【書評】『いまこそ知りたいシェアリングエコノミー』(長田英知)
お薦めの本の紹介です。
長田英知さんの『いまこそ知りたいシェアリングエコノミー』です。
いまこそ知りたいシェアリングエコノミー | ||||
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長田英知(ながた・ひでとも)さんは、Airbnb Japan株式会社の執行役員です。
「シェアリングエコノミー」とは何か?
私たちの社会は、今、大きな時代の転換点を迎えています。
それを象徴する言葉の一つが「シェア」です。
長田さんは、「シェア」という考え方と、それに基づき設計される新しい経済システムは、この社会変化の中で多様な生き方を実現するための基盤となるだろう
と指摘します。
実は、シェアという考え方は新しいものではなく、昔から日本のコミュニティを支える重要な役割を担っていました。本書は、「シェア」が社会にどのように浸透し影響を与えるのか、その中で私たちはどのように生き抜けばいいのか、わかりやすく解説した一冊です。
しかし、近年の新しいテクノロジーは、シェアの概念を「シェアリングエコノミー」という新しい経済システム(本書では「共用経済」という言葉で説明します)にまで昇華させることを可能にしました。
そして、この新しい経済システムに立脚した新しい働き方やビジネスモデルが、次々と生まれ、進展しようとしています。
今の時代、限られた人的資源と投資マネーで付加価値を生み出すために、これまでのように大規模投資を行うことによって新しいインフラをつくっていくのは現実的ではありません。
それよりも、今ある資産をシェアという概念でよみがえらせ、より少ない投資で新しい事業を始める仕組みや働き方を推進していくほうが賢明で、新たな活路を確実に見いだせます。
シェアが一般的になれば、会社に勤めている人も本業以外で収入を得られる選択肢を少ない投資コストで確保することができます。
出産や育児、親の介護などの理由で、フルタイムの仕事ができないときは、自分がそれまでに培ってきた経験やスキルを活かし、空いている時間を活用してお金を稼ぐことが可能になります。そしてシェアは人と人をつなぎ、新たなコミュニティを生み出します。
このように、シェアは社会の新たなセーフティネットとなるのです。
私たちは今、社会構造と物事の考え方を大きく変える潮目にきています。
これまで前提としてきた資本主義という経済システムを補完、あるいは代替する可能性を秘めている共用経済への転換期は、まさに今です。 『いまこそ知りたいシェアリングエコノミー』 はじめに より 長田英知:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「これまでのシェア」と「これからのシェア」
日本には、今までに「シェア」の概念は存在していました。
長田さんは、それらを「従来型のシェア」として、以下の3つのタイプに分類しています。
扶け合いとしてのシェアとは、「味噌や醤油の貸し借り」などコミュニティのルールが守られ、みんなで扶け合いながらシェアを行っていく仕組み
のことです。
公共としてのシェアとは、水道や電気など政府・自治体が提供しているインフラサービス
のことです。
営利としてのシェアとは、レンタカーやCD・DVDのレンタルなど企業がモノを所有し、会員である利用者にモノを提供する仕組み
のことです。
「従来型のシェア」と「新しいシェア」。
両者には、どのような違いがあるのでしょうか。
長田さんは、その違いを「2つの軸」を使って以下のように説明しています。
ひとつめの軸は、決められた地縁・血縁・行政区域などの「閉じられた」範囲でサービスが提供されているのか、それとも利用者のニーズに応じて「開かれた」範囲で柔軟にサービスが提供されているのかという、対象範囲を示す軸です。
そして2つめの軸は、シェアが一方的なのか、それとも双方向なのかという、提供者と利用者の関係を示す軸です。
以上の2つの軸で考えてみたとき、従来型のシェアと社会的共用としてのシェアは、それぞれどのように位置づけられるのでしょうか。
まず、「従来型のシェア」から考えていきます。
コミュニティによる「扶け合いとしてのシェア」は、限定的なエリア(第1の軸)における双方向の貸し借り関係(第2の軸)で成立しているサービスと位置づけられます。
次に「公共としてのシェア」は、よりサービス提供範囲が広がりますが、その範囲は政府や自治体の行政区域というように境界がきちんと定められた圏内に限られる(第1の軸)という点で、「扶け合いとしてのシェア」と類似性があります。
しかし、対象者との関係性は「扶け合いとしてのシェア」と異なります。
「公共としてのシェア」の提供者である政府・自治体は、常にサービスを提供する側であり、国民・市民は常にサービスを利用する側です。このように、その関係性は一方向に固定(第2の軸)されています。
3つめの従来型のシェアである「営利としてのシェア」も、一方向の関係性(第2の軸)でサービスを提供していますが、サービスの提供範囲に地縁・血縁・共同体などといった枠組みがない(第1の軸)という点が特徴です。
すなわち提供者は、ニーズがある限り、特定の地域を超えて日本全国、さらには世界にもサービスを提供できます。
ではこれら3つの従来型のシェアと比較したとき、新しいシェアは、どのように位置づけられるのでしょうか。
新しいシェアの特徴は、「あるコミュニティ・ネットワークに属する見知らぬ個人間(第1の軸)の双方向の取引(第2の軸)」を可能にした点です。
利用者が提供者になり、提供者が利用者になれることは、お互いをよく知っている地縁・血縁関係の間や、すでにさまざまな情報が公開されている企業間のサービスとしては考えやすいと思います。
しかし、新しいシェアのサービスは、見知らぬ企業、個人間の双方向のやり取りを「低コスト・低リスク」で実現しているところに、大きなイノベーションがあるのです。 『いまこそ知りたいシェアリングエコノミー』 第1章 より 長田英知:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊
図1.各シェアの提供者と利用者の関係性
(『いまこそ知りたいシェアリングエコノミー』 第1章 より抜粋)
サービスの提供範囲も、限定されずに飛躍的に拡大する。
そんな新しいシェアの大きな特徴は、
誰かが所有し、普段利用しているモノが、利用されず「余剰」状態にあるときに他の誰かがアクセスし、利用できる点にあります。
したがって、新しいシェアは、アイデア次第で誰もが
新たな投資を行わなくても既存のインフラやリソースの余剰で市場が成立し得るサービスを創り得るということです。
「音楽・映像コンテンツの共用」の特徴
社会的共用の市場が最初に出現したのは、音楽や映像などのコンテンツをシェアするサービス
です。
2001年にAppleのiPodとiTunesが登場しました。
長田さんは、コンテンツの社会的共用サービスは、著作権を有するデータの価値の概念を大きく変え
たと指摘します。
音楽や映像がCDやDVDなどの記憶媒体の形式で提供されていた時代、CDアルバムは「1枚◯円」といった形で、1作品、1ハードディスクごとに値づけがされていました。またレンタルされるとき「1日◯円」「1週間◯円」という形で、レンタル期間に応じて値づけがされていました。iPodの登場は、世界に大きな衝撃を与えました。
第2フェーズのコンテンツがダウンロードされる時代も状況に変わりはありませんでした。課金は、アルバム、あるいは楽曲単位で行われ、個人で購入した楽曲以外は楽しむことができませんでした。
しかし、Amazon,Apple,Spotify,Netflix,Huluなどの音楽や映像配信サービスは、オンライン上でのデータ配信を月単位の定額制という形に置き換えました。
これにより、顧客は一定金額を支払えば、膨大なコンテンツに制限なくアクセスできるようになりました。
日本でのAmazon Primeの年会費は、3900円です(2019年現在)。
CD2〜3枚分の金額で、1年間という限定はあるものの、100万曲以上の楽曲にアクセスができるようになったのです。
しかしこれは、見方を変えると、一つひとつのコンテンツの価格が限りなくゼロに近づいているといえます。
その結果、コンテンツ共用サービスの事業者は、コンテンツの「総体としての魅力」で顧客から定額のお金を獲得し、コンテンツを制作したアーティスト間で収益を公平にシェアする仕組みをつくることを目指すことになります。
また、提供されるコンテンツの価値は、CDやDVDが何枚売れたかではなく、実際に何回「再生」されたか、つまり、その共用サービスの総利用時間にどれだけ貢献したかによって測られるようになるのです。
このように、社会的型共用サービスは、サービスのあり方を所有から共用へ変えることで、モノやコンテンツの価値を大きく変えたのです。
共用によるシェアのもうひとつの特徴は、共用が容易であるために、競合間の差別化が難しいという点です。
プロのアーティストによるコンテンツは膨大であるとはいえ、実際に視聴される(=同サービスの利用時間に貢献する)人気コンテンツは限定的です。また先述したように、アーティスト側はコンテンツの再生時間を稼がないと売上につながらないため、複数の事業者に同じコンテンツを提供することでインセンティブが生まれます。そうするとサービス事業側も、既存の人気コンテンツを配信するだけでは差別化ができないため、音楽配信サービスでは音楽のリミックス(オリジナル楽曲のアレンジ)や過去の視聴履歴に基づく新しい音楽のレコメンド機能を充実させることで差別化を図っています。
また、映像配信サービスでは膨大な資金を投じて独自コンテンツを自社制作することで利用者の囲い込みにかかっています。
その結果、音楽・映像配信サービスは、インターネットに戦場を移したテレビやラジオなどに近い存在へと変わりつつあるように思います。
そこでは独自コンテンツの制作の良し悪しや既存コンテンツのキュレーションの巧(たく)みさが価値を生み出すようになっているのです。 『いまこそ知りたいシェアリングエコノミー』 第2章 より 長田英知:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊
音楽の聴き方を根底から覆す、画期的なアイデアでした。
今は、あらゆる業界で音楽におけるiPodと同じようなサービスが生まれている状況といえます。
この流れは、ますます加速していくことでしょう。
「セーフティネット」としてのシェア
社会的共用サービスは、本業と両立可能な副業の手段を提供
します。
それらは、本業を一時的に離れたり、キャリアチェンジをしようとしたりするときの安全策(セーフティネット)としても有効な手段として機能
します。
これまでも、内職やアルバイトなどの副業は一般的にありましたが、社会的共用サービスと内職、アルバイトでは、提供者と働き手の関係性に大きな違いがあります。提供者と働き手が、インターネットやSNSを通じて、瞬時にマッチングされる。
内職やアルバイトでは、仕事を提供する側が優位にいます。募集される仕事の多くが代替可能な作業であり、その結果、サービス提供者側に働き手を選ぶ決定権がある場合がほとんどだからです。
一方、社会的共用サービスでは、サービスの提供者と利用者が対等な立場で交渉することを可能にします。
その理由は、社会的共用サービスで提供される価値の多くがオリジナリティを有するものであるということです。
たとえば、リソースの共用サービスとして自宅を貸す場合、利用者は室内のインテリアやホストの人柄でサービスを選びます。
またスキルの共用サービスを行う場合、利用者は提供者の人柄やこれまでの経験でサービスを選びます。
つまり、サービスがユニークさや体験価値で選ばれるため、コモディティ化のワナを避けることが可能になるのです。相互評価の仕組みも、お互いを尊重する関係性の構築に貢献しています。
こうした自分のオリジナリティを核とした共用サービスを普段から副業として提供すれば、ベーシックインカムを確保することができます。また、社会的・経済的に弱者であった人々が、共用サービスを通じてビジネスを通じてビジネスや経済システムと関わり、新しい形で収入を得る手段を獲得することも可能にしています。
ホームシェアや体験などのリソース、スキルの共用サービスは、女性の活躍の幅を広げることにも一役買っています。
日本でホームシェアを行っている女性ホストの年間収益は約8784ドル(約92万円)で世界第14位(2017年)です。また日本の女性ホストは全体の約46%を占めており(2018年時点)、これは、アジアでトップの数字です。平均の収益金額だけ見ると、アルバイトのほうが儲かるように思えるかもしれません。しかし育児をしながら仕事を続ける場合、どうしてもさまざまな制約が出てしまいます。一方、自宅の空き部屋を貸し出してホームシェアを行えば、家に居ながら社会とつながり、収入を得ることができます。
今まで経済価値として換算されていなかった家事スキルや主婦の能力の余剰が、社会的共用サービスを通じて経済価値となり収益化できることは、大きなパラダイムシフトであるといえます。
このように、社会的共用としてのシェアサービスは、マズローの5段階欲求説でいうところの「高次の欲求」から「低次の欲求」までも満たすことができるのです。 『いまこそ知りたいシェアリングエコノミー』 第4章 より 長田英知:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊
そして、提供者と働き手がイーブンの関係である。
新しい「シェア」は、これまで社会に埋もれてきた潜在力を掘り起こす力を持っています。
個人にとってはセーフティネットになり、社会にとっても労働生産性の向上をもたらす。
社会的共用サービスの広がりは、まさに世界を大きく変える可能性がありますね。
集合住宅ホームシェアの画期的ルール
社会的共用サービスの多くは、まだまだ新しい概念のサービスであり、イメージしづらいサービスも多くあります。
そのため、利用するのに二の足を踏む人も少なくないのが現状です。
長田さんは、このようなサービスを地域で根づかせていくためには、関係者の理解やサポートを得て、WIN-WINの関係をつくることが大切
だと述べています。
周りとの関係性を築く仕組みづくりの例として、集合住宅におけるホームシェアの取り組みについてご紹介します。住む人がいない住宅、借り手のいないマンションが急増している。
住宅宿泊事業法によると集合住宅内の空き部屋を活用して、ホームシェアを行うケースでは、当該集合住宅における管理規約上の合意が必要とされています。
しかし、管理規約でホームシェアが認められても、その集合住宅に住んでいる他の住民にとっては施設内のセキュリティやプライバシー保護が気になるところです。
たとえば、ゲストが集合住宅内の部屋に宿泊することになったとき、共用部分や他フロアーへのアクセスをどのように考えるかなど、建物全体のプライバシーやセキュリティ、コミュニケーションのあり方を考える必要が出てきます。
Airbnbでは、このようなニーズに対応するため、不動産会社との提携による新しいデザインを開始しています。
それが、「フレンドリービルディングスプログラム」です。
フレンドリービルディングスプログラムの基本的なコンセプトは、個人がホームシェアを通じて得た利益を、集合住宅の住民全体の利益につなげるような仕組みをつくることです。
一般的にホームシェアで利益を得られるのは、部屋を貸しているホストだけで近隣住民がホームシェアの便益を享受することはありません。
しかし集合住宅でホームシェアをする場合、エントランスホールやエレベーター、その他の共用施設を、管理費を支払っていないゲストが使うことになります。この点をふまえると、集合住宅に住んでいるホームシェアをしていない他の住民にも何らかの便益を与えてよいのでは、と考えられます。
このような問題意識をもとに、集合住宅としてのホームシェアのルールを明確にして、宿泊者を見える化し、管理費・共用費の負担を傾斜配分にすることを仕組み化したのがフレンドリービルディングスプログラムです。
Airbnbのフレンドリービルディングスプログラムでは、ホストとオーナー、管理組合と協力しながら次のことを行えるようにしています。この仕組みの大きな特徴は、部屋を貸し出す人だけでなく、集合住宅の管理組合も利益を得られるということです。
- 全員が納得できるホーシェアのための規約などの改定(営業禁止期間などの設定)
- 誰がいつゲストを受け入れているかという情報を管理組合の権限者に見える化
- 入居者とオーナー・管理組合の間で、宿泊による収益を分配
こうした仕組みがうまく稼働すれば、空き部屋で悩んでいる多くの団地やリゾートマンションに有効な解決策を提供できるでしょう。
たとえば、バブル期に建設された観光地のリゾートマンションの多くは、空き部屋を抱えています。
これらの空き部屋をオーナーの了解を得たうえで、管理組合が空き部屋のシェアを行うことができれば、オーナーも管理会社も空き部屋から収益を上げることができます。
また都市部でも、高度経済成長期に建てられた団地の空室問題の解消において、この仕組みは幅広い効果を発揮することが期待されます。
以上のような仕組みづくりを通じて、地域の人にサポートしてもらいながら社会的共用サービスを展開していくことが成功のカギになります。
そしてこのような取り組みは結果として、共用経済の健全な発達にもつながると私は考えています。 『いまこそ知りたいシェアリングエコノミー』 第5章 より 長田英知:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊
いわゆる「空き家問題」は、日本を巣食うシロアリのように静かに、しかし着実に進行しています。
ホームシェアのサービスは、その有効な解決策になり得ますね。
サービスを提供する会社だけでなく、行政も含めた社会全体で取り組むべき課題です。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
長田さんは、日本がこれまで行ってきた膨大なインフラ投資が有効に活用されていない現在、「最新のものがいいモノだ」という価値観から、古くても体験価値が高いモノこそがいいモノだい価値観へのパラダイムシフトを実現し、過去の蓄積を活かして資本主義経済から共用経済へと社会構造を転換していくことで、過去の日本が行ってきた膨大なインフラの蓄積を再定義し、新しい社会像を描くことは可能だ
とおっしゃっています。
もともと日本人には、伝統を重んじ、古いものを大切にする気質があります。
資本主義経済から共用経済への転換は、ある意味、“原点回帰”といえますね。
日本人の特長を活かし、日本がこれまで築いてきた眠れる資産を有効に活用する。
シェアリングエコノミーには、停滞する日本社会の復活の切り札になる可能性を秘めています。
「所有」から「共有」へ。
静かに、しかし確実に進行している変化の流れに乗り遅れないためにも、必読の一冊です。
いまこそ知りたいシェアリングエコノミー | ||||
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