本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『炭水化物が人類を滅ぼす』(夏井睦)

 お薦めの本の紹介です。
 夏井睦先生の『炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学』です。

 夏井睦(なつい・まこと)先生は、形成外科がご専門の医師です。
「創傷・熱傷の湿潤療法」を広めた人物としても有名な方です。

制限すべき「糖質」とはどのようなものか?

 夏井先生は、江部康二先生の糖質制限による健康法についての記事を読み、自ら実践して、半年で10kg以上ものダイエットに成功します。

 糖質制限は、ダイエット以外にも、

  • 高血圧や高脂血症が改善した
  • 昼食後に眠くならなくなった
  • 二日酔いがなくなった

 などのさまざまな健康上のメリットをもたらしたとのこと。

 運動が必要なわけでもなく、お酒をやめる必要も、カロリー計算をする必要もありません。
 ただ日々の食事の糖質を制限すればいい、という単純なもので、まさに夢のような健康法といえます。

 では、制限すべき「糖質」とは、一体どんなものなのでしょうか。
 夏井先生は、以下のように解説しています。

 簡単にいえば、糖質とは、「血糖値を上げる栄養素(食品)」である。摂取した後、すみやかに血糖に変わるのが糖質である。問題の本質は、血糖を上げるか上げないかだけなのだ。
 血糖が増えると人体に害があるため、体はそれを筋肉細胞などに取り込むことによって減らすことになるのだが、糖尿病の人の場合には血糖を減らす機能のスイッチとなるインスリンがうまく働かないため、高血糖状態が続き、目の網膜(もうまく)や腎臓に障害が起こることになる。
 だから、血糖を上げない食事ならいくら食べてもいいが、食後に血糖を急速に上昇させる食品は、少量食べただけでも問題を生じるわけだ。そして高血糖は、糖尿病だけでなく、さまざまな健康被害の原因となる。
 血糖をもっとも効率的に上げるものが、ブドウ糖(グルコース)だ。だから、糖質制限においてはブドウ糖そのものが含まれる食品はなるべく避けるべきだし、体内でグルコースに変わるデンプンも控える必要がある。
 しかし、同じ炭水化物であっても、食物繊維のように、人体が分解も吸収もできないものであれば食べても問題はない。果物に含まれる果糖(フルクトース)は、血糖値を上げないが、ただちに中性脂肪に変化して太る原因となる。だからアボカド(糖質が少なく脂質が多い果物である)のような一部の例外を除き、果物も食べないほうがいい。
 乳糖(ラクトース)は摂取してもいいようだ。また人工甘味料の多くは、強烈な甘味を持っていても血糖を上げる作用は少ないため、「血糖を上げる糖質」には入らない。
 さらに、問題は血糖値の上昇だけなので、血糖値と関係のない食品(タンパク質、脂肪)は摂取を制限する必要はないし、摂取カロリー数を計算する必要もないわけだ(食物のカロリーの問題はあとで詳しく考えていく)。極めて単純明快である。

 『炭水化物が人類を滅ぼす』 Ⅱ より 夏井睦:著 光文社:刊

 原則的に食べてはいけないものは、米・小麦(うどん、パスタ、パンなど)・蕎麦(そば)、それに砂糖が含まれているもの、砂糖が味付けに使われているもの、お菓子やスナック類、「無糖」表示していないジュースやスポーツドリンクなどです。

 逆に、いくら食べても構わないものは肉・魚類・卵、大豆製品(豆腐、納豆、枝豆など)、野菜(葉物類)、きのこ類、海藻類、ナッツ類、「無糖」表示のジュースやスポーツドリンクなどです。

 本書は、誰でも簡単にできる「糖質制限」による健康法を解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「主食」という言葉を忘れてみる

 日本人の食事は、基本的に「ご飯(主食)とおかず」です。

 食べるターゲットはあくまでも「ご飯」。
 おかずは、そのための補助という位置づけです。

 この「ご飯とおかず」のスタイルは、外食の基本でもある。コンビニや持ち帰り弁当店の唐揚げ弁当、のり弁当、ハンバーグ弁当は、すべてご飯と、ご飯をたいらげる助けとなる味付けをしたおかずとの組み合わせだ。
 定食屋のホッケ焼き定食も、唐揚げ定食も、豚汁定食も、同様だ。レバニラ炒め定食、八宝菜(はっぽうさい)定食も、同じ発想で組み立てられているし、日本の誇る丼物(天丼、カツ丼、中華丼、鰻(うなぎ)丼、牛丼)も鰻重(うなじゅう)も、基本はどれも、「ご飯とおかず」である。
 さらに言えば、ねこまんま(冷えたご飯に味噌汁をかけただけのもの)も卵かけご飯も、お茶漬けもふりかけご飯もおにぎりも、カレーライスもお寿司も、同じ範疇(はんちゅう)に入り、どれも「ご飯とおかず」という基本構成を守っている。
 豪華絢爛(ごうかけんらん)なおかずもあれば、貧相なおかずもあるが、その真ん中に白米が鎮座(ちんざ)ましましている構図は同じだし、白米を食べ切るまで食事は終了しない。
 ちなみに、このような「ご飯とおかず」という食べ方の様式が日本に生まれたのは、平安時代であり、その成立には、「米は神が授けてくれた神聖な食べ物」という、米信仰ともいうべき意識が働いていたようだ。
 逆にいえば、「ご飯とおかず」という食事の概念は、人類普遍のものではなく、かなり特殊なのである。じっさい、英語やフランス語などのヨーロッパ系言語には、日本語の「主食」に相当する単語がないか、あっても、日本語の「主食」とはニュアンスがまったく異なっているようだ。
 糖質制限のすごいところは、この日本人の食の原点ともいうべき「主食」を完全否定している点にある。だから、じっさいにやってみると、たいしたことなく簡単に始められるのに、「主食を食べない」というだけで、心理的軋轢(あつれき)や多大な葛藤(かっとう)を生むわけである。
 とりあえず、頭から「主食」という言葉を追い出すことが重要だ。

 『炭水化物が人類を滅ぼす』 Ⅲ より 夏井睦:著 光文社:刊

 日本人は小さい頃から「ご飯は毎日欠かさず食べるものだ」という考えを刷り込まれています。
 糖質制限は、日本人の“お米信仰”に真っ向から対立しますから、心理的な抵抗感が大きいですね。

 この心理的な抵抗感を乗り越えるには、「主食=ご飯」「ご飯とおかず」という、これまでの食事の概念を忘れる必要があります。

糖質は「嗜好品」だ!

 昔から「糖質(炭水化物)」は、タンパク質や脂質と並んで「三大栄養素」のひとつとして、欠かすことのできない栄養素であるといわれてきました。
 夏井先生は、「糖質」は、必要栄養素ではなく、摂取しなくても問題はなく、かえって摂取することによりさまざまなトラブルを起こしているだけの存在だと指摘します。

 糖質は、摂取時の味覚や刺激を楽しむために食べたり飲んだりするもの、つまり「酒やタバコ、コーヒーなどの“嗜好(しこう)品”と変わらない」ということ。

 タバコを吸っている人が、タバコを吸いたくなるのは、体内のニコチン濃度が低下したときです。
 喫煙しなければ、そもそもニコチン濃度が上昇することもありませんから、いわゆる“ニコチン切れ”を起こすこともあり得ませんね。

 糖質摂取者でも同様のことが起こり、タバコの場合のニコチンに当たるものが「血糖」です。

 夏井先生は、糖質摂取直後に起こる血糖の急激な上昇が、食後の陶酔感と幸福感をもたらし、その後に血糖値が低下し始めると、体は「血糖切れ」状態となる。すると、喫煙者がニコチン切れでタバコを欲するように、糖質摂取者は血糖切れでイライラし始め、糖質を食べたくなると説明しています。

 ようするに、糖質を食べるとさらに糖質が欲しくなる。そして、糖質以外の食べ物ではこの「糖質切れのイライラ感」は満たされない。まさに、糖質は糖質を呼ぶのだ。
 一方、血糖の上昇をもたらす食べ物は糖質だけだから、血糖を上げない食べ物(タンパク質と脂質)をいくら食べても、「糖質切れの飢餓感・イライラ感」はまったく解消されないことになる。これはニコチン切れのイライラ感がタバコ以外では癒されないのと同じだ。昼食にラーメンを食べた数時間後に発生するイライラ感・空腹感は、ステーキやチーズでは解消されず、甘い鯛焼きやケーキ、炭水化物たっぷりのカップ麺を食べてはじめて満たされる。
 ようするに糖質食では、「空腹だから糖質を食べたくなる」のではなく、「血糖値を上げるために」糖質を欲するのだ。糖質を要求するのは「体」ではなく「心」だ。だから糖質摂取者は、「体」は栄養で満ち足りているのに、「心」のほうが、さらに多くの糖質を摂取せよと命じるわけだ。
 まさにこれは「糖質という憑(つ)き物」に取りつかれたようなものだ。そのため、糖質過剰摂取で肥満になった人は、糖質摂取が作り出した「血糖切れのイライラ感」が命じるままに、さらに糖質を摂取し続け、血糖上昇がもたらす幸福感に包まれながらさらに肥満していく。糖質摂取により「心」は一時的に満たされるが、「体」はどんどん不健康になっていく。これはまさに、ニコチン中毒、覚醒剤中毒と同じで、「糖質中毒」と呼ぶべき状態だ。
 そして、糖質中毒から抜けだそうとしても、「炭水化物(糖質)は人間の健康に必要な栄養素である」という栄養学が邪魔をする。栄養学を信じるかぎり、健康になるためには糖質を摂取しなければいけないからだ。かくして、糖質摂取人間は、永遠に糖質摂取をやめられないことになる。まさに「糖質摂取無間(むげん)地獄」である。

 『炭水化物が人類を滅ぼす』 Ⅴ より 夏井睦:著 光文社:刊

 糖質には、タバコやお酒などと同じように、依存性があるのですね。
「つい食べ過ぎてしまう」「甘いものがやめられない」という人は、糖質中毒の可能性が高いです。

 糖質摂取の悪循環を断つには「糖質は嗜好品」で、依存性があるという認識を持つことが重要です。
 糖質の摂取を少しずつでも減らしていく努力を継続したいですね。

製薬会社が糖質制限の普及を嫌がるわけ

 血糖を上げる原因となるのは「糖質」のみです。
 糖質を食べなければ血糖は上がるはずがなく、血糖が上がらなければ糖尿病にもかかりません。

 糖質制限は、究極の糖尿病予防法ということができます。
 糖尿病にかかってしまったとしても、糖質制限をすれば、血糖は自然に下がって、糖尿病の指標である血液中の「HbA1c」が正常化します。

 究極の糖尿病治療でもある、糖質制限の普及を阻む勢力も存在します。
「糖尿病治療で飯を食っている」人たちです。

 そのうちのひとつ、製薬会社にとって糖尿病はドル箱です。
 患者数が非常に多く、しかも一生涯治療が必要だからです。

 従来の糖尿病の治療は、インスリン注射で血糖値が上がるのを抑える対処療法が基本です。
 近視におけるメガネと同様に、根本的な治療とは呼べないものです。

 つまり、病気やケガには2種類あり、骨折や肺炎のように「治ってしまうと治療が必要なくなるもの」と、高血圧や糖尿病のように「一生涯、治療(内服薬や注射)が必要なもの」に分かれる。
 では、あなたが製薬会社を運営しているとしたら、前者をターゲットにした薬と、後者をターゲットにした薬のどちらを開発するだろうか。どちらの患者を商売のターゲットにするだろうか。
 もちろん、商売として考えるなら後者である。前者は治ってしまえば治療は不要となるが、後者は一生涯にわたってその薬を必要とするからだ。
 つまり、治る病気を相手にすれば儲けは少ないが、治らなくても問題にされない病気を相手にすれば、儲けはそれよりはるかに多くなる。製薬会社にとっては、「薬で症状が抑えられ、かつ、健康で暮らすためには薬が一生涯必要」という状態が理想的なのだ。高血圧や糖尿病の治療薬を製造・販売するのは、商売としてはベストな選択である。
 そういう製薬会社にとって、薬を飲み続けなくていい治療が発見されることはどうだろうか。間違いなく、かなり困った状況であり、下手をすると経営が傾いてしまう。糖尿病になっても薬もインスリン注射も不要という治療が開発されたら、関連する製薬会社はすべて潰れてしまいかねない。
 そういう「薬もインスリンも不要な糖尿病の根本的治療」が、糖質制限だ。
 糖尿病治療薬関連会社にとっては、決して普及して欲しくない予防・治療法だろう。
 ようするに、糖尿病治療で飯を食っている医者・製薬会社にとって、糖尿病患者は飯の種であり、患者が減少するのはもっとも困る状況なのである。

 『炭水化物が人類を滅ぼす』 Ⅴ より 夏井睦:著 光文社:刊

 これまでの常識を覆すような革新的なアイデアが生まれるときには、必ずそれが世に広まるのを阻もうとする「抵抗勢力」が現れます。
 糖質制限も例外ではないということです。
 糖質制限が一般的な治療法として認知されれば、糖尿病は「治らない病気」ではなくなる日も近いかもしれません。

快楽としての「食」はいつ始まった?

「食べる」という行為は、生命維持に絶対必要なものであり、排泄(はいせつ)や睡眠と同じで、生命体にとってもっとも根源的な行為といえます。
 夏井先生は、排泄や睡眠が楽しみではないのと同様、食も本来は「楽しみ」とは無関係なもののはずだと指摘しています。

「食を楽しむ」という概念が生まれたのは、人類の長い歴史で考えるとつい最近のことです。
 19世紀初頭のヨーロッパの農民も、同時代の日本の農民も同じで「空腹だから食べる」という感覚だったのではないか、とのこと。

 では、いつから人間にとって、食が「楽しみ」になったのだろうか。
 契機はおそらく2つ。1つめは、コムギや米といった、デンプンを大量に含んで味もよい穀物が大量に栽培されてふんだんに手に入るようになったこと、そしてもう1つは、カリブ海でのサトウキビの大規模プランテーションにより、安価な砂糖が庶民でも入手できるようになったことだろう。ようするに、食事を「喜び」に変えたのは、穀物と砂糖なのである。
 だが、生物・動物としてみると、「楽しみとしての食事」は、明らかに「食」という行為の本質から逸脱している。食は排泄や睡眠と同列の、生命維持に最低限必要な基本的行為である以上、「食べることが楽しみで生きている」というのは、「排泄が楽しみで生きている」、あるいは「人生の一番の楽しみは眠ること」と言っているようなものだからだ。
 食事が快楽でない場合、食べる量を決めるのは胃袋の容量であり、容量以上に際限なく食べることはない。しかし、食事が快楽になると、食欲には歯止めがかからなくなる。食べることが喜びなら、それを途中で止めるには、非常に強い意志の力が必要となる。
 だから往々にして人は、必要以上の量を食べ、限界を超えてもなお食べ続けようとする。糖質過剰摂取による肥満の根本的な原因は、おそらくこれだろう。
 このように考えると、大盛りやお代わり自由という健啖(けんたん)を競う(?)食事のほとんどが、穀物主体である理由が見えてくる。カレーの大盛り、ラーメンの大盛り、メガ盛り海鮮丼、わんこそば、ケーキ食べ放題、ハンバーガー大食い選手権など、いずれもコムギや米などの穀物のオンパレードだ。
 快楽としての食事は、肉体の限界をものともしないのだ。

 『炭水化物が人類を滅ぼす』 Ⅴ より 夏井睦:著 光文社:刊

 農業技術の進歩して生活が豊かになり、必要以上の種類の食べ物が必要以上に作られた結果、食事を「楽しむ」という習慣が生まれたということですね。
 これだけ医療が進歩したにもかかわらず、肥満や糖尿病などの生活習慣病が増え続けているのは、この「食を楽しむ」という習慣が根づいてしまったことが、大きな要因のひとつといえます。

 現在の飽食(ほうしょく)時代がいつまでも続くとは限りません。
 健康のためにも、糖質制限による健康法を取り入れておくのも、賢い選択かもしれませんね。

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 私たちの日々の食卓には、必ず「白いご飯」が並んでいました。
 家でも学校の給食でも外食でも例外なく、ですね。

 そんな日本人に根づいている「お米信仰」に真っ向から挑戦状を叩きつけているのが、この糖質制限による健康法です。

 夏井先生は、糖質(=炭水化物)は不必要なだけでなく、このまま大量に摂取し続けると、人類を滅ぼすとまでおっしゃっています。

 糖質制限の有効性が証明されるまでには、まだ多くの時間が必要でしょう。
 とはいっても、すべてが済んでからでは遅すぎるということもあります。

 糖質制限は、肥満や高血糖値、高血圧に悩まれている方は特に、トライしてみる価値のある健康法といえます。

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