【書評】『マインドセット』(キャロル・S・ドゥエック)

LINEで送る
Pocket

 お薦めの本の紹介です。
 キャロル・S・ドゥエック先生の『マインドセット』です。

 キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)先生は、社会心理学、発達心理学における世界的な権威です。

「マインドセット」とは何か?


 人間の能力は、学習や経験によって伸ばせるものなのか。
 それとも、何をしても変化しないものなのか。

 太古の昔から、世界中のいたるところで議論が交わされてきた問いです。
 この問いに対するはっきりした学問上の結論は、出ていません。
 ただ、ドゥエック先生は、どちらの説を信じるかによって、その後の人生に大きな開きが出てくると強調します。

 人間の心の持ちようは、大きく次の2種類に区分されます。

「硬直マインドセット=fixed mindset」「しなやかマインドセット=growth mindset」です。

 硬直マインドセットの人は、自分の能力は石版に刻まれたように固定的(フィックスト)で変わらないと信じている人のことです。

 自分の能力は石版に刻まれたように固定的(フィックスト)で変わらないと信じている人――「硬直(こうちょく)マインドセット=fixed mindset」の人――は、自分の能力を繰り返し証明せずにはいられない。知能も、人間的資質も、徳性も一定で変化しえないのだとしたら、とりあえず、人間としてまともであることを示したい。このような基本的な特性に欠陥があるなんて、自分でも思いたくないし、人からも思われたくない。
 教室でも、職場でも、人づきあいの場でも、自分の有能さを示すことばかりに心を奪われている人を私はこれまでたくさん見てきた。ことあるごとに自分の知的能力や人間的資質を確認せずにいられない人たち。しくじらずにうまくできるだろうか、賢そうに見えるだろうか、バカと思われやしないか、認めてもらえるだろうか、突っぱねられやしないか、勝ち組でいられるだろうか、負け犬になりはしないか、といつもびくびくしている。

 『マインドセット』 第1章 より キャロル・S・ドゥエック:著 今西康子:訳 草思社:刊


 一方、しなやかマインドセットの人は、人間の基本的資質は努力次第で伸ばす(グロース)することができると信じる人のことです。

 初めに配られた手札だけでプレイしなくてはいけないと思えば、本当は10のワンペアしかなくても、ロイヤルフラッシュがあるかのごとく自分にも他人にも思いこませたくなる。けれども、それを元にして、これからどんどん手札を強くしていけばよいと考えてみたらどうだろう。それこそが、しなやかな心の持ち方、「しなやかマインドセット=growth mindset(グロース・マインドセット)」である。その根底にあるのは、人間の基本的資質は努力しだいで伸ばす(グロース)できるという信念だ。
 持って生まれた才能、適性、興味、気質は1人ひとり異なるが、努力と経験を重ねることで、だれでもみな大きく伸びていけるという信念である。
 じつは、ダーウィンもトルストイも、幼少時には周囲から凡庸な子だと思われていた。歴史に名だたるゴルファー、ベン・ホーガンも、子どもの頃は運動神経が鈍くてまるでさまにならなかった。20世紀を代表するアーティストといわれる写真家、シンディ・シャーマンは、初めて受けた写真の授業で単位を落としている。往年の大女優、ジェラルディン・ペイジも、君には才能がないから女優の道はあきらめなさいと諭(さと)された経験がある。
 才能は磨けば伸びるという信念が、どれほどの情熱を生み出すか、おわかりいただけたと思う。その気になれば能力はどんどん伸ばすことができるのに、なぜ、現在の能力を示すことばかりにこだわって時間をムダにするのだろう。欠点を克服しようとせずに、隠そうとするのだろう。ぶつかりあう中で自分を成長させてくれる友人やパートナーを求めずに、ただ自尊心を満たしてくれる相手を求めてしまうのだろう。新しいことに挑戦せずに、うまくできるとわかっていることばかり繰り返すのだろう。
 思いどおりにいかなくても、いや、うまくいかないときにこそ、粘りづよい頑張りを見せるのが「しなやかマインドセット」の特徴だ。人生の試練を乗り越える力を与えてくれるのは、このマインドセットなのである。

 『マインドセット』 第1章 より キャロル・S・ドゥエック:著 今西康子:訳 草思社:刊

 心の持ちようは、本人の意識次第でいくらでも変えることができます。
 つまり、誰でも「しなやかマインドセット」の持ち主になれるということです。

 本書は、マインドセットが人生に与える影響を解説し、マインドセットをしなやかにするための方法についてまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

スポンサーリンク

本気で努力するのが怖い


 硬直マインドセットの人は、しばしば「努力は欠陥人間のすることだ」と考えがちです。
 とくに、自分を完璧な天才のように思っている場合は、その傾向が顕著に表れます。

 ナージャ・サレルノ・ゾネンバーグは弱冠10歳でフィラデルフィア交響楽団のヴァイオリン奏者としてデビューした。といっても、優れたヴァイオリン教師、ドロシー・ディレイの指導を受けるためにジュリアード音楽院に入ったときには、まだ、とんでもない癖がたくさんあった。指使いや弓使いもおかしいし、ヴァイオリンの持ち方も間違っていた。けれども、どうしてもそれを改めようとしなかった。何年かすると、他の生徒たちに追い越され、10代の後半には自信を失ってぼろぼろになってしまう。「それまで、成功して当たり前、新聞に神童と書かれて当たり前だと思っていた私が、敗北者の気分を味わうことになった」
 この神童は努力することを恐れていた。
「頑張ろうとすると怖くなった。やってみてやっぱりダメだったら、と思うと恐ろしかった。・・・・・オーディションを受けて落ちても、本気で挑戦したのでなければ、とことん練習して臨(のぞ)んだのでなければ、全力を尽くしたのでなければ、まだ言い訳ができる。・・・・・でも、『自分のすべてを出し切ったのに、やはりダメだった』と言わなくてはならなくなったら、それ以上つらいことはない」
 精一杯やってもダメだったら、言い訳しようのない状況に追い込まれたら、という、硬直マインドセットにとって何より恐ろしい不安に駆られた彼女は、レッスンにヴァイオリンを持ってくることすら止めてしまったのだ!
 いつか立ち直ることを信じて、何年間もじっと見守ってきたディレイ先生だったが、とうとうある日、こう言いわたした。
「いいですか、来週もヴァイオリンを持ってこなければ、私のクラスから出て行ってもらいます」。サレルノ・ゾネンバーグは冗談かと思った。けれども、ディレイ先生は椅子から立ち上がって穏やかに言った。「私は本気ですよ。才能をみすみす台無しにするような人に協力するつもりはありません。もうやめにしましょう」
 なぜ、努力することがそんなに怖いのだろうか。
 理由はふたつある。まずひとつには、硬直マインドセットの人は、才能に恵まれている者に努力は不要だと思っている。だから、努力が必要というだけで自分の能力に疑念を抱いてしまうのだ。もうひとつには、サレルノ・ゾネンバーグが述べているように、言い訳のしようがなくなるからである。それほど頑張ったわけでなければ「やればできたはずなのに」と言える。けれども懸命に努力した結果がそうだと、もう言い訳はできなくなってしまう。
 サレルノ・ゾネンバーグにとって、ディレイ先生に見捨てられる以上に恐ろしいことはなかった。そんなことになるくらいなら、一か八か、死に物狂いで頑張ってみよう。やってみてダメなら潔く諦めよう――ようやく腹がすわった彼女は、次のコンテストに向け、ディレイ先生について練習をはじめた。生まれて初めて、持てるかぎりの力を注いで練習に励んだ。ちなみに、結果は優勝。当時を振り返って彼女はこう語る。
「ようやくわかったの。大好きなことに努力を惜しんじゃいけない。音楽を愛しているのなら、捨て身で挑まなければいけないんだと」

 『マインドセット』 第2章 より キャロル・S・ドゥエック:著 今西康子:訳 草思社:刊

 才能を生かすのも殺すのも、本人の努力次第。
 一流といわれる人は、誰でもそのことを理解しています。

 失敗を怖がっているうちは、成長もしないし、能力が花開くこともありません。
 マインドセットの重要性が、よくわかるエピソードですね。

史上最高の努力型アスリート、「マイケル・ジョーダン」


 身体能力がモノをいう、スポーツの世界。
 しかし、そこでも、マインドセットは重要な役割を果たします。
 どんなに身体能力が高くても、それを磨く努力をしなければ、宝の持ち腐れです。

 バスケットボール史上最高の選手の一人といわれるマイケル・ジョーダンの例をみてみましょう。

 マイケル・ジョーダンも、生まれつきの天才ではなかった。おそらくスポーツ史上、前代未聞の努力型アスリートだろう。
 マイケル・ジョーダンが高校代表のバスケットボールチームのメンバーに選ばれなかった話は有名だ。彼を外したコーチは何を考えていたのだろうと思ってしまう。大学進学の時期になっても、彼の憧れのノースカロライナ州立大学からの誘いは来なかった。州立大はなんて惜しいことをしたのだろう。そして、NBAのドラフト指名権2位までのチームは彼を指名しなかった。とんだ失敗をやらかしたものだ。
 今の私たちは、ジョーダンが史上最強のバスケットボール選手であることを知っているから、なぜそれを見抜けなかったのだろうかと不思議に思う。でもそれは、あの「マイケル・ジョーダン」として見るからで、当時はまだ、ただのマイケル・ジョーダンにすぎなかった。
 高校代表のバスケットボールチームに入れなかったジョーダンは、がっくりと打ちのめされた。母親は「練習して鍛え直しなさいと言い聞かせたんです」と当時を振り返る。彼はその言葉に従い、毎朝6時に家を出て、始業前の早朝トレーニングに励んだ。
 ノースカロライナ州立大学に進学してからも、ディフェンス面やボールの扱い、シュート技術といった弱点の克服に絶えず努めた。どの選手にもまして積極的に厳しい練習に励むその姿にコーチは感心するばかりだった。
 シーズン最後の試合で敗北を喫した後に、何時間もシュート練習を繰り返したこともある。翌年に備えようとしたのだ。成功と名声の頂点に上りつめ、天才プレーヤーと言われるようになってからもなお、粘り強く練習を続けたことが伝説として語り継がれている。ブルズの元アシスタントコーチ、ジョン・バックは彼を「天賦の才を常に磨こうと考える天才」と評した。
 成功は精神的な要素によるところが大きいジョーダンは考える。「精神的な強さと熱意は、さまざまな身体能力よりもはるかに大きな力を発揮する。ぼくはいつもそう言ってきたし、いつでもそう信じてきた」。ところが、他の人々はそうは考えない。マイケル・ジョーダンに、おのずとみごとなプレーが生まれる完璧な肉体を見てしまうのである。

 『マインドセット』 第4章 より キャロル・S・ドゥエック:著 今西康子:訳 草思社:刊

 マイケル・ジョーダンほどの選手でも、キャリアをスタートしたときには、特別な実力の持ち主ではありませんでした。
 さまざまな挫折や壁を、血のにじむような練習で乗り越え、スーパースターへの道を駆け上がったのですね。

 マイケル・ジョーダンでさえ、それに見合った努力の裏打ちがあってこその「天才」です。
 才能はその人の持って生まれた部分が大きいですが、それを花開かせるのはマインドセットです。

「努力と成長に注目したメッセージ」を送ろう


 とくに子供にとって、「ほめる」ことは重要です。
 大きなモチベーションになるし、自信にもつながります。
ただ、 ドゥエック先生は、知的能力や才能を愛(め)でるほめ方だけは避けるべきだと指摘します。

(前略)お父さんやお母さんは、自分がどれくらい頑張ったかではなく、自分の頭の良さや才能が自慢なんだ、と子どもに思わせるようなほめ方はやめよう。
 しなやかな観点に立ったほめ方はいくらでもある。うまい方法で粘りづよく勉強や練習を重ねて何かを成しとげたことをほめればいい。また、問いかけの仕方を工夫すれば、子供の努力や選択を評価する気持ちを伝えることができる。
「今日はずいぶん長い時間、一生懸命に宿題をやってたな。集中して終わらせることができてえらいぞ」
「この絵、きれいな色をとてもたくさん使って描いたのね。色の使い方のことを話してくれるかな?」
「この作文には自分の考えがたくさん書いてあるね。シェークスピアが別の角度から見えてくるようだね」
「心をこめて弾いてくれて、ほんとうに嬉しいわ。ピアノを弾いているときってどんな気分?」
 最近知って興味をそそられたのだが、子どもの研究に生涯を捧げたハイム・ギノットもやはり、「ほめるときは、子ども自身の特性をではなく、努力して成しとげたことをほめるべきだ」という結論に達している。
(中略)
 ほめ方について、もうひとつ付け加えておきたいことがある。子どもに「あら、ずいぶんはやくできたのね!」「まあ、ひとつも間違えなかったじゃない!」と言うと、どのようなメッセージが伝わるだろうか。親はスピードや完璧さを高く評価している、というメッセージである。けれども、スピードや完璧さは、難しいことに挑戦する場合の敵。こういうほめ方をすると、「すばやく完璧にできれば賢いと思われるのなら、難しいことには手を出すまい」と思うようになる。では、子どもがすばやく完璧に、たとえば数学の問題などを終えたときには何と言えばいいのだろう。ほめずにおいた方がいいのだろうか。そのとおり。そういうとき、私ならこう言う。「あら、簡単すぎたようね。時間をムダにさせちゃったわ。今度はもっと実になるものをやりましょう」

 『マインドセット』 第7章 より キャロル・S・ドゥエック:著 今西康子:訳 草思社:刊

「頭がいいね」「才能あるね」
 そんなほめ言葉は、本人にとってマイナスでしかありません。
 失敗を恐れ、難しい問題へのチャレンジを避けるようになるだけです。
 毎日のように続ければ、カチコチの「硬直マインドセット」の出来あがり。

 同じほめるでも、「何をほめるか」「どうほめるか」が、極めて重要です。
 頭に入れておきたいですね。

スポンサーリンク

☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

「硬直マインドセット」になるか、それとも「しなやかマインドセット」になるか。
 自我が形成される、生まれてから数年間で決まってしまうことがほとんどです。
 それだけ、両親が子どもの精神に与える影響が大きいということですね。
 多くの人は、物心つかないあいだに決められたマインドセットにしたがい、残りの人生を生きていくことになります。

 これまでの自分の人生を180度変える。
 それには、まず、自分がコチコチの「硬直マインドセット」だということに気づく必要があります。
 気づくことさえできれば、変える方法はいくらでも見つかるでしょう。

 人々の心に巣食う「硬直マインドセット」の連鎖を断ち切り、新しい社会をつくる。
 そのためにも、ひとりでも多くの方に読んでいただきたい名著です。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ(←気に入ってもらえたら、左のボタンを押して頂けると嬉しいです)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 15

フォローする

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA