【書評】『どうしたら桜井さんのように「素」で生きられますか?(桜井章一、香山リカ)

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 お薦めの本の紹介です。
 桜井章一さんと香山リカさんのお二人の共著、『どうしたら桜井さんのように「素」で生きられますか? 』です。



 桜井章一(さくらい・しょういち)さんは、かつて有名な雀士として名を馳せた方です。
 「勝負師」としてデビューして以降20年以上に渡って一度も負けたことがないという無敗伝説を作り、「雀鬼」の異名を持ちます。
 現在は引退し、雀荘の経営をしながら、後進の育成に力を入れていらっしゃいます。

 香山リカ(かやま・りか)先生(@rkayama)は、精神科医です。
 豊富な臨床経験をお持ちで、それを活かして現代人の心の問題のほか、政治・社会評論など幅広い分野で活躍されています。

 裏麻雀の世界で揉まれ、強敵と向き合うことでどんなときでも冷静さを失わない平常心や感情のコントロールなど、内面を磨いてきた桜井さん。
 一方、幅広い専門的知識と深い知見を武器に、多くの患者さんの「心」を分析し、見つめ続けてきた香山先生。

 アプローチの仕方も、向き合ってきた相手もまったく違う両者が、最も興味を持ち、追い求めてきたのが、目に見えず、とらえどころのない存在である人間の「心」です。

 本書は、それぞれの道を究めた二人の「心の専門家」が処世術を語った、いわば“人生の処方箋”がぎゅっと詰まった一冊です。
 その中から印象に残った部分をいくつかご紹介します。

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「素の自分」で生きるということ


 「素の自分」で生きるということについて。
 現在の世の中では、素の自分を隠し、演技しながら生きている人間のほうが圧倒的に多いです。
 精神医学の世界では演技したり、仮面をかぶって生きることを“ペルソナ”と言います。
 香山先生は、役割の決まっているほうが今の社会を生きていくには楽な面もあると指摘しています。

 私も病院では白衣を着て診察にあたります。白衣を着ることで素の自分ではなく、“精神科医”としての自分になれる。
 「精神科のお医者さんは暴れる患者さんを抑えたりしなければならないから大変ですね」とたまに言われますが、病院の中だと暴れる患者さんにも平気で対処できます。
 相手が刃物を振り回したとしても「ハイハイ」と実務的に処理できます。でも、電車の中でそういう人と遭遇したら、私は一番最初に逃げてしまうかもしれません。
 そう考えると、今の時代の“仕事”というのは、その人にとってのペルソナと言えるのではないでしょうか。ちょっとした衣装の変化、あるいは環境の変化でガラッと自分の気持が変わってしまう。そういうことは誰にでも思い当たる節があるはずです。
 現代社会に生きる我々は、誰もがペルソナを持っています。ペルソナが当たり前の社会で私たちは生きている。そんな状態からペルソナをすべてはぎ取り、素の自分で生きていくのは生易しいことではありません。  

 『どうしたら桜井さんのように「素」で生きられますか?』  第1章 より  桜井章一、香山リカ:著   講談社:刊

 香山先生は、素の自分であろうとするあまり悩み苦しむくらいなら、無理してまで素になることはないと考えています。
 仮面もかぶりつつ、たまに素になる。そのくらいのバランスがちょうどいいのでは、と述べています。

 仮面には仮面の、上手な使い道があるということ。大事なのは、仮面を常にかぶり続けるのではなく、素の自分に戻れる時間を確保することです。

 一方、桜井さんは、長い人生のほとんどを「素の自分」のまま生きてきました。
 素になることができれば生き方が楽になると述べています。
 多くの人が素で生きることに及び腰になってしまうのは、「人からよく思われたい」「見下されたくない」といった思いが邪魔しているのではないか、と鋭い指摘をしています。
 桜井さんは、素になるというのは自分に素直になるということで、そのためには、自分をいつも等身大でとらえる感覚が必要だ、と述べています。

 俺の場合、自分の中のダメな部分、弱い部分があると、むしろそれを公表したくなってしまいます。だから「こんなミスしちゃったよ」と道場生たちによく話をします。
 勝負師としての書籍を何冊も出しているからか、みなさんは俺のことを“強い人間”できる人間”と思っているようですが、けっしてそんなことはありません。日常の中での些細なミスや失敗はいくらでもしています。
 自分の中の弱い部分、ダメな部分を公表したくなるのは、そのほうが楽だからというわけではないんですね。
 俺は強がって自分を誤魔化したり、正当化したりするのが嫌なだけなのです。自分を誤魔化すくらいならさらけ出して生きたほうがいい。それが俺の生きざまでもあります。ほとんどの人は周りの人たちから笑われることを極度に恐れ、「他人に認められたい」「ほめられたい」と思っているのでしょう。
 でも俺は他人からほめられるほうが居心地が悪い。ほめられるよりも自分でバカを出せたときのほうが自分らしく感じるのです。だから、雀鬼会の道場生の前であえて自分を下に落としてふざけたりします。自分を背伸びしてみせるのはけっこうしんどいものです。
 自分を上に置くのではなく、下に置く、そんな気持ちでいるとちょうどバランスが取れるんですよ。

 『どうしたら桜井さんのように「素」で生きられますか?』  第1章 より  桜井章一、香山リカ:著   講談社:刊

「人からよく思われたい」「見下されたくない」という気持ちは、多かれ少なかれ誰でも持っているものです。
 しかし、そのような虚栄心のようなものは、生まれ持ったものではなく、社会で生活している間に知らず知らずに身についてしまったものです。
 桜井さんは、生まれたままの感覚を大事にする人です。そのような気持ちは邪魔でしかなかったのでしょう。
 必要のないものをすべて取り除いていったら「素の自分」だけが残った、そんな感じなのかもしれません。

「今」、この瞬間を生きること


 桜井さんは、小さい頃から夢や目標を持ったことはなく、「何になりたい」と思ったこともないのだそうです。
 今の社会では「夢を持ちなさい」「目標を持ちなさい」と教えられて、そのことを重圧に感じて心を病んでしまう人がいるのも事実だと指摘し、その理由について以下のように述べています。

 過去や未来に囚われてしまう人たちは、“今”という現実感がないように感じます。俺は昔から常に“今”を感じて生きてきました。それは、字で表すのなら“瞬間”の“瞬”です。常に“瞬”を感じながら、「“また”はない」と思って生きてきました。
 瞬間の“瞬”、一瞬の“瞬”。そういった“瞬”はその字のごとく、瞬く間に変わっていきます。俺はその変化を楽しみながら生きてきたのです。

 “瞬”という変化に富んだ現実を生きていくには、“感じる力”が何よりも必要とされます。今の時代に大切とされる知識や情報に頼っていては、とてもではありませんが、“瞬”に追いつけません。
 “知識”は考えるものです。しかし、瞬く間に変化してしまう現実は考えて間に合うものではなく、感じるほかないわけです。
 感じることを大切に生きていると、現実の変化に間に合うようになってきます。そうなると、それまでより分かったり、できたりすることも多くなってきます。

 『どうしたら桜井さんのように「素」で生きられますか?』  第2章 より  桜井章一、香山リカ:著   講談社:刊

「感覚」を大事にする桜井さんらしいですね。
 今この瞬間に集中することで、微妙な変化を感じ取る。
 神経を鋭敏に研ぎ澄ませることで生き残ってきたのでしょう。
 将来のことを考えることも大事ですが、それ以上に重要なことは、今この瞬間を生きることです。

 香山先生は、自分の診察室を訪れるのは、“今”という現実の社会の中でさまざまな困難に直面している人たちで、そのほとんどが病気や会社の倒産といったアクシデントをきっかけにこころの病気になった人だ、と指摘します。
 幼少期や青年期といった過去の出来事が原因で心の病になる人は本当にごく一部なのだそうです。

 私たちの人生は“運・不運”“タイミング”といったものに支配されている。患者さんたちと接していて、それはとても強く感じます。
 しかしだからといって不平等かというとけっしてそんなこともなく、“運・不運”もみな平等に起きている気もします。

 過去に遡って原因を探ってもよく分からないことばかりだし、未来に備えすぎてもそれがその通りにいくかどうかは分からない。
 こんなことを言うと刹那主義的な物言いに感じる人もいるかもしれませんが、「起きるときは起きるし、起きないときは起きない」というような腹の括り方も、人生を生きる上では必要なのかもしれません。
 ただひとつ言えることは、何か事が起きたときには現実的に対処したほうがいいということです。
 災害や事故など、生死に関わるような問題以外、この世のほとんどの問題は現実的かつ冷静に対処していけばある程度解決のつくことばかりです。
 何か問題が起きかけたときに慌てふためいたり、パニックになってしまうから大ごとになったり、あるいはそれをきっかけにして心の病になってしまうわけです。

 『どうしたら桜井さんのように「素」で生きられますか?』  第2章 より  桜井章一、香山リカ:著   講談社:刊

 精神病や心の病のほとんどは、「今」の自分から目を背けてしまうことが原因だということ。
 香山先生は、何か事が起きたときに、冷静に対処し、解決していく姿勢を忘れないことが、生きる知恵になり人を強くしてくれる、と述べています。

「ありがたい」という感謝心が苦しみを薄める


「苦しみ」について。
 桜井さんは、ご自身の経験から、「この世は楽しいことより苦しいことのほうが圧倒的に多い」として、その対処法について以下のように述べています。

 だから苦しいことが目の前に現れても、それをただの“苦”とはとらえず、“自分を成長させてくれる厳しいもの”として接するようにしてきました。
 人生において、楽しいことばかりを求めていたらきっと生きることが嫌になってしまうでしょう。
 それくらい、世の中には“苦”があふれています。もしかしたら、「十のうち九(く)が苦」だから“苦”なのかもしれない。
 そんな数少ない“楽しさ”を手にするために、世間の人たちは苦しいことがあっても「楽しいことが待っているから」と思ってがんばったり、堪えたりしているように見えます。
 ただ、俺は先述したように“苦”をただの“苦”とはとらえていません。だから“苦”も楽しいことに変えることができます。

 「ありがたい」という気持ちがたくさん起こればこるほど、自分は救われていきます。嫌なこと、苦しいことは身の回りにいくらでもあるけど、「ありがたい」という感謝心があれば苦しみを薄めていける。つまり、苦しいことに対しては、「ありがとう」と思って向かい合えばいいのです。 

 『どうしたら桜井さんのように「素」で生きられますか?』  第4章 より  桜井章一、香山リカ:著   講談社:刊

 苦しみは“自分を成長させてくれる厳しいもの”。
 その意識が、桜井さんを「伝説の勝負師」たらしめたひとつの大きな要因であるのは間違いありません。
 「ありがたい」という感謝の気持でポジティブに受け止めることで「苦しみ」を薄めるという発想は、見習いたいところですね。

 香山先生は、「苦しみ」に対する強さは「喪失」の受け入れ方で決まる、と述べています。
 苦しみに強い人というのは、喪失としっかり向き合い、それを乗り越えた経験の多い人のことです。

「苦しみに強い」という言い方をすると、とても重厚で、障害に対する耐性が備わっているような感じがしますが、私の思う「苦しみに強い人」は鋼(はがね)のような強さを持っているということではなく、すべてに柔軟に対応できる“しなやかさ”を持った人です。
 しなやかさを持っていれば、苦しみや悲しみがやってきても、「時間が経てば変わるんだ」「ここからまた始まるんだ」と思考の転換が図れます。しなやかな人は、自分の調子のよくないときはよくないなりの生き方、休み方を知っています。
 鋼の強さを持っている人は一見、苦しみにも強そうに見えますが、しなやかさに欠けるぶん、物事に囚われやすく、大きな衝撃には脆いものです。
 「いつも輝いていなければいけない」と思いすぎると、その固定観念がやがて脅迫観念となり、少しでもネガティブなこと、うまくいかないことがあると落ち込むようになってしまいます。
 人生はいいこともあれば悪いこともある。多くの患者さんと接することで私は肌身でそれを感じてきました。何かひとつのことに失敗したからといって、すべてを諦める必要はまったくないわけです。反対にいいことがあっても浮かれず、いつもと変わらず対応する。
 ひとつひとつに一喜一憂せず、目の前の問題に柔軟かつしなやかに対応することで道は開けていきます。そうやってしなやかに生きられる人が、結果的には“強い”ということになるのです。

 『どうしたら桜井さんのように「素」で生きられますか?』  第4章 より  桜井章一、香山リカ:著   講談社:刊

「しなやかな強さ」とは、苦しみに「耐える」というより、「受け流す」というイメージでしょうか。
 生きていれば、苦しいことは何もしなくてもやってきます。
 苦しみは常に自分の身に降りかかることだ、という覚悟で、淡々と受け流して前に進むことが大事ですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 人間、誰しも「素のままの自分」で生きたいと思っていることでしょう。
 でも、いろいろな世間のしがらみがあって現実にはなかなかそうはいきません。
 逆にいうと「素のままの自分」で生きることを実践している人は、皆それなりの努力をしているということです。

 人は皆、生まれたときは赤ちゃんです。つまり、「素のままの自分」ということです。
 「素のままの自分」を取り戻すとは、そのときの感覚を取り戻すということに近いのかもしれません。
 持っていないのではなく、忘れているだけ。
 心の中に積まれたガラクタをどけて、綺麗に磨いていけば、いずれ見えてくるはず。
 「素のままの自分」で勝負できる人間を目指していきたいですね。

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