仕事を、機械的にこなしている。
それでは、時間がもったいないですし、大きなストレスにもなります。
人生を動かすには、まず、自分の「心」を動かす必要があります。
日々楽しく、前向きに過ごす。
そうすることで、心は、少しずつ、躍動しはじめます。
私たちも、“人生を楽しむ達人”である新津さんを見習い、自分にピッタリの働き方・生き方を見つけたいですね。
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