【書評】『1泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか?』(山本梁介)
お薦めの本の紹介です。
山本梁介さんの『1泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか?』です。
山本梁介(やまもと・りょうすけ)さんは起業家・実業家です。
「スーパーホテル」を開業し全国に展開され、現在、同ホテルの会長をお務めです。
ホテルをお客さまの「わが家」にする
激戦のビジネスホテル業界において、独自のスタイルで人気を集める「スーパーホテル」。
全国のターミナル駅を中心に100店舗以上となったネットワークをさらに広げつつあります。
スーパーホテルは、「稼働率90%、リピート率70%以上」といわれています。
この業界では異常ともいえる高い数字を叩きだしている理由。
それは、徹底した「お客さま絶対主義」です。
たとえば、チェックインの時のフロント係が使う「おかえりなさいませ」という挨拶。
これは、お客さまにホテルを「わが家」と思っていただきたいと考え
から、スーパーホテルが他に先駆けて行なったサービスです。
それ以外にも、快適な宿泊をするために凝らされた工夫やお客様目線で考え抜いたさりげないアイデアがたくさんちりばめられており、多くのリピーターを生み出しています。
本書は、格安ビジネスホテルでありながら、トップクラスの顧客満足度を維持する「スーパーホテル」の秘密をまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「安全、清潔、ぐっすり眠れる」にこだわる理由
「生産性をアップさせれば顧客満足度はダウンする」
これは、ビジネスの世界の常識です。
山本さんは、あえてその常識に挑戦し、生産性と顧客満足度の「二兎を追う」方針をとります。
その努力が実を結び、2010年『サービス産業生産性協議会』が発表した顧客満足度指数で、高級ホテルを上回ってホテル業界のトップとして認められます。
スーパーホテルの基本コンセプトは、「安全、清潔、ぐっすり眠れる」。
それに徹底的にこだわった戦略が結果となって表れました。
ビジネスホテルを利用するたいていのお客さまは、夜の10時前後にチェックインします。そして朝の8時にはチェックアウトします。そうなると、ホテルに滞在する約10時間のうち、70%~80%が睡眠時間ということになります。つまり、お客さまがホテルの快適度を評価するとき、それを決めるもっとも大きな要素は「睡眠」なのです。
そこで私は考えました。スーパーホテルは、どのシティホテルにも負けない快適な睡眠を提供しよう、と。そこで、徹底的に良質な睡眠のメカニズムにこだわったのです。
次に安全面です。スーパーホテルの外見や室内のデザイン、装飾は決して華美なものではありません。宿泊費をリーズナブルに設定するために、外観や室内のデザインは豪華さを捨てシンプルにしてコストを抑えています。しかし、強度や安全面を重視し、建築家や建設会社と入念に協議し、構造や建築方法には万全を期しています。
また、ホテルの入口は24時には自動的に閉まります。不審者は簡単には入れません。そのことから、女性のお客さまからは「とにかく安心して泊まれる」という評価をいただいています。
しかし、お客さまのホテルへのお戻りは深夜に及ぶことも当然あります。もし、宿泊されているお客さまが24時以降にホテルへ戻ってこられたときでも、チェックイン時に発行した暗証番号を入力すれば入口は開くようになっています。
「安全、清潔、ぐっすり眠れる」
これがスーパーホテルの基本コンセプトです。私は、このコンセプトに徹底的にこだわりました。
「こだわる」ことは「とんがる」こと。つまり、「お客さまの安眠」に特化したホテルづくりを考えたわけです。私は、どんなビジネスにおいても「とんがること=特化すること」が成功の秘訣と考えて生きてきました。『1泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか? 』 第1章 より 山本梁介:著 アスコム:刊
ビジネスホテルの主な利用者は、出張などのビジネスパーソンです。
他を削ってでも、快適な睡眠の提供にこだわった「一点豪華主義」。
それが利用者の心をつかんだということでしょう。
他との違いを際だたせて熱狂的なファンを作る。
そのためには、「とんがること=特化すること」が大事です。
『割愛』で「低価格」と「快適」を両立させる
「お客さま絶対主義」というと、お客さまに「どれだけ多くのサービスを提供するか」と考えてしまいがちです。
山本さんは、客層を「ビジネスパーソン」に絞り、「お客さまが本当に求めているものは何だろう」と考え、それを徹底的に追求
し、それ以外のものを極力「割愛」することで「1円あたりの顧客満足度日本一」を成し遂げました。
心からのおもてなしはどこにも負けないけれど、ビジネスホテルをビジネスとして成功させるために「割愛するサービス」を考えるべきだ。私はそう考えました。たとえば部屋に電話を置かないこと。これも「割愛のサービス」です。電話でフロントや外部にアクセスできないこと。それは一面に置いて「不便」かもしれません。しかし「電話がかかってこない気楽さ」という面もあります。また、室内電話が備えつけられていて、それを使用すれば、チェックアウト時に精算の必要も発生します。
それに、いまビジネスマンで携帯電話を持っていない人は、日本中に何人いるでしょうか。なかには、「主義としてケータイは持たない」という方もいるかもしれません。そういうお客さまは、スーパーホテルには満足していただけないかもしれません。
冷蔵庫に飲み物が入っていないことも同様の考え方です。あわただしい朝の時間に清算をしなくていいとなれば、お客さまにも好都合です。無駄を省くことがサービスにつながるという理屈です。
スーパーホテルは無駄を排した「割愛」もまた、一つのサービスであると考えています。室内の電話で話したい方、冷蔵庫に備え付けのビールやミニバーを楽しみたい方、つまり「付加のサービス」を求める方にも、スーパーホテルのこうしたビジネスモデルを理解していただけたらと願っています。『1泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか? 』 第2章 より 山本梁介:著 アスコム:刊
あったら便利だけれど、なくても別に困らない。
最近は、そんな付帯サービスがどんな商品を買ってもついてきます。
スーパーホテルでは、それらをあえて「割愛」しています。
さらなるコストダウンを図り、価格面においても他との違いを際立たせるためです。
利用者が本当に望んでいることは何か。
それをはっきり見極めること。
どんなサービスでも、「割愛」のサービスを行うことは重要なことですね。
「神様の声」が聞こえるか
スーパーホテルには、フリーダイヤルの「お客様相談室」が設置されています。
日頃から、お客さまの声は「神様の声」
だと考える感謝の念からです。
現場のスタッフの意識や、さらにはスーパーホテル全体の品質を向上させていくためなら「神様の声」はなによりありがたい情報源と考えるべきなのです。
ですから、スーパーホテルでは、クレーム処理はいかなる業務よりも優先し、迅速に対応するようにしています。反応の速さが「誠実さ」の表れです。
クレームは先延ばしすればするほど事態を悪化させるものです。かりにお客さまが自分に対して不快感を抱いているとしても、誠意を持って対応することが鉄則です。お客さまはスポーツ競技の相手でもなければ、ましてや敵ではありません。当然のことですが、勝った、負けたの関係ではないのです。
お客さまが苦情をいうのはそれなりの理由があるわけですから、まずこう考える。
「文句をいわせてしまった原因は何か?」
これを冷静に考えることが、まず、第一の前提です。相手の立場にたって話を聞くこと。
「いや、そんなことはありません」
そんな反論をすることは論外です。そして、お客さまとの会話のなかでは正確さを大事にしなければなりません。徹底的にお客さまの不満がどこにあるのかを知ったうえで、納得していただける対応策を見出さなければなりません。ごくごくまれに、誰がどう考えても理不尽な不満を口にされるお客さまもいらっしゃいますが、忍耐強く主張に耳を傾け、こちらのスタンスを説明させていただくことで、大きなトラブルに至ることはありません。
いちばん問題なのは、そうしたお客さまに対して「一応、承っておきます」「多分・・・・」「・・・・と思います」などと曖昧な言い方をすることです。
スーパーホテルは、「性善説」を経営の基本に据えています。
「話せばわかる」
こちらがお客さまに対して誠心誠意の対応をすれば、解決不可能なトラブルはないものと考えています。『1泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか? 』 第4章 より 山本梁介:著 アスコム:刊
苦情やクレームなどがあったとき、どう対応するか。
それがサービスの評価を決定づけると言っても過言ではありません。
放っておくと、苦情すらなくなります。
そして、そのまま客足が遠のき、ゆるやかな下降線をたどっていきます。
「良薬は口に苦し」
どんな状況でも誠実な対応をして、さらなる改善につなげていく。
それが、信用を高めてビジネスを広げていくための秘訣です。
「失敗の数」は人を育てる
人にはさまざまなタイプがあります。
ホテルの従業員も、二つのタイプに分けられます。
性格も明るく仕事の飲み込みの早い「早熟型」と、ややおとなしい性格で仕事の理解に時間のかかる「晩成型」です。
早熟型のスタッフが、先行するものの、ある段階で立ち止まってしまう。
そして、晩成型のスタッフに追いつかれて追い越される。
そういう状況はしばしば起こりますが、その原因はどこにあるのでしょうか。
タイプの違う二人を見ていて、私はあることに気づきました。
それは「失敗の数」です。
早熟型は、お客さまへの対応も如才なくあまり失敗するということはありません。しかし、晩成型は失敗ばかり。
晩成型は失敗をすれば、どうして失敗したか、その原因を考えます。そして、何度も何度も考え、試行錯誤の末に答えを出し、その失敗を乗り越えて次に進みます。これまでの失敗のなかから答えを出すことができるのです。
失敗を重ねたために、必死で学んだ結果、身につけた「感性」「人間性」が、答えを導き出してくれるのです。
古今東西、成功者の若いころのエピソードに共通しているのは、ほかの人と比較して「自分には才能がないのでは」と悩んだ経験です。周囲の人間との力の差を感じて、絶望に襲われたという人もいます。あるいは、失敗の連続で、夢を諦めようと思ったという人もいます。
しかし成功後、その秘訣を問われると「失敗に多くを学んだ」と異口同音にいいます。
スーパーホテルの対照的な二人のスタッフ。器用なスタッフと不器用なスタッフにも、この話は通じるような気がします。
ただ、私が見るかぎり、早熟型は一時期にはとてもよく勉強しますが、器用なだけにときどき途中で休むというやり方をします。一方、不器用なスタッフは失敗してもくじけず、とにかく毎日休まずコツコツと勉強を続けます。
うさぎと亀の寓話ではありませんが、どうやら仕事というのはコツコツと経験を積み上げていくほうが、将来には大きな差になって現れるようです。
私も、これまでお客さまに叱られながら、その失敗のなかから多くのことを学んできました。
しかし、本気で学んだものは、かならず自分の肌にしみ込んで、どんなに難しい局面に出くわしても、確かな知恵となって対応できる。
それがその人の人間性をつくるのです。『1泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか? 』 第5章 より 山本梁介:著 アスコム:刊
人でも組織でも、最初から失敗を避けていては成長することはできません。
成功からよりも失敗からの方がより多くのことを学ぶことができます。
目の前の問題から逃げずに真正面からぶつかっていく。
その経験が、血となり肉となります。
亀のようにコツコツと、一歩ずつ着実に進んでいきたいものです。
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山本さんは、中国の思想家・孟子の言葉「先義後利」を紹介されています。
先義後利とは、「義を先にし、利を後にする」という意味です。
義とは、「人として正しい道」。
利とは、「人の強欲」。
企業でいえば、まずは、お客さまが感動を与え、社会に貢献すること。
利益は追求しようとすればするほど、逆に離れてしまうということでしょう。
お客さま、社会、企業、そこで働く社員。
それらのすべての利益につながるのが企業の本来のあるべき姿。
それを見事に体現しているスーパーホテルです。
人としても、組織としても、見習える部分はたくさんありますね。
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