【書評】『「ツキ」の科学』(マックス・ギュンター)
お薦めの本の紹介です。
マックス・ギュンターさんの『「ツキ」の科学 運をコントロールする技術』です。
マックス・ギュンターさんは、英国生まれの作家、ジャーナリスト、投資家です。
父親は世界的に名の知れた銀行家で、ギュンターさんも、13歳で株式マーケットに参入して財を成しています。
「運」は自分の意志と行動で変えられる!
ギュンターさんは、千人を超える人々の人生を調べ、「運の良い人」の特徴を探りました。
その結果、運は、限られた範囲ではあるけれど、自分の意志と行動によって確かに思い通りに変えられるもの
との結論を得ます。
運の良い人には見られるけれど、運の悪い人にはほとんど(あるいはまったく)見られない特徴は、以下の五つです。
- 社交性に富む
- 直感力がある
- 勇気がある
- ラチェット効果をはたらかせる
- 悲観的推測に基づいて行動する
本書は、これら五つの特徴が「運」にどのように影響するのか、具体的なデータや論理的根拠をもとに解説した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「運」という言葉の定義
ギュンターさんは、「運」を以下のように定義づけています。
私は、誰もが受け入れることのできる定義をずっと考えてきた──あとから説明や分析を加える必要がなく、それだけで真実を言い表せる定義はないか、と考えてきたのである。その結果、思いついたのが次の定義だ。
【運】人生を大きく左右し、人間の手で操作・制御することが不可能に見える事象
あまりに曖昧な定義と思う人もいるかもしれない。確かにその通りである。あえて曖昧にしてあるのだ。
まず、運というものを「ただ偶然に物事が良くなったり悪くなったりすること」と捉える人は、この定義で満足するだろう。それから、運に単なる偶然以上のものを感じている人、「運とは何かの力であり、論理的、科学的に説明のつくはずのものである」と信じている人も、これに異議は唱えないだろう。また、運が超自然的、超常的な力であると信じる人、占星術、ラッキーナンバー、魔法の呪文、ウサギの足(訳注:西洋ではウサギの足が幸福のお守りとして使われる)、四つ葉のクローバーなどを信じる人、そして、何より「全能の神」を信じる人にも納得してもらえると思う。『ツキの科学』 第1部 第1章 より マックス・ギュンター:著 夏目大:訳 PHP研究所:刊
運を、「人間の理解を超えて働いている力の一種」とする捉え方ですね。
目には見えず、普段は意識しないけれど、すべての人の人生で一定の役割を果たす力。
人々を翻弄(ほんろう)してきた“見えない力”。
ギュンターさんは、それらの力に論理的な規則性を与え、コントロールする方法を見つけ出そうとしています。
似たもの同士を集める力
この世では、単なる確率論では説明しづらい、不可思議なことが実際に起こります。
そういった出来事を説明するためのひとつの方法が、「シンクロニシティ理論」です。
シンクロニシティとは、似ているもの、関係のあるものを、空間的、時間的に近づけ、一つにまとめようとする力、つまり、「同期(シンクロナイズ)」させる力のことです。
シンクロニシティにより、秩序だったパターンをつくり出し“偶然の一致”を生み出す。
それが、「シンクロニシティ理論」です。
幸運な出来事がいくつか続いて起きた場合、シンクロニシティ理論は「類似性のある出来事は一つにまとまる性質がある」と説明する。何らかの宇宙的な力がはたらいて、出来事の起き方に一定の秩序、パターンが生じる、というのだ。この「宇宙的な力」が、「5」に5回連続賭けてすべて的中させるといった奇跡的な勝ち方に(少なくともある程度は)関係している、ということになる。
運を説明する理論のなかでも、シンクロニシティ理論は、最も「もどかしい」ものでもある。なぜなら、そこで前提となっている「力」は、目にも見えないし、どのように、また何を媒介として作用するのかもほとんどわからないからだ。この理論を唱える人たちでさえ、それを説明することは少ないし、説明を試みようとすらしない人も多い。はじめからあきらめてしまっているようでもある。
シンクロニシティ理論でいう「似たもの同士を集める力」もいつかは解明されるかもしれないが、現在のところは完全な謎でしかない。しかし、たとえ説明はできなくても、それが存在するという事実は謙虚に認めなくてはならない、というのである。『ツキの科学』 第2部 第3章 より マックス・ギュンター:著 夏目大:訳 PHP研究所:刊
日本にも、昔から「類は友を呼ぶ」ということわざがありますね。
「シンクロニシティ」という言葉は、最近、盛んに使われるようになりました。
まだ科学では説明しきれないけれど、確実に存在するであろう力。
頭から否定せず、そのように理解したいですね。
運の良い人は勇気がある
運の良い人が持つ特徴のひとつが「勇気がある」ことです。
勇気とは、最善の準備を尽くし、最悪のシナリオを考えた上で、リスクを取ってチャンスの芽を掴みにいく“賢い勇気”
です。
恐怖にかられ、その恐怖心から、勇気ある挑戦を「軽はずみな行動」と言ってしまう。それはよくあることだ。自分が何も行動しないことに対する言い訳の言葉として、これほど素晴らしいものはない。この言葉を使えば、反論してくる人はほとんどいない。こう言うだけで、分別のある人のように見えるのだ。「冒険をしなければ、怪我をすることもない」と言う人は、何やら信頼できそうな気さえする。確かに、冒険をしなければ怪我はしないだろう。だが、そういう姿勢では、たとえ何か目標があっても、それに近づいていくことは難しいはずだ。
運を良くしたい人は、自分のしようとしていることが「勇気あること」なのか「軽はずみ」なのかをよく見極めるべきだろう。しつこいくらい自分に問うのだ。前に進むのが怖いと思ったときは、曇りのない目で状況をよく見なくてはならない。「軽はずみ」という言葉を、単に小さな一歩を踏み出す勇気がないことの言い訳に使っていた、とわかることもある。
もちろん、賭けに出れば、負けることも十分にあり得る。しかし、ゲームに参加しなければ、勝つこともない。運の良い人は、負ける可能性があることをちゃんと知っているし、実際にときどきは負けているに違いない。しかし、小さな賭けなら、負けても失うものは少ない。小さな負けを厭わない姿勢でいれば、いずれ大きく勝てる立場に身を置くこともできる。『ツキの科学』 第4部 第3章 より マックス・ギュンター:著 夏目大:訳 PHP研究所:刊
ギュンターさんは、運命の女神は、臆病も向こう見ずも好きではない。運命の女神は、勇気ある人が好きなのだ。
と述べています。
いつか訪れる絶好の機会に向けて、準備を怠らないこと。
「今がその時」と感じたら、迷わずチャレンジする。
その意識はつねに持っていたいですね。
運の良い人は「ラチェット効果」をはたらかせる
車輪などを一方向にのみ回転させるための装置を「ラチェット(歯止め)」といいます。
運の良い人は、これと同じような「装置」を自分のなかに持っています。
自分のしていることが悪い方向に転がり始めたら、いつでも動きを止められるよう準備している
ということです。
ギュンターさんは、この「ラチェット効果」の大切さを、以下のように説明しています。
「ギャンブルに勝ち続ける人、ギャンブルのプロの際立った特徴は、彼らがゲームのやめ方、やめどきを知っているということです。そして、うまく『損切り』ができるというのも特徴です。もちろん、『どんな手札のときにどのくらいの確率で勝てるのか』といった数字のデータは、すべて頭に入っています。そういうことも彼らの強みであり、そのおかげで戦いを優位に進められることは間違いないでしょう」
「しかし、それが最大の強みというわけではありません。最大の強みは、やはりきっぱりとあきらめることのできる心の強さです。データから見て勝てる見込みが薄いとき、彼らは迷うことなくゲームから撤退します。カードを置き、お金を引き上げてしまうのです。いつも負けてばかりいる人は、とてもそうはいきません。感情が邪魔をするのです。それまでに投資したお金を失うことに気持ちのうえで耐えられず、勝つ見込みがほとんどない勝負に挑んでしまうのです」
大きく得をするために小さな損を厭(いと)わない。たとえ小さな損が続いても受け入れる。それが、ギャンブルにしろ投資にしろ、長い目で見て「勝つ人間」に共通する特徴である。勝つ人間は必ずそうだ。そしてこれは、人生において「運が良い」とされる人すべてに共通する特徴とも言える。『ツキの科学』 第4部 第4章 より マックス・ギュンター:著 夏目大:訳 PHP研究所:刊
運の良い人とは、不運を必要以上に呼び込まない人です。
「自分に流れが来ていない」と感じたら、さっさと手仕舞う。
そして、また自分の流れになるまで、おとなしくしている。
冷静で客観的な判断力と、大きな忍耐力が必要ですね。
ギュンターさんは、勇気とラチェット効果について大切なのは、両者が補完し合う関係にあるということ
だと強調します。
この二つを車の両輪にして、運の良い人生を進んでいきたいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
本書は、多くの人が経験した事実をもとに書かれています。
その論理的な根拠も、しっかりしたものばかりです。
頭で理解できないものを、感覚的に受け入れるのが難しい。
そんな人でも、すっと入ってくる内容になっています。
全ての出来事(結果)には、必ず原因がある。
どう考えても偶然や運としか言いようのないことでも、それは当てはまります。
「運も実力のうち」
その言葉の本当の意味は、“運の良さも鍛えられる”という意味なのでしょう。
日頃から意識して、運の良くなる習慣を身につけたいですね。
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