【書評】『宇宙飛行士に学ぶ心の鍛え方』(古川聡)

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 お薦めの本の紹介です。
 古川聡さんの『宇宙飛行士に学ぶ心の鍛え方』です。

 古川聡(ふるかわ・さとし)さん(@Astro_Satoshi)は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士です。
 外科医師の仕事をなさっていた1999年に、宇宙飛行士選抜試験に合格されています。
 2011年6月、ロシアのソユーズ宇宙船で宇宙へ飛び立ち、約5ヶ月半(167日)国際宇宙ステーション(ISS)に滞在された経験をお持ちです。

「宇宙飛行士のオーラ」は、いかにして身につくのか?


『宇宙飛行士』というと、

「体力がすごい」
「ストレス耐性がすごい」
「緊急時の冷静さがすごい」

 そんな印象がありますね。

 実際、宇宙飛行士には、宇宙空間という特殊な場所で長期間生活し、任務を果たす能力が必要です。
 ただ、宇宙飛行士に必要な能力を最初からすべて持ち合わせている人はいません。

 選抜された宇宙飛行士候補生が、ある時期を境に「オーラ」を出し始め「化ける瞬間」があります。

 古川さんは、宇宙飛行士としてのオーラは、訓練を通して体を鍛えるとともに「心を鍛える」ことによって身につけられたものだと述べています。

 古川さんが、ロシアのソユーズロケットで宇宙に飛び出したのは、宇宙飛行士選抜試験に合格してから、実に12年と4ヶ月も後のことです。
 本当に宇宙に行けるのかどうかも確実ではない中、不安に押しつぶされずに耐え切ることができたのも、宇宙飛行士としての訓練の賜物といえるのでしょう。

 古川さんは、宇宙飛行士という特殊な職業で学んだことは、「様々なストレスにどうすれば対応するか」「目的の達成に向けて何をすべきか」「良い人間関係を作るためにはどうすればいいのか」「想定外の事態にどう対応すべきか」など、人生に共通の課題だと述べています。

 本書は、宇宙飛行士がリスクやストレスに打ち勝つため、そして「想定外の事態」に対応するために、どう「受け止め」「考え」「対処して」いるのかをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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他人の指摘に強い人の考え方


 自分の意見に対して、他人から何かを指摘されると、構えてしまうものです。
 古川さんは、指摘を受けるということは捉え方次第でネガティブな反応をすることなく、有効に活かすことができるとして、自分の体験から以下のように述べています。

 指摘する際にはどうしても「遠慮」が出てしまいがちです。もしかすると、日本人にありがちな傾向なのかもしれません。それが自分の専門外の訓練であればなおさらです。
「もしかするとそんなことは承知しているのかもしれない」
「指摘すると気を悪くするかもしれない」
 そう思うと、なかなか言い出せません。訓練中にどこか遠慮している自分に気付きました。そんな考えを変えてくれたのが、ある訓練でお世話になったスペースシャトル船長の一言でした。
 あるとき、「これは言うしかない」と思ったことがあり、リーダーである彼に意見を述べました。すると、リーダーは一言「グッドポイント。意見してくれてありがとう」と言ってくれたのです。とてもうれしく、やる気にさせてくれる一言でした。
 そのリーダーはミッションの遂行という共通の目的に向けて、お互いに指摘しやすい雰囲気を作っていました。
 他人の指摘は素直に受け入れたほうがよいということは、おそらく皆知っていることだと思います。でも、実際には難しいと感じることも多いのではないでしょうか。
 それが上司からの指摘でも、自分のやり方を否定されたように感じてしまうことがあるかもしれません。同僚や部下からの指摘であれば、なおさら反発したい気持ちが出てきてしまうのは、ある意味当然の反応といえます。
 しかし、だからといって相手の指摘を受け入れずにいることで、そのうちに指摘自体ができない雰囲気を作ってしまっては得策ではありません。
 正しい指摘が行われずにチームとして失敗するリスクを上げてしまうだけでなく、コミュニケーション不足は人間関係がうまくいかない原因の一つとなり、余計なストレスを抱え込むことになります。
 そのときに大事なことは、「指摘に対して感謝の言葉を伝える」ことではないでしょうか。
 あなたが上司の立場でも部下の立場でも、様々な指摘を受けることがあるでしょう。それに、指摘された内容は必ずしも賛同できるばかりではないと思います。自分への攻撃と感じるものもあるかもしれません。でも、それが目的の遂行に向けた指摘であれば、まずは指摘してくれたこと自体に感謝し、「ありがとう」と伝える。
 それだけで指摘しやすい雰囲気を作ることができ、取り入れるべきものを取り入れればあなた自身にとってもメリットになるはずです。もし、受け入れられない指摘であっても、指摘した人が「自分が指摘したこと自体は受け入れられた」と感じられれば、余計な敵対心をあおることも少なくなるのではないでしょうか。

 『宇宙飛行士に学ぶ心の鍛え方』 第2章 より 古川聡:著 マイナビ:刊

 相手から指摘されると、どんなに的を射た意見でも、素直に受け入れられないものです。
 的外れと思われる意見なら、なおさらですね。

 ただ、だからといって指摘を受け入れようとしない頑(かたく)なな態度をとっていたら、必要なアドバイスまでしてもらえなくなります。

 どんな意見でも、まずは、指摘してくれたことに感謝し、「ありがとう」と伝えること。
 信頼関係を築くうえでも、大切なことですね。

「正しく怖がる」ことがリスクヘッジになる


 宇宙飛行には、周到なリスクマネジメントが欠かせません。
 事故のリスクという点では、宇宙飛行は一般的な交通機関に比べればまだとても高いものです。

 今でも何らかの事故が起きる可能性が1%ほどあると言われています。
 事故が即、命に関わるという点からみて、100回に1回事故が発生するという確率は、決して低いとはいえません。

 ただ、古川さんは、この確率は「許容可能なリスク」だと捉えています。
 それだけのリスクを負っても、宇宙で仕事をする価値はあると考えているということです。

 古川さんは、リスクを受け入れる際には、そのリスクと背景をきちんと知っているということが大切だと述べています。

 言い方を換えれば「正しく怖がる」ということです。
 もしかすると昨今の放射線に対する見方にも通じるものがあるかもしれません。「放射線」と聞いただけでむやみに怖がるのは、あまりよいことではないと感じています。放射線の性質や影響度について正しく知ったうえで、正しく怖がるべきです。
 例えば、「宇宙滞在時は一日で地上にいるときの半年分の放射線を浴びる」というように、宇宙と放射線は切り離せません。私が国際宇宙ステーションで初めて行った仕事も、日本の実験棟「きぼう」内に放射線量測定装置を設置することでした。放射線の影響度を正しく把握していることでリスクを正しく見積もることができ、不要なストレスを抱えずに済みます。
 何かをむやみに怖がることなく、リスクをどう見積もるかということは、どんなことにおいても大事なことです。「恐怖は常に無知から生まれる」という言葉があります。逆にいえば知ることで恐怖の大部分は解決することができます。わずかに残った恐怖も背景を知ることで、コントロールすることができ、結果的にリスクヘッジにつながるのです。

  『宇宙飛行士に学ぶ心の鍛え方』 第4章 より  古川聡:著  マイナビ:刊

 人は、得体のしれないもの、正体の分からないものを必要以上に怖がってしまうものです。
 不安や怖れを取り除くには、元になる原因を突きとめてその正体を把握するしかありません。

「知ることで恐怖の大部分は解決する」

 頭に刻み込んでおきたい言葉ですね。

「割り切る」そして「できることをやる」


 成果が見えない中で続けるストレスに耐えるのは、簡単なことではありません。
 宇宙飛行士といえども、それは同様です。

 古川さんは、そのような状況に陥った時の対応について、以下のように説明しています。

 単純に言えば、「割り切る」そして「できることをやる」の二点です。元プロ野球選手の松井秀喜さんは、「自分にコントロールできること、できないことに分けて考え、できないことに関心を持たない」そうです。私も「自分がコントロールできないことを心配しても仕方がない。自分にコントロールできること、じぶんにできることをやればいいんだ」と思います。
 語学の勉強に苦労していた私の場合、「ロシア語能力を高いレベルに到達させなければならない」「すぐに効果は出ない」ということについては、自分がコントロールできないこととして割り切りました。そして、自分にできることは何かと考え、少しずつでもいいから、毎日語学の勉強を積み重ねることだと考えました。
 その積み重ねを自分で実感していくことも必要です。例えば、「昨日知らなかった単語や文法を今日は知っている」というささやかなことでも、昨日よりも今日がよくなっていると感じられます。その積み重ねを続けたことで、実際になる時期から聞き取れるようになったり、文を作って話せるようになったのです。
 ほんの小さな、ささやかなことでもきちんと成果として自分で認めることによって、取るに足らないものとして流すことなく、後に大きな形となる成果の一部として溜めていくことができます。こうして得た小さな達成感は活動を継続するモチベーションにもつながります。

 『宇宙飛行士に学ぶ心の鍛え方』 第5章 より 古川聡:著 マイナビ:刊

「自分にコントロールできること」というのは、自分自身に関することのみ。
 自分以外の人や社会での出来事などは、すべて「自分でコントロールできない」ですね。

 その切り分けができないと、無駄な努力をしてしまったり、他人や社会に責任転嫁(てんか)して自ら努力することを放棄してしまう誤りを犯す可能性が高くなります。

「自分のできることを一歩ずつ、コツコツと」

 いつも意識していたいですね。

「想定外のトラブル」に対処する宇宙飛行士流訓練


 古川さんは、想定外の自体に対処できるようになるには、「想定外」は必ず起こるということを理解し、物事を仕組みから論理的に考えられる自信をつけることが重要だと述べています。

「失敗は成功の元」とよく言われますが、これに基づけば、失敗はすればするほどよいわけです。宇宙飛行士の訓練もこれに近く、失敗したことよりも、そこから何を学んだかが重視されるのです。
 訓練では意図的に失敗させています。最初はノミナル(正常ケース)の流れを見るだけということもありますが、次の段階では「このぐらいならギリギリ対処できるか、失敗してしまうかどうか」という、ちょうどいい難易度のトラブルをインストラクターが意図的に訓練の中に入れて失敗を経験させつつ、対応を学ばせます。それで上達するとさらに難易度を高くしていくのですが、この難易度の調整が絶妙なのです。
 最終的には、本番でそこまでのトラブルはほぼないけれども、それくらいのトラブルがあっても対処できるというレベルまで宇宙飛行士の対応能力を引き上げることを目的にしています。こうしたインストラクターたちのやり方はすばらしいと思います。
 こうした訓練を繰り返していくと、「想定外のトラブルが起こる」ということ自体に慣れていきます。宇宙飛行ミッションで想定されることはあらかじめ訓練はしていますが、それでもやっていないようなことが起きるものです。
 そうなったら原点に返って、自分たちが理解しているシステムの仕組みを元に論理的に取れる対応を考えます。そう考えられるレベルまでシステムとしては勉強しているわけです。起こる可能性のあるパターンをすべて想定するのは不可能なので、仕組みから考えることで想定外をカバーできるようにします。
 これは一般的な仕事にも言えることではないでしょうか。例えば帳票の数字がおかしい場合、どのように算出されているかを理解していれば、原因は推測できるということと同じです。
 このように失敗を繰り返し、考える訓練を繰り返すことで「論理的に考えていけば、正解にたどり着ける」という「自信」を、訓練を通して身につけていけます。起きる頻度(ひんど)が高いトラブルのパターンは訓練でカバーできますが、そうではないものは考えるしかありません。
 実際、私たちの帰還時にも姿勢制御用エンジンが壊れるという、想定外の事態が起きました。それは訓練ではやっていない事態でしたが、仕組みを理解していればこそ、パニックを起こさずに対処できたといえます。

 『宇宙飛行士に学ぶ心の鍛え方』 第7章 より 古川聡:著 マイナビ:刊

「想定外」の事態を乗り越えられるかどうか。
 それは、積み重ねた失敗とそれらをリカバーしてきた経験の数にかかっています。

「想定外」は必ず起きる。
 訓練や練習の時からつねにその意識を持ち、自分で考えながら取り組みたいですね。

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 宇宙飛行士になって、実際に宇宙をへ飛び立つ。
 それまでには、多くの難関をくぐり抜け、過酷なトレーニングを乗り越える必要があります。

 危険と隣り合わせのなか、空気のない密閉した狭い空間に長期にわたって滞在する「未知のストレス」に立ち向かうのですから、当然といえば当然ですね。
 自分の判断のミスが、宇宙船乗組員全員の命を危険にさらすこともあります。

 どんなトラブルに巻き込まれても慌てず、つねに冷静に対処できること。
 宇宙飛行士に求められる能力は、程度の差こそあれ、私たち一般人にも必要とされているものです。

 先の見えない、変化の激しい今の時代。
 だからこそ「未知のストレス」に立ち向かう力は人生を切り開くエンジンになります。

 生きている限り、想定外のトラブルはつきものです。
 大事なことは、トラブルを起こさないようにすることではなく、トラブルが起きたときにどのように対処するかです。

「人事を尽くして天命を待つ」

 そんな心構えで、日々過ごしたいですね。

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