【書評】『未来化する社会』( アレック・ロス)

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 お薦めの本の紹介です。
 アレック・ロスさんの『未来化する社会 世界72億人のパラダイムシフトが始まった 』です。

 アレック・ロス(Alec Ross)さんは、外交政策とイノベーションの専門家です。
 2008年の米国大統領選で、オバマ陣営でテクノロジー・メディア政策を担当されました。
 その後、オバマ政権において、国務省の上級顧問を務められた経験をお持ちです。

今後20年で、世界はどう変わるのか?


 急速に発達するイノベーションと、地球全体を覆いつくすグローバル化の波。
 それらによって、私たちの生活は、ここ数十年で劇的な変化を遂げました。
 今後、その動きは、さらに勢いを増して、世界を飲み込んでいくことでしょう。

 米国務省のイノベーション担当として世界中を飛び回り、テクノロジーの最前線に身を置いたロスさん。
 彼も、社会を変化させる力の圧倒的な勢いを肌で感じた一人です。

 世界のいたるところで、人は格差の広がりと混乱を感じる。自分の居場所を見つけて、成功をおさめるのは昔よりむずかしくなるという感覚が広まり、多くの社会をうろたえさせる。
 イノベーションの先には明るい未来と危機的状況の両方がある。富と福祉は公平ではないし、身分証明書がハッカーに盗まれて自宅に侵入されるかもしれない。法律文書をコンピューターで高速に分析できるようになり、法律家の数が余りそうだ。ソーシャルネットワークは、新しいつながり方のドアを開くが、一方で、新たな社会不安の種もつくり出す。支払いのデジタル化は商取引を進めやすくするが、一方で、新たな形態の詐欺を招く。
 私がまだ学生で、インターネット革命の夜明けだったころ、私は将来についてはなんの予感も持ち合わせていなかった。あのころ、次にどうなるのかを予測した本を読んでいたらよかったのにと思う。全知全能の人間などいるはずはないが、幸いにも私はその後、次の角に何が待っているのかをいち早く察知できる立場に就くことができた。
 この本にはこれからの経済について書く。イノベーションとグローバル化の次の波が、国と社会とわれわれ自身にどう影響するのかを知りたい人にぜひ読んでほしい。

 『未来化する社会』 はじめに より アレック・ロス:著 依田光江:訳 ハーパーコリンズ・ジャパン:刊

 すぐそこに迫っている、“次の曲がり角”の先には、どのような未来が待っているのか。
 それを知り、順応することが、「未来化する社会」で生き延びるのには不可欠です。

 本書は、今後20年で世界の経済と社会を変えていく産業について、具体例を交えながらまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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グーグルが「自動運転システム」に参入する理由


 今、大手自動車メーカーがこぞって開発を進める「自動運転車」
 その先頭を走る企業は、昔ながらのメーカーではなく、グーグルです。
 グーグルは、6年以上前から、自動運転の「グーグルカー」を開発してきました。

 だが、そもそもなぜグーグルは自動運転ビジネスに参入するのだろうか?
 開発にかかわる大勢の人それぞれにモチベーションがある。きわめて個人的な思いから臨んだ人もいる。セバスチアン・スランの場合は、TEDトークで語ったように、親友を自動車事故で亡くしたことが、自動車事故撲滅に立ち上がるきっかけだった。「毎年100万人を自動車事故から救うことに生涯を捧げようと決めたんです」
 グーグルは、自動運転システムの安全担当ディレクターとして、運輸省道路交通安全局(NHTSA)の副局長だったロン・メッドフォードを引き抜いた。メッドフォードによれば、アメリカ人が車で走る距離は年間4兆8000億キロメートルにのぼる。3万人以上が自動車事故で死亡し、世界全体では毎年130万人が亡くなっている。
 もちろんグーグルは、事故を減らすことだけでなく、人が使える時間を増やすこと――文字どおり、両手を空けること――にも関心をもっている。アメリカ人が運転に費やす時間は週に平均12.5時間、ヨーロッパではおよそその半分だ。ハンドルを握る時間が減れば、それだけグーグル製品をいじってもらえる。
 それにしても、自動運転車は本当に使いものになるのだろうか?
 ロボットの運転するロボットカーのほうが人の運転する車よりも安全だといえるのには、はっきりした理由がある。自動運転事故のおもな原因とされる4つのD――脇見(ディストラクション)、居眠り(ドロージネス)、酒酔い(ドランクネス)、ドライバーエラー――を、ロボットカーなら劇的に減らせるからだ。一方、スタンフォード大学機械工学部教授クリス・ゲラーの発端が運転手からプログラマーに変わるだけだと警告する。ロボットカーが実用に向けて大きな一歩を踏み出していることはまちがいなさそうだが、それでもロボットと人間の運転手の協力は当分は必要だろう。飛行機を見れば、同じことがずいぶんまえからおこなわれている。飛行機は現在、ほとんどの時間を自動操縦装置が操縦しているが、突発的な事態には人間のパイロットが介入する。ロボットカーが人間の運転する車よりも安全だと言いきるには、埋めなければならない溝がまだ多く残る。そのトップに来るのが、ソフトウェア開発だ。ロボットカーを悪天候のなかでも走れるようにしたり、道路状況の予定外の変化(急な迂回指示や、警察官による交通整理など)に対応できるようにしたりする作業は道半ばだ。しかし全体としては、開発の進む速さや、グーグルカーが晴天の道路ならスムーズに走れる現状を考え合わせれば、少なくとも一部がロボット化された車がわれわれの未来に入ってくるのはまちがいないだろう。

 『未来化する社会』 1 ロボットがやってくる より アレック・ロス:著 依田光江:訳 ハーパーコリンズ・ジャパン:刊

 技術的にはまだ課題があるとはいえ、近い将来、完全自動運転の車が現れるのは間違いありません。
 人間が、「運転」という重労働から開放されることには、多くのメリットがあります。
 自由な時間が増え、交通事故も激減することでしょう。

 一方、「運転」自体を仕事としている人たち(タクシー運転手、宅配便の運転手など)は、仕事を奪われることになります。
 このリスクは、その業界の中だけでは片付けることができない、大きな課題です。
 国がイニシアチブを取り、早急に取り組む必要があるでしょう。

クレジットカードはもう古い?


 ツイッターの共同創設者の一人であるジャック・ドーシーは、携帯電話を利用した決済サービスを提供する会社「スクエア」を立ち上げます。
 スクエアは、これまでクレジットカードが担ってきた、決済システムに風穴を開けます。

 手数料体系のわかりやすさと安さ。
 携帯電話と読み取り機さえあれば、誰でも決済が行える手軽さ。
 それらが多くの人に支持され、スクエアのサービスは、爆発的に世界中に広まります。

 スクエアのクレジットカード読み取り装置は、仲介人に相当する部分の手数料を取らないようにつくられている。決済ごとに金額の2.75パーセントから3パーセントを合計の手数料として取り、クレジットカード会社を含むパートナーとのあいだで分配する。
 スクエアと競合企業は、市場にあった“引っかかり”をならそうとしている。クレジットカードに伴う複雑さを減らし、取引手数料や仲介手数料やジムのガラス製蛇口が被ったような機会損失など、さまざまなかたちで払ってきたコストを減らそうとしている。スクエアは、eコマースをもっと流動的で自由なものにする。消費者は財布を出さずに買い物を終わらせることができ、売り手は、昔ながらのレジスターやクレジットカード読み取り機を購入しなくてすむのだ。
 ジャック・ドーシーは、スクエアを、ボトムアップで生まれたイノベーションに経済の目を向けさせる、より大きなトレンドの一部だと考えている。「スクエアをつくった理由は、個人の気持ちとしては、地元とか個人とかのローカルな体験(エクスペリエンス)の方に向かおうとしているこのトレンドがあったから。オフラインでローカルなエクスペリエンスのほうを向こうとしているオンラインと、地元の町を組み合わせるのは、ものすごくおもしろいトレンドだと思う。この動きは、決済の話だけにかぎらない。ある種のフェイス・ツー・フェイスのやりとりに向かっているフォースクエア[位置情報に基づいたSNSサイト}やツイッターみたいなものにも通じる。だから、何が経済を引っ張るのか、真のパワーはどこにあるかと考えた場合、私は、地元の売り手と地元の買い手のつながりへの移行が起きはじめていて、それは売上の数字にもはっきりと表れている」。(中略)スクエアは、商取引のための新しい能力は既存のテクノロジーに上乗せし、ローカルの経済を大きな枠組みのなかに引き入れた。「スクエアを見れば、分散と分散化テクノロジーのパワーがわかる」とジャックは言う。「すでにもっている機器を活用するだけで、誰でもその店の強力な商取引(コマース)エンジンになれる。そしてこれはもっと大きな単位――町とか市とか国――にも影響を及ぼすはずだ」
 ジャックは、イノベーションのまわりで拡大している不平等と闘うためにもスクエアを加速したいと考えている。スクエアのイベントをなるべく、製造業がアメリカから去ったことで大きな痛手を受けたデトロイトやセントルイスのような場所でおこなうのもその表れだ。ジャックはスクエアを、苦闘中の地域が新しいビジネスを生み出すのを助けるプロダクトだと見ている。「スクエアの役割は、コマースを簡単にすることだ」とジャックは言う。「たんなる決済ではなく、コマース。誰もがビジネスを始められて、簡単に経営できて、簡単に成長できるように」。スクエアは力のない個人や小規模業者を支えるコマース企業なのだ。

 『未来化する社会』 3 通貨・市場・信用のコード化 より アレック・ロス:著 依田光江:訳 ハーパーコリンズ・ジャパン:刊

 クレジットカードを発行できる一部の金融機関の専権事項だった、決済のサービス。
 それが、スクエアやその他の競合会社の台頭で、誰でも手軽に、審査不要で手することができるようになりました。

 テクノロジーの進化が、ビジネスのシステムを簡略化させ、よりグローバルなものになる。
 それによって、ますます多くの人がチャンスを得ることができるようになる。
 スクエア社のサービスは、そんな社会の動きの象徴ともいえます。

冷戦(コールド・ウォー)からコード戦争(コード・ウォー)へ


 インターネット網の世界的な普及は、世界のあらゆる場所をつなぎ、人類の進歩に大きな貢献を果たしています。
 一方で、これまでにない深刻な脅威をつくり出しました。

 マルウェア、ウイルス、ワーム、トロイの木馬。DDos攻撃、サイバー攻撃・・・・・コードの兵器化を表すこうした用語は、今日よく目にするようになったが、われわれはその影響の大きさをようやく知りはじめたにすぎない。
 インターネットの当初の目的は、核攻撃を生き延びるために、非集中の分散ネットワークを構築することだった。いま思えば皮肉だ。分散化されたその構造が、まったく新しい攻撃の可能性を呼び起こしたのだから。個人や企業や政府が資産をオンラインに移そうと思えば思うほど、コードの兵器化は儲かるビジネスになり、破壊力も増す。
 個人にしろ組織にしろ、攻撃を受けた場合の被害は甚大だ。サイバー攻撃の動機は、政治的信条に基づくものや金儲け、たんに世間を騒がせたい愉快犯などさまざまだが、被害総額は年間4000億ドルにのぼり、この数字は、世界196カ国中160カ国の国内総生産を超える金額である。
 サイバー攻撃が増えれば、企業は当然、防衛を厚くする。企業も政府も防衛策に振り向ける資源を増やし、ダメージと被害額の両方を減らそうとしている。サイバーセキュリティは、2000年にはIT部門で2〜3000人が働くだけの35億ドル程度の市場だったが、20年後の2020年には、大小問わずあらゆる業種の企業で重要なインフラを担い、1750億ドルの市場へと成長することが見込まれている。
 サイバーはいまや、フォーチュン500企業の会長なら、担当役員が取締役会に加わっていることを必ず確かめるほどの重要な領域になった。会計の専門知識のある役員が求められるようになったのは十数年前だが、これから5年後には、サイバー担当の役員がいなければ、コーポレートガバナンスが不十分だと見なされるようになるだろう。
 サイバーはまた、政府と軍のあいだにも新たな混乱と緊張をもたらしている。核兵器の開発以降、コードは最も影響力の大きい兵器になった。だが、どこの管轄なのかがはっきりせず、規範やルールも整備されていないため、自国の組織同士で衝突を生んでいる。

 『未来化する社会』 4 コード戦争時代 より アレック・ロス:著 依田光江:訳 ハーパーコリンズ・ジャパン:刊

 国や企業に、深刻な打撃を与えるのに、兵器や軍隊は不要。
 優秀なコンピューターと、それを使いこなせるハッカーを手に入れれば事が足りる。
 そんなある意味恐ろしい時代を、私たちは生きているわけですね。

 静かな戦い「コード戦争」は、今この瞬間もインターネットを舞台に繰り広げられています。
 今後、ますます激しさを増していくことでしょう。

「ビッグデータ」が育てるバイリンガル


 情報のデジタル化が進んだことによる、蓄積されるデータの量の爆発的な増加。
 コンピューターの性能向上による、処理速度の高速化。
 この二つが掛け合わさることで生まれたのが「ビッグデータ」と呼ばれる解析方法です。
 ロスさんは、現在はまだ分析の対象とは思われていない、人生のさまざまな領域にも浸透してくるだろうと述べています。

 今後10年間でビッグデータにより実現することのひとつに、「翻訳」があります。

 今日の機械翻訳は、辞書を用いた古いやり方に比べれば、速さも精度も驚くほど向上しているが、それでもまだ正確さや機能性、使い勝手の面では不十分だ。ただしこうしたことは、つまりはデータやコンピューター計算能力の問題にすぎない。プロの翻訳家は、方言や抑揚、微妙なニュアンスは複雑すぎてコンピューターには充分に表せないと言う。しかし彼らはまちがっている。今日の翻訳ツールは、日に2億人以上の人たちに10億回以上の翻訳をおこなっている。大量のデータが蓄積されることで、精度が増し、利用者が増え、やがて10億回が1日ではなく、半日、さらには1時間でおこなわれる数になるだろう。おびただしい数の言語データがツールに入っては出ていく。翻訳ツールの知識を増やすデータ量が指数関数的に増えるにつれ、翻訳の精度がさらに高くなり、細いところまで表現できるようになる。機械翻訳にまちがいがあれば、利用者がそこにフラグを立てる。そのデータも機能向上の材料として使われる。あとは、もっとたくさんのデータ、もっと速いコンピューター、もっと優秀なソフトウェアがありさえすればいい。やがてそれらが現実になったときには、発音の問題が解決され、相手からの返答も即時翻訳されるようになっていて、コミュニケーションギャップが埋まるだろう。
 これからの機械翻訳のイノベーションで期待されるのは、ヒューマン・インターフェースの部分だ。10年後には、話しかけられた外国語を小型のイヤホンがほぼ瞬時にあなたの母語に変換し、耳打ちするようになるだろう。時間のずれは、音速レベルになる。ないも同然だ。耳に入る音声は、Siri風の合成音ではない。周波数や波長、強さなど、声の特性を測定する生体音響技術の進歩により、イヤホンに接続するクラウド内のソフトウェアが、聞き手側の母語を、話し手側の声で再現する。あなたが答えれば、その言語は相手のことばに翻訳され、相手のイヤホンに返されるか、あなたの携帯か腕時計、あるいは2025年にあなたが身につけているなんらかの装置のスピーカーから発せられる。
 今日の翻訳ツールは、2言語間でのやりとりでしか機能していない。機械翻訳で3言語間の翻訳を試してみると、悲惨な結果が返ってくる。だが将来は、話される言語の数は問題ではなくなるだろう。それぞれ異なる言語を話す8人の客を招いて晩餐会を開くことができる。そのとき耳に流れてくる声は、つねに自分の聞きたい国の言語なのだ。

 『未来化する社会』 5 情報化時代の原材料――データ より アレック・ロス:著 依田光江:訳 ハーパーコリンズ・ジャパン:刊

 蓄積されるデータが多いほど、処理速度が速くなるほど威力を発揮するのが、ビッグデータです。
 今の時点では夢物語のような話ですが、意外と速く実現する技術かもしれません。

 自動翻訳ツールの開発は、これまで、言葉の壁に悩まされてきた日本人にとっては朗報ともいえます。
 一方で、言葉の壁がなくなることで、日本でもグローバル化が一気に加速する可能性があります。
 これまで安泰だった、多くの業種が外国企業との競争にさらされることになるでしょう。

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 日本を含めた世界は、今、これまでにないスピードで大きく変わりつつあります。
 私たちは、まるごとジェットコースターに乗せられた状態。
 高速で動いているのはわかるが、行き先はどこなのか、どちらに曲がるのか、まったくわからない。
 そんな不安な気持ちを抱きながら、日々過ごしています。

 未来に何が起こるかは、誰にもわかりません。
 しかし、今、現在起こっていることから、予測することは可能です。
 ロスさんは、現代の最先端を肌で感じている人、つまり、ジェットコースターの先頭に乗り込んだ人。
 ロスさんが垣間見られた“未来化する社会”は、いずれ私たちも実際に体験する社会です。
 その日は、明日かもしれないし、10年後かもしれません。
 日本の社会を飲み込む大きな時代のうねりに取り残されないためにも、ぜひ、一読頂きたい一冊です。


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