【書評】『白鵬のメンタル』(内藤堅志)

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 お薦めの本の紹介です。
 内藤堅志先生の『白鵬のメンタル 人生が10倍大きくなる「流れ」の構造』です。

 内藤堅志(ないとう・けんし)先生は、スポーツトレーナー、大学講師です。
 ご専門は、労働衛生、労働安全、技能継承の習得および伝承です。
 横綱・白鵬関のメンタルトレーナーを10年以上にわたって務められています。

メンタルを磨くカギは「ストレスマネジメント」にある


 内藤先生が白鵬関に初めて出会ったのは、まだ白鵬関が17歳のとき。
 当時は、まだ体もひょろっとして細く、おとなしい、とても目立たない存在でした。

 しかし、それから「その他大勢」のひ弱な少年は、体が大きくなり、徐々に番付を上げて関取になります。
 さらには横綱にまで出世し、相撲界を代表する存在まで上り詰めました。

 白鵬関が「メンタルの強さ」を磨いていく上で、大きな役割を果たしたもの。
 それが「ストレスマネジメント」をベースにした内藤先生のサポートでした。

「強さ」には理由があります。
 ただ、それは決して盤石なものではなく、つねに「弱さ」も含んでいます。

 内藤先生は、大事なのは、誰もが持っている「弱さ」とどう向き合うか、たえず襲ってくる「ストレス」をいかにコントロールし、自分らしさを発揮しつづけるかだと述べています。

 本書は、内藤先生が10年以上にわたって二人三脚で歩んできた白鵬関の「メンタルの強さ」の秘密を解き明かした一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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成功する人が持つ「流れ」とは?


 成功する人は、成功するための“コツ”をつかんでいます。
 そのコツをつかんで持続させるためカギとなるのが、「流れの構造化」です。

 白鵬関も『流れ』をつねに大切にして、普段から「流れを保とう」と意識しているとのこと。

 もちろん、白鵬以外にも、こうした流れを大事にしている人はいるでしょう。要するに、いい成績・いい結果をコンスタントに出すことができる人は、みなこの「流れ」を持っているのです。
 それは、リズムやセンスと言い換えても良いと思いますが、問題となるのは、あくまでも感覚であるということ。曖昧な一面があるため、何かの拍子に見失ってしまうと、思うように調子が出せなくなり、とたんにスランプに陥ります。見失ったものを取り戻せず、それまでの活躍はどこへやら、精彩を失ってしまう人もいるでしょう。
 そうならないよう心身両面からサポートをし、万が一そうなってしまったときには調子のいい状態に速やかに戻す――それが私のようなメンタルを扱うトレーナーの仕事であるわけですが、そこには感覚をしっかりとつなぎとめるロジカルな作業が必要になります。
 私は、それを「構造化」と呼んでいます。
 白鵬をサポートしていくには、この「流れ」を認識し、構造化する必要がある。具体的には、次の3点を知るべきでしょう。

  1. どういう状況で、「流れ」という言葉を使っているのか?
  2. 「流れ」という言葉に、どのような意味が含まれているのか?
  3. 「流れ」を意識することで、どのような状態を求めているのか?
 「流れ」という言葉に対するイメージは、ある程度の共通性はあっても、細かく見ていくと、人によってまちまちです。このまちまちの部分、その人だけのニュアンスや意味を明確につかみとらないと、「流れ」を自覚させたり、呼び戻したりすることはできません。
 逆にいえば、そうやってしっかりと構造化できていれば、自分を見失いそうな危機に見舞われたとしても、注意点が明確ですから、平静に対処することができるでしょう。
 もちろん、私と白鵬の場合のように構造の共有化ができていれば、より適切なアドバイスが可能となってくるはずです。

 『白鵬のメンタル』 第1章 より 内藤堅志:著 講談社:刊

 例えばイチロー選手の打席に入る前の仕草は、ルーチン化されていつも同じ動作です。
 バッターボックスに入って投手と相対するまでの「流れ」を強く意識しているからです。

 いつも同じ動作を続けるからこそ同じメンタルの状態を保ちやすい利点があります。
 調子が悪くなっても、その原因を突き止めやすくなりますね。

格下力士と稽古するわけ


 稽古というと、自分と同等か、自分より強い力士と行うのが普通です。
 そして、自分の力を試したり、相手の動きを盗んだりすることを考えます。

 しかし、白鵬関の場合、自分より弱い力士と繰り返し稽古し、自分の型をしっかり身につけます。
 内藤先生は、格下力士と稽古を積む利点を、以下のように説明しています。

 思い通りに動ける分だけ、自分の型が作りやすく、つねに確認ができ、自分の体におぼえこませていくことができます。うまくいかない場合は、すぐに微調整することができ、その動きを確認することも容易でしょう。
 そうやって型ができてくれば自信にもなります。また、うまくいく動きが再現しやすくなる。その再現しやすくなった状態で強い力士と稽古して、本番に臨めれば、手強い相手と戦う際にも十分に対応できるはずです。
 また、「胸を貸す」という言葉があるように、若い力士の稽古相手となることで、その力士を育てることにもつながります。
「部屋の若い者としか稽古をしない」
「出稽古でも弱い相手とばかり稽古している」
 テレビや新聞などでそう報じられ、稽古不足を指摘されることがありますが、白鵬はとても理にかなったことを行なっているのです。
 つまり、目的を明確にして稽古(練習)をする意識さえあれば、たとえ小さな部屋であっても、いい稽古ができる。それを、白鵬は証明しています。
 もちろん、自分の型ができていない若いころは、我を忘れるくらいに熱心に稽古に打ち込むのも悪いことではありません。白鵬自身、若手時代にかなりの猛稽古に打ち込んでいた時期がありました。しかし、年齢を重ねていけば無理は利かなくなりますから、質の高い稽古を取り入れて体を回復させることが必要となってくるでしょう。
(中略)
 白鵬は、「若い頃(の稽古)は番数、年を取ったら考えて行う」と述べていますが、考えることもじつは稽古の一部。もちろん、そうした稽古が「自分の型を作る」ためのプロセスにもなるでしょう。
 仕事のスタイル、生活のスタイル、食事のスタイル・・・・型をスタイルと置き換えたら、一般社会でも十分に通用する考え方だと思えませんか?
 いきなり難しいことにチャレンジせず、まずできることで小さな成功パターンを作り、自信をつけていく。それが、「うまくいく流れ」を作り出すベースにもなるのです。

 『白鵬のメンタル』 第2章 より 内藤堅志:著 講談社:刊

「こうなれば自分は絶対に負けない」
 そういう自分の「型」を持つ人は、それを拠り所に逆境に耐えることができます。

 自分の得意の「型」にもっていくための「流れ」を身につけ、体に染み込ませる。
 それが稽古の役割です。
 ただがむしゃらに努力しても、報われるとは限りません。

 何ごとも「自分の型を作る」ための努力。
 そういう意識は、つねに頭の片隅に入れておきたいですね。

方向性のずれた「素直さ」もある


 素直さを身につけるために必要なのは、「自分で考える力」です。
 素直さといっても、「分かりました!」と言葉だけ返事することではありません。
 実際に言われていることを自分なりに理解することが重要です。

 言ったことが右から左に抜けるだけで、何も考えてはいない。一見、素直に思えますが、それは「自分が分かっていないことを相手に悟られたくない」、つまり、「わからないことが恥ずかしい」というプライドがそうさせている面があります。自分の弱さを隠すために、つい、その場しのぎの返事をしてしまうのです。
 これでは、いくら頑張ってもなかなか才能を伸ばせません。
 これに対して、白鵬はわからないことがあると、「なんで? どうして?」と必ず聞き返してきます。これが、本当の素直さというものでしょう。
 もちろん、なかなか心を開かない子でも、何かの拍子に急にスイッチが入り、伸びる場合があります。
 シャイで、ろくに会話ができない子であっても、妙に飲み込みが早くなり、気がついたら成長していたケースもあります。
 彼らの態度はあまり素直に見えませんが、一緒に練習やトレーニングをしていくと、「あっ、考えているな!」と気づかされることがあります。本人は自覚していなくとも、「自分で考える力」を持っているのでしょう。
 素直に学べる人は、「自分で考える力」を持っている――それは、学校の勉強ができるという意味での「頭の良さ」ではなく、その人が本来持っている「聡明さ」や「探究心」とつながっているもの。選手として身につけてほしい素直さは、ただの「愚直さ」「返事のよさ」ではなく、これらの要素を含んだものだといえます。
 表面的な素直さよりも、「考える力」のほうがはるかに重要なのです。

 『白鵬のメンタル』 第3章 より 内藤堅志:著 講談社:刊

 
 コーチのアドバイスを鵜呑みにして、その通りやっていては、一流にはなれません。
 自分が理解できないことは納得がいくまで相手に質問して、自分の中でしっかり消化する。
 それが大事だということです。

 その上で、自分が必要なものや取り入れるべきものとそうでないものをはっきりと仕分ける。
 一流と呼ばれる人は、はっきりした取捨選択の基準を自分の中に持っています。
 どんなときでも「考える力」を持って素直に学べる人でいたいですね。

「強い心」と「弱い心」が同居


 内藤先生は、平成の大横綱となった白鵬関について、「メンタルは強い」とはけっしていえないと述べています。

 白鵬関は、場所中に眠れなくなるほどの不安にさいなまれ、相談に来ることもあったそうです。

 不安にさいなまれ、自分の弱さが出るということは、言い換えれば、「つねに解決しなければならない課題が出てくる」ということです。
 その点では誰もが同じ、つまり「誰もが弱い心を持っている=解決しなければならない課題を抱えている」わけですが、現実にはそれをうまく乗り越えられる人と、乗り越えられない人がいる。そう考えれば、求められるのは「強い心」ではなく、「問題解決能力」といえるかもしれません。
「強い心」という言い方では漠然としていて、受け止め方は十人十色。人によっては「弱い心を克服しなければ強い心になれない」と思っているかもしれませんが、白鵬の場合、横綱になってからも「強い心」と「弱い心」がずっと同居しています。
「弱い心」を持ったまま、ただ問題を解決する力がついてきた。結果として、この力が白鵬のメンタルを強くしてきた。そのように考えたほうが、辻褄(つじつま)が合うように思えます。
 ――「弱い心」はなくさなくていい。否定せず、むしろ共存することを意識する。そのために、何が不安なのか、何が問題なのかを素直に考える。
 じつはこれは、ストレスへの対処を意味する「ストレスコーピング」のうちの、「問題焦点型コーピング」に当たるものです。白鵬は、天性の素質に加え、こうしたコーピング力に長けていたといえるのです。
 つまり、彼は強くなろうと精進してきましたが、それは弱さを否定し強い自分になろうとするものではなく、弱さ(不安、恐怖)を真摯(しんし)に受け止め、目の前の現実に対処する力を自分なりに身につけてきたプロセスだったということ。
 ですから、弱音も吐くし、つらいことがあったら心も揺れる。ときには、声を荒げることもある。そうした感情も人並みに、いや、人並み以上に持っているのです。

 『白鵬のメンタル』 第5章 より 内藤堅志:著 講談社:刊

 どんなに精神的に強い人でも「弱い心」は持ち合わせています。
「弱い心」を否定したり、目をそらしたりしても、問題は解決しません。

「弱い心」があることを認めて、それと素直に向き合ってうまく付き合っていくことが重要です。
 問題を自覚することが、問題解決の第一歩になるということですね。

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 白鵬関は、内藤先生の教えているストレスマネジメントのことを、「心の稽古」と呼んでいます。
「心・技・体」の『心』を何よりも重視する、白鵬関らしい考えですね。

 勝負は土俵の中だけで決まるのではない。
 そこに至るまでのメンタル面も含めた普段の生活が重要だということです。

 本番の勝負の場面で、自分の出せる力を最大限に発揮する。
 そのためには、そこに至るまでの「流れ」をしっかり組み立てること。
 特別意識しなくても、その流れに乗っていけるようにすることです。

 ストレスと上手く付き合い、能力を最大限発揮する。
 そのためにも、すべてに「流れ」を意識した行動を心掛けたいですね。


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