【書評】『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい』(長谷川嘉哉)
お薦めの本の紹介です。 長谷川嘉哉さんの『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい』です。
長谷川嘉哉(はせがわ・よしや)さんは、脳神経内科、認知症がご専門の医師です。
35歳を過ぎたら「歯のケア」の習慣を変えるべき
35歳を過ぎたら、脳のために変えなければいけない「ある習慣」があります。 その習慣とは、「歯のケア」です。
長谷川さんは、「歯のケア」の習慣を変えないと、認知症発生リスクが一気に高くなることが、さまざまな研究で明らかになっている
と指摘します。
「認知症」と「歯のケア」。 一見、何の関係もないように思われます。
しかし、実際に、歯科衛生士さんによるたった1回の歯のケアで、認知症状が改善した患者さんが現れた
のだそうです。
認知症患者さんに定期的な歯のケアを受けていただくことは、認知症の予防・改善につながります。 ますます高齢化が進み、認知症患者が増えるとされているこれからの時代において、何よりも求められるのは歯のケアであり、医療分野で言えば「歯科」だと言えるでしょう。
本文で詳しく説明しますが、歯科で歯垢(しこう)を除去するためのプラークコントロールを定期的に受けて、歯周病を予防・改善することは、脳の老化防止につながります。 さらに、誤嚥性肺炎、糖尿病、動脈硬化、脳梗塞や心筋梗塞などの全身疾患リスクを下げて「健康寿命」を延ばすことにもつながります。 なぜなら、前述した通り35歳前後から増え始める歯周病菌が、認知症や全身疾患を引き起こす原因になるからです。正しい歯のケアこそ、長寿社会を健康に生き抜くために、すべての人か身に付けるべき基礎知識なのです。
そうした観点から、私はすべての医療機関に、歯医者さんや歯科衛生士さんが常駐していてもいいのではないかと思っています。 特に体力が落ちて免疫力が低下している高齢者が通う医療機関や介護施設では、その必要があるはずです。 これからは、「医科」と「歯科」が連携して診療にあたる「医科歯科連携」か、人々の健康を守るために、何より重要だと考えています。
『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』 はじめに より 長谷川嘉哉:著 かんき出版:刊
本書は、「歯のケア」で全身の健康を守り、認知症のリスクを抑える仕組みと具体的な方法をまとめた一冊です。 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
「歯がない人はボケやすい」は本当だった!
歯が丈夫だと、認知症になりにくい。
それは、脳に送られる血液の量からも説明できます。
図1.歯根膜と脳血流の関係
(『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』 第1章 より抜粋)
実は、歯でものを噛むと、ひと噛みごとに脳に大量の血液が送り込まれます。 ここでちょっと、歯の根元の構造について見てみましょう(上の図1を参照)。 歯の下には「歯根膜(しこんまく)」というクッションのような器官があって、歯はそこにめり込むようにして立っています。噛むときは、歯がこのクッションに約30ミクロン沈み込みます。そのほんのわずかな圧力で、歯根膜にある血管が圧縮されて、ポンプのように血液を脳に送り込むのです。その量は、ひと噛みで3.5ml。 3.5mlといえば、市販のお弁当についている、魚の形の醤油入れ。あの小さい容器がだいたい3〜5mlサイズです。 だとすれば、噛むということは、そのたびに、あの容器いっぱいの血液をピュッと脳に送り込んでいることになります。ひと噛みでこの量ですから、よく噛む人の脳にはひっきりなしに血液が送り込まれて、その間、常に刺激を受け続けていることになります。つまり、噛めば噛むほど刺激で脳が活性化されて元気になり、どんどん若返るのです。 ところが、歯の本数が少なくなればなるほど、歯根膜のクッションにかかる圧力が減って、脳に送り込まれる血液の量が少なくなります。脳への刺激が減って、脳機能の低下につながるわけです。脳機能の低下は、ヤル気の喪失や、もの忘れを引き起こし、やがては認知症へとつながっていきます。 事実、口の中に残っている歯の数と認知症発生率には、関連があります。 東北大大学院の研究グループが、70歳以上の高齢者を対象に行なった調査によると、「脳が健康な人」の歯は平均14.9本でしたが、「認知症の疑いあり」と診断された人はたったの9.4本でした。つまり、残っている歯が少ない人ほど、認知症になりやすいことが明らかになったのです(下の図2を参照)。 昔から言われている「歯がない人はボケやすい」は、科学的に見ても正しかったわけです。
『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』 第1章 より 長谷川嘉哉:著 かんき出版:刊
図2.70歳以上の高齢者の口の中に残っている歯
(『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』 第1章 より抜粋)
それは、単に、食べ物を消化しやすくし、胃腸の負担を減らすだけではないのですね。
いくつになっても、頭も体も健康でいる。 そのためには、「歯のケア」は欠かすことができないということですね。
プラークの中の細菌数は、肛門よりも多い!
「歯のケア」をするうえで、最も気をつけなければないこと。 それが「歯周病」です。
実は、大人が歯を失う原因の第1位は、むし歯ではなく、歯周病
なのだそうです。
では、歯周病のメカニズムは、どのようなものなのでしょうか。
歯周病は、歯周病菌の感染によって引き起こされる、口の中の炎症性疾患です。 歯みがきが不十分で、「歯」と「歯肉(歯茎)」の境目の清掃が行き届かない状態でいると、そこに食べカスや歯周病菌を始めとする細菌のかたまりが溜まって、歯肉のふちが炎症を起こして、赤くなったり腫れたり出血したりします。 「歯」と「歯肉」の境目には、通常1〜2mm程度の深さの溝があるのですが、歯肉のふちの炎症がひどくなると、この溝がどんどん深くなり、4mm以上の深さになると、「歯周ポケット」と呼ばれるようになります。 歯周ポケットが深くなるほど、そこに食べカスや細菌のかたまりが溜まりやすくなります。その結果、歯肉の炎症がひどくなります。歯を磨いただけで出血するのは、炎症が悪化して歯肉がもろくなっているからなのです。やがて歯を支える土台の歯槽骨が溶けて、歯がグラグラと動くようになります。放っておくと、最終的には抜歯をしなければいけなくなるのです。 このように、歯のケアを正しく行わないと、歯周ポケットが深くなり、炎症がどんどんひどくなっていきます。炎症を引き起こすのが、細菌のかたまりである「プラーク(歯垢(しこう))」です。 プラークは、食事後に口の中に残る食べカスではありません。口の中で増殖した歯周病菌やむし歯菌などの微生物のかたまりです。 もし今、まわりに誰もいなければ、自分の歯の根元を、爪でこすってみてください。白っぽいネバネバしたものが取れませんか? これは食べカスではなくプラークです。 もともと、口の中には、100億の細菌がいると言われています。この数は、肛門にいる細菌の数より多いそうで、歯のケアが不十分で口の衛生状態が悪い人の場合は1兆を超えるそうです。 ちなみに、わずか1mgのプラークの中に、多い人ではなんと数兆もの細菌が潜んでいます。これは肛門にいる細菌の数どころではありません。かなり恐ろしい数字ではないでしょうか。
『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』 第2章 より 長谷川嘉哉:著 かんき出版:刊
図3.健康な歯肉と、歯周病の歯肉
(『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』 第2章 より抜粋)
食後4〜8時間程度でネバネバとした粘液を出すプラークとなります。
そして、そのまま放置すると、さらにすごい勢いで増殖し、約24時間後には石灰化して「歯石」
となります。
プラークは歯みがきで落とすことができますが、歯石は歯みがきではとることができません。
いかに、日々の「歯のケア」が大事かということですね。
「舌まわし」で、常に口内を洗浄する!
口の中の健康を保つために重要なのが、「唾液」です。
長谷川さんは、唾液はすばらしく強力な浄化液
で、唾液がしっかり分泌されていれば大きな口腔トラブルは起きないと言われているくらいの優れもの
です。
唾液には、洗浄作用とあわせて、主に5つの作用があるとされています。 ①洗浄作用 健康な状態では、1日に1.5lもの唾液が分泌されており、口の中の食べカスを洗い流して、胃へと落とし込みます。唾液がきちんと分泌されるということは、ゆっくりとした水流で常時口の中を洗い流しているのと同じことです。 ②殺菌作用 唾液には、強力な殺菌成分である「リゾチーム」や、歯周病菌の毒素(リポ多糖)を無毒化する「ラクトフェリン」病原性細菌と戦ってくれる「免疫グロブリン」などが大量に含まれています。 ③保護作用 歯や粘膜を覆う保護膜である「ペクリル」には、唾液の成分「リゾチーム」「ラクトフェリン」「免疫グロブリン」などが含まれています。これらが作用しあい、プラークの発生を抑えて、歯や粘膜を保護します。 ④中和作用 食事をするたびに、口の中のpHは酸性に傾きます。すると、歯の表面を覆っているエナメル質が溶け、初期のむし歯となります。しかし、唾液の作用により、約40分でpHは元に戻ります。 ⑤再石灰化作用 食事後に酸性になった口の中では、歯のエナメル質が溶け出します。この作用を「脱灰」と言います。唾液には、溶け出した歯を修復する「再石灰化」作用があります。 1日の歯みがき回数が少ない人は、舌まわしを行い、唾液をたくさん分泌することで、口腔内細菌を減らして、歯を守ることができます。 (中略) 舌まわしのやり方とても簡単です。 唇を閉じたまま、舌先で歯の外側と唇の内側の間を大きくなぞるように、ぐるりと1周させます。2〜3秒で1周する速さが理想です。めいっぱい舌先を伸ばして、ぐるりと1周させます。これを右回りと左回り、それぞれ20回ずつ行いましょう。ビックリするほど唾液が溢れ出してくるのを体感できます。 右回りと左回りを1セットとして、朝昼晩の1日3回行うようにしましょう。
『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』 第3章 より 長谷川嘉哉:著 かんき出版:刊
図4.舌まわしのやり方
(『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』 第3章 より抜粋)
そんな人ほど、いつでもどこでもできる「舌まわし」を日々の習慣にしたいですね。
1日3回、5分以上ガムを噛む
脳血流をアップさせる、もっとも簡単な方法は、「噛む」こと。
そのための方法として、長谷川さんがお勧めするのが「ガム」です。
長谷川さんは、ガムを噛んで、咀嚼回数を増やすことで、脳血流を増やして、効率的に脳ゴミを排出することが可能
になると述べています。
現代社会では、食事の際に行う咀嚼だけでは、噛む回数が不十分です。 そこで、食事と食事の間にこまめにガムを噛むことで、足りない分の咀嚼回数を補い、脳の老化を止めて、若返らせていきます。
ガムの噛み方の目安としては、1日3回。1回につき5分以上は噛んでください。 唾液による歯の再石灰化効果を高めるために、1粒ずつ、毎食後に噛むとよいでしょう。 あるいは、就寝前に噛むのも効果的です。唾液パワーで口腔内細菌が減らせるので、このタイミングで噛んでおくと、朝の起床時の口臭を減らすことができます。ただし、ガムを噛むことでプラークを落とすことはできないので、ガムだけに頼らず、歯みがきをしっかりすることが重要です。 ガムを噛むときは、口の中で噛む場所を変えて、左右交互に噛むようにしましょう。ガムを片側の歯だけで噛む癖のある人は、顎の筋肉がアンバランスになって顔が歪むことがあります。そうした筋肉のアンバランスが、頭痛や歯痛の原因になることもるので注意しましょう。 また、相手によっては、人前でガムを噛むことが失礼にあたる場合もあります。場所や相手を考えて、一人でいるときに噛んだほうが無難かもしれません。 ガムを選ぶ際は、次の成分が含まれているものがお勧めです。 これらのガムにはむし歯予防を助ける働きがあります。 ①キシリトール 白樺や樫の木などを原料としてつくられる天然素材の甘味料。プラークの量を減らし、歯みがきで落としやすくする、酸をつくらない、虫歯の原因菌であるミュータンス菌を減らす、フラノンとリン酸カルシウムの効果で再石灰化を助けるなどの効果があります。虫歯予防にはキシリトール含有率が90%以上の歯科医専門のキシリトールガムが効果的です。 ②リカルデント(CPP-ACP) 牛乳の蛋白質からつくられています。歯のエナメル質の再石灰化を助けます。 ③ポスカム(POs-Ca/リン酸化オリゴ糖カルシウム) じゃがいもを原料とするオリゴ糖でつくられています。唾液の質を改善して、リン酸とカルシウムの比率をエナメル質に近い比率にすることで、口内の酸によって溶け出した歯の修復を行います。また、プラーク中のpHを酸性から中性に素早く変えて、歯が溶け出すのを防ぎます。 ④L.ロイテリ菌 人由来の乳酸菌。むし歯や歯周病の原因菌を減らす効果があるとされています。 紹介した商品のいずれを選ぶかは悩まれるかもしれません。商品はネットで簡単に購入できますので、一度試してみてください。 私の場合は、糖質の含まれていないキシリトール入りのガムと、ロイテリ菌を含むガムを愛用しています。
『脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』 第3章 より 長谷川嘉哉:著 かんき出版:刊
一方、「糖類を含むガム」やクエン酸や果汁入りなどの「酸性物を含むガム」は、お勧めしないとのことです。
表示されている成分表をしっかり確認し、お気に入りのガムを携帯し、「噛む」習慣を身につけましょう。
「人生は口で始まり、歯で終わる」
そんな言葉があるように、「噛む」ことは、生命力の維持と密接な関係があります。
自分の歯を使って、自力で食べることができる。
それがどれだけ幸せで大事なことか、私たちはなかなか認識できません。
かけがえのない貴重なものほど、なくしたときに初めて、その価値を知る。
「歯」も、その一つでしょう。
備えあれば憂いなし。
私たちも、手遅れにならないうちに、本当の「歯のケア」の習慣を身につけましょう。
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