【書評】『いつもうまくいく人の感情の整理術』(里岡美津奈)
お薦めの本の紹介です。
里岡美津奈さんの『いつもうまくいく人の感情の整理術』です。
里岡美津奈(さとおか・みつな)さんは、人材育成コンサルタントです。
ANA(全日空)国内線、国際線のチーフパーサーとして25年間勤務、そのうち15年間は天皇皇后両陛下をはじめとする各国の国家元首のVIP特別機の担当乗務員を務められました。
「心の余裕」がある人、ない人はここが違う
日々の仕事や人間関係のなかで、感情や気持ちをうまく処理できない。
こうした悩みの原因は自分の「感情の整理」がうまくできていない
ことにあります。
飛行機のなかでは、搭乗する前に抱えてしまったイライラや不満をCAにぶつける客もいますが、そうしたクレームを受けるCAはいつも決まって「同じ人」です。
クレームを受けるCAの特徴は、以下のようなものです。
- オドオドしている
- 笑顔がない
- 相手と目を合わせない
- 姿勢が悪い
- 髪や服装など見た目がだらしない
- 行動がダラダラしている
そう、みんな同じ制服を着ていても、彼女たちは見た目が整っていないのです。
なぜそうなってしまうかといえば、それは、第一にそのCAの心に「余裕」がないから。そして、プロ意識が足りなかったり、自分の価値を自覚していないといった理由もあります。
同じ制服を着て、同じように接遇をしているようでも、余裕のない人は相手に与える印象が悪くなりやすく、お客様から「態度が悪い」「対応が遅い」など、個人的な指摘をされることが増えます。
お客様から直接お叱りを受ければ、誰だって心が動揺します。そして、気持ちの整理ができないまま業務に戻るので、あたふたとしてミスをしたり、お客様に不快感を与える行動を取ってしまったりする。そこでさらにお叱りを受けてますます感情が乱れる・・・・という負の連鎖が続いていきます。
ここまで読めば、もうおわかりですね。そう、「感情が乱れやすい人」とは、「仕事のミスが多い人」でもあるのです。『いつもうまくいく人の感情の整理術』 プロローグ より 里岡美津奈:著 三笠書房:刊
「感情の整理」がうまい人と、そうでない人。
それを分けるのは、「日々のちょっとした習慣」で、しかも「誰にでもすぐに実行できる」ことばかりです。
本書は、里岡さんの経験にもとづき、感情を安定させる「ちょっとした習慣」をまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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心はいつも「中庸」がいい!
里岡さんは、ビジネスシーンにおいては、いかに安定感のある仕事を続けられるかが、何よりも価値になる
と述べています。
その理由は、それが、相手にとっては「あの人にまかせておけば大丈夫」という安心感につながる
からです。
毎日、同じように仕事をする・・・・。一見、とても当たり前のことですね。でも、いつも同じように身だしなみが整っていることも、いつも同じようにミスをしないことも、好調・不調の差がないことも、すべてが「感情が一定に保たれている」からできること。
それは特別な能力ではなく、心がけひとつで誰でもできることなのに、意外とできていない人が多いと感じます。
(中略)
自分の機嫌がよく、心に余裕があるときは、たいていの人は丁寧に振る舞えるものです。自分を律することができるので、感情的にならず、人にやさしく接することもできるでしょう。でも、忙しいときや緊急事態など、心に余裕がなくなったときは、どうでしょうか。ふだんならできるはずのことができなくなったり、ついイライラして人付きが悪くなったり・・・・。
そう、心に余裕がなくなったときにこそ、ふだんの姿、つまり「素の自分」が出るのです。このCAのような心がまえでは、いざというとき、取りつくろうことはけっしてできないでしょう。だからこそ、小さなことでも“ふだんから”実行することが何より大事なのです。
ふだんの生活でも、お客様の前でも、緊急事態でも、いつも同じように振る舞える人になりましょう。そのためには、ふだんから自分を律することが必要ですし、自分の心が平穏であることも必要です。
生きていれば誰しも、うれしいことがあったり、逆に落ち込んでしまうことがあったりもします。そのこと自体は、どうしようもないことです。
いいときも悪いときも「変わらない」ためには、ある心がまえが役に立ちます。それが、「心はいつも中庸(ちゅうよう、偏りがなく、常に変わらないこと)がいい」という考え方。
うまくいったときも、いかなかったときも、「想定内! これくらい想定内のこと」と、同じように受け止める。これが私の「想定内理論」です。そうすれば、感情が乱れることはありません。『いつもうまくいく人の感情の整理術』 1章 より 里岡美津奈:著 三笠書房:刊
思いがけない事態に遭遇したときに、その人の本性が出てしまうものです。
どんなときでもいつもと変わらない態度や物腰でいる。
そのためには、常に同じ心構え、同じ振る舞いを意識することが大切です。
思いもしないことが起こるのが人生です。
それを理解したうえで、何が起きても「これくらい想定内のこと」と思える余裕を保ちたいですね。
ときには「潔い撤退」という選択肢を持つ
里岡さんは、ある意味、『人生はすべて「勝ち負け」だと捉えている』とのこと。
その上で、人生の勝負は、勝つこともあれば、負けることもあって当然。そう考えていると、物事の受け止め方のスケールが広がって
いきます。
負け方を知らない人は、勝つことができません。ここで、投資を例にしてお話ししましょう。投資をする場合、素人はみんな、自分が勝つことを想像して投資します。しかし、株と同様、ほとんどの人は勝てません。投資というものは本来、何億もの財産があって、気軽に運用して多少損したところで生活に困ったりしない、という人がするものなのです。
それをわきまえずに投資に手を出す人は、たったひとつの負けが即生活をおびやかしかねませんから、一度失敗するだけで、途端に感情が乱れてしまいます。そして、冷静に判断できなくなり、ますます「負けのスパイラル」にはまり込んでいきます。『孫子』という中国の兵法書に、「能(よ)く自ら保ちて勝ちを全(まっと)うす」という言葉がありますが、まさにそれ。勝負ごとでは、冷静さを欠いたほうが必ず負けるのです。勝ちを呼び込むには、自分自身を常に冷静に保つしかありません。
「負ける人」がいるから、「勝つ人」がいる。自分がそのどちらになるかは、五分五分。同じ確率です。その事実をわきまえていない人は、勝つことができないのです。
感情の整理の下手な人は、とかく1つのことに執着するあまり、まわりが見えなくなりがちですが、それは「かしこい負け方」を知らないから。
ある出来事にこだわりすぎず、勝ったときは晴れやかに喜び、負けたときは潔(いさぎよ)い撤退をする──そんな考え方を身につけて、感情の整理上手になりましょう。『いつもうまくいく人の感情の整理術』 2章 より 里岡美津奈:著 三笠書房:刊
投資に限らず、一流の勝負師は例外なく、つねに冷静さを保つことができます。
感情に邪魔をされて間違った判断をしてしまうことを経験的に知っているからでしょう。
「能く自ら保ちて勝ちを全うす」
この孫子の言葉を頭に刻み込んでおきたいですね。
まずは「感情」と「笑顔」を切り離してみる
人との関係を築く上で、第一印象はとても大事です。
身だしなみや姿勢はもちろん、「顔の表情」は相手に強いインパクトを与えます。
里岡さんは、子どもの頃から何はなくとも「笑顔」は忘れない
ことを心がけています。
笑顔は、他人から喜ばれる「もっとも手軽なコミュニケーション方法」
です。
とはいっても、その時の感情によって、いつでもどこでも笑うというのは難しいことですね。
でも、大丈夫。ここは、感情はいったん切り離してしまいましょう。
CA時代の私は、1日約1500人のお客様を笑顔でお出迎えしていました。私も生身の人間ですから、その日の心や体の調子によっては、すべてをコントロールしきれない日も当然ありました。恋が破れた悲しい思いを引きずりながら、会社に向かうモノレールに乗っていたときのことです。モノレールの車体が、サッと地下に滑り込みました。すると、モノレールの窓が鏡のようになって、パッと明るい車内を映し出したのです。そこに映っていたのは、涙を流したことで目が腫(は)れて、ふさぎ込んだ顔の、ちっとも魅力的でない自分・・・・。それを見たとき、私はハッと気づいたのです。
「私は、笑顔がなかったら何の取り柄もない。こんな状態で仕事をしても、自分が子どもの頃あこがれたような、格好いいCAとしての仕事はできないだろう。何より、こんな状態だったら、これから私のことを好きになってくれる人だって、もうあらわれないかも知れない」
そう思ったら、俄然(がぜん)、前向きに生きる勇気がわいてきました。今さら、失恋した彼がまた手に入るわけではないのです。それならば、どうせなら、笑顔の魅力的な自分で前に進んでいこう。そう、心に誓ったのです。モノレールから降りて会社に着いたときには、以前以上に「笑顔」を意識している、強い自分がいました。
それ以来、私が笑顔の裏で思い続けていたのは「今、目の前にいる人を喜ばせたい」という一心です。自分の感情はさておき、「みな様の安全は私たちがお守りします。どうぞフライトを楽しんでください」という思いに集中しながら、次々にご搭乗されるお客様一人一人の目を見て、笑顔でご挨拶を続けていました。すると不思議なもので、初めは落ち込みがちだった気持ちはどこへやら。気づけば、いつの間にか明るい気持ちに回復しているのです。それが、居心地のよさにつながります。
笑顔は理屈ではありません。「気持ちもないのに笑顔なんて出せないよ」と思っている人ほど、意識して、自分なりの最高の笑顔を探してみてほしいと思います。『いつもうまくいく人の感情の整理術』 3章 より 里岡美津奈:著 三笠書房:刊
楽しいときには、誰でも自然と笑顔になれます。
つらいとき、苦しいときにこそ、笑顔を意識すること。
それが大事なことですね。
笑顔になることで、相手にも喜んでもらえるし、自分も心のゆとりを持てるようになります。
普段から、意識していたいですね。
「今の自分がいちばんいい」と信じること
里岡さんは、感情の整理上手になって、いい運を呼び込むためには、「自分を好きになる」ことが必要
だと述べています。
自分が好きでない人は、常に「ここは自分の居場所ではない」と感じていますから、居心地が悪く、感情がいつも乱れてしまうのです。
改めて自分が好きかどうか考えてみると、意外とあやふやな答えになってしまったり、「好き」だとはっきり答えられる人のほうが少ないかも知れません。
私自身はどうかと申しますと、「常に現在の自分を好きでいたい」と思っています。
私は子どもの頃から、あまり他人をうらやましいと思わない性格でした。もちろん、自分にはない魅力を持つ人に対して「ああ、あの人の才能っていいな」と思うことはありますが、「でも、私のこの部分もいいでしょ」と自分の長所に目を向けることも忘れませんでした。
そのせいか、私はどんなときも「今の自分がいちばんいい」と信じることができています。実は、これが私の感情を根底で支えている部分です。
人は自分を信じられなくなったり、選択したことに迷ったりするとき、もっとも感情が不安定になります。自分に自信がなければ、おのずと他人の評価に頼るようになり、いつも周囲の人の顔色をうかがったり、ほんのちょっとしたトラブルで心が大きく乱れたりするようになります。
感情を安定させる軸は、「自分を認める」ことです。
私は過去の自分でも、まだ見ぬ未来の自分でもなく、現在の自分を好きだと認められるように、やっていることがあります。
それは「理想の自分」と「現在の自分」のギャップを埋めることです。そのために、毎日2時間ウォーキングをしたり、水泳をしています。こうした日常レベルのちょっとした努力でも、私にとっては自分をブラッシュアップするための大切なこと。毎日実行する度に、自分が新しく生まれ変わり、理想に近づいていると感じることができます。『いつもうまくいく人の感情の整理術』 4章 より 里岡美津奈:著 三笠書房:刊
自分を好きになるためには、まずは「自分を認める」こと。
「隣りの芝は青い」という言葉の通り、周りの人の魅力や特長は光って見えるものです。
他人と自分を比較して落ち込んでも、何もいいことはありませんね。
自分の長所に目を向けること。
そして、「理想の自分」と「現在の自分」のギャップを埋める努力をすること。
どんなときも落ち着いているブレない自分をつくるためには、大事なことですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
普段、ギリギリの生活をしている人は周りに気を配る余裕がありません。
ちょっとしたことで心の器がオーバーフローして、感情がむき出しになってしまいます。
逆に、普段から時間的にも精神的にも余裕のある生活をしている人は、多少のことで感情があふれることはなく、自分の中でしっかりコントロールすることができます。
車のハンドルは、「遊び」がなければ、思い通りに運転することは難しいです。
人間の心も、それと同じということですね。
どんなときも笑顔を絶やさず、落ち着いていられる人は、一緒にいて安心できますし、周囲の信頼感も大きいです。
習慣が人をつくります。
普段の生活から意識して、つねに周囲に気を配れる、余裕のある人を目指したいですね。
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