【書評】『時間術大全』(ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー)
お薦めの本の紹介です。
ジェイク・ナップさんとジョン・ゼラツキーさんの『時間術大全』です。
時間術大全 | ||||
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ジェイク・ナップ(Jake Knapp)さんは、著述家、IDEO客員研究員です。
Googleであらゆる仕事を最速化する仕事術「スプリント」を生み出し、Gmailの改良に生かすなど大きく貢献されました。
ジョン・ゼラツキー(John Zeratsky)さんは、YouTube、Googleなどのテクノロジー企業で、デザイナーとして「時間」を再設計するミッションに携われてきました。
私たちの時間を奪う「2つの力」とは?
ほとんどの現代人は、忙しくバタバタしていて、「時間がない」ことに悩んでいます。
私たちから「時間」を奪っている、大きな2つの力。
それは、「多忙中毒」と「無限の泉」です。
多忙中毒とは、忙しいのよしとする考え方
のこと。
無限の泉とは、スマホのアプリなど、コンテンツがたえず補充されるもの
のことです。
著者は、「多忙中毒」と「無限の泉」の2つの要因がなぜ強力かといえば、それらが生活の“デフォルト”になっているから
だと指摘します。
そんなわけで、あなたは多忙中毒と無限の泉のあいだで引き裂かれそうになっている。
でも、あなたはこんなことでいいのか? 日々の生活や人生に何を求めるのか? こういうデフォルトを、自分で決め直したデフォルトに書き換えられたらいいと思わないか?
「意志力」は脱出口にならない。
僕ら自身、いま挙げたような誘惑に抵抗してきたから、それがどんなに手に負えないものかよくわかっている。また長年テクノロジー業界で働いた経験から、アプリやゲーム、デバイスにいくら抵抗しても、結局は根負けしてしまうことも知っている。
「生産性の向上」も解決策にならない。
実際、僕らは雑用にかける時間を減らし、やるべきことをもっとつめこもうとしてきた。問題は、片づけても片づけても、すぐにまた別の仕事や要求がやってくることだ。ハムスターの回し車のように、速く走れば走るほど、ますます回転は速くなる。
だが気を散らすものから注意を引き離し、自分の時間の主導権を取り戻す方法はたしかにある。そこで役に立つのが、この本だ。
「メイクタイム」は、何に集中したいかを決め、それを実行するためのエネルギーを蓄え、デフォルトの悪循環を断つことによって、自分の生き方に意識的に向き合うための枠組みだ。
「スケジュール」は完全にコントロールできなくてもーーそんなことができる人はまずいないーー「注意」を向ける先は完全にコントロールすることができる。これから自分のデフォルトを設定する方法を説明しよう。この新しい習慣と新しいマインドセットをもてば、世界にいちいち反応するのをやめ、自分にとって大事な人や、大事な活動のための時間を積極的につくれるようになる。
これは「時間の節約」とは違う。大事なことのために時間を“つくる”方法なのだ。
この本のアイデアを実践すれば、予定表に、脳に、毎日に余裕ができる。
この余裕のおかげで、明晰(めいせき)な思考と穏やかな心をもって日々をすごすことができる。新しい趣味を始めたり、「いつかやりたい」と思ってきたプロジェクトに取りかかったりする機会ができる。創造のエネルギーを取り戻し、新しく生み出すこともできる。『時間術大全』 INTRODUCTION より ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー:著 櫻井祐子:訳 ダイヤモンド社:刊
本書は、画期的な時間術「メイクタイム」のノウハウをわかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「メイクタイム」の仕組み
メイクタイムは、4つのステップから成り立っており、これを毎日くり返すのが基本です(下の図1を参照)。

図1.メイクタイムの「4つのステップ」
(『時間術大全』 メイクタイムのしくみ より抜粋)
ハイライト:毎日「最重要項目」を選ぶ
メイクタイムの最初のステップでは、何のために時間を作るのかを決める。毎日、その日の優先事項としてスケジュールを確保する活動(=ハイライト)を1つ決めよう。
大事な仕事(プレゼンテーションの準備など)でもいいし、家庭での活動(夕飯づくり、ガーデニングなど)でもいい。やる必要はないがやりたいこと(子どもと遊ぶ、読書など)でもいい。
また、ハイライトは複数のタスクを含むものでもかまわない。
たとえばプレゼンテーションの準備を仕上げるには「結びの言葉を書く」「スライドを完成させる」「リハーサルをする」といったタスクが含まれるかもしれない。ならば、「プレゼンテーションの仕上げ」をハイライトに選べば、必要なすべてのタスクが対象になる。
1日中ハイライトだけに取り組むわけではないが、とにかくそれが最優先事項になる。
「今日のハイライトを何にしよう?」と考えることで、自分の大事なことに時間を使えるようになり、他人の優先事項に反応して丸1日を無駄にしたりせずにすむ。ハイライトを選ぶことで、前向きで積極的な気持ちになれるのだ。
(中略)
レーザー:「気を散らすもの」を撃退するメールやSNS、ニュース速報などの気を散らすものはどこにでもあり、この先もなくなることはない。洞窟に暮らし、ガジェットを捨て、テクノロジーを完全に断つなんてことはできないだろう。
でも、反応のサイクルを断ち切るために、テクノロジーの使い方をデザインし直すことはできる。
この項ではテクノロジーを調整して、レーザーモードに入りやすくする方法を教えよう。
SNSのアプリからログアウトする、時間を決めてメールチェックするといったちょっとした変更が大きな成果を生むこともある。集中力を高める具体的な戦術を紹介しよう。チャージ:体を使って「脳を充電」する。
集中力を高め、大事なことのための時間をつくるには、脳にエネルギーが必要だ。そのエネルギーは、体をケアすることで生まれる。メイクタイムの3つめの要素として、この「運動や食事、睡眠、静寂、親密な時間などでバッテリーを充電(チャージ)する」ことが入っているのは、そのためだ。
これはあなたが想像しているほど難しいことではない。
21世紀のライフスタイルは、人類進化の歴史を無視して、僕らからエネルギーを奪うかたちになっている。これは考えようによってはラッキーなことだ。現状が本来あるべき状態とあまりにもかけ離れているから、簡単に修正できる余地が大きいのだ。
このセクションでは、仮眠や運動、カフェインの戦略的利用などの戦術を紹介する。健康マニアになれとか奇抜なダイエットをしろなんて言わない。僕らが提案するのは、ちょっとした変更でやりたいことをやるエネルギーが直ちに得られる方法だ。チューニング:システムを調整、改善する
最後のステップとして、「寝る前にメモをとる」。超簡単なことだ。どの戦術を続けたいか、改善したいか、やめたいかを考えるのだ。その日のエネルギーレベルがどうだったのか、ハイライトの時間をつくれたか、その日何に喜びを感じたかを振り返ろう。
これを続けるうちに、あなたの習慣と日課、脳と体、目標と優先事項にぴったり合った毎日のシステムができあがる。『時間術大全』 メイクタイムのしくみ より ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー:著 櫻井祐子:訳 ダイヤモンド社:刊
著者は、全部の戦術を一気に試す必要はない
とし、むしろ戦術を選び、試し、繰り返して
みることを勧めています。
各セクションから一つずつ、自分に合いそうなものを探して、やってみる。
そんな気軽な感じで始めるのがコツですね。
「バーナーリスト」をつくる
最初に「ハイライト」を決める作業から。
ジェイクさんのやり方は「バーナーリスト」をつくることです。
このリストを作成すると、「目の前のすべてのプロジェクトやタスクを引き受けるのは無理」という事実をいやでも認識させられる。
時間や精神エネルギーと同様、バーナーリストのスペースは限られている。だからリストのおかげで、必要なときには「ノー」と言って最優先事項に集中し続けることができるのだ。つくり方を説明しよう。▶1.紙を2つに分ける
白紙のまんなかに縦線を引き、左右に分割する。ページの左側が手前のバーナー(コンロ)、右側が奥のバーナーになる。
▶2.最重要プロジェクトを手前のバーナーに置く
手前のバーナーに置くのは1つのプロジェクト(または目標)だけ。2つでも3つでもなく、1つだ。
左上に「最重要プロジェクト」の名称を書き、下線を引く。そのすぐ下に最重要プロジェクトのタスクを書き出す。プロジェクトを前進させるために必要なタスクのうち、ここ数日でやれそうなものを全部書き出そう。▶3.カウンター(調理台)のスペースは空けておく
左側の残りのスペースは空けておく。考え得るタスクを全部書いてスペースを埋め尽くしたい気持ちはわかるが、バーナーリストをつくる目的は、紙面を効率よく埋めることじゃなく、時間とエネルギーの有効活用だ。
ここに空白があると、最優先プロジェクトの新しいタスクをどんどん書いていけるし、同じくらい大切なこととして、周りに余白があると、重要なことに集中しやすくなるというメリットもある。▶4.2番めに大事なプロジェクトを奥のバーナーに置く
右側のいちばん上に、「2番めに大事なプロジェクト」の名称を書いて下線を引き、タスクをその下に書き出す。
要は、コンロで料理をするときと同じように、時間と注意を振り分けるということだ。注意を集中させるのは主に手前のバーナーだが、奥のバーナーのことももちろん意識して、ときどき鍋をかき混ぜたりパンケーキをひっくり返したりする。だがメインはあくまで手前のバーナーだ。▶5.キッチンシンクをつくる
最後に、右側の下半分に、最重要プロジェクトや2番めに重要なプロジェクトとは無関係だが、やらなくてはならないタスクを書き出す。3番め、4番めに重要なタスクであれ、全部一緒くたにキッチンシンクに放り込む。
バーナーリストには、何でもかんでも書き入れるスペースはないから、重要でないものを切り捨てなくてはいけない。だが先にも言ったように、そこがいいのだ。
大きなプロジェクトが1つと、小さなプロジェクトが1つ、その他の雑多なタクスがいくつか。これが、僕が一度にやれる(またはやるべき)ことのすべてだ。1枚の紙に書き切れないことは、生活にも入り切らない。
バーナーリストは使い捨てで、やること項目をいくつか終えるたびに捨ててしまう。僕はたいてい数日ごとにリストを捨て、そのつど新しいものをつくり直している。
リストをつくり直すという行為が、このリストの売りだ。重要でなくなった未完のタスクを切り捨てられるし、いまの時点でどのプロジェクトを手前と奥のバーナーに置くかを改めて考え直す機会になる。
最優先のバーナーに置くのは仕事のプロジェクトのときもあれば、私的なプロジェクトのときもある。状況が変化するのはあたりまえだ。このリストで重要なのは、手前のバーナーにおけるプロジェクトは一度に1つだけということ。
それじゃ、料理を始めよう!『時間術大全』 ハイライト戦術:ハイライトを選ぶ より ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー:著 櫻井祐子:訳 ダイヤモンド社:刊


図2.「バナーリスト」のつくり方
(『時間術大全』 ハイライト戦術:ハイライトを選ぶ より抜粋)
タスク管理も、料理も、手際よく効率的にやることがコツ。
バーナーリストは、まさにタスクを“料理”するための大きな武器になりますね。
「バリア」を取り戻す
レーザーモードとは、まるでレーザー光線が標的に照射されるように、いまこの瞬間に注意が向いている
状態のことです。
私たちの周りには、依存性のある「気を散らすもの」が溢れています。
それらに惑わされず、レーザーモードに入るには、どうすればいいのでしょうか。
僕らのようなプロダクトデザイナーは、製品をできるだけ使いやすくするために、バリアを取り除くことに過去数十年費やしてきた。だがレーザーモードに入ってハイライトに集中するには、バリアを取り戻すことがカギになる。
これから数ページで、自分だけの気が散らないスマホをつくる(戦術17)などして、レーザーモードに入り、集中を維持する戦術を紹介しよう。
どの戦術も、根底にある考え方は同じだ。
気を散らさないようにするには、すぐに反応できないようにするのがいちばんということ。
フェイスブックをチェックしたり、ニュースを追ったり、テレビをつけたりする妨げになる、「スピードパンプ」(減速帯)のようなステップを加えることで、こうした製品・サービスの粘着性を高めているサイクルを断ち切ることができる。
ほんの数日で新しいデフォルトができあがる。注意散漫の状態から集中した状態へ、ただ反応するだけの状態から意識的な状態へ、混乱した状態から自分をコントロールできる状態へシフトできる。
要は、ちょっとだけ不便にするのだ。
気を散らすものに簡単にアクセスできなければ、意志力の心配をしなくてすむ。時間を無駄にする代わりに、時間をつくることにエネルギーを向けられる。
(中略)
注意散漫と集中のあいだを揺れ動くのをやめ、レーザーモードにどっぷりひたれば、「いちばん大事なことのための時間」を、それも「質の高い時間」をつくることができる。
何かに気を取られるたび、集中の深さが犠牲になる。たとえば絵を描いていたのを中断して、メッセージを返信し、また絵に戻るといったように、注意の対象が変わると、そのつど切り替えコストがかかる。脳はそのたびに別のルールや情報をワーキングメモリにロードしなくてはならない。この「起動」プロセスには最低でも数分、複雑なタスクだとさらに長くかかることがある。
たとえば、僕らは最高の仕事ができる状態になるまで2時間ぶっ続けで執筆することもあるし、ゾーンに入るまでに何日もかかることもある。
これは複利計算に似ている。ハイライトに集中し続ける時間が長ければ長いほど、ますます没頭し、仕事(や遊び)でますますよい成果を挙げられる。『時間術大全』 LASER より ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー:著 櫻井祐子:訳 ダイヤモンド社:刊


図3.集中度と時間の関係
(『時間術大全』 LASER より抜粋)
上の図を見ると、集中する時間を続けることの重要性がわかります。
それに、気を散らすことが、どれだけ生産性を阻害するかも理解できますね。
いつでもどこでも誰とでも、つながろうとすれば、つながることができる便利な世の中。
だからこそ、必要なときにしっかり「バリア」を築くことが大切だということですね。
「ダークチョコレート主義」を通す
「チャージ」とは、エネルギーを高めること。
エネルギーがあるときは、集中力を維持し、優先順位を守り、気を散らすものや他人の要求に反応するのを避けやすい
です。
著者は、バッテリーが満タンだと、いまここに集中し、明晰な頭脳で考え、目の前のことにデフォルトで反応せず、大事なことに取り組み続けることができる
と述べています。
著者が、エネルギーを高めるための方法の一つとして挙げているのが、「ダークチョコレート主義を通すこと」です。
当分の摂りすぎはシュガーハイ[糖分による興奮状態]を招き、シュガーハイはシュガークラッシュ[血糖値の急降下]を招く。
高いエネルギーレベルを保つには甘いおやつは避けるべきだとわかっている。でも、デザートをやめるのは正直とても難しい。
それなら、ガマンしなくていい。代わりにデフォルトを変えよう。ダークチョコレート[乳製品を含まない、カカオ分が高いチョコレート]に限り、デザートを食べていいことにするのだ。
ダークチョコレートは、ほとんどのスイーツより糖分がずっと少ないから、シュガークラッシュを起こしにくい。ダークチョコレートに健康効果があることも、多くの研究で示されている。
それにコクがあっておいしいから、たくさん食べなくても欲求が満たされる。
ひとことで言えば、ダークチョコレートはヤバいほどすばらしいから、みんなもっと食べたほうがいい。僕は大の甘党だが、2002年から「ダークチョコレート主義」を通している。ことの始まりは、妻のホリーと一緒に、シアトルからポートランドまで車で旅したときのことだ。
途中立ち寄ったガソリンスタンドで、コーラのジャンボボトル1本とラムネ1袋、ロリポップ1本を買い、飲み食いしながら運転していた。
すっかりシュガーハイになった僕は、スーパーマリオブラザーズのモノマネを効果音入りで5分間も実演するはしゃぎぶりだった。
そしてやってきたのが、破滅的なシュガークラッシュだ。その日の残りのドライブは助手席に沈み込み、頭がズキズキするとぼやき続けて、ホリーに笑われた。
この「ロリポップ事件」(とのちに呼ばれるようになった)をきっかけに、僕はようやく理解した。糖分を摂りすぎると、あとで気分が悪くなる。
そこで僕は、当時健康効果が話題になっていたダークチョコレートを、いつものデザートの代わりに食べるようにした。最初は苦味に慣れなかったが、そのうち味蕾(みらい)が適応してくると、普通のデザートを甘すぎると感じるようになった。
いまも週に2日はアイスクリームやクッキーを食べるが、それは意識的に食べるおやつだ。デフォルトではダークチョコレートを食べるから、エネルギーレベルが安定し、妻に笑われることもなくなった・・・・・少なくともロリポップ事件のことではね。『時間術大全』 チャージ戦術:「リアルフード」を食べる より ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー:著 櫻井祐子:訳 ダイヤモンド社:刊
糖分の摂り過ぎは、健康に悪影響を与えるのは言うに及ばず、生産性にも深刻なダメージを与えます。
ダークチョコレートをおやつやデザートにすることで、それも一挙に解決ですね。
最初は、苦味が気になるかもしれませんが、慣れれば、その深い味わいに病みつきになります。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
著者は、
どんな目標を目指す人も、メイクタイムを実践すれば、好きなことのためにいまよりもっと時間をつくり、もっと集中できるようになるとおっしゃっています。
時間をつくれば、好きなことをできる時間が増えます。
好きなことをする時間が増えれば、集中力が高まり、生産性を上げようというモチベーションも高まります。
そんな“生産性向上スパイラル”を創り出すこと。
それが、時間術をマスターするための秘訣なのでしょう。
本書にある87の“戦術”から、自分に合ったものを選んでやってみる。
すべては、そこから始まります。
「忙しい」が口ぐせのビジネスパーソンに、ぜひ、一読して頂きたい一冊です。
時間術大全 | ||||
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