【書評】『督促OL 修行日記』(榎本まみ)

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 お薦めの本の紹介です。
 榎本まみさんの『督促OL 修行日記』です。

 榎本まみ(えのもと・まみ)さん(@n_mototkol)は、督促のプロフェッショナルです。
 大学卒業後、大手信販会社に入社し支払滞納顧客への督促を行なう部署、「コールセンター」に配属され、多重債務者や支払困難顧客から怒鳴られながらお金を回収する過酷な日々を経験されます。
 現在では、クレジットカードの回収部門にて300人のオペレーターを指示し、年間2000億円の債権を回収する「督促のプロ」としてご活躍されています。

“督促”の仕事とは?


「督促」とは、クレジットカードなどの支払いが滞っているお客さまに、電話や書面で「入金のお願い」をするお仕事です。

 お客さまの中には、逆ギレして怒鳴りつけたり、開き直って支払いを拒否したりする人もいます。

「今からお前を殺しに行くからなー」

 そんな“殺害予告”のような言葉を言われることも日常茶飯事です。

 たとえ暴言を吐かれようが、怒鳴られようが、耐えて、諦めずに、お客さまが「入金」してくれるその日まで、電話をかけ続けなければいけない。
 そんな過酷な職場に、榎本さんは、新入社員として配属されました。

 榎本さんは、もともと人に何かを強く言うことができない、気の弱い人間でした。

 入社して督促の仕事を始めてから、半年で体重は10キロ減少。
 ストレスが原因のニキビが顔じゅうにできました。

 コールセンターは、離職率が高く、ほとんど「使い捨て」のような採用が今でも行われています。

 本書は、“督促”の仕事の過酷な毎日の様子と、身をもって開発したストレスフルな仕事に対処するためのノウハウが詳細に書きつづられた一冊です。

 コメディタッチで描かれているなかにも、まったく笑えない、シビアな現代社会の裏側を垣間見ることができます。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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朝から戦争・・・・


 まずは、督促のお仕事の一日の流れを見ていきましょう。

 新人の出社時間は、朝7時。
 言われるままに出社してみると、そこは「戦場」でした。

「動きが遅い! 何やっている!」
「す、すみません!!」

 先輩の激が人もまばらなコールセンターに響く。

 朝出社すると、まず前日までに入金になったお客様のリストをチェック。ここで間違えて入金になっていないお客様のリストを破棄なんぞしようものなら、大変なことになる。二重三重にチェック。そしてきれいに整えた督促表を机の上に置いておく。
 すると少し遅れてぞろぞろと出社してきたコワモテ黒スーツ軍団が督促表を受け取って席に着き、8時きっかりから「ご入金をお願いします!」と電話をかけ始めることができるのだった。

(やっと終わった・・・・)

 肩で息をつきながら、なんとかギリギリで督促表のメンテナンスを終わらせると、自分たちもすぐに電話に加わらなきゃいけない。その後は朝8時から夜9時まで、食事以外はほとんど休みなく電話をかけ続ける。入社初日に先輩に言われた1時間60本のノルマをこなせなかった私はほとんど休憩が取れなかった。

 『督促OL 修行日記』 02 “ブラック部署”の紅一点! より  榎本まみ:著  文藝春秋:刊

 夜9時に電話の応対が終わると、電話に出てくれないお客様への「督促状」を一枚一枚発送する作業、通称「手紙の時間」が始まります。

 この作業は、終電間際の11時過ぎまで続けられるため、朝7時から夜11時過ぎまで会社に閉じ込められていることになります。

 後にパソコンの導入で入金のチェックや督促状の発送ももっと短時間で行なうことができるようになり、9時過ぎには退社できるようになったとのことです。
 しかし、それでも過酷な職場であることには変わりありません。

 榎本さんの配属になったコールセンターは、ブラック企業ならぬ“ブラック部署”でした。
 こういう職場、もちろん表に出ることはありませんが、日本にもまだまだ多く存在します。

お客さまタイプ別攻略法


 ストレスに耐えながらも、督促のスキルを学んでいった榎本さん。
 お金を払ってくれないお客さまにも、タイプがあることに気づいて、血液型別性格診断のように分類して密かに楽しんでいたとのこと。

 その分類方法は、感情と論理、プラスとマイナスでお客さまをパターン化するもので、以下の4つのパターンに分けられます。

  • 感情(+)は、怒るお客さま。怒鳴ったり脅迫してきたりする人たち。
  • 感情(−)は、泣くお客さま。女性に多い。
  • 論理(+)は、理詰めで攻撃をしてくるお客さま。いわゆる「クレーマー」タイプ。
  • 論理(−)は、理屈が通じないお客さま。ひらきなおるタイプ
 榎本さんは、パターン別に対処法を考えた、と言います。

 たとえば感情タイプのお客さまに対しては、以下のような対応を取ります。

 感情タイプはまずガス抜き。怒っているお客さまはひたすら怒ってもらうし、泣いてしまうお客さまは相手が泣きやむのを待つ。以前、クレーム専門のコールセンターで働く人にクレーム対策のコツとしてこんなことを教えてもらったことがある。

「怒っているお客さまに時間を与えるとさらに怒りが増します。オペレーターには電話を保留にさせるのではなく折り返しにさせます。保留中にもっと怒り出しますからね。怒っているお客さまは溜めずに発散させることが大切です」

 感情タイプのお客さまは感情を発散させてから、落ち着いたところで入金の目処(めど)を聞くと上手くいくようだ。 

 『督促OL 修行日記』 05 自分の身は自分で守る より  榎本まみ:著  文藝春秋:刊

 論理タイプのお客さまには、決して上から目線で督促せず、相手のプライドを満たすことが攻略の鍵になります。

話し方に自信をつける方法


 督促の仕事はもちろん、すべての交渉ごとでまず持つべきものは、「自信」です。

 どうしたら、頭に血が上っているお客さまと、電話での交渉で「自信」を持ったやりとりをすることができるのか。

 榎本さんが先輩から受けたアドバイスは、「とにかく、ゆっくりしゃべって。そうしたら自信がありそうに聞こえるから」でした。

 そ、それだけ!?
 だいたいいきなり電話をかけて督促しているわけなので、電話の向こうのお客さまは急いでいる場合が多い。そんな時にイキナリゆっくりしゃべって電話をしたら、「早くしろ!急いでるんだよ!」と怒られてしまうんじゃないの?
 でも、ドSのK籐先輩にすっかり調教されている私は、言われたままに先輩たちの電話の録音を聞いてみることにした。ところが、音源を聞いてびっくり。コールセンターで回収率のいい先輩方は、みんな交渉をする時、ゆっくりと話していた。

「ご入金が遅れているようなのですが~、何かご事情があるのですか~?」
「あ~すいません、今月ちょっと出費が多くて~・・・」

 督促をする私たちがゆっくりしゃべると、お客さまも釣られてゆっくりとしゃべってくれる。人間、怒ってる時は自然と早口になってしまうが逆にゆっくりした口調で怒ることはむずかしい。だからゆっくりしゃべると、穏やかな雰囲気で交渉をすることができる。
 こうして先輩方はついつい険悪になりがちな督促の電話でも印象良く会話することに成功していたのだ。

 『督促OL 修行日記』 07 自尊心を埋める より  榎本まみ:著  文藝春秋:刊

 この「ゆっくり=自信」という法則は、電話だけではなく行動にも当てはまります。

 たしかに、落ち着いた声でゆっくりとしゃべる人や慌てず余裕のある動作で動いている人は、優雅で自信がありそうに見えますね。

 私たちも日々心がけたいですね。

弱者には弱者の戦い方がある


 榎本さんは、入社当時、お客さまの履行率(入金を約束したお客さまが約束を守って入金してくれる確率)が低く、成績が上がらずに悩んでいました。

 いろいろ悩んだ末に考えついた方法は、「電話をかける件数を増やす」という方法でした。
 履行率が5割の人でも、入金を約束してくれるお客さまの母数を平均より4割増やせば、履行率7割の人と肩を並べることができます。

 どうやったら他人より4割多く電話をかけられるか。
 榎本さんは、以下のような作戦を練りました。

 多くの電話をかけるためにはお客さま一人一人の交渉時間を短くしなきゃいけないので、時間を取られてしまうクレームはなるべく起こさず、もし起きてしまっても短時間で沈静化しなきゃならない。その対策として考えたのが、コラムで書いた、怒鳴られてもすぐに立ち直る方法や、怒鳴られても動じずに交渉を続ける方法だった。クレーム対応チームの先輩に聞いて、上手にクレームに対処する方法も勉強した。
 また、お客さまとの交渉の効率を上げるためにはなるべく使う言葉を決めておいたほうが良かった。お客さまとの交渉の中で、一番短く、一番わかりやすい言葉を抽出して付箋を作り、目に見える場所に貼っておいた。焦った時でも付箋を読めばスムーズに対応ができる、これが付箋モードを誕生だった。
 それから、お客さまに聞き返されることがないように、自信があるようにゆっくり丁寧にしゃべることにした。相手にしっかり伝われば、一人にかける交渉時間を短縮することができた。
 こうして、自分の頭で考え、人から学んできたことを組み合わせた結果、私はオペレーター平均の倍の数のお客さまに電話をかけられるようになった。履行率が低くても、電話をかける件数を増やせば回収金額は増える。

 『督促OL 修行日記』 11 仕事からもらった武器と盾 より  榎本まみ:著  文藝春秋:刊

 仕事をしていると、どうしても正攻法では歯がたたない場面があります。
 しかし、そういう時にも、意外な裏道が用意されていたりするものです。

 榎本さんは、壁を乗り越えようとせずに、どこかに開いているかもしれない穴を探すのも立派な作戦だと述べ、「弱者には弱者の戦い方がある」と自分に合った方法を見つけ出すことの重要性を強調します。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 督促や、コールセンターの仕事は「感情労働」とも言われています。
 簡単に言うと、自分の感情を抑制することでお金を得る労働のことです。

 感情労働をする人々は、お客さまから一方的に罵言雑言を浴びせられても、反論せずに黙って耐えなければなりません。

 感情労働は、心の疲労の問題が深刻になります。
 ただ体や頭を休めても疲労が解消される保証がありません。

 榎本さんは、督促の仕事で心を病む人が他の職場に比べて多いのはそのためだと述べています。

 本書は、「感情労働」をしているすべて人、理不尽なお客さまとの交渉にさらされ過酷な環境で戦っている多くの人たちに、是非ともお読み頂きたい一冊です。



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