【書評】『逆転のメソッド』(原晋)

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 お薦めの本の紹介です。
 原晋さんの『逆転のメソッド 箱根駅伝もビジネスも一緒です』です。

 原晋(はら・すすむ)さんは、青山学院大学陸上競技部の監督です。
 04年に監督就任されて以降、09年に同校を33年ぶり箱根駅伝出場、15年には箱根駅伝初優勝へ導くなど、指導者としての手腕を発揮されています。

営業マンとして身につけた「逆転するメソッド」


 2015年1月、お正月の風物詩である「箱根駅伝」を制したのは、伏兵の青山学院大学(青学)。
 並み居る強豪を寄せ付けず、2位に10分以上の大差をつける圧倒的なレースでした。

 世間を驚かせた青学の箱根駅伝優勝。
 それは、決して偶然で成し得たものではなく、長年にわたり積み上げてきたプロセスの成果が結果として現れたものです。

 原さんは、青学が箱根駅伝で優勝することができた理由について、以下のように説明しています。

 まず挙げられるのが、箱根駅伝に出場して優勝するという部としての目標を明確にしたこと、そして監督である私自身が退路を断(た)って目標達成に全力を上げる覚悟と強い意志を部員たちに示したことである。
 そのうえで、私が最初に取り組んだのは、部員たちが規則正しく生活する環境を整えることだった。この生活改善に丸3年間かかっている。
 生活環境のベースができた段階で、目標実現に必要なことをクリアするために次々と手を打っていった。具体的には、青学らしいカラーの人材をスカウトし、組織づくりを進め、厳しい練習と鍛錬で部員たちを鍛え上げるということだ。
 また、部員ひとりひとりにも1年間の目標、1ヶ月の目標、試合や合宿ごとの目標を設定させ、グループミーティングで進捗状況をチェックした。自分の目標を実現するためにどうすればよいかを選手自身が考え、半歩ずつでも確実に前に進むことによって結果を出させたのである。
 だから、箱根駅伝での優勝は、十年越しのプロセスを経て達成した成果であるわけであるだ。

 『逆転のメソッド』 はじめに より 原晋:著 祥伝社:刊

 青学の優勝は、営業マンとして身につけたビジネスのスタイルやノウハウを駆使(くし)した結果
 原さんは、駅伝で優勝することもビジネスで成功することも要するに人間のやることだから、実はプロセスにおいて全く同じだと述べています。

 選手時代、サラリーマン時代、そして監督になってから。
 原さんは、挫折や危機に出会うたびに土俵際からの逆転劇で乗り越えてきました。

 本書は、そんな原さんが自らの経験から体得した「土壇場から逆転するメソッド」を、具体例を交えなからまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「営業で勝つ秘訣」とは?


 陸上の長距離選手として、大手電力会社に就職した原さん。
 しかし、足の捻挫が引き金となり、現役引退を余儀なくされます。

 その後、配属された営業部門で、「エコ・アイス」という省エネ型空調システムを売りまくって大きな成果を収め、伝説的な営業マンとなります。

 営業で勝つ秘訣(ひけつ)は何か。
 言葉にするといささか陳腐(ちんぷ)になるかもしれないが、第一に挙げられるのは営業マンの情熱である。その情熱をわかってもらうためにも、相手と面と向かって話すことが不可欠だ。お互いの人となりを知らないと、物は売れていかないものだ。
 ただ、情熱だけではもちろん売れない。情熱がベースにあって、そこからはウィンウィンの世界である。お互いに利益があり、お互いに業績を上げるにはどうすればいいのかというロジックで、提案していくのが最大のポイントだ。
 押し売りの営業では絶対に長続きしない。こちらがいくら売り込んでも「あなたにとってはいいかもしれないけれども、私たちには大したメリットがありませんよ」と言われるのが落ちだ。だから、私は常に相手にどういうメリットがあるかを考えながら提案することを心がけていた。
 どこの工場でも事業所でも、電気料金は安いに越したことはない。固定費である電気料金を削減することができれば、それだけ利益が増えることになる。その点を強調して、営業を行なったのだ。
 なかでも「伝説の提案型営業」と言われたのが、エコ・アイスを小学校に売り込んだプロジェクトだ。中国電力管内では初めてであった。
 小学校に限らず、学校にとって夏季は授業がない夏休みの期間であり、空調機器をほとんど使わないために、そもそも空調機器の省エネというロジックが成立しない。にもかかわらず、どうやってエコ・アイスを導入させたのか。
 当時はまだエコロジーという概念が広まっていない時代だったが、私が考えて提案したのがエコスクールだった。
 校舎の横にエコ・アイスという空調機器を設置し、屋上に太陽光パネルを取り付ける。そして、今現在、何キロワット発電しているか、目に見える形で表示する。さらに、担当者の私が子どもたちを対象にしたエコの出前授業もするというプロジェクトだ。
 言ってみれば、発想の転換である。エコ・アイスを空調システムと捉(とら)えず、「教育機材」と見なしたわけだ。
 この提案を引っ提げて山口県下松(くだまつ)市の教育委員会の担当者を口説(くど)いたところ、市内の小学校に導入されることになった。エコ・アイスのタンクに黄色のシートを張り、「エコ・アイス稼働中」や「電気料金のメリット」などを易しく説明したパネルを作って展示した。
 とにかく売りまくった。その結果、私はエコ・アイスの売り上げで全社トップになり、社内表彰を受けた。エコ・アイスの営業について営業部の成果事例発表会でプレゼンを行なったが、このときに私流の販売戦略について説明したのである。

 『逆転のメソッド』 第2章 より 原晋:著 祥伝社:刊

 いくら性能がよく、コストパフォーマンスのいい製品でも、それだけでは売れません。

 いかに相手目線に立って、製品をアピールできるか。
 常に相手にどういうメリットがあるかを考えながら提案することが大切です。

 駅伝においても、一方的な指導の押し付けではなく、選手目線で考えたからこそ、大きな成功を収められたのでしょう。

選手たちが、いつも「笑顔」で走る理由


 青学の選手たちを見て、印象に残るのが「笑顔」です。
 どの選手も、体力的にも、精神的にも厳しい状況にもかかわらず、つねに笑みを浮かべながら走っていますね。

 青学の選手たちが笑顔で走る理由は、原さんの指導方針にあります。

 青学の部員たちがいつも明るく笑顔であいさつするというのは、監督である私自身がそうであり、部員たちがチャラチャラしているのをいちいち注意したりしないということでもある。監督が厳しく注意したら、部員たちは当然しかめっつらをせざるをえないだろう。
(中略)
 修行僧のような指導は、昔のように黒電話しかない時代だからこそ成り立ったものだ。彼女に電話をかけるときも、母親が出るか父親が出るかと緊張してダイヤルを回したり、自動販売機でこっそりエロ本を買って布団の下に隠したりして読みふけった時代の指導法なのだ。
 今のように彼女といつでも携帯で話ができ、インターネットでエロ映像が見られる情報化社会に「他人としゃべるな」「笑顔は厳禁」「エロ本を読むな」「携帯を使うな」などと言っても無理だろう。だから、軍隊方式の指導はもう終わったと私は思っている。
 もちろん、ハードな練習は不可欠だ。ニコニコ笑いながら練習しているだけでは強くなれないことなど百も承知している。そうではなくて、練習では修行僧のように自分に厳しく走るけれども、練習や試合が終わった暁(あかつき)には楽しくやったらいいではないかというのが私の考えだ。
 ひとりで辛抱強く続けるが、暗くて横の動きが苦手というのが陸上選手の特性である。その欠点をどう克服して、人とつながる力をつけていくかというのを課題のひとつに据えて、私はいろいろな試みを仕掛けてきた。だから、青学の選手は表現力が豊かで、あるいは人の心がわかる人間に育っていると思う。こうした私の考え方が正しいことを立証(りっしょう)するためにも、選手たちには常々「絶対、出世せえよ」と言い聞かせているところだ。
「ええか、出世するのは、金もうけのためではないのだよ。社会に貢献し、いい影響を及ぼすためだ。たとえば、飲料メーカーに入ったら、その飲料をどうやって世の中に広めていくか、そのパイオニアになっていかな、ダメだぞ。そのためにはいいポストに就かなダメだし、そのために出世するのだよ」
 こうした人生哲学を説く背景には、実は私自身の劣等感が潜(ひそ)んでいるのかもしれない。中京大学体育学部から駅伝の選手として電力会社に入ったために、出世のレールから外れて仕事をしなければならなかった屈辱感が全くなかったかといえばウソになる。
 また、陸上選手に特有の暗さや横のつながりの弱さというのは、そのままサラリーマンとしての私自身の欠点だったとも言えるかもしれない。

 『逆転のメソッド』 第3章 より 原晋:著 祥伝社:刊

 ひとりで黙々と修行僧のように練習するより、仲間と一緒に、同じ目標を目指して楽しみながら練習するほうがより効果的。

 原さんが、駅伝一筋ではなく、一般企業で営業マンとして働いた経験があったからこそ、たどりついた指導哲学ですね。

「情熱」が人を動かす


 ビジョンを持ち、理論や理屈を説くことは大切です。
 しかし、最後には、情に訴えるものがないと、人間は動きません。

「おまえに託すから、おまえ自身のために、そして部のためにがんばってくれ」

 そうした「男気」が人を動かすということ。

 監督就任後、最初のミーティングのとき、私は部員たちに一枚のA4用紙を配った。そこに書いたのは次の言葉だ。
「人間の能力に大きな差はない。あるとすれば、熱意の差だ」
 そして、私は宣言した。
「オレはおまえたちを絶対に箱根駅伝に出場させる」
 まず、監督としての覚悟を述べ、部員たちの情に訴えたのだ。
 そのとき、「箱根駅伝に出たい者」と言って挙手を求めたところ、部員全員が手を挙げた。しかし、「目的を達成するためには、かくかくしかじかの規則を守らねばならないが、がんばる覚悟はあるか」と問うと、反応は今ひとつであった。
 部員たちに「それでも出たい」という覚悟がまだなかったわけだ。だから、そこから整えていかねばならなかったのである。
 その後、組織としてのステージが上がっていくわけだが「おまえたちと一緒に箱根駅伝に出たい。一緒に出ようぜ」という私からの強いメッセージは変わらずに送り続けてきている。
 やはり監督に就任した年のことだが、今でも忘れられない記憶がある。
 陸上競技場が箱根駅伝の予選会に出場するに当たり、「応援に来てほしい」とキャンパスでボランティアを募集したときのことだ。青山キャンパスの部屋に集合ということで待っていたら、来てくれた学生はわずか5人であった。
 この年のマネージャーがポツリと言った。
「ぼくらのことを応援してくれる人なんて、そんなにいないんですよ」
 その言葉を聞いて、私はエネルギー全開で発破(はっぱ)をかけたものだ。
「そんなこと、おまえが言ってどうするんや。来てくれないから、それで終わりか。来てくれないなら、来てもらえるように努力するのがおまえの仕事だろうが。たくさんの人に応援してもらえるよう、われわれが努力しないでどうするんだ」
 あれから十年あまりが経ったが、当時のことがウソのようだ。
 箱根駅伝優勝の記者会見場には取材に来た報道陣があふれ、優勝の祝賀会は校友で満杯だった。そして、相模原キャンパスに近い淵野辺(ふちのべ)駅周辺で優勝パレードが行われたときには、およそ2万5千人もの観衆で沿道が埋め尽くされた。
「この活動は母校のために絶対いいことだから、ぜひ来てください」といくら理屈を説いても人は動かない。
 最後はやはり、行動力と情熱が人を動かしていくのである。

『逆転のメソッド』 第5章 より 原晋:著 祥伝社:刊

 歴史に名を残す偉業の多くは、たった一人の人間の不屈の闘志から始まりました。

 どんなに素晴らしいアイデアでも、実行に移すための情熱がなければ、実現しません。
 まさに、「絵に描いた餅」ですね。

 小さな灯りも、たくさん集まると周囲を明るく照らすことができます。
 青学の復活は、原さんの箱根に賭ける情熱が、多くの人を巻き込んだからこそ成し遂げられました。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 2015年の箱根駅伝で、原さんが選手たちに掲げたスローガンは、「ワクワク大作戦」です。
 出場した青学の10人の選手たちは、笑顔で爽やかに全区間を駆け抜け、全国に衝撃を与えました。

 走っている選手自身も、見ている者を「ワクワク」させる走り。
 そんな型破りなチームには、これまでの挫折や危機を笑顔で乗り切ってきた原さんの負けじ魂がしっかりと受け継がれています。

 原さんには、これからも、駅伝の常識を覆すような魅力的なチームで、私たちを「ワクワク」させてくれることを期待したいですね。


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