【書評】『ビッグデータの覇者たち』(海部美知)

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 お薦めの本の紹介です。
 海部美知さんの『ビッグデータの覇者たち』です。

 海部美知(かいふ・みち)さんは、米国を拠点に事業を行う、実業家・経営コンサルタントです。
 大学卒業後、大手自動車メーカーなどを経て独立。
 現在は、自ら立ち上げたコンサルティング会社を経営されています。

注目を集める、「新しい石油」


 情報の“ゴミの山”から、何か新しい価値あるものを作りだす技術。
 それが、「ビッグデータ」です。

 ビッグデータは、よく「新しい石油」に例えられます。

 石油はそのままでは使い物になりません。
 加工・精製することで、「プラスチック」や「化学繊維」など生活に役立つ素材に変化します。

 ビッグデータも同じように、処理の仕方によって、有益な資源になり得ます。

 この“新しい石油”の埋蔵量の多い場所は、「先進国」です。
 その意味では、日本は「資源大国」といえます。

 ビッグデータは、単なる技術論ではなく、一種の産業論として捉えられるもので、社会のあり方を大きく変える可能性をもつものです。

 本書は、非エンジニアの視点から、ビッグデータという現象を説明し、企業経営や消費者の日常生活にどのような影響を与えるのかをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「ビッグデータ」って何?


「ビッグデータ」とは、人間の頭脳で扱える範囲を超えた膨大な量のデータを、処理・分析して活用する仕組みのこと。
 ビッグデータを使用したサービスは、すでに身近にたくさん存在します。

 代表例は、「グーグル検索」です。

 そのサービスを提供する「グーグル」は、それ自体がビッグデータを体現したような会社。
 いろいろな意味で、ビッグデータ勢力の中心です。

 グーグルの検索技術は、最初、当該ウェブページがどれだけ他のページからリンクしているかをもとにした「ページランク」、すなわち「人気度/信頼度」の指標でした。しかしその後、ユーザーの希望にドンピシャなものにたどり着くべく、どんどん別の指標を追加していきました。こうした種々の指標を「シグナル」と呼びます。ウェブページの中身だけでなく、ユーザーの過去の検索履歴、ユーザーのいる場所、Gメール等グーグルのサービスから得られる行動情報など、あらゆるものがシグナルとなります。これにより、住んでいる国、仕事、趣味、年齢層などによって、検索結果はカスタマイズされます。
 そのユーザーのその時点での希望にできるだけ合った検索結果を出すために、グーグルという会社はものすごい執念を燃やしています。これらの多種で膨大なデータを原料とし、「この人はきっとこういうウェブページを探しているに違いない」となるべく正確に予測するのが、ビッグデータの力です。

 『ビッグデータの覇者たち』 第一章 より 海部美知:著 講談社:刊

 グーグル検索を利用する人が増えるほど、大量のデータが集まり、予測の精度も高まります。

 グーグル検索自体は、誰でも無料で使用できるサービスで、直接利益をもたらしません。
 ただ、その代わりに、「膨大な検索履歴」という、計り知れない価値を持つ“宝の山”を労せず手にすることができます。

 そして、それがグーグルの富の源泉となります。

「無機的データ」と「有機的データ」


 ビッグデータには、次の性格の異なる二種類のデータがあります。
「無機的データ」「有機的データ」

 無機的データは、数字や記号などだけで構成されている、人のまったく関わらない情報のこと。
 天気予報・宇宙・素粒子・化学物質・地質・動植物などの学術研究のデータなどを指します。

 有機的データは、ユーザーが自ら意図的に発信する情報のこと。
 代表的なものは、ツイッターのつぶやきやフェイスブックへの投稿などです。

 アマゾンでの買い物履歴、グーグルの検索履歴なども「人の行動や属性」と深く結びついているので、有機的なデータに含まれます。

 以前のビッグデータ活用といえば、処理しやすい無機的データがほとんど。
 近年はソーシャルメディアなどが成長し、個人の発信するデータが爆発的に増えました。
 その影響もあり、取り扱いの難しい有機的データにスポットライトが当たるようになりました。

 ただ、有機データは、個人の人間関係や属性・経歴・居場所などの情報を含んでいます。
 それらを当人以外が使用するので、当然、「プライバシー侵害」の問題が起こりえます。

 それなのに、どうしてネット企業は、敢えて火中の栗を拾うがごとく、有機的データのビッグデータ手法による活用を諦めないのでしょうか?
 それは、究極的には「ビッグデータの活用がユーザーのためになる」、さらにそれゆえに「コストを下げ、利益をあげることができる」からです。
 ビッグデータを使った絞り込みと予測のおかげで、より効率的に、より正確に、キーワード検索ができたり、ユーザーに合わせた広告を表示したり、いかにも欲しくなりそうな商品をリコメンドしたりすることができます。その結果、そのサービスをユーザーが「便利」だと思って繰り返し利用するようになり、またより効率のよい広告や物品販売ができるので、広告主やマーチャント(販売主)が集まるわけです。

 『ビッグデータの覇者たち』 第二章 より 海部美知:著 講談社:刊

 閲覧者の気を引くような、魅力ある広告を表示する。
 そのためには、より詳しい個人情報を大量に入手する必要があります。

 利益の多くを広告収入で得るネット企業には、「有機的データ」の使用は死活問題です。

 便利さを追求していく中で、プライバシー確保にどう折り合いをつけるのか。
 知恵の絞りどころですね。

巨大生態系を支える「アマゾン」


 オンライン・ショッピングサイトの運営で有名な「アマゾン」。
 グーグルと並び、ビッグデータ業界の雄です。

 顧客の過去の利用履歴から好みを割り出して、ぴったりの商品を画面に表示する。
 また、オススメ商品の割引クーポンを送ったりするサービスなどがよく知られています。

 海部さんは、それは全体の一部でしかなく、アマゾンの「巨大感」とは、クラウドとビッグデータ業界を下から支える「インフラ」としての存在だと指摘します。

 グーグルの場合、ビッグデータをいわば「製造機械」として使い、そこで生産された情報が売り物で、ビッグデータは本業そのものともいえます。これに対し、アマゾンは書籍や電器製品などのモノを、箱に入れトラックで運んで売るのが本業であり、この本業での問題を解決するために、ビッグデータをツールとして使い、次のステップでは自分で作ったツールを外向けにも販売するようになりました。いずれも、必要に迫られてビッグデータ技術を作ったという共通点がありますが、アマゾンの場合は、ビッグデータ技術が、自社内でも本業を下から支える重要な「インフラ」となっており、それをクラウドでサービス提供する他者にも広げているということが、同社の存在感の源流です。
 南米の大河アマゾンは、その広大な流域の森林が二酸化炭素を吸い込み酸素を吐き出して、世界の生物の生態系を支えていますが、ネット企業のアマゾンはそのビッグデータのインフラで、クラウド業界の生態系を支えているのです。

 『ビッグデータの覇者たち』 第四章 より 海部美知:著 講談社:刊

 世界中から受けた、大量の商品発注の処理。
 発送前の大量の商品を、効率的に出し入れする巨大倉庫の管理。

「商品オススメ」リストの作成。
 膨大な顧客情報から得た情報を活用するためのインフラ。

 それらが、アマゾン自身だけでなく、クラウド業界全体の生態系を支えています。

ビッグデータの活用が「ブラック」から抜け出す切り札


 従業員を法外に酷使する企業は「ブラック企業」と呼ばれ、社会問題化しています。
 海部さんは、ビッグデータは、ブラック企業を排除するツールとしても使えると述べています。

 製造業の仕事はどんどん新興国に移り、先進国ではどこもサービス業に従事する人が圧倒的に多い時代を迎えています。しかし、モノの製造技術を介して生産性を上げることができる製造業に対し、直接人の手でサービスを提供するサービス業では、技術を使って生産性を上げることはなかなか難しいのが現実です。このため、ユーザーにより安くサービスを提供して競争に勝ち抜くには、技術を向上させるよりも、従業員安い給料で長時間酷使することになってしまいがちです。
 しかし、サービス業でも技術を使ってマージンを生み出すことができるようになれば、ブラックから抜け出すことができるはずです。そこで用いられるのが、ビッグデータです。解析予測によって無理なくスケジュールを組んだり、買ってくれそうなお客さんをあらかじめ絞り込んで無駄足を減らしたり、雑用的な業務をなるべく減らして重要な業務に専念できるようにしたりするなど、「無駄」な労働を減らして効率を上げる、ビッグデータの活躍場面はたくさんあります。

 『ビッグデータの覇者たち』 第七章 より 海部美知:著 講談社:刊

 日本でも、これから本格的にビッグデータの利用方法が議論されるでしょう。

 日本企業の社員(特にホワイトカラーの)一人当たりの労働生産性の低さは、よく指摘されます。
 国際競争力を上げるという意味でも、ビッグデータを有効に利用する意味は大きいですね。

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「ビッグデータ」は、直接、一般人の目に触れるものではありません。
 なので、重要性がなかなか理解しづらいものです。

 海部さんがおっしゃるように、ビジネスや経営、さらには国や産業の競争力にインパクトを与える技術であることは、間違いありません。

 ビッグデータは、現在進行形で発達している、「未完の技術」です。
 後発者が入り込む余地もまだまだありそうですね。

 多くの日本企業が「ビッグデータ」技術の活用方法に知恵を絞り、役立つシステムを数多く作り出して、“技術大国・日本”復活の足がかりにしたいものです。


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