【書評】『スモール・スタート』(水代優)
お薦めの本の紹介です。
水代優さんの『スモール・スタート あえて小さく始めよう』です。
水代優(みずしろ・ゆう)さんは、会社経営者です。
全国各地で「場づくり」を行い、地域の課題解決や付加価値を高めるプロジェクトを数多く手掛けられています。
小さく動くから「強い」「速い」「楽しい」
日本では、「働き方改革」の旗印のもと、多くの企業が長時間労働の見直しや、生産性の向上に取り組んでいます。
世の中の構造自体が、大きく変化しつつある。
それを実感している人も、多いのではないでしょうか。
水代さんは、こんなご時世、働き方改革がまっさきに必要なのは、企業ではなく、個人だ
と指摘します。
副業や兼業にこれだけ注目が集まっているのも、政府や企業の都合というよりも、「このままこの会社でこの仕事を続けるのが難しい」という予感を抱いている人が多いからではないでしょうか。サードプレイス(自宅でも職場でもない、第三の居場所)やコミュニティへの関心が高まっているのも、家と会社以外に居場所がほしい、生きがいがほしい、できれば収入源がほしいと考えている人が増えているからでしょう。
ただ、それまでの習慣や考え方を、がらりと変えるのはとても難しいことです。
これまで通りではダメだと頭ではわかっていても、なかなか動き出せないものです。動くことが怖いと感じる人も多いかもしれません。それは、自然なことだと思います。
しかし、そうして恐怖に打ち勝てず動かないでいると、環境の変化について行けず、いつの間にか居場所を失ってしまいます。そうなってからでは遅いと僕は思うのです。この本は、そんな“悲劇”を防ぎ、これからの時代を恐れず楽しんで働き、そして生きていくために、小さく始めてみませんか、と呼びかけるものです。
小さく始めるとはどういうことか、あえて説明するなら、まずは動くということ、静を動に変えるということです。
でも、それまでじっとしていたのに急に大きく動いては、バランスを失ってしまうかもしれないし、肉離れを起こしてしまうかもしれないし、そういった事態は避けたいと僕なら思います。
だから、「小さく」なのです。
軸足を今のところにしっかり置いたまま、もう片方の足を、近くのいろいろなところに伸ばしてみることはそれほど大それた冒険ではありません。「あ、ヤバい」と感じたら簡単に足を引っ込めることができます。体に過度な負担がかかることも、バランスを崩すこともないでしょう。
そうしているうちに、体重をかけてもいい、軸足を移してもいいと感じる足場が見つかるかもしれません。そうしたら、勇気を出してそちらに飛び移ってもいいと思います。
小さく始めるとは、新天地を探すことでもあります。サードプレイス、コミュニティを求めている人にも「小さく始めようよ」と伝えたいのはこれが理由です。『スモール・スタート』 はじめに より 水代優:著 KADOKAWA:刊
水代さんは、本当に怖いのは、小さく動き始めることではなく、そこにじっとしていること
だと強調します。
本書は、「スモール・スタート」を取り組むにあたっての共通の心構えや注意点などをまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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小さく始めると「自然と差別化できる」
「小さく始める」ことのメリット。
水代さんは、その一つに「自然と差別化できる」ことを挙げています。
たとえば、あなたのおばあちゃんの作る漬物が最高だったとします。誰が食べてもこれまでで一番おいしい漬物だと異口同音です。
この漬け物を、デパ地下や高級スーパーで売りたいと思ったら、かなり高いハードルを越えなければなりません。
今は、安全が重視される時代です。なので、名のある小売店がそのおばあちゃんの漬物を売ろうとしたとき、味と同じくらいに、生産プロセスを気にします。ISO規格の認証を受けたピカピカの工場で作られたものならOKでも、おばあちゃんの台所で作られたものは売れない、と判断されることが大半だと思います。また、「うちで売るなら200パックは用意してもらわないと」といった話にもなるでしょう。1人で漬け物を漬けているおばあちゃんにはそれは無理です。
しかしそこに、小さく始めるチャンスがあります。
個人がマルシェ(自分で生産したものを持ち寄って売る)で漬け物を売るときに優先されるのは、過剰な安全の担保よりも、味や、おばあちゃんの人柄や、売るあなたの熱意です。デパ地下や高級スーパーでは売らないことは、マルシェでは最高の売り文句になります。こういうことがうまくはまったとき、僕は「大企業じゃなくてよかったな」と感じます。
こんなこともあります。大きな企業は今、猛スピードで効率化を進めているので、その効率化されたネットワークに入れず、取りこぼされている小さな存在が、少なからずあるのです。
たとえば、飲食店の食材の仕入れは、インフォマートと呼ばれる食材取引ネットワークを介して行われることがほとんどです。受発注や請求書、見積書などを電子システム上で完結できるネットワークです。効率化に一生懸命な大手のなかには、インフォマートを使えない業者とは取引をしないところも珍しくありません。でも、こぢんまりと無農薬野菜を作っている人で加入している人は少ないでしょう。
でも、もしもどこかひとつの飲食店がインフォマートを使わなくてもいいよと言ったら、その店は、小さな畑でつくられていて、でも流通に乗りにくい最高にうまいトマトや最高にうまいほうれん草を、食材として使うことができます。差別化がはかれるのです。
もちろん、その分、その都度領収証を発行するなど手間はかかるでしょう。予定していた野菜が天候のせいで揃わないということもあるかもしれません。大手がそれをやったら大問題です。でも、小さい者同士なら、「そういうこともあるよね」で済ませることができなくはありません。
会社でも、部署と部署が共同戦線を張るとなると、部長同士の仲の良さなどが気になったり、会議の日程調整に時間を要したりしますが、たとえば同期入社の個人ベースで話を進める分には、相手の居室を覗いて、姿を見つけたらさっと立ち寄ってフランクに「ちょっとこれ頼む」「OK」で済むことがたくさんあると思います。
当たり前の話ですが、「小さい」とは、「大きくない」ということです。自然と差別化ができるうえ、やりようによってはそれを強みにすら変えることができるはずです。
小さいからこそ、大きな組織にはできないことがあるのです。『スモール・スタート』 第1章 より 水代優:著 KADOKAWA:刊
私たちが、日常的に買って、使ったり、食べたりしているモノ。
そのほとんどは、工場で大量に生産されたり、加工されています。
コストパフォマンスがよく、品質が一定で、安全性が高いものばかり。
ただ、逆にいえば、個性が乏しく、希少性がないともいえます。
個性を全面に押し出し、小さく始めること。
それ自体、大きな強みであり、ニッチ(すき間)に入り込む戦略となるのですね。
昨日の自分より少しでも前進するために
最初の一歩を踏み出すことは、もちろん大事です。
ただ、事業として続けていくうえで大事なのは、「さらに一歩進むこと」ことです。
一度止まってしまうと、次の一歩は果てしなく重いもの
になるからです。
水代さんは、その重さを感じずに済むように“続ける”のにもコツがある
として、以下のように述べています。
いつもと違うことをやってみると、必ず何かを感じ、学びます。
新鮮な体験ができて楽しかった。いろいろな人と話ができてうれしかった、もう少し準備をしておけば良かったな、次にやるときにはこんな風にしようかな・・・・・。
こう思ったら、続けるしかありません。せっかくやってみたことなのだから、もう一度、二度、三度と、やってみませんか。もし一度目が誰かに誘われてのトライだったのなら、今度は自分からやってみましょう。
毎日やらなくちゃ、毎週やらなくちゃと自分を追い立てる必要はありません。これは仕事ではないのだから、自分のペースでゆっくり進めばいいですし、もちろん、ハイペースで突っ走ってもいいと思います。どちらにしても、続けること、前に進むことが大事です。
いつまでにどんな風にしようという目標を立てて、しゃかりきになるよりも、目の前のことを少しずつ、良くしていくほうが、結局はその目標に早くたどり着くような気がしています。
そして、2回目は初回よりも、3回目は2回目よりも少しだけ良くなることを意識するといいと思います。
たとえば、1回目にできていなかったことをひとつだけ、2回目には準備万端にする。
ひとつだけなのは、そのひとつ以外はまた3回目以降に取っておいたほうが、毎回毎回、成長している自分を実感できるからです。それに、2回目で完璧を目指すのは、少し早過ぎるようにも思います。
2回目、3回目と続けることで、「やってみたこと」は「これからやり続けること」に変わります。
やってみたことを一度の体験で終えるのか、その後の長い楽しみの起点とするかは、自分次第です。ただ、これはそれほど特別なことではないと思います。どんな仕事も、昨日の自分の成果を少しでも超えようとすることで、上達していくものです。
あー、今日は何も前進しなかった! と思うような日があったら、僕は、普段お世話になっている人に「いつもありがとう」と伝えるためだけのメールを書きます。いつもできていないことができたことになるので、これひとつの前進です。
今日はなんだか全然仕事が進まなかったと思うことがあったら、ぜひ真似してみてください。きっと充実した一日が過ごせたような気がしてきて、明日こそは一歩前進しようと思えるはずです。『スモール・スタート』 第3章 より 水代優:著 KADOKAWA:刊
千里の道も一歩から。
ゆっくりでもいいから、一歩一歩、着実に歩みを進めること。
それが、成功するための秘訣だということです。
また、
「もっと知りたい」
「もっと上手になりたい」
やっていて、自分がそう強く思えることを選ぶことも、とても重要ですね。
「みんなが仲良くてピカピカの店は潰れない」法則
「スモール・スタート」は、一人でマイペースで続けることもできます。
もちろん、仲間と知恵を出し合い、支え合いながら「チーム」として続けるのも、選択肢のひとつとなります。
では、チームとして、組織を上手に運営していくための秘訣は、どこにあるのでしょうか。
僕は飲食店の経験が長いので、事例が偏りがちになってしまいますが、ここでもまた飲食店の話をします。
チームのみんなが仲が良く、運営が上手くいっている店の見抜き方をご存知でしょうか。これは、3つの扉の内側を見ればすぐにわかります。
3つの扉とは、店の出入り口の扉、トイレの扉、そして、冷蔵庫の扉です。
店に入ったとき、そこがごちゃごちゃしている店は、黄信号です。運営チームの仲が悪い可能性があります。
トイレに入ったとき、清潔感のない店も黄信号です。清潔感を保てないのには、忙しくて掃除ができないということ以外の理由があるはずです。
冷蔵庫の中は、あまり見る機会がないかもしれませんが、どこに何があるかが、誰にでもわかる状態になっていない冷蔵庫は、仲の悪さの象徴です。
飲食店ではたいてい、早番と遅番のシフトが組まれています。開店前の準備からある程度までを担当するのが早番、早番と入れ替わりで閉店までを担当するのが遅番です。交代のときに、じっくりと引き継ぎをする時間は多くはありません。
すると、こんなことが起こりえます。閉店時間になっても盛り上がっていたお客さんがいたので、後片付けしきれないところが残ってしまった。終電で帰らなくてはならないので、そのままにして帰る。翌日やってきた早番の人は、片付いていない状態を見てびっくり。遅番への不信感が強まる。すると、イライラして備品調達などを忘れる。今度は遅番がお店に出てくると、消耗品の在庫がなくなっていることに気が付いて「しっかりしてくれよ早番」となってしまう。
最初の、後片付けがしきれなかった時点で、遅番が早番に「実はこういうことだったんだ、今回はごめんね。」と伝えていれば「わかったよ、お疲れ様」で済んだことかもしれません。コミュニケーションがないから、行き違いが生じてしまうのです。掃除や片付けが行き届かないのは、相手の事情がわからずに「自分ばかりやっている」とみんなが思ってしまっているからです。
「だって」とみんなが口にするようになったら、その組織もプロジェクトも終わりです。
「俺だってこんなにやっているのに」「それを言うなら私だって」と自己主張ばかりがぶつかり合って、相手を理解しようとしなくなってしまっているからです。
(中略)
店に限らず、チームでプロジェクトを進めるにあたって一番大事なのは、僕は、挨拶と掃除だと思っています。挨拶は人間関係のメンテナンスの基本、掃除は設備のメンテナンスの基本です『スモール・スタート』 第3章 より 水代優:著 KADOKAWA:刊
店の出入り口の扉、トイレの扉、そして、冷蔵庫の扉。
いずれも、物や人出入りが激しく、汚れたり、散らかりやすい場所です。
円滑に運営されている組織は、そんな目が届きにくい場所も、手入れが行き届いています。
挨拶は、人間関係のメンテナンスの基本。
掃除は、設備のメンテナンスの基本。
つねに意識したい言葉ですね。
小さければ小さいほど、大きなところと組みやすい
小さな組織には、大企業にはない「強み」があります。
それは、大企業とタッグを組めること
です。
たとえば僕が山芋農家という小さな組織を運営しているなら、まずキッコーマンに「コラボしませんか」と電話すると思います。僕が家族と無農薬で育てた山芋をキッコーマンの醤油と合わせると最高においしいという提案をしませんかと、コラボを申し出るのです。
唐突に見えるかもしれませんが、もちろん、ある程度の勝算があります。
その提案は、具体的なら具体的であるほうがいいです。「何かやりましょう」では、相手が困ってしまいます。こちらが具体的にぶつければ「それは無理でもこれなら」という逆提案を引き出すこともできます。それも、小さい組織だからこそです。
もしも僕が誰もが知る商社の山芋輸入担当者だったら、こういった申し出に対して、相手は慎重になると思います。でも、小規模生産者なら、相手企業も「それくらいなら」とガードが下がるし、小さなところと組むことは競合他社との差別化になると考えるので、案外と、話がうまくいくことがあるのです。
自分たちは小さいから、まずは小さいところと組もうという考え方もあるかもしれません。キッコーマンは手が届かなそうな気がするから、近所の飲食店とコラボするという考え方です。
でも、これではなかなか大きくなっていきません。大きくなるにしても時間がかかります。ぞさに近所の飲食店とよりも、キッコーマンとのコラボ経験があるほうが後々、別の大企業から「だったら、うちともやりませんか」と誘ってもらえるきっかけにもなります。
大企業は今、コラボレーションできる小さな組織を探しています。でも、どこと組んだらいいかがわからない。探す手法もあまり持っていない。だから、小さな側からどんどんアプローチをして、見つけてもらう努力をするべきです。
ですから、もしも今、みなさんが働いているのが大企業なら、小さなところと組むことをオススメします。そして、小さな組織で働いているのなら、臆せず大企業にぶつかっていくべきです。
でも、たとえばキッコーマンにはキッコーマンの都合かあります。もしかすると、直前に別の山芋農家とコラボすることが決まっているかもしれないし、コラボはしばらくしないという方針を固めたばかりかもしれません。
断られたら、がっかりするはずです。でも、そこはさわやかに撤収すべき。都合が変わったときに、コラボできる可能性を残すためです。ケンカは損、敵を作るのは損です。
そして、次は別のところにアプローチします。ヤマサでも、ヒガシマルでもいいと思います。もちろん、ここまで出てきた企業名はたとえ話。キッコーマンよりも先にヒガシマルに当たるのもアリ、つくっているのが山芋じゃなくてアスパラガスなら、マヨネーズの会社に当たったほうがいいでしょう。
一社に断られても、めげないこと。「いやいや、僕らなんて相手にされないからムダですよ」と言う人もいますが、そういう人に「100件電話してみた?」と聞くと、「いや一回もしていません」ということが多いです。コラボできるところが見つかるまで、電話をかけ続ける根性が必要です。
とにかく、小さなことはデメリットではなく、メリットです。なので、そのメリットを手放してしまわないために、あえて小さいままでいて、次々と大きなところと組んでいくという選択肢も大いにあるのです。『スモール・スタート』 第4章 より 水代優:著 KADOKAWA:刊
水代さんは、今の時代、小さく弱い立場であることは強さ
でもあると述べています。
フットワークが軽く、しがらみが少ない。
個性的で、チャレンジングなトライができる。
小さな組織には、そんな大企業にはない強みを持っています。
「大企業と組んだ」という経験は、これ以上ないアピールになりますね。
双方に大きなメリットがある、小さな組織と大企業のコラボ。
ダメもとでも、試して見る価値がありますね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
水代さんは、いつでも「その場で一番いい人」を目指して
いるとおっしゃっています。
もちろん、会議室、シンポジウム、お店、電車の中、どこにおいてもです。
そう決めている理由は、ほかの誰とも仲良くなろうとしない人でも、その場で一番いい人には心を許してくれることがあるから
です。
チャンスは、必ず「人」が運んできます。
人との出会いを大切にする人が、幸運に恵まれる。
それは、偶然ではなく、必然といえます。
組織が小さくなればなるほど、人との出会いは、重要性を増します。
成功するか、しないかのカギを握るといってもいいですね。
これからは、個人の時代。
多くの人が指摘しているとおり、その流れは止まることはないでしょう。
個人には個人の、小さな組織には小さな組織の、それぞれに合った戦い方があります。
本書は、私たちがこれからの時代を生き抜くための“戦術書”ともいえる内容です。
「自分の身は自分で守る」が基本です。
私たちも、手遅れにならないうちに、身につけておきたいですね。
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