【書評】『突破論』(平井伯昌)

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 お薦めの本の紹介です。
 平井伯昌さんの『突破論』です。

 平井伯昌(ひらい・のりまさ)さんは、競泳コーチです。
 北島康介選手や中村礼子選手などのオリンピックメダリストを育て上げたことで有名な方です。
 2008年からは競泳日本代表ヘッドコーチに就任しています。

一流と超一流の差は“心”


 選手達との対話を重視し、一人一人の個性を生かした指導方法で有名な平井さん、
 自らの指導方針について、以下のように述べています。

私は技術面の指導だけを伸ばしても、世界で勝てる選手になるとは思っていません。「心・技・体」という言葉があるように、技術や体力だけでなく心や人間性といった面も鍛えなければ、世界の大舞台でベストパフォーマンスを発揮することは難しい。記録のスゴイ選手が一流だとしたら、世界で勝つという大きな目標を達成するのは超一流。一流と超一流の差は、“心”だと思っています。心と脳、そして身体はつながっています。
 心を育てるには、選手それぞれの特徴を見抜かなければいけません。同じ北京代表選手でも、北島康介と中村礼子と上田春佳の特徴は全く違いました。

  『突破論』  はじめに より  平井伯昌:著  日経BP社:刊 

 どの分野でも、「超一流」と呼ばれる人々は、専門のスキルはもちろん、人間性にも優れています。
 選手それぞれの特徴を見抜き、それに見合った指導方法で「心・技・体」全てを鍛え上げていく。
 それが平井流トレーニングです。

 選手達とのコミュニケーションを大事にし、上から命令するだけでなく選手自ら考えながら目標を持って練習できるような環境づくりに細心の注意を払っているのが印象的でした。
 その中からいくつかのエピソードをご紹介します。

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自分に対する絶対評価でスランプを乗り切る


 オリンピックで2大会連続2種目金メダルという偉業を達成した北島康介選手。
 大きなプレッシャーがかかる中でも自分の力を出し切る北島選手の強さ。
 その秘密は、どこにあるのでしょう?

 どんなに不調に陥ったとしても、大事な場面で必ず結果を出す人がいます。北島康介もそういうタイプの人間。なぜ結果を出せるのでしょうか。
(中略)
 彼からは純粋に競技を続けたいという思いが伝わっていきます。アテネと北京の五輪を通じて、他人に勝ったことより、あのすさまじいプレッシャーと緊張感の中で自分に打ち勝ったことの方が、彼の中では大きな意味を成しています。やっぱり泳ぐことが好きで、自分自身に挑戦し続けたい。その思いがこのときの復帰につながったと思うのです。
 康介の場合、他人との比較という相対評価はなく、自分に対する絶対評価から、自分自身、ひいては物事を捉えています。自分にとって価値があるのは、人と比較した評価ではなく、自分が頑張れたかどうか。周囲の影響など全く関係ないから、周りに流されないし、ダメだった時は周りのせいにしない。言い訳をしないから、次につながる課題を自分で見つけます。
 そんな考えができるからこそ、どんだ状況にも流されることなく、自分のペースを貫き通せる。スランプに陥った時や、不利な状況に立たされた時でも、這い上がって周りが驚くような結果につなげます。

  『突破論』  第1章 より  平井伯昌:著  日経BP社:刊 

 目標が「金メダル」という外的な要因でなく、自分の中にある『自分自身に挑戦し続けたい』という強い思いにある。
 だから長期間にわたってモチベーションを維持することができるということ。
 北島選手のすごさは言うに及ばず、平井さんの人を観る目の鋭さを感じさせる選手評です。

小中学生の指導で大事なこと


 平井さんは、30歳以上歳の離れた小中学生の指導をすることもあります。
 そんな若い選手は心も体もまだ成熟していないので、当然、指導法も大学生や社会人とは異なると述べています。

 大学生、社会人との違いの一つに、理解力があります。例えば、私が教えている、ある女子中学生は、ちょっと癖のある泳ぎをします。そのフォームは長所である一方、場合によってはブレーキ=短所にもなりかねません。バランス良い調整が必要なので、何度も説明するのですが、彼女はなかなか理解できない。自身の泳ぎを客観的に見る能力が備わっていないので、何を言われているのか、さっぱり分からないのです。
(中略)
 理解力が乏しい相手に多くを要求しても、「馬の耳に念仏」になる可能性が大きい。体や心、頭の成長が伴っていない選手には、我慢強く相手の成長を待つ、“待ちのコーチング”も大事だと思います。

 では、理解力を伸ばすにはどうするか。その1つは、選手とコーチの共通の価値観や言語を持つことです。そのためにコミュニケーションの量を増やす。ジェネレーションギャップがあればあるほどコミュニケーションは大事です。

  『突破論』  第2章 より  平井伯昌:著  日経BP社:刊 

 無理に理解させようとせず、相手の成長を待つ。
 同時に相手とのコミュニケーションを増やすことにより、理解力を伸ばす手助けをする。
 相手に合わせた指導法をモットーとする平井流の真骨頂ですね。
 水泳だけでなく、学校や家庭での子育てにも通じるものがあります。

結果を他人事のように説明しない


  意欲はあるけど、結果が伴わない。
 バタフライのロンドン五輪代表に選ばれたバタフライ・加藤ゆか選手は数年までそんな選手でした。
 平井さんは、そのような選手の特徴を以下のように解説します。

 自信がない人は、自分のことを他人事のように話す傾向があります。例えば、一昨年までのゆかに調子を聞いても、「朝起きたら体が重かった」「泳いだら調子が悪かった」という返事が多かった。つまり、自分のことなのに自然現象を説明するかのように答えるわけです。そこには、自分の状態を「どうしたいのか」という意思がありません。調子が悪かったから結果が出なくても仕方ない」という、逃げ道を作っているのです。結果を他人のせいにしたり、他人事のように捉えたりしては、克服しなければならない課題にすら気づくことができず、成長しません。

そうした思考のクセをなくすにはどうすればいいか。私は「突き詰める力」が大事だと考えます。「調子が悪かった」で終わらせるのではなく、「なぜ悪かったのか」と突き詰め、自分なりの解決策を導き出す。
「朝起きたら身体が重かった」→(なぜ?)→「疲労がたまっていたのに、休養日に遊びに行き、体のケアを怠った」→(どうすればいい?)→「週末にトレーナーに体をほぐしてもらい、寝る前に必ずストレッチをやろう」
このように、自ら招いた原因や解決策をとことん掘り下げる思考習慣を身につけることが大事です。

  『突破論』  第6章 より  平井伯昌:著  日経BP社:刊 

 自分に自信のない選手は、無意識のうちに、精神的に受け身になっているのでしょう。
 それは平井さんの言う通り、「思考のクセ」です。

「何が何でも強くなってやる!」
 そんな貪欲さが自分の中から湧き上がってこないと成長しません。
 当然、結果にも表れないということですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 本書は、ビジネス情報誌で「人を育てる」をテーマに連載されたコラムの内容をまとめたものです。
 平井さん自身、本書は部下を育てることに悩んだり、努力しているのになかなか結果の出ない、そんな方々が一歩前に進むためのヒントになることを願って書いたとおっしゃっています。
 オリンピックを目指すアスリートと、私たちのような一般人とは、目標とするところが違います。
 ただ、「壁」を乗り越えて前進しなければいけない、という点では同じです。
 
 本書を読んだ多くの人が“自己ベスト”を更新して「壁」を乗り越えてほしいです。
 
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