【書評】『スイッチ!』(チップ・ハース、ダン・ハース)

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 お薦めの本の紹介です。
 チップ・ハースさん、ダン・ハースさんの『スイッチ!』です。

 チップ・ハースさんは、組織行動論がご専門の教授です。

 ダン・ハースさんは、ビジネスコンサルタントです。

「変化」を起こすために必要な要素とは?


 私たちの脳では、つねに二つのシステムが独立して働いています。
「感情」「理性」です。

 ハースさんは、この二つのシステムの葛藤を、「象」「象使い」の関係に例えています。

 変化に失敗するのは、たいてい目的地に着くまで象使いが象を路上に引き留めておけないからなのだ。
 目のまえの満足を求める象の欲求は、象使いの強みとは正反対だ。象使いの強みとは、長期的に考え、計画を練り、先を見すえることだ(いずれも象には苦手なことだ)。
 しかし、象には大きな強みがあり、象使いにも致命的な弱みがある。象はいつも悪役というわけではない。象の取り柄は豊かな感情だ。愛、思いやり、共感、忠誠心。子どもを危害から守らなければという強い衝動。自分を守ろうとするときの背筋が引き締まる感覚――それが象だ。
 そして、さらに重要なのは、変化を起こそうとしているとき、それを実行に移すのは象だということだ。立派な目標であれくだらない目標であれ、目標に向かって突き進むには、象のエネルギーと勢いが必要だ。
(中略)
 何かを変えたいなら、象と象使いの両方に訴えかけるべきだ。象使いの担当は計画や方針。象の担当はエネルギー。象使いにだけ訴えかけて象に訴えかけなければ、チーム・メンバーは頭で理解できても、やる気を出さないだろう。象にだけ訴えかけて象使いに訴えかけなければ、熱意はあっても、方向性が定まらないだろう。どちらにしても致命的な欠陥だ。やる気のない象と頭を空回りさせる象使いがコンビを組んでも、何も変わらない。しかし、象と象使いが協力して動けば、たやすく変化を引き起こせる場合もあるのだ。

 『スイッチ!』 第1章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 千葉敏生:訳 早川書房:刊

 象使いの力(セルフコントロール)は消耗品です。
 ムダな消費は避けなければなりません。

 一方、象の力(感情のエネルギー)は無尽蔵で強大です。
 使う方向性を間違えると、役に立たないばかりか、自分自身を傷つけることになります。

 両者の長所をうまく組み合わせること。
 それが、変化を起こす最大のポイントです。
 
 本書は、以下の三つの要素によるフレームワークから、小さな力で大きな「変化」を起こすための方法を具体的にまとめた一冊です。

  • 象使いに方向を教える
  • 象にやる気を与える
  • 道筋を定める(環境を変える)
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「ブライト・スポット」を見つける


 うまくいっている部分「ブライト・スポット」を探し出し、そこに焦点を合わせることが重要です。
 著者は、具体例として、ベトナムの栄養不足問題を解決した、スターニンを挙げています。

 スターニンは、問題の「根本原因」である公衆衛生などの社会的な問題に手をつけませんでした。
 そのかわりに、地方の村々を訪れて子どもたちの体重を測ります。
 そして、貧乏でも栄養の足りた子どもがいることを確認します。

 彼らとそれ以外の子供で、食べさせ方や食べ物の種類に違いがあることを発見し、問題解決への足がかりをつくりました。

 大きな問題が、それに匹敵するくらい大きな解決策で解決されることはほとんどない。むしろ、数週間、ときには数十年間の小さな解決策の積み重ねによって解決されることが多い。この非対称性こそ、象使いの分析好きが裏目に出やすい理由なのだ。
 象使いは、問題を分析するときその大きさに見合う解決策を探そうとする。穴を見つければ、それをしっかり埋めようとする。60センチの丸い穴を見つけたら、60センチの杭を探そうとする。しかし、その心理モデルはまちがっている。たとえば、ベトナムの栄養不足を分析していた専門家は、その原因となっている大規模な制度上の問題を徹底的に分析した。公衆衛生の欠如。貧困。無知。水不足。さらに、問題を解決するために、大規模な制度上の問題を徹底的に分析した。しかし、それは夢物語にすぎなかった。スターニン以外に、「いまうまくいっている部分は?」と問いかけようと思った人はいなかったのだ。
(中略)
 ブライト・スポットを探すということは、「いまうまくいっている部分は? それを広めるにはどうしたらよいか?」と自問することにほかならない。当たり前じゃないかって? しかし、現実の世界で、この当たり前の疑問が尋ねられることはめったにない。代わりに、私たちは「何が壊れているか? それを直すにはどうすればよいか?」というように、問題に目を向けた疑問を唱える。

 『スイッチ!』 第3章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 千葉敏生:訳 早川書房:刊

 問題を解決しようとすると、つい、うまくいかない部分だけに目がいってしまうものです。
 しかし、それは象使いの陥りやすい罠です。

 ブライト・スポットを探す。

「いま、うまくいっている部分は?」

 つねにそういう視点で、ものごとを捉える習慣をつけたいですね。

目的地を指し示す


 変化を引き起こす場合には、数十年ではなく、数ヶ月や数年で取り組める目標が必要です。

 ハースさんは、近い将来に実現できる鮮明な未来像、「目的地の絵はがき(デスティネーション・ポストカード)」を描くことの重要性を強調します。

 魅力的な目的地を描くことで、象使いの大きな弱点のひとつ、つまり分析に迷い込んでしまうという弱点を正すことができる。変化の場面では、私たちはたいてい直感的に相手の象使いにデータを見せ、「これが変化の必要な理由です。この表、グラフ、チャートを見ればおわかりでしょう」と言おうとする。象使いはこれが大好きだ。データを検討し、分析して穴を指摘し、あなたの出した結論について話し合おうとする。象使いは「実行」段階よりも「分析」段階に満足感を抱くことも多いが、それは変化にとっては危険だ。
 しかし、魅力的な目的地を指し示した場合はどうだろう。象使いは、その強みを活かして、「目的地に着く方法」を探りはじめる。
(中略)
 象使いのエネルギーをどう使うか――その選択の鍵を握っているのはあなただ。何もしなければ、象使いはどの方向に進むか、進む必要があるかどうかで延々と悩みつづけるだろう。しかし、そのエネルギーを、目的地へと進む力に変えることは可能だ。そのためには、心に響く目標、つまり象と象使いの両方に訴えかける目標が必要だ。

 『スイッチ!』 第4章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 千葉敏生:訳 早川書房:刊

「目的地の絵はがき」は、以下の二つの大きなメリットがあります。

  • 象使いに行き先を指示する
  • 象に旅の価値を納得させる
 ダイエットや禁煙、資格勉強などにも有効に活用できますね。

ゴールラインを近くに感じさせる


 ハースさんは、思っていたよりもゴールラインの近くにいると感じさせるのが、行動を促すひとつの手だと述べ、以下のような例を挙げています。

 客が洗車に来るたびに、カードにスタンプを押し、カードに8つのスタンプがたまると、洗車が一回無料になるキャンペーンがありました。

 あるグループには、10個のスタンプを集める必要があるけれど、“スタートダッシュ”として、すでに2個のスタンプが押されたカードを渡します。
 別のグループには、“スタートダッシュ”のない8個のスタンプを集める必要のあるカードを渡します。

 どちらもあと8つのスタンプを集める必要があることには変わりありませんが、結果に大きな差が生まれました。

 8個用のスタンプを受け取った客は、19%しか無料の洗車までこぎつけなかったのに対し、スタートダッシュの2個が押された10個用のスタンプを受け取った客は、34%がスタンプをためきりました。

 あなたが変化の主導者なら、まずはチームのカードに押せるふたつのスタンプを探すべきだ。新しくなる点や変わる点ばかりに注目するのではなく、すでに達成しているものごとを知らせよう。たとえば、「チームのみなさん、確かに組織構造は変わりますが、実は過去の案件で一度経験があるはずです」とか「20キロもやせるのはたいへんだと思うけど、炭酸を飲むのはもうやめたんだから、それだけでも今年じゅうに2〜3キロは落ちるんじゃないか?」という具合だ。
 ビジネスでは、「ハードルを上げよ」という決まり文句がある。しかし、気乗りしない象にやる気を与えたいなら、それは得策とはいえない。むしろハードルを下げるべきなのだ。走り高跳びのバーを手に取り、またげるくらいの高さまで下げる光景をイメージしよう。
 やる気のない像を動かしたいなら、「変化を細かくする」べきなのだ。

 『スイッチ!』 第6章 より チップ・ハース、ダン・ハース:著 千葉敏生:訳 早川書房:刊

「ゼロからのスタートではない」と思わせること。
 それが、象をやる気にさせるコツです。

「ちょっとずつやっていたら、いつの間にかゴールにたどり着いていた」

 そんなやり方が理想ですね。

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 変化を「象」「象使い」「道筋」という三つの要素をもとに考える。
 本書の方法は、個人にも組織にも通用するものです。

 何をやっても長続きしない、飽きっぽい。
 そんな人は、意思が弱いのではなく、象使いの力をムダに使っているだけです。

 変われるまで続けられるかどうか。
 それは、精神力の問題ではなく技術力の問題です。

 要は、変われるためのスキルやノウハウを持っているかいないか、です

「自分は変われない」という思い込みから脱すること。
 変化に向けて、小さくても確実な一歩を踏み出したいですね。


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