本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『O2Oの衝撃』(岩田昭男)

 お薦めの本の紹介です。
 岩田昭男さんの『ネットからリアルへ O2O(オー・トゥー・オー)の衝撃 決済、マーケティング、消費行動……すべてが変わる!』です。

 岩田昭男(いわた・あきお)さんは、流通、情報通信、金融分野を中心に活躍されているフリージャーナリストです。

スマートフォンの普及で可能になった「O2O戦略」

 岩田さんは、スマートフォンの出現によって、人々の消費行動がどんどん塗り替えられていると指摘します。
 その動きに拍車を掛けているのが、楽天やアマゾンなどの大手ウェブ事業者が中心に仕掛ける「O2O戦略」です。

 O2O(オー・トゥー・オー)とは、「Online to Offline」の略です。
 その意味は、「インターネットの顧客をリアルな世界に送りこむ」ことです。

 国内EC(eコマース=電子商取引)市場規模は年々、急激な伸びを示しています。
 その勢いに乗じて、大手ウェブ事業者がリアル市場へ侵攻を始めました。
 それを可能にしたのが、「スマートフォン」の登場です。

 スマートフォンでネットとリアルが「シームレス(継ぎ目なし)」に結ばれる。
 そうなることで、これまで難しかった決済関連のサービスがいくつも実現されました。

 本書は、スマートフォンからO2Oまでの流れを整理し、今後の展望を解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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時代は「端末基点マーケティング」へ

 スマートフォンは24時間、人々の手元にあるメディアです。
 有効な情報であればあるほど、その人の気持ちに直接突き刺さります。
 事業者はスマートフォンを介してユーザーと接点をもち、人々の購買意欲を高めるよう働きかけることができます。

 すべてをスマートフォンという端末を基点に考える。
 岩田さんは、この方法を「端末基点マーケティング」と呼びます。

 消費者にとっては、こんな素敵な時代はない。何を買うにしても自動的におまけがついてくる。買い物で決済を考えるより先におまけは何がつくのか期待する方が先になるのだ。そして、店側もあの手この手がいろいろ用意してくれるから、こんな素晴らしい時代はないと思われるのだ(甘やかされすぎかもしれないが・・・・)。
 一方で、店側にとっては、大変に厳しい時代の到来となるだろう。クーポンやポイントや割引と、こんなにおまけを提供してお店は原価割れを起こさないか心配になってしまう。その意味で辛い時代である。
 しかし、これが新しい現実ではあるが、これはネットに精通したり、ポイントのカラクリに詳しくなったりすれば、または、クレジットカードを知りさえすれば、それほど難しいことではないのである。また、工夫次第で、少ない経費で、または経費をかけずに、絶大な効果をあげる方法を見つけることもできるのだ。
 重要なのは、時代の関心が大きく転換するということ。それをしっかり頭にたたき込むことだ。
 
 では、スマートフォン時代に、事業者のマーケティングはどう変わるのか。簡単に言ってしまえば、比較にならないほどきめ細かで正確な販売促進が可能になるということだ。
 これまでのマーケティングが、テレビや雑誌などのマスメディアを使って、漠然とした販売促進しかできなかったのに対して、これからは個々のライフスタイル、嗜好(しこう)に合わせてピンポイントで的確な情報を送ることができるようになる。

 『O2Oの衝撃』 CHAPTER 1 より 岩田昭男:著 阪急コミュニケーションズ:刊

 スマートフォンの出現は、消費者に大きなメリットを提供してくれます。
 検索も、道案内も、クーポンの獲得も、さらには支払いまで、スマホ1台で済みます。

 店側は、それらのサービスに対応していかなければなりません。
 その負荷は大変であることには間違いないです。

 ただ、他店との差別化を図るという観点では、きめ細かい販売促進が可能となるこれからの時代は、新しい顧客を得る大きなチャンスでもあります。

 今後起こるであろうO2Oの動きに乗り遅れないこと。
 いずれにしろ、それが生き残りのカギになりそうですね。

必然だった「Tポイント」と「ヤフー」の提携

 まだ始まったばかりのO2Oの動きの先陣として、注目を集めているのが「Tポイント」です。

 Tポイントとは、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が展開する共通ポイントのことで、TSUTAYA、ファミリーマート、すかいらーくグループなど大手チェーン店で幅広く貯めたり、使ったりすることができます。
 提携店の数は5万2000店、アクティブ会員数も4400万人を突破し、高い支持を集めています。

 CCCはヤフー・ジャパンと戦略的な提携を結びました。
 2013年7月から「ヤフー・ポイント」を全面的にTポイントに切り替える計画を発表しています。

 リアル世界で圧倒的な支持を得るTポイントを運営するCCC。
 ネット世界で抜群のアクセス数を誇るのポータルサイトのヤフー。

 今後、両社がタッグを組み、O2O戦略を強力に推し進めていくことになります。

 今回の提携の経緯について、ヤフー・ジャパンの田鎖智人本部長は以下のように述べています。

 ――ヤフー・ポイントがTポイントとなれば、たとえばファミレスのガストでも使えるようになる、と顧客にはピンときますね。

田鎖 われわれのコマースもおそらくいままで以上に活性化するはずです。ネットとリアルの行動でおトクが集中するということは重要なことですし、いまネット用とリアル用で分かれているポイントカードが一か所で使えるようになると、リアルでガンガン貯めてネットでタダで買い物をするとか、あるいはその逆もできるようになります。
 そんなふうにリアルとネットをシームレスに展開できる世界を、われわれ単体でつくるには巨大なお金と時間がかかります。それならこうしたビジョンを共有できるのであれば一緒にやろうということで、統合に踏み切ったのです。
 Tポイントも、Tサイトなどでネット展開はすでにされていましたが、それを加速させるにはインターネット事業者と組んだほうがいいと判断されたのだと思います。
 
――どちらかが主導権を握ろうとして争いになるということはありませんでしたか。

田鎖 主導権はお客様にあり、お客様にどう選んでいただくかというその一点で考えたときに、主導権はどっちにあるかなどといっているとお客様に支持されないサービスとなって全体が細っていくことになる。それが肌感覚としてもわかってきています。
 そういう意味で、自分たちがつくったものだから自分たちでやるんだということよりも、お客様目線で、リアルの場面でIDとポイントが一つになる、おサイフが1つになるためにはどういう選択肢がベストなんだろうと、感情を捨てて議論すると、残念ながら必然的にTポイントに統合するという結論になりました。

 『O2Oの衝撃』 INTERVIEW 2 より 岩田昭男:著 阪急コミュニケーションズ:刊

 あくまでも、顧客中心に考えた末の業務提携。
 顧客よりも会社のメンツを大事にする会社同士では、実現できなかったでしょう。

 浮き沈みの激しいネット業界で長年戦ってきた両社。
 それだけに、時代の変化に対する感覚が鋭いです。

「ネットユーザーの消費者感覚」を持っている企業と、持っていない企業。
 今後、両社の差はさらに大きくなっていくでしょう。

「ネットの女王」が予言する決済分野の変化

 実際に、スマートフォンの普及とO2O戦略の加速で、社会や産業界はどう変わるのか。

 スマートフォンとネットによる社会の変貌を具体的に予言しているのが、米国の証券アナリストで「ネットの女王」と呼ばれるメアリー・ミーカー氏です。
 彼女は、ネット業界の新しい傾向を分析し、「インターネット・トレンド」にまとめて発表します。

 2012年の最新版では、スマートフォンによって「再創造」される18分野を指摘しています。

 ミーカー氏は、スマートフォンが生活を変え、仕事を変えるといっている。先進国では高速ネット接続がどこでも使えるようになり、かつてない規模で技術革新が起こると予想。起業環境の改善なども追い風となり、「これからやってくる変化の規模は想像を絶するほどで、現在起きていることはまだ“春季キャンプ”にすぎない」とまでいっている。そして、18の分野で変化を予測している。
 彼女は、ニュース、メモ書き、ファイル管理、コンテンツ管理、雑誌、キャッシュレジスター、借金、資金調達、雇用、製品企画、コンテンツ販売、署名、健康管理、ドアのカギ、サーモスタット、教育・学習、スポーツ、ビッグデータの各分野で起きている変化と、それを主導するベンチャー企業を紹介している。これらのセクターではイノベーションがなされてさらなる発展が期待されている。その意味で、スマートフォンとネットの組み合わせにより、盟主の交代の波が確実に押し寄せているともいえる。傾向としては、より身近で、より簡単な仕組みが受けているようだ。これもSNSの影響か。

 『O2Oの衝撃』 CHAPTER 5 より 岩田昭男:著 阪急コミュニケーションズ:刊

 高速インターネット通信網が完備され、一人一台にスマートフォンが行き渡った世の中・・・。
 なかなか想像がつきません。
 しかし、多くの分野でこれまでにない画期的なアイデアや技術が生まれることでしょう。

 スマートフォンによる「再創造」の大きなうねり。
 これまで閉鎖的で独占的だった業界ほど大きな力を及ぼしそうですね。

 O2Oは業界の垣根を越えた、大きな産業再編のきっかけになるかもしれません。

誰でもカード決済事業者になれる!

 ミーカー氏が挙げるスマートフォンの普及で変わる分野のひとつ、「決済」
 注目すべきは、スマートフォンをレジ代わりに使う決済サービス「スクエア(Square)」です。

「スクエア」の決済サービスを提供するスクエア社は、「ツイッター」を開発したジャック・ドーシーが2009年に設立したベンチャー企業です。

 岩田さんは、「スクエア」の決済サービスについて、以下のように説明します。

 これまで小規模事業者や個人事業にとって、クレジットカード決済を導入するのは決して簡単なことではなかった。クレジットカード会社の審査を受けてパスすることがまず一つ。審査に通ったら、カード決済に必要な端末を買わなければならない。つまり初期費用がかかる。設置後は回線費用などの固定費がかかる。
 スクエアはこれらのハードルをずっと低くした。スマートフォンさえあればお金は必要ない。なにしろ、スマートフォンのイヤホンジャックにつけるクレジットカードの読取機はスクエア社からタダで提供される(アメリカではスーパーやドラッグストア、インターネット経由で簡単に入手できるようになっている)。
 スクエアと契約した事業者が消費者に販売した商品やサービスの決済額の2.75%(日本では3.25%)をスクエア側が“手数料”のうちから決められた金額が支払われるという仕組みだ。
 スクエアの契約者は400万人を上回り、取扱額は年間150億ドルに達している。それだけ小規模事業者や個人事業者、つまりスモールビジネスを行なう人々に支持されたといえるだろう。
 少し見方を変えると、スクエアさえあれば、だれでもクレジットカードの加盟店になれるということである。これまでのクレジットカード業界の常識を打ち破るシステムであり、業界秩序を根底から突き崩しかねない破壊力を秘めている。

 『O2Oの衝撃』 CHAPTER 8 より 岩田昭男:著 阪急コミュニケーションズ:刊

 スマートフォンがレジ代わりになる、決済のための端末代わりになる。
 すごい世の中になりましたね。

 スクエアは、2013年5月に日本に上陸し、すでにサービスを開始しています。

 スクエアの決済サービスが日本の社会にどれだけ浸透するのか。
 そして、カード業界や決済業界、企業のO2O戦略にどのような影響を与えるのか。
 とても興味深いです。

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「街にあるお店はリアルなお店、インターネット上にあるお店はヴァーチャルなお店」

 私たちは、これまで完全に切り分けて考えて使い分けていました。
 ところが、スマートフォンの普及によって、その線引きが曖昧になりつつあります。

 リアルとネットを区分けしていた壁に開いた「スマートフォン」という裂け目。
 ウェブ業界の巨人たちが、それを手がかりに実世界になだれ込む。
 本書からは、その様子がはっきりと読み取れます。

 O2Oをめぐる動きは、まだまだ始まったばかりです。
 これからさらに勢いを増すことは間違いありません。

 今後、私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか、注意深く見守りたいですね。

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