【書評】『トークンエコノミービジネスの教科書』(高榮郁)

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 お薦めの本の紹介です。
 高榮郁さんの『トークンエコノミービジネスの教科書』です。

 高榮郁(こう・よんう)さんは、ロケットスタッフ株式会社代表取締役です。
 一般社団法人日本ブロックチェーン広告協会を設立し、オンライン広告業界のためにご活躍中です。

「ブロックチェーン」が生んだ最強のビジネスモデルとは?

 インターネットとスマートフォンの登場により、私たちの生活は大きく変わりました。

 eコマース(電子商取引)やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを活用することで、時間や場所の制限から大きく解放されましたね。

 一方、ビジネスの手法は、どうでしょうか。
 たしかに、インターネット上で多くの広告を目にするようになりました。

 しかし、これらの広告は基本的に、企業から消費者に対して一方的に送りつけられるという形式であり、「企業→消費者」というマーケティングの構図は、インターネット以前の時代と大きく変化していません。

 高さんは、企業を主体とした一方向的なマーケティングを脱却し、企業と消費者が相互に共存し合う、新たなデジタル経済圏を構築するのが、「トークンエコノミー」だと述べています。

 本書で紹介する「トークンエコノミー」というビジネスモデルは、2017年ごろから話題となっているブロックチェーン技術と組み合わせ、提供者が独自に開発した仮想通貨(暗号資産)によって、これまでほぼ存在しなかった「ユーザーファースト(ユーザー第一主義)」のサービスを提供しようという試みです。
 その多くが、ビットコインに次ぐ市場価値を持つといわれる、ブロックチェーンのプラットフォーム、「イーサリアム」を活用して生まれており、現在も多種多様なトークンエコノミーが生み出されています。

 仮想通貨と聞くと、日本人の多くの方は、「危険なもの」「よくわからないもの」と思われるかもしれません。
 しかし、イーサリアムなどのブロックチェーンを活用したビジネス用のプラットフォームは、投機の対象ではなく、次世代のサービスを提供する試みです。
 イーサリアムが世界で初めて実現した「スマート・コントラクト」という機能を活用することで、これまで煩雑だった事務手続きがすべて自動化され、それぞれの顧客に対応したサービスを用意に提供することが可能となります。
 私が経営する「ロケットスタッフ」でも、現在、漫画を中心としたプラットフォームでトークンエコノミーを形成する「MANGAトークン」を開発しています。
「MANGAトークン」では、ユーザーが積極的に運営に参加することでインセンティブを得られる仕組みとなっており、ユーザーと運営者の両方が主体となり、共同でプラットフォームを活性化するという関係性を構築しています。
 このように、自社で制作したトークン(代替通貨)を活用することで、自社サービスの質を強化し、ユーザーや協業企業と密度の濃い連携を取りながら発展することが可能になるのです。

『トークンエコノミービジネスの教科書』 はじめに より 高榮郁:著 KADOKAWA:刊

 本書は、このような「トークンエコノミー」の構築方法を、さまざまな事例を取り上げながら解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「トークンエコノミー」のモデルケース

「トークンエコノミー」とは、どのようなものでしょうか。
 高さんが、自社で展開するサービスを例にとって、わかりやすく解説します。

 私たち「ロケットスタッフ」では、スマートフォンアプリで人気漫画を無料で読むことができるマンガ配信サービス「マンガKING」(http://mangaking.jp/ )を運営しています。
 同サービスでは現在、独自に「MANGAトークン」を開発・発行し、作家と読者との新しい関係を築くためのトークンエコノミーの構築を目指しています。
 このMANGAトークンでは、「作家(生産者)」と「読者(消費者)」という、漫画に対する強い思い入れのある両者を直接結びつけることを目的としています。
 MANGAトークンを例に、トークンエコノミーの特性を具体的に見ていきましょう。
 トークンエコノミーでは、特定のモノやサービスに対して強い目的意識を持つ生産者や消費者を「ステークホルダー」と呼びます。
 MANGAトークンを用いたこの独自経済圏は、「漫画に関わる」ことを主たる目的として集まった、作家(生産者)と読者(消費者)というステークホルダーで構成されるトークンエコノミーとなります。
 マンガKINGは、App StoreやGoogle Playでアプリをダウンロードすることで、掲載されている漫画を無料で閲覧することができます。
 アプリ内では、漫画を閲覧する画面に広告が表示され、作家は閲覧者(読者)が広告を見ることで利益を得ることができる仕組みです。
 マンガKINGでは、人気漫画が閲覧できるだけでなく、インディーズ作家が作品を発表できる「インディーズコーナー」も設けており、大手誌などでのデビューを目指す作家が100名ほど在籍しています。
 こうしたインディーズ作家も、マンガKING内で自分たちの漫画作品を配信することで、読者からのダウンロード数に応じて広告収益を得ることができます。自分の作品が、読者に読まれれば読まれるほど、多くの広告収益を獲得できるわけです。
 ただ、作家たちのニーズがどこにあるのかを改めて探ってみると、大多数の作家において広告収益への関心は低く、「自分の作品に対するファンをつくりたい」といニーズのほうが高いというのが実情のようです。
 とくにインディーズ作家の場合、目先の収入よりも、ファンを増やしてメジャーデビューするというキャリア設計のほうを重視している、という印象があります。
 そのため、「広告閲覧に対する対価を支払う」という既存のマンガアプリのITプラットフォームでは、「ファンを増やしたい」という作家側のニーズに応えることに課題があります。
 そこで、弊社のマンガKINGでは、トークンエコノミーという発想に着目し、作家と読者を直接つなげ、作家が自分の作品に対するファンをつくれるという仕組みを設計したのです。
 ちなみに、私たち運営側が収益を得る仕組みですが、現在のところ、作家や出版社と広告収入の一部をレベニューシェア(事業収益を分配すること)する形を取っています。

『トークンエコノミービジネスの教科書』 第1章 より 高榮郁:著 KADOKAWA:刊

図1 マンガKING の仕組み トークンエコノミービジネスの教科書 第1章
図1.「マンガKING」の仕組み
(『トークンエコノミービジネスの教科書』 第1章 より抜粋)

 あるテーマに関心がある人だけが参加する独自の経済圏が、「トークンエコノミー」です。

 そして、そのトークンエコノミーの中だけで通用するお金が「トークン」だということですね。

 ブロックチェーン技術を利用した仮想通貨が、どんどん広まっていくこれからの世の中。
 トークンエコノミーも、それにつれて爆発的に増えていくことでしょう。

トークンエコノミーで実現できる「世界」

 高さんは、成熟したトークンエコノミーでは、法定通貨を介さずに経済が活発に回る、ということがもっとも重要だと指摘します。

 わかりやすい例としては、アイドルとファンの関係性に着眼したトークンエコノミーの考え方です。
 たとえば、Aという、メジャーデビュー前のアイドルグループが、「Aトークン」というトークンを発行したとします(ここでのトークン名は、あくまで一例です)。
 このトークンは、このアイドルの限定グッズや成功販売されたコンサートチケットなどと交換する際に使用できます。またAトークンは、発行量制限のあるトークンであるため、需要と供給によって価格が変動します。
 このアイドルのファンであるBさんは、見返りなど気にせず、応援する気持ちで、手元の1万円を「100Aトークン」と交換しました。また、ギタリストのCさんは、ライブ演奏を手伝ったお礼として、「100Aトークン」を受け取りました。
 その後、このアイドルグループの人気が急上昇し、初の東京ドームコンサートを行うことになったとしましょう。
 そのチケットは、先行販売で100Aトークンと交換ができますが、アイドルグループの人気が急上昇したため、100Aトークンの価格は10万円にまで高騰しています。
 Bさんは、以前から保有している100Aトークンでこのチケットを入手。一方、ギタリストのCさんは、チケットとは交換せずに、100Aトークンを保有したままにしていました。
 そんな折、Cさんはどうしてもコンサートに行きたいというDさんに出会います。Dさんは、コンサート行きたいけれど、10万円をすぐに用意することができません。そこで、「若いころに20万円で購入したギターを、100Aトークンと交換しよう」、とCさんに持ちかけます。
 Cさんはこれに応じ、Dさんはギターを受け取り、自身のアカウントから100AトークンをDさんに送信しました。そしてDさんは、この100Aトークンを使って、そのアイドルグループの先行販売チケットを購入することができました。

 このようなファンの動きの中で、このアイドルグループは、10倍の価値を持ったトークンの販売ができるだけでなく、間接的にではありますが、無名時代を支えてくれたファンやギタリストに恩返しができます。
 ここで注目したいのは、このアイドルの人気が高まることによって、トークンを持っている人すべてにメリットがある、ということです。
 まずアイドルグループは、多数のファンがトークンをこぞって購入してくれるようになったため、保有トークンの価値が上がり、少ないトークンの配布量でも大きな収益を得ることができるようになります。
 昔からこのアイドルを応援しているBさんは、トークンの価値が上がったことで価格が高騰したチケットを、以前、より安い価格で入手したトークンで手に入れることができました。
 ギタリストのCさんは、まったく法定通貨を使うことなく、アイドルのために仕事をした結果として、ギターを譲り受けることができました。
 そしてDさんは、よりフレキシブルな手段でチケットの購入ができました。
 このように、「ファンが増えれば増えるほど、トークンの価値が上がる」というトークンの設計にすることで、長年のファンや関係者などは、応援してきたことへの見返りを得ることができます。そのためアイドルグループは、関わる人すべてに何らかの利益をもたらすべく、ファンを増やすための施策に、ますます積極的に取り組むようになります。

『トークンエコノミービジネスの教科書』 第2章 より 高榮郁:著 KADOKAWA:刊

図2 アイドルグループのトークンエコノミー トークンエコノミービジネスの教科書 第2章
図2.アイドルグループのトークンエコノミー
(『トークンエコノミービジネスの教科書』 第2章 より抜粋)

 どれだけ多くの人を巻き込み、魅力あるコンテンツを提供することができるか。
 トークンエコノミービジネスで成功するための秘訣です。

 逆に言えば、多くのユーザーに魅力的なコンテンツを供給するアイデアがあれば、誰でも簡単にビジネスを立ち上げることができる時代だということですね。

「トークン」と「銀行利子」の違いとは?

 楽天ポイントやTポイントなどは、店舗やオンラインの決済を目的とした一種のトークンといえます。

 高さんは、企業が発行するポイントを含めたトークンを、銀行利子と比較して説明します。

 では、楽天ポイントと銀行金利とでは、何が違うのでしょうか。
 銀行の金利の場合、「一定の期間、資金を移動せずに預け続ける」というインセンティブに対して配布されます。
 一方、楽天ポイントが設定しているインセンティブは、もっと多様で複雑です。楽天グループが発行しているクレジットカードサービスへの入会や、eコマースサイトの楽天市場での商品購入、楽天ペイによる決済など、さまざまな条件に合わせて配布される形になっています。
 また、銀行金利は、それぞれの銀行が設定した金利に対し、預金者が同意して預金をするため、預金者はより高い利率の銀行を選ぶことができます。
 それに対して、楽天ポイントの場合、その配布される量は、キャンペーンなどによって変動します。
 さらに、銀行利子は日本円などの法定通貨で配布されるため、その法定通貨が通用する場所ならどこでも利用できます。
 一方、楽天ポイントの場合は、「1ポイント=1円」として使用することができますが、使用できるのは、楽天ポイントに対応した店舗や、楽天グループが運営する楽天市場に限定されます。

 じつは、楽天ポイント銀行金利とのこうした違いに、独自のトークンエコノミーの経済圏をつくり出すために必要な条件が隠されています。
 その条件とは、大きく次の3つだと私は考えています。

 ①価値のある独自トークンが存在する
 ②特定の行動に対してインセンティブを付与する
 ③トークンの価値を高める施策がある

 トークンエコノミーの構築には、まず独自のトークンが存在することが大前提です(①)。
 その上で、独自のトークンエコノミーが回り続けるには、参加者がトークン配布者の望んだ行動を取った場合に、エコノミー内で価値を持つトークンを付与すること(②)、トークン取得につながるような施策によって、参加者のさらなるトークンの取得のための行動を促していくこと(③)が必要です。
 こうした仕組みが整っていることが、トークンエコノミーを構築・維持していく上で基本的な条件になると、私は考えているのです。
 たとえば、楽天ポイントなどは、使用がそのトークンエコノミー内に限定され、その経済圏では「1ポイント=1円」といった価値で用いることができます。つまり、「価値のある独自トークン」となっているわけです。
 また、「他のプラットフォームで使用できない」という条件は、そのトークンエコノミーを参加者が積極的に活用する動機づけ(インセンティブ)にもなります。
 ただ、一方でその条件は、そのエコノミーに魅力がなければ参加者の流出につながります。だからこそ、「トークンの価値を高める施策」が重要になってきます。

『トークンエコノミービジネスの教科書』 第3章 より 高榮郁:著 KADOKAWA:刊

図3 トークンエコノミーの3つの条件 トークンエコノミービジネスの教科書 第3章
図3.トークンエコノミーの3つの条件
(『トークンエコノミービジネスの教科書』 第3章 より抜粋)

 楽天はしばしば、ポイントを利用できる加盟店を増やしたり、大量のポイントが得られるキャンペーンを実施します。
 それも、トークンの価値を上げることで、トークンエコノミーの参加者を増やすことが目的なのですね。

トークンエコノミーは「社会の仕組み」を大きく変える!

 鉄道、電気、郵便、通信などの、いわゆる「社会インフラ事業」。
 日本では、これまで国が投資して、国民にサービスを提供してきましたが、ニーズの多様化や投資の負担増などにより、民営化の動きが進んでいます。

 高さんは、こうした民営化への動きが拡大していけば、近い将来、最終的には行政機関の運営や警察活動までも民営化されていくのではないかと考えています。

 そうなれば、行政機関ではなく民営化した企業がサービスを提供し、国民はそのサービスを受ける「消費者」として、通信会社の料金プランを選ぶ感覚で自分にあった行政サービスを選択する時代が到来するかもしれません。
 さらに、自国の行政代行サービスで成功した民営化企業が、より大きな利益を求めて海外進出を図る、といった動きも出てくる可能性があります。
 つまり、海外での社会インフラの投資を積極的に行ったり、開発途上国の国営企業を買収したりするなどして、自国以外でもさまざまな行政サービスを行う民営化企業が登場する可能性があるのです。
 実際、民営化した日本郵便は、現在、オーストラリアに進出しています。
 こうした海外進出が当たり前になっていけば、「消費者」(国民)にとって行政サービスの選択の幅がますます広がっていくことになります。もしかすると、「日本に住みながら、シンガポールの行政サービスを利用し、シンガポール行政に税金を納める」という未来もあり得るかもしれません。

 このように行政サービスにおける「国境」があいまいになっていくと、これまで「国の税収」と見なされていたお金は「企業の売上げ」として扱われるようになり、「国民」は「サービス利用者」、「税金」は「サービスを利用したことへの対価」と、それぞれ定義を変えていくかもしれません。
 では、その際、どういう「お金」が使われるのでしょうか。
 行政サービスの「国境」があいまいになることは、「国家」の区別もあいまいになることを意味します。
 そうなると、これまで使われていた「法定通貨」の価値は下がらざるを得ず、それに代わる、世界共通で支持される「通貨」が求められるようになるでしょう。
 それと同時に、国や民族に関係なく、特定のライフスタイルでつながった人々が、ブロックチェーンとトークンによってやりとりをする経済圏、つまりトークンエコノミーがますます増えていくのではないでしょうか。
 このように、ブロックチェーン技術を活用したトークンエコノミーの出現は、これまでの社会の仕組みそのものを見直し、ガラリと変えていくだろうと私は考えています。

『トークンエコノミービジネスの教科書』 第5章 より 高榮郁:著 KADOKAWA:刊

 さまざまなトークンがインターネットを通じて、世界全体に広がる。
 それにより、これまでの枠組みにとらわれないトークンエコノミーがどんどん出現する。

 そうなると相対的に、国や法定通貨の地位は下がっていくのは、間違いありません。

「どの国に属しているか」より「どのトークンエコノミーに属しているか」が重要。

 近い将来、そんな時代が来るかもしれませんね。

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 高さんは、「トークンエコノミー」という地域経済の切り札になるような技術をいち早く取り入れることができれば、日本特有の「こだわり」や「おもてなし」を生かし、もう一度日本を活性化させられるのではないか、とおっしゃっています。

 法定通貨を介した従来の経済活動では、生産性や効率性が重視されます。
 そこで生き残るには、同一規格の製品やサービスを大量生産する必要がありました。

 トークンエコノミーは、一部のコアなファンにしか受け入れられなかったオタク的な製品でも、世界を舞台に売り込める可能性を高めてくれます。

「ガラパゴス」とも揶揄された、日本独自のこだわりや文化が大きな武器になる。
 そんな時代が近づいていると思うと、楽しみですね。

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