【書評】『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(ティナ・シーリグ)

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 お薦めの本の紹介です。
 ティナ・シーリグさんの『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』です。

 ティナ・シーリグ(Tina Seelig)さんは、米国の起業家・教育家です。
 現在は、スタンフォード大学のマネジメント・エンジニアリング学部で教鞭を取られるかたわら、講演会、起業家支援プログラムに携わられています。

「インベンション・サイクル」で、ひらめきを形にする!


 アイデアを形にするまでのプロセスに必要なスキルには階層があります。
 言葉の読み書きなどと同じく、基礎的なものから順序立てて覚えることで、誰でも身につけることができます。

 シーリグさんが、そのための方法論として提案しているのが、「インベンション・サイクル」です。
 インベンション・サイクルとは、ひらめきを形にするまでのサイクルで、下の図のような関係で表されます。

インベンション サイクル P21 序章
図.インベンション・サイクル 
(『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』 序章 より抜粋)


 インベンション・サイクルを構成する要素を定義すると、次のようになります。
  • 想像力・・・・・存在していないものをイメージする力
  • クリエイティビティ・・・・・想像力を駆使して課題を解決する力
  • イノベーション・・・・・クリエイティビティを発揮して独創的な解決策を編み出すこと
  • 起業家精神・・・・・イノベーションを活用してユニークなアイデアを形にし、ほかの人たちの想像力をかきたてること

 それぞれ順番に見ていきましょう。
 まず「想像力」とは、存在していないものをイメージする力です。そのために必要なのは、好奇心をもつこと、とにかくとことんやってみること、そして、頭のなかでアイデアを思い描くことです。これは自然に身につくスキルですが、実体験だけでなく仮想の体験も大いに有効です。インプットは多様であるほどいいのです。旅をして、本を読み、食事をし、音楽を聴き、映画を見る。さまざまなものにふれるほど、想像力は豊かになります。
 想像力から生まれたアイデアは自分のなかで温めておいてもいいし、他の人たちに伝えてもかまいません。たとえば私は、猫と鳥を掛けあわせた動物や、デザートを最初に出すコース料理といったアイデアを思いついたのですが、これを自分のなかにしまっておいてもいいし、今のように披露してもいいわけです。
 次の「クリエイティビティ」は、想像力を駆使して課題を解決します。クリエイティブなアイデアは、具体的なニーズを満たし、社会のなかで目に見える形になっています。自分にとっては新しくても、他の人にとっては新しいアイデアではないかもしれません。想像力とクリエイティビティを区別することは、とても大切です。頭のなかに海辺の光景を思い浮かべるのは想像力、その光景を絵に描くのがクリエイティビティです。ソーラーカーをイメージするのは想像力、実際にソーラーカーをつくるのがクリエイティビティです。
(中略)
「イノベーション」とは、クリエイティビティを発揮してユニークな解決法を生みだすことです。革新的(イノベーティブ)なアイデアは、クリエイティブなアイデアと違って、それを生みだした本人だけでなく、世界全体にとっても斬新でなければなりません。そのために必要なのは、世の中を新鮮な目で見つめること、思い込みを疑うこと、状況を捉え直すこと、そして、ばらばらな分野のアイデアを結びつけることです。その結果として生まれる革新的なアイデアは、チャンスを掘り起こし、おなじ方法では対処できなかった課題に挑むことができます。
(中略)
 そして「起業家精神」は、イノベーションを応用して、ユニークなアイデアを現実の形にし、それによってほかの人たちの想像力をかきたてます。イノベーションの事業化を目指す企業にとって起業家精神が必要なのは言うまでもありませんが、起業家のように考えることでむずかしい問題を解決していくという意味では、どんな活動にも必要なものです。起業家精神をもつ医師が新しい治療法を開発して患者の命を救い、起業家精神をもつ教育者か効果的な教授法を編み出して実践し、起業家精神のある政治家が画期的な法律を立案し、施行して社会問題を解決します。

 『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』 序章 より ティナ・シーリグ:著 高遠裕子:訳 CCCメディアハウス:刊


 本書は、「インベンション・サイクル」を活用してアイデアを現実にするためのフレームワークやスキルをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「想像力」を高めるための秘訣


 インベンション・サイクルの最初の要素、「想像力」を高めるための秘訣。
 それは、ひとつのことにどっぷり浸かって、ビジョンを描くことです。
 注意すべきは、情熱は後からついてくるものであって、やってみるのが先だということ。

 想像力は、実際に経験してみることで刺激されます。
 すると、自分はこうしたい、といった最高のビジョンを描くことができるようになります。

 情熱を傾けられるものを見つけようと、内へ内へとこもる人たちにはよく出会いますが、彼らには見落としていることがあります。行動してはじめて情熱が生まれるのであって、情熱があるから行動するのではない、ということです。情熱は始めからあるわけではなく、経験から育っていくものです。バイオリンの演奏を聴いたことがなければクラシック音楽は楽しめないし、ボールを蹴ったことがなければサッカーはうまくなれません。卵を割ったことがなければ料理好きにはなれないのです。
(中略)
 情熱をはぐくむのに、最初は大それたことをする必要はありません。レストランのウエイターなら、日々、大勢の客とふれあう機会があり、ユニークな視点から世界を見ることができます。こうした経験からいくつもの教訓を学び、ひらめきが生まれるかもしれません。たとえば、効果的なサービスの秘訣を発見し、接客スキルを他の人に教えるにはどうすればいいかを考えるようになるかもしれません。食事制限の必要な客の要望を聞いているうちに、そうした客のニーズに応えるレストランを開こうと思う可能性もあるでしょう。客が糖尿病を患っていることがわかれば、糖尿病で気をつける食事を学び、それを生かすこともできます。
 情熱は尽きることはありませんが、新たに情熱を傾けられるものに出会えたら、どの方向にも向けることができます。たとえば、顧客サービスに的を絞ると決めたとして、接客の達人になってもいいし、コンサルティング会社を立ち上げる道もあります。ドキュメンタリーを作ってもいいし、新しいレストランをオープンしてもいいのです。ただ言えるのは、最初にレストランのウェイターとしての経験がなければ、新たなやりがいを見つけることはない、ということです。どのケースでも、方向を決めて扉を開けると、存在すら知らなかった何通りもの道が開かれます。じつは、大義や天命といったものは、それまで無関心だったことである場合も多いのです。
 人生のさまざまな側面に言えることです。最初から好きになる一目惚れは滅多にないものです。人でも職業でも何かの課題でも、深く知れば知るほど、情熱をもち、のめり込むようになります。一目惚れの喩えをもう少し続けましょう。結婚したいのであれば、一番してはいけないのが、じっと座って電話が鳴るのを待っていることです。王子様やお姫様が迎えに来てくれるわけではありません。自分にぴったりの人を見つけるには、たくさんの人に会ってみるに限ります。デートして初めて愛情が湧いてくるもので、その逆ではありません。もちろん、最初は失敗したり、がっかりしたりすることもあるでしょう。でも、自分に合う人を見つけるというプロセスを大切にしないかぎり、うまくいくことはないものです。

 『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』 第1章 より ティナ・シーリグ:著 高遠裕子:訳 CCCメディアハウス:刊

 ただ知識として知っているだけでは不十分です。
 経験によって初めて得られることが、私たちが思っている以上に大きいということですね。

 少しでも情熱を傾けられることが見つかったのなら、まずは、実際にそれを経験してみる。
 それが、夢を叶えるための第一歩になります。

「プレトタイピング」で柔らかい頭に


 クリエイティブなプロセスの核は、「思慮に富んだ実験」です。
 それにより、可能性を思い描く想像力の段階から、実現する方法を探し始めるクリエイティビティの段階に移ることができます。

 子どもは、実験を繰り返し、失敗を重ねながらも、世の中の仕組みを発見していきます。
 しかし、大人になるにつれ、知識が邪魔をして、偏ったものの見方しかできなくなります。

 柔らかい頭を大人になっても保ち続ける方法があります。「プレトタイピング」のスキルを磨くのです。この言葉を最初に使い始めたのは、アルベルト・サヴォイアです。彼はハイテク企業の製品開発チームでリーダーを何年か務め、直近ではグーグルのイノベーション・アジテーターとして活躍し、プレトタイピングに関するアイデアを発展させました。たいていの人は、自分のアイデアに惚れこんで実際にそれが求められるものかどうかを見極める前に、時間もお金もかけ過ぎてしまっています。
 そこで、「投資する前にテスト」して、製品をつくるかどうかを判断しようというのがプレトタイピングの考え方です。アルベルトは、こう言います。「プレトタイピングでは、自分たちが間違っていることを前提にしています。自信満々で行動するのではなく、慎重に行動して、飛びこむ前に仮説を検証しているのです」
 プレトタイピングではなく、「プロトタイピング」の価値は広く認められています。自分たちが目指すもののサンプルをつくることで、それによってサイズや重さを変えたり、ユーザー体験を検証したり、ウェブサイトやサービスを見直す、といったことができます。これらはすべて、「つくれるかどうか」という視点に立っているのが特徴です。
 ですが、それそれつくるものが間違っていたとしたらどうでしょうか? プレトタイプは、プロトタイプをつくる前の段階で、正しい方向に進んでいるかを確認するための実験です。アルベルトはプレトタイピングについて書いた著書(この本自体がプレトタイプです!)で、こう言っています。

 プレトタイプは、プロトタイプにかかる何十分の一かのコスト、つまり数週間から数か月ではなく、数時間から数日の期間と、ドルではなくペニー単位の費用で、新しいアイデアを実行すべきかどうか、貴重な使い方やデータを集めることができる。プレトタイピングを使えば、早く失敗して、早く立ち直ることができるので、時間とカネとエネルギーと情熱が尽きることがなく、次々に新しいアイデアを試して、ほんとうに求められる製品やサービスを見つけることが可能になる。

 プレトタイプには、もうひとつ重要な利点があります。それほどのめりこまなくても、簡単に実験ができるのです。何かアイデアを思いついたら、ほんの少し入口に踏み込んでプレトタイプで可能性を試せばいいのです。もっと言えば、新しいアイデアというのは、失敗する場合が圧倒的に多いのですから、できるだけ早く試して、方向性が正しいかどうかを確かめた方がいいのです。

 『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』 第4章 より ティナ・シーリグ:著 高遠裕子:訳 CCCメディアハウス:刊

 最初から完璧なものをつくることを目指すのは、とても大変です。

 まずは、要求を満たす、必要最小限のものをつくり、実際に使いながら改善していく。
 そうすることで、時間もお金も大きく節約できます。

 新しいことを始めるときには、失敗は必ずあります。
 自分たちが間違っていることを前提に、アイデアを形にしてみる。
 プレトタイプな考え方を身につけたいですね。

「フレーム」を変える


 イノベーションのカギのひとつとなるのが、「フレーム(視点)を変える」ことです。

 フレームは、過去の経験、現在の環境、心の状態などに影響されています。
 これらを意識することで、フレームを積極的に変化させ、大きなひらめきを得ることができます。

 2011年、デザイナーのマウリシオ・エストレラは、妻とひどい別れ方をしてボロボロの状態でした。コンピュータが頻繁に止まってパスワードを変えるように要求されても、少しばかり手間が増えるだけのことで、なんとも感じなくなってしまいました。でも、パスワードを打ち込む瞬間、はたとひらめくものがありました。本人の弁を短く紹介します。

 前の上司のラスムスから聞いたことが、苛々を一掃するためのヒントになりました。ラスムスはやるべきことをパスワードにしていましたが、これを応用しようと思いついたのです。
 パスワードで人生を変えてやろう・・・・・そう思いました。
 パスワードを羅針盤に見立てたのです。離婚したからといって被害者意識をもつのはやめよう、自分には何かできる力があるんだと、思い起こさせるものにしました。
 パスワードは、Forgive@h3r(彼女を許そう)にしました。
 その週はずっと、一日に何度もこのパスワードを打ち込まなくてはいけません・・・・・。
 心のなかで、「彼女を許せ」と言い聞かせていました。
 たったこれだけのことですが、お陰で妻に対する見方を変えることができました。彼女を許すべきだと絶えず思い出すことで、結婚生活の最後に起きたことを受け入れ、鬱々とした自分の気持ちと向き合う方法を見つけたのです。
 それから劇的に気分がよくなりました。でも、二週目の終わりになると、パスワードの威力が落ちてきて、効果が薄れてきたことに気づきました。でも、この「マントラ」を繰り返すことで、自分は救われたのです。「彼女を許そう(forgive her)」と、打ち込むたびに自分自身に言い聞かせました。癒しの効果がすぐに戻ってきました。
 一ヶ月後、愛すべきサーバーがまたパスワードを変えろと要求してきました。そこで、次にやるべきことを考えました。
 パスワードはQuit@smoking4ever(一生禁煙)にしました。
 それで、どうなったか。冗談ではなく、一晩で禁煙できたのです。
 さらに一ヶ月後、今度はSave4trip@thailand(タイ旅行のために貯金しよう)に変えました。
 三ヶ月後、どこにいたか。なんとタイにいたのです。

 『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』 第6章 より ティナ・シーリグ:著 高遠裕子:訳 CCCメディアハウス:刊

 身についた考え方や視点を変えるのは、自分が思っている以上に大変なことです。
 一度や二度、自分に言い聞かしたくらいでは、すぐに忘れてしまい、また、前に戻ってしまいます。

 思考のフレームを変えるためのコツ。
 それは、しつこいくらいに脳に刷り込ませること。
 毎日何度も、繰り返し、新しい思考に触れることが重要です。

 その意味で、パソコンなどのログイン・パスワードを活用するのは、とても有効ですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 子どもの頃は、誰でも、転んだり、ケガをしたり、手痛い失敗を重ねながら成長していきます。
 ただ、そのうち失敗を恐れ、経験で得られた知識の範囲内だけで生きるようになります。

 新しいことにチャレンジする勇気、起業家精神は、誰の心の中にもあります。
 子どもの頃には、普通に使っていた能力を、歳を重ねるごとに使わなくなって、錆びついてしまっているだけ。
 インベンション・サイクルは、その眠っている能力を呼び覚ましてくれるスキルといえます。

 今の人生を変えたい、なにか新しいことを始めたい。
 そう考えて入るけれど、どうすればいいのかわからない。
 本書は、そんな悩みを抱える人に、進むべき方向を指し示してくれる“羅針盤”ともいうべき一冊です。


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