本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『2軸思考』(木部智之)

 お薦めの本の紹介です。
 木部智之さんの『複雑な問題が一瞬でシンプルになる 2軸思考』です。

 木部智之(きべ・ともゆき)さんは、日本IBMのエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャーです。

「2本の線」を引くだけで、すべてが解決する!

 木部さんは、これまで数多くのシステム開発プロジェクトを担当し、あらゆるトラブル・問題に遭遇しています。

 そして、それらを乗り越えていく経験を積み重ねるうちに、次のことがわかりました。

  • 問題は、シンプルにしないと解決できない
  • 問題は、書き出すことで解決が速くなる

 複雑な問題をシンプルに「構造化」し、書き出して「見える化」する。このたった2つのことを満たしていけば、あらゆる問題は解決することができるのです。デカルトは「困難は分割せよ」と言い、ビル・ゲイツは「問題は切り分けろ」と言いました。そして、レオナルド・ダ・ヴィンチは「シンプルさは究極の洗練である」という言葉を残しています。これらは、あらゆる仕事において真実です。

 日々発生する問題を解決するためにいろいろな方法を試し、試行錯誤した末に行き着いたのが、「あらゆる問題を、タテとヨコの2軸で整理して考える」という方法でした。私はこれを、「2軸思考」と呼んでいます。
 2軸思考は、世界一シンプルなフレームワークです。タテとヨコの2本の線を引くだけで、あらゆる問題を一瞬でシンプルに整理し、解決できる魔法のようなツールです。実際、メンバーが行き詰まっている問題を2軸でシンプルに整理してみせると、「ぽかん」とされたり、「目からウロコです」と言われることが多くあります。
 2軸でシンプルに整理すると、その問題の重要なポイントがクリアになるので、重要なポイントに集中して深く考えることができるようになります。その裏返しで「重要でないこと」も明確になるので、考える必要のないことは切り捨てることができ、解決までのスピードが速くなります。
 そして、2軸思考の何よりのメリットは、難しいノウハウは一切必要ないということです。生まれつきの頭の良さや仕事経験なども関係なく、誰でもすぐに実践することができます。2本の線さえ引ければ、「3C」とか「PPM」のようなコンサルタントが繰り出す小難しいフレームワークを覚える必要もありません。

『2軸思考』 はじめに より 木部智之:著 KADOKAWA:刊

 本書は、世界一シンプルなフレームワーク、「2軸思考」について、わかりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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有名なフレームワークも、2軸にすると「使える」ようになる!

 木部さんは、優秀な人ほど、アウトプットで出てくる図は極めてシンプルだと述べています。

 私たちが、「難しい」と敬遠しがちなフレームワーク。
 それらも、「2軸思考」を取り入れることで、わかりやすく生まれ変わります。

 有名な「PDCA」や「3C」などのフレームワークも、実は2軸に作り直すことで現場で「使える」形に変えることができます。
 私たちが慣れ親しんでいる「PDCA」。超有名なフレームワークで、新人のときから教育を受けることも多いものです。
 しかし残念なことに、実際にPDCAを実践しながら仕事をしている人はそれほど多くはありません。それはなぜか? PDCAが60ページ図1-3の最初にあるように、サークル状のフレームワークになっているからです(下の図1−3を参照)。
 PDCAを「回す」というイメージが図になっているので、「C」で何をチェックするのかが曖昧です。そこでサークル状のフレームワークを2軸に書き換えてみます。「P」(計画)と、「D」(行動)のそれぞれに対して「C」(チェック)をして、そのチェックの結果、それぞれに対して「A」(アクション)を決めるのです。
「3C」も同様です。図3-1の真ん中のように3つの要素を三角形に表したままでは、なんとなく相互の関係をイメージすることはできますが、3つのCについて具体的に考えようとすると曖昧になってしまいます。これを2軸のタテ軸に設定し、ヨコ軸を5W1H(いつ、どこで、誰が、なぜ、何を、どうやって)にすると、自社と顧客、競合をリサーチするときに使えます。

 2軸思考のいいところは、タテとヨコに2本の線を引くことで、「空いた枠」が作り出されること。人は、枠ができると埋めたくなるものです。このスペースに頭の中のことを「書き出す」ことでシンプルに整理することができ、新たな発見ができるのです。

『2軸思考』 CHAPTER1 より 木部智之:著 KADOKAWA:刊

図1−3 2軸にすると 使える 形になる 2軸思考 Chap1
図1−3.2軸にすると「使える」形になる
(『2軸思考』 CHAPTER1 より抜粋)

 扱う問題が複雑で、漠然としている。
 そんなときほど、2軸思考で整理することの効果は、高くなります。

 難しい課題こそ、シンプルに考える。
 私たちも、ぜひ、2軸思考を習慣にしたいですね。

2軸フレームワークを作る「3つのステップ」

 木部さんは、2軸のフレームワークの作り方はとてもシンプルで、次のステップで簡単に作りあげることができると述べています。

[ステップ①]考える目的に合わせてタイプを決める
[ステップ②]タテ軸とヨコ軸を決める
[ステップ③]枠に情報を埋める

 たったこれだけです。とにかくシンプルで覚えることが少なく、自由度が高いのがこの2軸思考の特徴です。

→[ステップ①]考える目的に合わせて枠のタイプを決める

 2軸のフレームワークは、
①「マトリクス」タイプ
②「4象限」タイプ
③「グラフ」タイプ

の3つに分類できます(下の図2−1を参照)。
 まず最初のステップは、考える目的を明確にし、この3つのどのタイプを使うかを決めることです。
 日々の私たちの仕事には、

  • 目の前で起きている問題を解決する
  • 手元にあるデータを分析する
  • 実行すると決めたアクションを整理する
  • 新しいビジネスを立ち上げる

 など、いろいろなシチュエーションがあります。2軸で何をしたいのか、何のために考えるかによってどのタイプの枠にするかは変わってきます。
 最初に思考の目的を考えるのは、なにも2軸思考に限ったことではありません。既存のフレームワークを使う場合でも、考える目的が合って、それに合ったフレームワークを選択します。たとえば、事業活動の流れを整理するために「バリューチェーン分析」を使う、組織のリーダーバランスを確認して人事方針を決めるために「PM理論」を使うといった具合です。
 何を目的に思考するかを明確にし、考える枠組みを決める。これが最初のステップになります。

→[ステップ②]タテ軸とヨコ軸を決める

 目的に合わせた2軸のタイプを決めたあとは、2本の線=タテとヨコのそれぞれの軸を何にするのかを決めます。どのタイプにおいても、

  • 要素
  • 流れ

 の2つのどちらかになります。
 要素とは、たとえば「商品」「売上」や「部門」など、ある観点で洗い出したパラメータです。流れとは、「時間」「工程」などを表わすものです。
 別の言い方をすれば、要素は静的な断面情報で、流れは動的な変化を表わす情報と言うこともできます。

→[ステップ③]枠に情報を埋める

 ステップ②までで考える枠、つまり思考のフレームワークができました。あとはその枠の中に情報を埋めていくだけです。
 どのタイプも枠の中には、

  • 定量情報:数字
  • 訂正情報:数字以外

 いずれかを入れていきます。

『2軸思考』 CHAPTER2 より 木部智之:著 KADOKAWA:刊

図2−1 2軸を作るときの3ステップ 2軸思考 Chap2
図2−1.2軸を作るときの3ステップ
(『2軸思考』 CHAPTER2 より抜粋)

「マトリクス」タイプは、オーソドックスで、全体を俯瞰することに適しています。

「4象限」タイプのは、「ポジショニング」や「全体の分散の傾向」を捉えることに適しています。

「グラフ」タイプのは、「変化」を「視覚的に」捉えることに適しています。

 それぞれの特徴をしっかり押さえて、ケース・バイ・ケースで使い分けましょう。

2軸で人の「好き嫌い」でない評価ができる

 2軸フレームワークの具体例を見てみましょう。

 例えば、ある組織のマネジャーとして、部下のスキルを把握したい場合。

「マトリクス」タイプと「4象限」タイプを用いれば、客観的で公平な評価をすることができます。

→スキルをフェアに評価する

 人材のスキルを評価するのは難しいことです。同じメンバーに対する評価でも「あの人は優秀だ」と言う人もいれば、「いや、技術的には優秀だけど、人を動かすのが苦手だよ」と言う人もいます。
 ビジネスで人を評価するときには主観が混じり、曖昧になりがちです。テストの点数で客観的に順位をつけられる学校の成績とは違う、難しいところです。だからと言って、「彼は優秀だ」「いや、それほどでもないよ」といった曖昧な評価や好き嫌いで組織を動かしてはいけません。
 このようなときに、2軸思考を使うとフェアな評価をすることができます。

→マトリクスタイプで評価を定量化する

 まず、マトリクスタイプでスキルを定量的に評価します。タテ軸に20人のメンバーを設定して、ヨコ軸に評価すべきスキルを書き出します。
 たとえば、私が携わっているシステム開発であれば、「ITスキル」「管理スキル」「リーダーシップ」「コミュニケーション」「英語」などのスキルがあります。それらについて、5段階評価で採点します。
 このケースでは、自分は新しい部門メンバーのスキルがわからないので、他の誰かに採点を行ってもらいます。自分で採点できる場合は自分で行いますが、より客観的にするには他の人にその点数を見直してもらうこと。複数の人が主観的にチェックをすることで、客観的な定量評価に近づけられるようになります。

→4象限タイプでプレーヤー、リーダーに仕分ける

 そして、このマトリクスをインプットにして4象限タイプで人材を評価していきます。
 今回は、マトリクスにある複数のスキルの中からITスキルとリーダーシップの2つを軸に選択し、4象限で評価することにします。この2つを軸に選択した理由は、技術的な専門スキルの有無と、組織をまとめるリーダーとしてのスキルがあるかを評価したいためです。つまり、新しく担当する部門にプレイヤーとリーダーがどれくらいいるかを把握したいのです。
 この結果、新しい組織の20人のスキル分布が135ページの下図のようであることがわかりました(下の図3を参照)。
 右上のセグメント①はITスキルとリーダーシップのどちらもスキルが高く、総合力の高い人材のエリアです。逆に、左下のセグメント④はいずれのスキルも低いことを示しています。そして、セグメント②と③はそれぞれ、ITスキルかリーダーシップの一方のスキルが高いという評価になります。

『2軸思考』 CHAPTER3 より 木部智之:著 KADOKAWA:刊

図3 人材スキルを定量的に評価する 2軸思考 Chap3
図3.人材スキルを定量的に評価する
(『2軸思考』 CHAPTER3 より抜粋)

 まずは、「マトリクス」で定量化する。
 それを、「4象限」に落とし込んで、見える化をする。

 さまざまな課題に応用できそうなノウハウです。
 ぜひ、試してみたいですね。

ピラミッド構造で伝える「内容」を決める

 2軸思考は、「コミュニケーション」においても、威力を発揮します。

 2軸で「伝える」場合、最初のステップは、ピラミッド構造で伝える「内容」を決めることです。

 伝える内容を決めるときに使うツールが、「ピラミッド構造」です。よく「結論から話しなさい」「端的に説明しなさい」と言われますが、それだけだと具体的にどのように結論から話をするのか、どうすれば端的に話せるのかがわかりません。私がコミュニケーションの苦手なメンバーを指導するときは、必ずピラミッド構造から教えています。そうすると、コミュニケーションの効率、質が劇的に変わってきます。
 ピラミッド構造とは、MECEと並ぶロジカルシンキングの基本のひとつで、これ自体がタテとヨコの2軸でできています。

→タテ軸で深掘り、ヨコ軸で広げる

 ピラミッド構造のタテ軸は、

  • 「Why so?(◯◯すべきです。なぜなら〜」(上から下)
  • 「So what?(〜なので、◯◯すべきです)」(下から上)

 の2つを表現しています。
 ピラミッドの上に行くほど抽象的で、下に行くほど具体的になるとも言えます。
 一方、ヨコの方向には同じ「階層レベル」の情報を並べていきます。「関西」の話が出たならば、それと同列のヨコには「関東」や「九州」がある。そして、「関東」をタテに深掘りすると「東京」「神奈川」があるということをイメージするのです。
 このように、ひとつの話についてひとつひとつのピラミッドを意識することで、自分が伝えたいことの「全体像」を捉えた上で話せるようになります。
 ここで言う「全体」は、あなたが話したい内容によって変化します。たとえばタテ軸の「関西」や「関東」の上の階層には「日本」や「世界」があり、さらには「地球」「惑星」「太陽系」「宇宙」・・・・・とタテ軸は無限に増やすことができます。「日本についてだけ話をするなら海外は除外する」など、自分が考えるべき範囲を決めてピラミッドを作ります。

→ピラミッドの中から伝える「塊」を決める

 ここまで来れば簡単で、あとはピラミッドの中の「どの塊」を伝えるべきかを決めるだけ。「塊」と書いた通り、ピラミッドの箱ひとつだけを伝える必要はありません。複数の箱をまとめて話すこともありますし、たったひとつの箱をていねいに話すこともあるでしょう。一列をタテに一気に深掘りすることもあれば、ヨコの行を並列に述べるのが有効なときもあります。
 いずれにしても大事なことは、「いま自分はピラミッドのこの部分を話している」ということを意識して話を進めることなのです。

『2軸思考』 CHAPTER4 より 木部智之:著 KADOKAWA:刊

図4−3 コミュニケーションの基本はピラミッド構造 2軸思考 Chap4
図4−3.コミュニケーションの基本はピラミッド構造
(『2軸思考』 CHAPTER4 より抜粋)

 まずは、伝えるべき内容の「全体像」を把握する。
 それが大切だということですね。

 ピラミッド構造で考えることで、頭の中を整理されます。
 話し始める前に一手間を加えることで、格段に伝わりやすくなりますね。

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 最も分かりやすく、シンプルで、効果の大きいフレームワークである「2軸思考」。

 木部さんは、早い人で1週間、平均的には1カ月、遅くても3カ月もすれば目に見えて仕事ぶりと成果が変わるとおっしゃっています。

 2軸思考で、生産性を飛躍的に高める。
 そのために必要なのは、「継続して使う」ことです。

 どんなに優れた道具も、使わなければ、「宝の持ち腐れ」です。

 やるべきタスクが多すぎて、どれから手をつけていいかわからない。
 問題が複雑すぎて、どこから手をつけていいかわからない。

 二軸思考は、そんな悩みを抱えるすべてのビジネスパーソンにとって、大きな価値があります。

 反復練習できっちり身につけ、ぜひ、ステップアップの大きな武器にしたいですね。

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