【書評】『ハイパフォーマー 彼らの法則』(相原孝夫)
お薦めの本の紹介です。
相原孝夫さんの『ハイパフォーマー 彼らの法則』です。
相原孝夫さんは、人事・組織コンサルタントです。
人材の評価・選抜・育成および組織開発に関わる企業支援がご専門です。
ハイパフォーマーには、共通する「行動特性」があった!
相原さんは、20年にわたり、継続的に高い成果をあげている、いわゆる「ハイパフォーマー」の調査・分析をしてきました。
ハイパフォーマーには、単に成果をあげているというだけでなく、何年にもわたってそうした状態を維持している
という共通点があります。
継続性が高いということは、「好循環が回っている」ということ。
相原さんは、ハイパフォーマーたちは、「好循環の起点」となる行動を理解しており、しかも習慣化している
と指摘します。
「好循環の起点」をつくる習慣は、何も特別なことではなく、誰にでもできることばかりです。
ハイパフォーマーたちは、当たり前とも思える行動を実践し続けているということ。
本書は、ハイパフォーマーに共通する、「好循環の起点」となる行動特性についてまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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売れないBさんと売れるAさんの「対照的な言葉」
好循環でうまく回っている人と、悪循環にはまって苦闘している人。
その違いは、仕事ぶりや話しぶり、話の内容からも感じ取ることができます。
相原さんは、ハイパフォーマーの場合、余裕があり、自信が感じられるが、ローパフォーマーの場合はどこかあくせくとしており、クロージングを急ぐなどの余裕のなさを垣間見せる
と述べています。
2年ほど前に自動車を購入した時のこと。コスト面を含めていろいろと比較をしたいと思い、同じ車種を扱う二つのディーラーの二人のディーラーマンにお世話になった。
ひとりは友人から紹介を受けたディーラーマンのAさん、もうひとりは店頭へ行った時にたまたま対応してくれたディーラーマンのBさん。両者の対応は大きく違った。まず最初に会った時の説明の仕方が違った。
Bさんは、たくさんの資料を持ち出して、ひと通りすべての説明をし、こちらから聞いてもいないのに値引きについての説明までもした。その後も随所でクロージングを急ぐ素振りを見せた。一方のAさんは、こちらから聞いたことだけ丁寧に答えた。他メーカーの車とも比較したいと思っていると話しても、にこやかに穏やかに、「十分に比較なさってください。必要な情報はすべてご提供しますので」と余裕を見せた。
両者と関わっている中で、仕事上の興味が湧いてきてしまい、購入の意思決定に関係しないことまで含め、いろいろと質問をした。難しい質問やあまり関係のない質問をした場合などは、ことごとく違った反応が返ってきた。
ある時、「Aさんは(Bさんは)、月に何台くらい売るんですか?」と聞いてみた。こんな質問をする客はいないのであろう。Bさんは、しばし不自然な間があったあとに、「いや、なかなか思うようには売れないものです。景気もなかなか上向かないですし、競合状況もますます厳しいですし」というような答えが返ってきた。Bさんの頭の中は普段からこのように、「〇〇だから売れない」というような言い訳が渦巻いているのかもしれない。
一方のAさんだが、その質問に対して即座に、「先月はおかげさまで6台購入いただきました」と答えた。「何台?」と聞いたのに対して真正面から具体的な数字を答えてくれたことにまず好感が持てた。
それ以上に感心したのは、「売るんですか?」と聞いたにもかかわらず、「ご購入いただきました」という返答であった点だ。しかも「おかげさまで」という言葉まで付いている。常套句(じょうとうく)としているとしても、ここまで板に付いているということは、そのような感謝の気持ちが意識に刷り込まれている表われであろう。
結局、友人から紹介されたこともあり、Aさんから購入したが、仮に紹介がなかったとしても、間違いなくAさんから購入したであろう。そして、そのメーカーの車を買おうとしている友人がいたなら、やはりAさんの方を紹介するであろう。『ハイパフォーマー 彼らの法則』 第1章 より 相原孝夫:著 日本経済新聞出版社:刊
成功法則に則ったとしても、マネジメントスキルを身につけたとしても、継続的に高い効果があがるとは限りません。
好循環の起点は、「具体的で、プロセス自体にモチベーション要因が埋め込まれている行動」です。
ハイパフォーマーに共通に見られる行動は、その行動自体が「成長欲求」や他者と良好な関係を築こうとする「親和欲求」など、誰もが持っている根源的な欲求を満たすものとなっているため、継続しやすく、習慣化しやすい
という特徴があります。
失敗を自分事として受け止めること
ハイパフォーマーの人たちの特徴の一つ目は、「失敗の受け止め方」です。
ハイパフォーマーの人たちは、失敗を必要以上に深刻にとらえることはありません。
ただ、失敗を自己正当化して他人のせいにせず、自己の「学びの機会」と考えることができます。
失敗を自分事として受け止め、失敗から学ぶことで、行動は改善される。同じ状況が起きた場合に、二度と同じ失敗は繰り返さず、適切に対処できるようになる。それにより自信が形成され、さらに困難な課題にチャレンジできる。失敗しても、再度失敗から学べる。
そのようにして経験値はどんどん高まり、実力はレベルアップしていく。また、責任逃れをしないそのような態度は周囲から好感を持たれ、信頼は高まり、重要な仕事を任されるチャンスにも恵まれるようになる。
一方、失敗した時に受け止めずに流してしまったり、他人のせいにしたりする場合、そこからの学びは何ら得られず、行動はいっこうに改善されない。同じ状況が起きた場合、また同じ失敗を繰り返すこととなる。
受け止めずにスルーすることで精神的ダメージを避けてはいるものの、失敗への恐怖心は増すこととなり、チャレンジすることができなくなる。他人のせいにした場合には当然ながら関係した人たちとの関係は険悪となり、またスルーした場合にも、責任感のない者として信頼を損なうこととなり、重要な仕事を任されるようなチャンスには恵まれづらくなる。
「同じ失敗を繰り返す」という言葉は、できない人の代名詞的な言葉だが、失敗を自分事として受け止めないという行為から始まり、そのような事態へと至るのだ。
『ビジョナリーカンパニー2』(日経BP社)の中で、会社を飛躍的に伸ばしたリーダーの特色の一つとして、次のような言葉が紹介されている。
「うまくいった時には窓の外を見て、失敗した時には鏡を見る」
うまくいった時には自分以外に成功要因を求めるために「窓の外」を見て、失敗した時には自分のどこが足りなかったかで「鏡」を見ることのできる人が成功する人だというわけだ。他人のせいにばかりしている人はその逆をやっていることになる。失敗した時に窓の外を見て、成功した時にばかり鏡を見る。これをやっていては成功しないばかりか、悪循環に陥ってしまうことになるのだ。『ハイパフォーマー 彼らの法則』 第4章 より 相原孝夫:著 日本経済新聞出版社:刊
失敗は、誰にとっても手痛く、できるなら伏せてなかったことにしたいもの。
しかし、失敗と向き合わない限り、成長することはなく、ハイパフォーマーへの道は開かれません。
「うまくいった時は窓の外を見て、失敗した時には鏡を見る」
頭の片隅に入れておきたいですね。
小さな積み重ねが、とんでもないところへ行く唯一の道
ハイパフォーマーの人たちの特徴の二番目は、「常に動き続けている」ことです。
行動しなければ何事も起こらない。実際にやってみないことには、それがどんなものかは分からないし、そこから何が得られるかは分からない。「打たないシュートは100パーセント決まらない」のだ。
動くことによってフィードバックを得れば、その度ごとに貴重なアイデアやインスピレーション、次の一手への足がかりが得られる。大きな発見はなにも大きなアクションからのみ生じるのではない。たいていは、ほんの些細(ささい)なアクションがきっかけとなっているものだ。
小さな一歩でも、得られるフィードバックは莫大(ばくだい)であることも多い。また、動くことによって必要なものが浮き彫りになり、新たなチャンスに出会える。多くの人たちとの接点が生まれ、協力者が現れることもある。それゆえ、少しずつであっても動き続けることが重要なのだ。
大リーグのイチロー選手は試合後、必ずロッカールームで自分のプレーを振り返るという。グラブを磨きながら、その日の一打席一打席、一球一球を振り返る。どうすればもっと良い結果となったのか。今後はそれらの状況に対してどう対処すべきか。
イチロー選手の打席は一打席として同じ打席はないのだ。毎回違うことを考えて、少しでも自らのバッティングを進化させようと何か新しいことを試みている。そうすることで、絶えず変化し、成長する。
「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています」と彼は言う。昨日より今日、今日より明日と、日々前進を求められるプロの世界では、「来月は」とか「来年こそは」などという悠長なことを言っている暇はないのだ。『ハイパフォーマー 彼らの法則』 第5章 より 相原孝夫:著 日本経済新聞出版社:刊
試行錯誤を繰り返しながら、つねに動き続ける。
それが、他を圧倒する実力をつける秘訣です。
まさに、「継続は力なり」です。
「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道」
一歩一歩、少しずつでも確実に、前に進んでいきたいですね。
結果を出すスポーツ選手が、共通して口にする言葉とは?
ハイパフォーマーの人たちは、周囲の人たちとの関係、とくに身近な人たちとの関係を大切にします。
生産性を高く仕事をするためには、一番重要なことは身近な人たちとの関係であり、それにより、互いにいい仕事ができ、成功にも近づくということを知っている
からです。
孤独な戦いを選択しないということは、スポーツの世界で最高のパフォーマンスをあげるうえでも、とりわけ重要性が高いと考えられる。
2009年の野球の世界大会(WBC)で指揮官として連覇を達成した読売ジャイアンツの原辰徳監督は、2011年のWBCへ向けて以下のように、「孤独の中で戦うことはするな」とアドバイスをしていた。
「孤独の中で戦うことはしないで、みんなで戦う。(他の選手に)ミスが出たらカバーして(一緒に)心を痛め、喜びの時は自分のことのように喜び、そんな気持ちで臨んでほしいね」
孤独な中では力は発揮できないことを経験的に分かっているのであろう。
チームスポーツに限らず、個人スポーツであってもそれは同様だ。2014年の全米オープンテニスで決勝まで残り日本中を熱狂させた錦織圭(にしこり・けい)選手は、小学校6年生の時の作文に印象的なことを書いていた。もちろん、日本一になる、世界一になるということも書いているが、それ以外に次のようなことも書いている。
「試合に出ることで友だちが増えました。友だちが増えたおかげでいろいろな話をしたりいっしょに練習したりできます。それもテニスが好きな一つです」
これも、孤独で戦うという選択をしないという、彼の才能の一つかもしれない。全米オープンで決勝戦を戦い終わったあとのインタビューでは真っ先に、「チームに感謝したい」と彼を支えたコーチやトレーナーなどチームへの感謝の気持ちを口にした。
オリンピックなどの国際大会で、最高のパフォーマンスをする選手は決まって「感謝」を口にする。「これまで支えてくれた人たちのために頑張りたい」というようにである。それゆえ、選手たちが競技に臨むにあたってどのようなコメントをするかで、だいたいパフォーマンスの予想が立つ。
「楽しみたい」という類(たぐい)のことを口にする選手も比較的多い。つらい練習に耐え抜いてその場に立っているわけなので、その最高の舞台を楽しみたいという気持ちは分かる。あるいは、力まずリラックスしたいがためにあえてそのように言っているのかもしれない。
しかし、そのようなコメントをした選手たちはどうも良いパフォーマンスが発揮できないように思われる。統計をとったわけではないので、何人かの選手のコメントを聞いた範囲での個人的な感想に過ぎないが、自分へ向けたコメントだけをする選手は、100パーセントの力やそれ以上の力が発揮されることは少ないように思われる。
「人が他人の考えや経験に刺激されず自分だけで成し得たことは、どんなにすばらしいものでも、実に味気なくつまらないものだ」とアルベルト・アインシュタインは述べている。
同じことを達成するのも、誰かと一緒に達成した方が何倍も喜びは大きい。ハイパフォーマーたちはこの点も経験を通してよく理解しているのであろう。『ハイパフォーマー 彼らの法則』 第6章 より 相原孝夫:著 日本経済新聞出版社:刊
一人の人間が成し遂げられることは限られています。
テコの原理と同じで、関わる人間が多ければ多いほど、同じ労力でもより大きな力を出すことができます。
目標を達成したときの充実感も、大きくなりますね。
どんな人でも、一人では生きてはいけません。
支えてくれている身近な人への感謝を忘れずに、喜びを分かち合いながら日々過ごしていきたいですね。
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時代が変わると、世の中の流れや周りを取り巻く環境が大きく変化します。
それにつれて、私たちの仕事の仕方や求められる能力も変わっていきます。
しかし、相原さんは、個人として組織の中で成功するための行動原理は、昔も今も変わらない
とおっしゃっています。
それは、「周囲の人たちを助け、より良い方法を模索し続け、失敗から学び、環境変化に柔軟に対応しながら、継続的に貢献しようとする」こと。
自分だけでなく、周囲の人たちも巻き込んで、最高のパフォーマンスを発揮する。
私たちも、そんなハイパフォーマーを目指したいですね。
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