【書評】『誰でもできる! 「睡眠の法則」超活用法』(菅原洋平)
お薦めの本の紹介です。
菅原洋平先生の『誰でもできる! 「睡眠の法則」超活用法』です。
菅原洋平(すがわら・ようへい)先生は、作業療法士です。
これまで、脳のリハビリテーションに従事され、脳の回復には睡眠が重要であることに着目して臨床実戦を重ねてこられました。
現在は、自ら会社を起こし、企業を対象に、生体リズムや脳の仕組みを使った人材開発に力を入れておられます。
「睡眠の法則」を普段の生活に取り入れるために
医療の現場には、自分の能力を最大限に発揮させる科学的な法則
があります。
その中でも、毎日必ず行う身近な作業である「睡眠」を最大限に活かすことが、もっとも手軽で効果的な方法です。
菅原先生がまとめた、健康的に過ごすのに必要な「睡眠の法則」は、以下の大原則です。
「起床から4時間以内に光を見て、6時間後に目を閉じ、11時間後に姿勢を良くする」
(「睡眠の法則」について詳しく知りたい方はこちら →『あなたの人生を変える睡眠の法則』)
ただ、頭では理解していても、実際に法則に当てはまる生活リズムを作るのは難しいです。
本書は、科学的に解明された「睡眠の法則」を生活習慣として取り込む方法をまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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寝て起きると頭が「スッキリ」する理由
睡眠には、「捨ててよい記憶を捨て、本当に反省すべき記憶だけを残す」という働きがあります。
一日過ごすと、脳にはたくさんの情報が溜まります。
睡眠は、それらを処理するために不可欠です。
「疲れた」という状態は、脳の情報処理量という視点から、以下のように説明されます。
さて、私たちは、頭がごちゃごちゃになると頭の整理をしたくなるので、起きているうちに今日の反省を明日以降の予定を立てようとします。忙しければ忙しいほど、ごちゃごちゃ度がひどく、整理するにも時間を要するので、「休んでいる暇などない」と考え、睡眠を削ります。
しかし、実は、このごちゃごちゃを整理する作業は、睡眠が担うべき作業なのです。睡眠中には、脳内に溜まった情報が整理されます。不要な情報は消去し、問題が解決できそうな既存の情報と結びつける作業です。これは、比喩的な表現ではなく、実際の脳内の神経細胞は、その重要度が選別され、不要な細胞はアポトーシスという作業によって、死滅します。これによって、無意味な細胞にエネルギーを奪われることがなくなり、脳内のエネルギー効率が向上するのです。さらに空き容量が増えたことで、新しい神経細胞が生まれやすくなります。
せっかくこんな働き方があるのに、睡眠を削ってでも起きているうちになんとかしようと思ってしまうのは、もったいないことです。
睡眠中には意識がないので、私たちはどうしても意識がある覚醒している時間を重要視しがちです。疲れたらどうせ眠るんだろうから、起きていれるうちは起きていようと考えることもあるのではないでしょうか。
しかし、脳というものをいったん自分から切り離して、その働きを見てみると、意識がない睡眠中の働きは、今の自分を大きく成長させる重要な資源だということが分かっていただけると思います。『誰でもできる!「睡眠の法則」超活用法』 第1章 より 菅原洋平:著 自由国民社:刊
例えば、徹夜での仕事や勉強などは、脳の情報処理の観点からは、まったく効率的ではありません。
睡眠は、疲れをとるためだけのものではないです。
質のよい睡眠をきっちりとること。
その日の出来事の記憶を整理し、脳をリセットした状態で翌日に臨むために不可欠な要素です。
窓から1m以内に『お気に入りの椅子』を置く
ヒトは、朝、光を見ることで生活リズムを整えることができます。
朝に起きて、夜に寝る。
その繰り返しのリズムを、「位相(いそう)」と呼びます。
この位相が反応する感度がもっとも高いのが、最低体温から前後2〜3時間あたりのタイミング。
例えば、6時に起床する一般の日勤者の場合、最低体温のタイミングは4時前後。
つまり、朝7時までに光を見るのが効果的だということです。
重要なのは、「目が覚めたらできるだけ早く、窓から太陽の光を浴びること」。
菅原先生は、習慣づけのために「椅子を窓から1m以内のところに置く」方法を勧めています。
メラトニンの分泌が止まる光の強さは、1000〜2500ルクス以上です。一般のご家庭は、テーブルの位置でだいたい500ルクス程度の明るさです。メラトニンを止めて脳を目覚めさせるには光が弱い。そこで、ほんの少し歩いて窓から1m以内の場所に行ってみてください。すると、光の強さは3000ルクス程度、さらに外を見ると5000ルクス、外に出ると1万ルクス以上と急に強くなります。
毎日の生活の中では、わざわざ脳を目覚めさせようなんてことは考えませんので、あわただしい朝の生活の中で、自然に光が届けられる仕組みをつくることが必要です。例えば、新聞を毎朝読む方は、椅子を窓から1m以内のところに置いておき、そこで読んでみてはいかがでしょう。窓際の椅子に座ってテレビを観たり、メールチェックなどをしても良いと思います。窓の結露を拭いたり、換気をすれば自然に窓際に行けます。
毎朝していることをあらためて振り返ってみて、その行動の中で窓際でもできることを探し、その行為を窓際でするように変えてみてください。『誰でもできる!「睡眠の法則」超活用法』 第2章 より 菅原洋平:著 自由国民社:刊
普段の生活の中でも、ちょっとした工夫を加え、健康的な生活リズムをつくることができます。
できることから、ちょっとずつ体にいい習慣を取り入れていきたいですね。
記憶をリプレーする『デルタ波』を無駄遣いしない
夜の睡眠不足を補ったり、午後のパフォーマンスを上げる。
その観点からも、「お昼時の仮眠」は、とても効果があります。
ポイントは、「眠気を感じる前に目を閉じること」です。
仮眠は30分以内がいい、と言われています。
これには「記憶をリプレー(再現)する」睡眠中の脳の働きが関係しています。
ヒトは、昼間に学習した言葉や動きを、睡眠中に脳内で何度もリプレーすることで上達させる機能をもっています。この機能によって、一晩眠った後は、前の日よりも上手になり、成長し続けることができるのです。素晴らしい仕組みですよね。このリプレーする作業が行われているときの脳波は、デルタ波と呼ばれ、ゆっくりした振幅の大きな脳波です。
例えば、私は右利きなのですが、左手だけで折り紙のツルを折ってみます。実際に折ってみたら5分かかって、ぐにゃぐにゃのツルのようなものがようやく出来上がりました。なんだか腕の辺りが痛いです。普段使わない左手の筋肉を使って、初めての動作をたくさん行いました。さて、今晩私が眠りますと、左手を動かすことを担う脳の場所、ちょうど右耳の上の辺りにあるのですが、この場所に集中的にデルタ波が出ます。新しく学習した動きを何度も反復練習している表れです。この現象は、「局所睡眠(Local sleep)」と呼ばれています。前日に練習したことが、翌日に上達しているのは、この局所睡眠によるさらなる反復練習のおかげだということです。眠っているときに練習してくれるとは、なんて便利なのでしょう。『誰でもできる!「睡眠の法則」超活用法』 第3章 より 菅原洋平:著 自由国民社:刊
この睡眠中のデルタ波という脳波。
朝起きた時点で「今日のデルタ波はこれだけです」と自動的に計算されてしまいます。
30分以上仮眠をすると、デルタ波が出てきてしまいます。
そのため、夜のデルタ波が担うリプレー作業は分断され、効率が非常に悪くなります。
足の裏を地面につけてお尻を締める
ヒトの深部体温が最も高いのは、起床から11時間後。
6時起床だと夕方17時頃になります。
より元気に過ごすためには、深部体温が最も高く、体がよく動く夕方の時間帯に意識的に体を動かしたりして、深部体温のリズムを強調することが有効です。
体温のピークが強調されれば、夜にかけて体温は急激に下がります。
そのため決まった時間にしっかりと眠くなるサイクルができ上がります。
デスクワークの人は、仕事中の「座り方」を注意する必要があります。
私たちの体の重みを支える筋肉は、熱を産生する器官でもあります。
姿勢が崩れて、筋肉を使わず骨で支える状態になると、体温が上がらなくなるからです。
座った状態の姿勢が良くなるポイントは、以下の二点です。
- 足の裏をしっかり地面につけること
- 肛門を締めること
座った姿勢が崩れているときは、膝を曲げてつま先を地面につけているか、足を組んだまま伸ばしてかかとを地面につけていると思います。足の裏全面を地面につけると自然に親指の付け根辺り体重がかかりますが、ここについている筋肉は、ももの内側、お腹を通ってアゴまでつながっています。リハビリテーションでは、食事介助をするときは、食べる方に、必ず足の裏を地面につけていただくのがセオリーなのですが、これはアゴにしっかりと力が入って咀嚼(そしゃく)能力を促すためです。オフィスでのデスクワークでも同様に、足の裏を地面につけるだけで、自然にアゴがひけた姿勢になります。
肛門を締めるということは、骨盤の位置を安定させるということです。座った姿勢では、体の重みはほとんど骨盤に乗っているので、骨盤が安定すれば姿勢を大きく崩すことができません。車の運転をするときも、肛門を締めて体温を上げて、眠気を防いでみましょう。『誰でもできる!「睡眠の法則」超活用法』 第4章 より 菅原洋平:著 自由国民社:刊
夕方に体を動かしたくても、なかなかできないという人も多いと思います。
そのような人ほど、日頃から普段の座っている姿勢に気をつけたいですね。
肩こりや腰痛の予防にもなり、一石二鳥です。
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現代人は、一人あたりの仕事量が増して忙しくなり、その分、睡眠時間が削られてしまいがちです。
良質な睡眠時間をしっかりとれば、頭がスッキリと整理され、翌日の仕事の効率が上がります。
残業時間が少なることで、早く帰宅することができ、また余裕を持って翌日に備えられる。
そんな好循環を作っていくことが充実した生活の第一歩になります。
本書の内容を少しずつでも実践して、健康的な生活スタイルをつくっていきたいですね。
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