【書評】『リーダーは低い声で話せ』(永井千佳)
お薦めの本の紹介です。
永井千佳先生の『DVD付 リーダーは低い声で話せ』です。
永井千佳(ながい・ちか)先生(@nagaichika)は、ボイストレーナー、音楽指導者です。
合唱指導・ボイストレーニング指導のご経験を基に、プレゼンのための発声指導など、企業向けの研修も多く提供されています。
「よく通る低い声」は手に入れられる!
普段、私たちが意識せずに出している「声」。
その人のキャラクターやイメージを形づくる上で大きな役割を占める要素ですね。
大きな声でハキハキとしゃべる人は相手に元気で活発な印象を与えます。
逆に、小さな声でボソボソとしゃべる人はおとなしく弱々しい印象を与えます。
声の与える印象は、とりわけビジネスの場面で重要視されます。
どんなに外見を整えても、話し声が頼りなかったり落ち着きがなかったら、第一印象で大きなマイナスとなってしまいます。
リーダーシップや信頼感、説得力を醸し出す。
それらに決定的な役割をはたすのが、「よく通る低い声」です。
本書では、永井先生がリーダーに必要な「よく通る低い声」を身につけるための方法として考案した「エグゼクティブ・ボイストレーニング」を、動画付きでわかりやすく紹介しています。
本書に掲載されているやり方はすべて、道具もいらず、ひとりで行うことができる方法です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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“横隔膜のスイッチ”を入れること
「よく通る低い声」を出すには、“横隔膜のスイッチ”を入れることが必要です。
力強い低音とは、単なる低音とは違います。聞いている人の脳幹が揺さぶられるような、話した人の重量感が感じられるような声なのです。
ここで言う重量感とは声が重いという意味ではありません。声の響きです。声を響かせるためには“横隔膜のスイッチ”を入れる必要があります。
横隔膜は、肺の下にあるドーム形をした、呼吸をつかさどるインナーマッスルです。インナーマッスルは身体の深いところにある筋肉です(下図1を参照)。
すべてのインナーマッスルが一般的なスポーツクラブで行うようなトレーニングで鍛えられるわけではありません。自分の意志で動かすのがむずかしい筋肉や、運動や日常動作に直接関わらない筋肉もあるからです。インナーマッスルの中でもまさに横隔膜は呼吸でしか鍛えられない筋肉です。
誰でも、横隔膜を意識すると、まるでスイッチを入れたように、よく響く声が出るようになります。私はそれを“横隔膜のスイッチ”と呼んでいます。『リーダーは低い声で話せ』 Part 1 より 永井千佳:著 中経出版:刊
図1.横隔膜のある場所とその動き(『リーダーは低い声で話せ』 Part 1 より抜粋)
横隔膜は、呼吸をする際に必ず使うインナーマッスルです。
逆に、呼吸でしか鍛えられない筋肉でもあります。
眠っていた“横隔膜のスイッチ”を動かすことから始める必要があるということですね。
トレーニングのベースとなる「横隔膜ブレス」
永井先生は、“横隔膜のスイッチ”を入れる方法として、「横隔膜ブレス」を紹介しています。
「横隔膜ブレス」は、呼吸により横隔膜のインナーマッスルを鍛えるトレーニングです。
本書で紹介しているすべてのトレーニングのベースとなるものです。
「横隔膜ブレス」の具体的なやり方は、以下の通りです。
口を閉じ、頰(ほお)をふくらませて負荷を与えているので、呼吸するだけで、自然に横隔膜がしっかりと使えるようになります。横隔膜を鍛えれば、無理をしなくても、自然によい声が出せるようになります。
頭をすっきりさせ集中力を高めたり、気分をリラックスさせるのにも役立ちます。
プロのアナウンサーや、声のよい俳優や政治家、有名人は、横隔膜が鍛えられており、息をしっかりと使っています。横隔膜ブレス
最初はティッシュペーパーと鏡を使って効果を確かめながら進めます。慣れてきたらティッシュと鏡は不要です。手順1 基本姿勢をとり、両手を開いて肋骨の下のお腹に当てます。
手順2 顎を下げて口を開け、リラックスして、ゆっくり大きく息を吸います。肋骨下のお腹がパンと張り返しているのを確かめてください。
手順3 口を閉じ、唇のわずかな隙間から5秒間、力強く息を吐きます。頰と鼻の下が息でパンパンにふくらむように。ティッシュを口の前にかざし、吐いた息でティッシュが地面と平行になるのが理想です(下図2を参照)。息を吐くとお腹は凹んでいきますが、それに抵抗するように、がんばってお腹を張り返してください。
手順4 5秒間息を吐いたら、ふたたび口を開けて手順2に戻ります。
回数 5回繰り返します。
『リーダーは低い声で話せ』 Part 2 より 永井千佳:著 中経出版:刊
図2.「横隔膜ブレス」のやり方(『リーダーは低い声で話せ』 Part 2 より抜粋)
「横隔膜ブレス」は、声を出さずに、道具なしでもどこでもできるトレーニングです。
ちょっとした時間にできるよう、習慣づけたいですね。
会議で発言力が増す「ブルトレ」
永井先生は、声の響きを獲得するためのトレーニングとして「ブルブルトレーニング」、略して「ブルトレ」を紹介しています。
響きのある声は、よく通る声ということです。
周囲が多少騒がしくても、よく通る声なら、埋没せずに存在感を発揮できます。
「ブルブル」は、専門的には「ビブラート」と呼ばれる技術です。
歌手は、よくビブラートを使って声を揺らしながら歌いますね。
あれは横隔膜を動かして音を揺らしているのです。
「ブルトレ」の具体的な方法は以下の通りです。
ブルトレ
上達すると、両手でグイグイ押さなくても、自力で横隔膜をブルブル動かせるようになります。手順1 基本姿勢をとり、両手をグーにして肋骨の下のお腹に当てます。
手順2 顎を下げて口を開け、リラックスして、ゆっくり大きく息を吸います。肋骨下のお腹がパンと張り返しているのを確かめてください。
手順3 口を閉じ、唇のわずかな隙間から力強く息を吐きながら、「ふぅ~~~」と小さく声を出します(ここまでは「横隔膜ボイス」と同じ)。
手順4 そのまま声を出しながら、肋骨下のお腹を両手のグーでリズミカルにグイグイ押します。「ふうぅうぅうぅうぅ~」のように声が揺れればOKです。それが、ビブラートのかかった状態です(下図3を参照)。
手順5 5秒間発声したら、ふたたび口を開けて手順2に戻ります。これを5回繰り返します。
『リーダーは低い声で話せ』 Part 2 より 永井千佳:著 中経出版:刊
図3.「横隔膜ブレス」のやり方(『リーダーは低い声で話せ』 Part 3 より抜粋)
ブルブルをかけて横隔膜を使いこなす。
すると、声を出す能力が開発され、今まで出なかった声が出せます。
男性なら阿部寛さん、市村正親さん。
女性なら大地真央さん、仲間由紀恵さん。
この人たちのような、芯があってよく通るパワフルな声に近づくことができます。
ぜひ、試してみましょう。
話し方教室にも行ったほうがよい?
トレーニングを行なって、よい声を手に入れる。
それによって、「話し方のクセ」についての大半の問題が解決します。
たとえば、横隔膜トレーニングをすると、「あー」「えー」という余計なつなぎ言葉がほとんどなくなります。
「そういうわけで、えー、えー、まず我々は、あー、そこはですね、えー、あー、そのあたりはですね、えー、調整していくわけであります・・・・」
こういう話し方をよく聞きますが、本当に聞き取りづらくて困りものです。
ほとんどの人が、わかっていてもやめられません。
「あー、えーがあると安心する」
「間があいて、シーンとするのが怖いのでつい言ってしまう」
という声があるように、「あー」「えー」は一度言いはじめると、なかなかやめられないのです。
「あー」「えー」の声は、じつはノドだけで発声している浅い声で、横隔膜をほとんど使いません。だから、浅い声で話していると「あー」「えー」を言いやすくなります。私自身も、横隔膜のスイッチを入れないで話していると「あー」「えー」をつい言ってしまうことがあるほどです。
横隔膜を使って発声ができるようになると、わざわざ浅い声にギアチェンジして話すことがなくなり、自然と「あー」「えー」を言わなくなります。『リーダーは低い声で話せ』 Part 3 より 永井千佳:著 中経出版:刊
話す声はその人の人柄を表す、とよく言われます。
逆にいうと、話し声を変えることで精神的な部分も変えることができます。
普段から、深い呼吸で低くどっしりとした安定感のある声を出す。
それにより、何ごとにも動じない強いメンタルが得られるということですね。
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永井先生は、「人は生まれながらにして、すばらしい声を持っている」とおっしゃっています。
それは、赤ちゃんがこの世に誕生したときに発する『産声』です。
人は、人生の経験を重ねるうちに、どんどんと声帯に着物を着せて厚着になっていき、素直で素晴らしい声を徐々に失ってしまいます。
ボイストレーニングの基本は、それまで着せられてきた着物を剥ぎ取っていく作業
です。
声を解放することで、メンタルな部分も解放することができます。
よい声を手に入れることで、自信も手に入れて、より人生を楽しみたいものですね。
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