【書評】『持続可能な資本主義』(新井和宏)

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 お薦めの本の紹介です。
 新井和宏さんの『持続可能な資本主義』です。

 新井和宏(あらい・かずひろ)さんは、ファンドマネージャーです。
 2008年に鎌倉投信株式会社を共同設立、現在、同社の投資信託「結い 2101」の運用責任者としてご活躍中です。

これからの時代に求められる「いい会社」とは?


 鎌倉投信は、投資判断をするのは、「いい会社」のみという、金融の世界では少し変わった存在です。
「いい会社」とは、以下の2つを満足する会社のことです。

  • これからの社会に必要とされている会社
  • 経済性と社会性を両立している会社
 そんな「いい会社」に長期で投資しようというのが、鎌倉投信の運用の基本方針とのこと。

「そんなきれいごとでうまくいくはずがない」。そう思われる方もいるでしょう。
 ところが真実は逆です。いまや経済性と社会性を両立する「いい会社」への長期投資は、ひとつの選択肢として定着しつつあります。
 その何よりの証拠が、鎌倉投信です。「いい会社」だけに投資している「結い 2101」の純資産総額は、2016年12月末時点で248億円超。運用を始めた2010年3月末は約3億円でしたから、6年間で80倍以上の増加です。
 さらに2014年の「R&Iファンド大賞2013」では、鎌倉投信が運用する「結い 2101」が、運用実績で投資信託・国内株式部門1位となりました。
 つまり「いい会社」だけに投資する投資信託が、日本一になってしまったのです。それは、とりもなおさず、「いい会社」が、この時代に必要とされていることを意味します。
「いい会社=これからの社会に必要とされている会社」が、なぜ成長しているのか?
 その直接的な理由は「社会性を追求すると、お客さまからの信頼が生まれるから」です。最近は、企業が提供する商品やサービスだけでなく、その姿勢や信念まで知りたいと思うお客さまからが増えています。その結果、「いい会社」にたくさんのファンが生まれ、応援される時代になってきているのです。
 もうひとつ、間接的な理由があります。それは「いい会社」がみな大切に育てている「見えざる資産」です。
 ふつう投資の世界では、現金、不動産、特許など資産として数値化可能な「見える資産」によって企業を評価します。でも、鎌倉投信は違います。鎌倉投信が重視するのは、経営者の資質、社風や企業文化、社員がいきいきと働けているかどうか、社内・社外に信頼関係は築かれているかなど、どこまでいっても数値化できない「見えざる資産」とでも呼ぶべきものです。

『持続可能な資本主義』 はじめに より 新井和宏:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 新井さんは、「いい会社」が資本主義の主役を担う時代はそこまで来ていると指摘します。

 本書は、これからの時代に求められている「いい会社」とは、どのような会社なのかをわかりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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リターン=資産形成×社会の形成×心の形成=幸せ


 普通の運用会社と鎌倉投信の違い。
 それを一言で表すと、「リターン」の定義が違うということです。

 一般的な金融機関にとって、「リターン=お金」です。
 この定義のもとでは、「効率よく稼げるかどうか」が最大のモノサシになります。

 人間の欲望には限りはなく、効率の良さも無限に追求できます。
 その結果、本来は幸せを手に入れる手段であった「お金を増やすこと」が、いつしか自己目的化していってしまいます。

 運用会社は、投資家の欲望に応えるために、効率よく稼げる金融商品を次々と作り出していきます。
 その典型的な例が、リーマン・ショックの発端となったサブプライムローンが組み込まれた証券です。

「100年に1度の大暴落」ともいわれるリーマン・ショック。
 そこで明らかになったのは、資本主義の本質的問題である「分断の構造」でした。

 リーマン・ショックでお金の出し手と受け手が分断されてしまっていたのは、効率を無限に高めようとしたからです。ではなぜ、金融は無限に効率を追求しないといけなかったのでしょうか? それは、いまの資本主義においては「リターン=お金」と定義されているからです。お金をリターンと考える限り、ゴールは無限となり、どこまでも効率的に稼ぐ方法を探さなければならなくなってしまう。
 この根本的な問題を解消しない限り、あるべき金融を実現することはできない。そう考えた結果、2008年11月に生まれた鎌倉投信は、金融の世界ではありえないリターンの定義を提示するに至ったのです。

 リターン=資産形成×社会の形成×心の形成=幸せ(図3、下図を参照)

 受益者が「資産」を増やし、同時に自分が投資したお金が「社会」を豊かにしたと実感できれば、結果として「心」も豊かになる。そしてその3つがかけ算されたとき、「幸せ」というリターンがもたらされる。そう考えることにしたのです。

 私たちの新しいリターンの定義は、「結い 2011」という投資信託の商品に具現化されています。
「結い 2011」は、運用当初から全産業の平均的な成長率である「期待リターン年率5%」を目標とし、目標が達成された場合には5%から信託報酬の1%を引いた4%が、受益者の方々に還元されます。別の言い方をすれば、「結い 2011」は、過度にリターンを求めないお客さまに買っていただいているのです。
 でも、お客様が得るリターンは「お金」だけではありません。「結い 2011」が投資するのは、これからの社会に必要とされる「いい会社」です(投資先はすべてホームページで公開し、それらの会社を「いい会社」だと考える理由も、さまざまな方法で受益者の方にお伝えしています)。

 自分が投じたお金が、「いい会社」を通じて社会の役に立っている。そして「いい会社」が成長し、社会が豊かになれば、受益者の心も豊かになる。これが「社会の形成」「心の形成」の意味するところです。
 これらすべてをかけ合わせ、「幸せ」というリターンを還元したい。「結い 2011」は、そんな思いを込めてつくりあげた金融商品なのです。

『持続可能な資本主義』 第1章 より 新井和宏:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

図3 鎌倉投信が掲げる新しいリターンの定義 第1章P38
図3.鎌倉投信が掲げる新しいリターンの定義
(『持続可能な資本主義』 第1章 より抜粋)

 価値観が多様化した今の世の中。

「お金よりも心の充実がほしい」
「自分のためだけではなく、もっと世の中の役に立ちたい」

 そんな考えを持つ人たちが増えてきたという証拠でもありますね。

「三方よし」から時代に合わせた「八方よし」へ


 近江商人の「三方よし」の言葉に代表されるように、日本には、以前から取引先や社会との関わりを大切にする商習慣があります。

 一方、欧米では、リーマン・ショックの反省から「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」が重視されるようになってきました。
 CSVの定義は、企業が事業活動を通して経済性(利益の創出)と社会性(社会課題の解決)を両立することです。

 日本的経営に内在する「三方よし」と、欧米が提唱するCSV。
 新井さんは、両者のベクトルはほぼ同じ方向を向いているといっていいと指摘します。

 近江商人の「三方よし」は「売り手よし、買い手よし、世間よし」、つまりかかわる人全員が幸せになることがその本質でした。一方、CSVで重要なことは、企業と社会どちらにとっても利益となる、「共通価値」を創造することにあります。
 そこで、双方のよいところを取り入れ、
 ①三方よしの「三方」を「八方」にしてみましょう
 ②その八方すべてのステークホルダーとの間に「共通価値」を見出しましょう。

 というのが私の提案です(図7、下図を参照)。
 現代は、「三方」で表せないほどに経済が複雑化しています。
「売り手」を構成する人でいえば、まず経営者と社員がいる。そして仕入先、外注先など、「社外社員」と呼ばれている取引先も売り手の構成員ですし、企業に融資をする銀行のような債権者も、取引先と同様、運命共同体です。株主もまた投資という形で、企業の活動資金を提供しているのですから、「売り手」の仲間です。
「買い手」に関しても、単に消費者だけが買い手ではありません。企業対企業の取引では、企業も買い手になります。事業に応じて、買い手の種類も多様化しているのです。
「世間」は、さまざまに解釈できると思いますが、地域、社会、国(政府)と考えると、おおよそカバーできるはずです。この「八方」は便宜上のものですから、それぞれの企業によって、その数は増えたり減ったりするでしょう。いずれにしても重要なことは、「三方」より細やかにステークホルダーを想定し、企業がそのすべての立場にとってメリットとなる「共通価値」をつくっていくことにあります。

「そんなものはきれいごとだ」「日々トレードオフの選択をしなければいけないのが、経営の厳しさだろう」というご意見をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、簡単なことではないでしょう。しかし、私たちは「八方よし」を実現する嘘のような本当の企業をこれまで何十社と見てきました。その中にはベンチャーもあれば大企業もあり、農業を扱うもあればIT企業も含まれます。どんな業態のどんな企業であっても、「八方よし」は必ず実現できます。いや、しなければならないのです。

『持続可能な資本主義』 第2章 より 新井和宏:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

図7 八方よし とは 第2章P87
図7.「八方よし」とは
(『持続可能な資本主義』 第2章 より抜粋)

「自分たちさえ利益が出せれば、それでいい」

 そんな自己中心的な考え方では、もはや通用しないということです。

 すべてのステークホルダーにとって「よい会社」であること。
 それが必要とされている会社です。

「八方よし」を実現すること。
 それが企業にとって、変化の激しい時代を生き抜くための武器となります。

「取引先・債権者よし」の経営


「八方よし」経営のなかで「取引先よし」とは、どのようなものなのか。
 新井さんは、ダイニチ工業という機器メーカーを例に挙げています。

 ダイニチ工業は、家庭用石油ファンヒーター、業務用大型石油ストーブ、加湿器で国内トップシェアを誇る新潟の企業です。
 季節性商品である暖房機器は、需要のピークに達する秋口から集中的に生産するのが一般的です。ただ、そうするとダイニチ工業の生産に合わせて、部品を供給する取引先の業績も不安定になってしまいます。
 彼らは「逆転の発想」で、この問題を解決しました。同社は一般的なメーカーとは逆に、季節に関わりなく、毎月安定的に生産を続けることで取引先の生活を守っているのです。
「そんなことをしたら、在庫の山ができてしまう」とお思いになるかもしれません。
 そのとおり、実際、夏場の工場は在庫が山積みになっています。
 もし、自社のことだけ考えれば、秋口に集中して生産する方がキャッシュフローはよくなるでしょう。しかし、それでは取引先の社員は必然的に季節労働者になってしまう。安定を求めて他業種へと流出すれば、やがて、ダイニチ工業の事業自体が成り立たなくなります。だから安定的な生産には、質の高い作業ができる取引先の社員が他業種に移るのを防ぐプラスの効果もあるのです。ただ、ダイニチ工業以外の企業が追随しないところをみると、やはり強い想いがないとできることではないのでしょう。

 同社の吉井久夫社長は「新潟で事業続ける価値は、この地域で雇用を生み、そこで暮らす人々の生活を支え、守ること。新潟に多くの働く場を作り出すことが、地域への貢献となる」とその経営理念を語っています。
 向上に山のように積み上がった在庫は、取引先を大事にする姿勢の象徴なのです。

『持続可能な資本主義』 第3章 より 新井和宏:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 大量の在庫を抱えるリスクを負ってまでも、下請けなどの取引先の生活を守る。
 自分たちだけでなく、社会全体を考えて行動している、これからの企業のあり方です。

 取引先との強固な信頼関係という「見えない資産」は、もしものときには大きな助けとなります。
 まさに、「情けは人のためならず」という言葉がぴったりですね。

震災後の復興を支えたヤマトグループの現場力


 新井さんが、「国よし」の経営の例として挙げているのが、ヤマトグループ(ヤマト)です。

 東日本大震災直後、ヤマトの現場社員は、自らの判断で、次々と送られてくる救援物資の配達を続けました。
 現場の社員の行動を知った本社は、これを全社的活動に広げ、「救援物資輸送協力隊」の組成を決定します。 

 新井さんは、管理ではなく信頼によるマネジメントが徹底されていることを、よく示すエピソードだと述べています。

 東北地方太平洋沖地震発生後、ヤマトは早々に宅急便1個につき、10円の寄付を決めました。2011年度の取扱個数が約14.2億個でしたので、約142億円もの金額を寄付することになったのです。これは、ヤマトの年間純利益のじつに4割にあたる額です。
 問題は、この寄付金をどう使うかでした。大きな額であるからこそ、その寄付の方法、使い道には慎重にならねばなりません。
 ヤマトとしては、農業や水産業の再生、学校や病院といった生活基盤の復旧など、使途を明確に決めて使ってもらいたいという想いがありました。
 ところが税制上、ヤマトホールディングスが水産業や農業の団体に直接寄付をすると、課税対象になってしまいます。そうなると、せっかくの142億円全額を被災地のために使えなくなる。一方日本赤十字に寄付すれば、非課税になるものの、どこにいくら使われたのかがわからず、株主にも説明ができないという問題がありました。
 そこで木川眞社長(当時、現会長)は、財務省に「非課税に向けた特例扱いをすることはできないか」と交渉することにしたのです。

 当初は、ヤマトの志は理解してもらえたものの、税法を変えることはできないという回答でした。常識的に考えれば、そうでしょう。ここで例外を認めてしまえば、他の企業が悪用するかもしれない。財務省の言い分もわかります。
 ところが粘り強く交渉するうちに、各方面のヤマトファンから「ヤマトのやろうとしていることを認めてあげてもいいんじゃないか」という応援の声が届き始めました。
 そしてついに、寄付のスキームを工夫することで、非課税扱いになったのです。
 具体的には、ヤマトが直接寄付するのではなく、宅急便の生みの親である小倉昌男さんがつくった「ヤマト福祉財団」という公益財団法人に一旦寄付する。ヤマト福祉財団は、ヤマトだけではなく広く一般からも寄付を募り、有識者による第三者委員会が公平に選んだ助成先に寄付をするという形をとりました。
 ヤマトの志は、財務省をも味方にしてしまったのです。

 寄付金のもうひとつのハードルは機関投資家でした。
 142億円という数字は、ヤマトの年間純利益のじつに4割にあたる額です。当然、一部の株主からは反発が予想されました。株主からすれば、それだけ自分たちの配当が減ることになるからです。
 2011年5月2日。ヤマトは、国内の投資家説明会を開催し、被災地への寄付について説明しました。私もその場にいて、無事に会が終わることを願いつつ、成り行きを見守っていました。
 しかし、その心配は不要だったようです。
「我々は東北に育てていただいた。その恩を返すだけだ」
 そう木川社長が言うと会場全体が静まり返り、誰一人として質問すらできませんでした。あまりにも凄みがあって、いま思い出しても鳥肌が立つような瞬間でした。

『持続可能な資本主義』 第3章 より 新井和宏:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 国があっての企業、地方があっての企業。
 歴代の経営陣が、その感謝の想いを忘れず、日々の仕事に取り組んできた。
 そのおかげで、ヤマトは日本を代表する会社にまで成長することができたのでしょう。

 企業理念は、その会社の「命」です。
 それを失うことなく持ち続け、全社員に徹底させることは、とても難しいこと。
 しかし、だからこそ「見えない資産」としての価値はきわめて高いといえます。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 人口減少、格差拡大、少子高齢化の進展、地方の疲弊・・・・・。
 今、日本は、世界に先駆けて数多くの社会的課題を抱えています。

 八方塞がりの現状を突破する糸口、それが「いい会社」です。

 新井さんは、資本主義のベクトルを変えることができるのは消費者だとおっしゃっています。
 消費者、つまり私たち一人ひとりが、「いい会社=これからの社会に必要とされている会社」を応援すること。
 それが、社会のため、国のためになり、ひいては、私たち一人ひとりの生活に還元されます。

 誰も犠牲にしない持続可能な経済の仕組み。
 それをつくるのは、私たち消費者にかかっています。

 私たちが目指すべき社会のあり方は、どのようなものか。
 本書は、資本主義の未来を見据えるうえで、とても示唆に富んだ一冊です。


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