【書評】『SQ “かかわり”の知能指数』(鈴木謙介)

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 お薦めの本の紹介です。
 鈴木謙介さんの『SQ “かかわり”の知能指数』です。



 鈴木謙介(すずき・けんすけ)さんは、情報化社会の最新の事例研究と、政治哲学を中心とした理論研究を繋ぎあわせて、独自の社会理論を展開している、いま注目の若手理論社会学者です。

「幸福感を生み出す他者への貢献」とは?


 人はどういったところで幸せを感じるのか。

 鈴木さんによると、その答えは「身近な他者に対して手助けをすること」にある、とのことです。

 社会貢献という言葉が流行っていますが、誰かのためになることをしたいと考えている人に、「幸せだ」と考えている人が多いです。

 本書は、「幸福感を生み出す他者への貢献」とはどのようなものなのか、今の日本社会に求められている社会貢献は何なのかを歴史的背景から解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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幸せになるかかわりへの意欲=「SQ」


 鈴木さんは、「適切な範囲での手助け」こそが、人々の幸福感にもっとも影響を与えているのではないかという仮説を立てます。

 そして、震災後の日本において、人々が見知らぬ他者とどのようにかかわりたいと考えているか、そして、そのかかわりは個人にとってどんな効果をもたらすのかについて調べました。

 その結果、浮かび上がってきたのが、幸福度を高める社会貢献の4つの要素です。

 鈴木さんは、それぞれ漢字一文字で表現しながら説明しています。

 ①献=「他者への貢献」(自分さえよければいいという考えではなく、他者への支援を望むこと)
 ②広=「広範囲での協力」(家族や友人関係より広いかかわりを志向)
 ③心「モノより心」(数字で表される貢献だけでなく、それが体現する「心」を重視)
 ④次=「次世代志向」(現在ではなく、未来を考えて行動)


 この4つの要素を「幸福度」にかかわっている「指数」として表現したものが「SQ」です。

 実は、先に紹介した一万人調査は、このコンセプトに基づいて、どういう行動や態度がどのくらい幸福度を高めるのかを調べるために行われたものでした。その結果、ここまで紹介してきたように、自分のことしか考えていない人だけでなく、自分から遠すぎる範囲や、自己犠牲的な貢献が必要だと考えている人よりも、自分の手の届く範囲で、自分にできることをしようという人の方が、幸福だと考える傾向になることが分かりました。
 それだけではありません。ロジスティック回帰分析という専門的な統計分析を行った結果でも、前に挙げた4つの要素いずれにおいても、身近な人のことばかり考えている人は幸福度が下る傾向にあり、遠くのことを考えている人よりも、手の届く範囲での貢献を考えている人の方が、より幸福度が上がる傾向にあることが示されたのです。
 こうしたことから僕たちは、幸福度を高めるような他者へのかかわりの力を、「SQ」という指数で表現することにしました。SQとは「Social Quotient」の略で、知能指数として知られているIQと似た、社会的なかかわりの力を表す指数です。

  『SQ “かかわり”の知能指数』 第1章 より  鈴木謙介:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 もちろん、IQ同様、数字の高低によって、その人の存在意義のすべてが測れるということはありません。

 しかし、鈴木さんは、この調査から「SQが高い人は、幸福な人である」という知見が得られたと述べています。

新しい時代にふさわしい、新しい幸せの形


 「SQ」という指数が重要視されるようになってきた背景には何があるのでしょうか。

 戦後の日本は、高度経済成長時代を経て奇跡的な復興を遂げました。
 鈴木さんは、この時代を「黄金時代」と呼び、この時代の価値観がいまだに支配的であると述べています。

「黄金時代」の価値観を維持して、その上に「消費という自己実現」を乗せた「二階建ての構造」の価値観が、団塊世代を中心に支配的でした。

 しかし、景気の低迷などできしみ始め、バブル崩壊でその構造が崩壊します。

「モノ」から「心」へ、脱・黄金時代の価値観を持ち始めた世代が1990年代の後半の若者でした。
 いわゆる「ロスト・ジェネレーション(失われた世代)」の人たちです。

 この世代とそれ以前の世代を切り分けるポイントは、マイホームや自分らしいファッションなど、自分が何かモノを得ることで幸福感や達成感を得るのではなく、ジモトの友だちやつきあいのある人とのコミュニケーションでそれらを得るという、新しい価値観を持っているかどうかです。
 彼らは単に生まれ育った場所での生活を求めているわけではなく、そこが自分に役割が与えられたり、必要とされたりするようなコミュニティであることを重視しています。その価値の中には、自分が誰かに貢献することも含まれているのです。
 脱「黄金時代」ということを体現している彼らの価値観の中には、SQという指標で評価できるような行動原理が含まれています。それが分かりやすく出ているのは、他者への貢献に価値を感じているという部分です。

『SQ “かかわり”の知能指数』 第2章 より  鈴木謙介:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 厳しい雇用情勢の中、社会へ放り出されて、頑張って働いても豊かになれるわけではないということを身をもって知った世代です。

 物質的な豊かさ以外に価値観を求めるのは、当たり前といえば当たり前かもしれませんね。

「エコだとモテる」の勘違い


「SQ的発想」は、企業活動においても鍵を握ります。

 鈴木さんは、日本企業におけるエコの捉え方の問題点を取り上げ、以下のように述べています。

 ひとつは、エコというとても抽象的な概念が先行して、それが具体的に何の役にたったのかということに対してはあまり意識が向かないような仕組みになっていることです。
 たとえば企業の活動であれば、本当は環境に悪い物を作っているのに、一方で植林したからOK、というような話になってしまって、本来のCSRの意義である「企業の活動そのものが社会のサステナビリティを高めるような取り組みになっているかどうか」というチェックの話になっていないところに、ひとつ目の問題があります。
 もうひとつは、エコをある種の記号的付加価値として使うことによって、エココンシャスな消費をしていることで、その人自身の価値が高まるかのようなイメージを持ってしまう。簡単にいうと、「エコだとモテる」みたいに見えてしまうということです。
 この発想は、ポスト黄金時代の「高い車に乗っていればモテる」というのとあまり変わりません。いい消費ができている人の付加価値が高いという話なんですね。
 SQの概念おいては、貢献したいという気持ちが空回りして、具体的な行動ができていない人は、SQが低いとみなします。その貢献が、具体的に届いているかどうかをチェックする。これもSQ的な振る舞いなのです。これと同様、企業のCSRにしても、ただエコといっているだけなのか、それとも具体的に役立っているのかを問うことは大事です。

 『SQ “かかわり”の知能指数』 第3章 より  鈴木謙介:著  ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 イメージだけ、フリだけでは、ダメだということですね。
 それよりも重要なのは、実際に効果があるかどうかです。

 鈴木さんは、口だけエコ、独りよがりの貢献ではなく、具体的にきちんと社会の持続可能性に貢献できるような活動をしている人たちが評価されるためにも、この両者をSQ的な判断基準で区別する必要があると強調します。 

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

「袖振り合うも多生の縁」ということわざがあります。

「多生」とは、仏教による前世の関係、つまり輪廻転生の教えに基づいた考え方です。
 この現世で少しだけかかわる人たちというのは、実は前世でつながっていたんですよという意味です。

 少子化問題を抱え、これからさらなる超高齢化社会を迎える日本。
 身内以外の「身近な他者への適切な範囲の手助け」が、個人の幸せだけでなく、社会全体の幸せに大きく関わっていくことは間違いありません。

 私たちも、閉じこもることなく社会とつながり、「多生の縁」を大事にし、積極的に地域に貢献して「SQ」の高い生活を送っていきたいですね。

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