【書評】『最高のリーダーは何もしない』(藤沢久美)

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 お薦めの本の紹介です。
 藤沢久美さんの『最高のリーダーは何もしない―――内向型人間が最強のチームをつくる!』です。

 藤沢久美(ふじさわ・くみ)さんは、実業家、経済評論家、キャスターです。
 ネットラジオ「藤沢久美の社長Talk」パーソナリティとして、15年以上にわたり、1000人を超えるトップリーダーを取材されてきました。

内向的な人ほど、リーダーになるべき時代


 これまで、1000人以上のトップリーダーたちにインタビューをしてきた藤沢さん。
 その中で感じたことは、求められるリーダーシップが変化しているということでした。
 それをひと言で表現したのが、「最高のリーダーは何もしない」です。

 リーダーというと、「即断即決・勇猛果敢・大胆」「ついていきたくなるカリスマ性」「頼りになるボス猿」というイメージを持つ方が多いのではないかと思います。
 しかし、そうしたリーダー像は、過去のものとなりつつあります。
 いま最前線で活躍しているリーダーたちは、権限を現場に引き渡し、メンバーたちに支えられることで、組織・チームを勝利へと導いています。
「優秀なリーダーほど『リーダーらしい仕事』を何もしていない」というのは、まさにそういうことなのです。

 そして同時に、一流のリーダーの多くは、内向的で、心配性で、繊細であるという点でも共通しています(無論、「ポジティブな意味で」なのですが・・・・・)。「社長トーク」の収録の際に、大きなギャップを感じることも増えてきました。社長のもの静かな佇(たたず)まいを見ただけでは、その会社の圧倒的な業績とイメージがつながらないのです。

 本書を手にした方のなかには、「自分はリーダーに向いていないのではないか?」「リーダーの仕事を全うできていないのではないか?」という問題意識をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その心配自体が「リーダーとしての素質」になり得るということをまずお伝えしておきたいと思います。
 あと必要なのは、発想の転換だけです。本書をきっかけに“リーダーらしい仕事”を手放し、本当のリーダーの仕事へと向かっていただきたいと思います。

 『最高のリーダーは何もしない』 第1の発想転換 より 藤沢久美:著 ダイヤモンド社:刊

 これからの時代に求められるリーダー像と、いったいどのようなものなのでしょうか。

 本書は、「新しいリーダーシップのエッセンス」を解説し、それを身につけるのに必要な「6つの発想の転換」をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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仕事に徹するほど「何もしていない」ように見える


 藤沢さんは、これからのリーダーの仕事は、ビジョンをつくることであり、それをメンバーに浸透させることだと述べています。
 そのようなリーダーシップを、従来のトップダウン型リーダーシップに対して、「ビジョン型リーダーシップ」と呼んでいます。

 リーダー(Leader)とは、「リード(Lead)する人」ですから、私たちはどうしても「みんなを力強く引っ張っていく役割」をイメージしがちです。しかし、そうではないリードの仕方もあるのです。かつてのように、昇給・昇進やその他の信賞必罰によってメンバーの行動を制限していくのではなく、メンバーがワクワクして自ら動き出すような目的を提示し、現場に任せるのが新しいリーダーシップのかたちです。

 もちろん、組織やチームが危機に直面し、メンバーが右往左往している局面では、全権を担って矢面(やおもて)に立ち、時には豪腕をふるって組織を守り、時には敵をつくりながらも力強くチームを牽引(けんいん)していく、そんなリーダーが求められます。
 たとえば大災害のときには、強烈なリーダーがいて初めて多くの人の命が救われるということを、多くの日本人が実感したと思います。
 つまり、カリスマ型リーダーを全否定し、ビジョン型リーダーだけを肯定したいわけではありません。
「強いリーダーシップを発揮できる素地を持ちながらも、平時にはビジョン型に徹する」というように、状況に応じて両方のリーダシップを使い分けられる人こそが、理想的なリーダーです。
(中略)
 とはいえ、「社長トーク」に出演していただいた経営者の方々を見ていてもいまは「人をついてこさせる」とか「メンバーを使う」といった、ある種の「上から目線」を連想させるような言葉遣いをする人はまずいません。
「先頭に立ってグイグイとみんなを引っ張っていく」というよりも、「そこに座って思いを伝えているうちに、みんなが自然と動いてくれている」というイメージのリーダーが多いのです。
 ビジョンに基づいてメンバーが自律的に動くチームをつくれれば、リーダーは現場への指示に時間を奪われなくなります。そこで生まれた時間を使って広く世の中を観察し、次なる展開を考え、変化に備える――こうした好循環を生み出し、メンバーとともに成長する組織をつくることこそが、これからのリーダーの仕事です。

 組織やチーム誰よりも静かに考え続けること。
 未来を見つめ続けること。
 そんな「本来の仕事」にリーダーが徹すれば徹するほど、その姿は「何もしていない」ように見えるのです。

 『最高のリーダーは何もしない』 第1の発想転換 より 藤沢久美:著 ダイヤモンド社:刊

 カリスマ型リーダーは、先頭に立って前から引っ張る「機関車」のような存在。
 ビジョン型リーダーは、下から支えながら、進むべき方向を示す「レール」のような存在。

「いかに動かすか」より「いかに動いてもらうか」。
 メンバーの自主性、やる気を引き出すことが求められるということです。

極端に心配性で、最高にポジティブ


 藤沢さんは、ビジョン型リーダーには、「細かいことが気になって仕方がない心配性の人」のほうが多いと指摘します。

 カー用品で有名な株式会社イエローハット(本社 東京都)の代表取締役社長・堀江康生さんは、こう打ち明けてくださいました。

「社長になると、何もかもが気になりだします。『あれが心配』『これが心配』と小さなこともやっぱり気になるんです。部長の上には本部長、取締役の上には社長がいますが、社長にはもう次に投げる人がいない。精神的な負担はだいぶ違うと思います」

 社長就任から半年間は、夜中に必ずシャツを着替えるほど、寝汗をかいていたそうです。それくらい心配事が多かったということでしょう。
 ただし、優秀なリーダーはただの心配性で終わりません。心配と向き合うために、やっぱり「考える」わけです。堀江さんもこんなふうに語っていました。
「とにかく頭を動かさないといけない。サウナに入って考え、サウナから出て考え、布団のなかで考え、電車のなかで考え・・・・・。どの社長もみんな、実質的には24時間考え、仕事と個人のすべてが一体化していると思いますよ」

 私がリーダー取材にのめり込んだ秘密も、まさにここにあります。
 優秀な社長たちとお話するのは私にとって最高に楽しい時間です。なぜかといえば、彼らは極端に心配性でありながらも、決してネガティブではないからです。
 ですから本来なら、「心配性」というより「繊細」とか「緻密」と表現すべきかもしれません。ネガティブな人ではなく、ネガティブチェッカーであり、考えに考えて考え抜くリスク管理者なのです。

 『最高のリーダーは何もしない』 第2の発想転換 より 藤沢久美:著 ダイヤモンド社:刊

 起こりうるあらゆる状況を、さまざまな角度から考え、熟慮の末に決断を出す。
「石橋を叩いて渡る」手堅い経営手法は、内向型の特徴ですね。

 ただ、一度決断を下したことについては、絶対の自信を持ち、なんとしてもやり抜こうとする。
 そのポジティブさや意志の強さも、同時に持ち合わせているのが、優秀な経営者です。

ビジョンは「耳」から浸透する


 リーダーの示すビジョンは、どうすれば他のメンバーに浸透するのでしょうか。

 正直なところ、私がたくさんの社長にインタビューしてきた経験から言うと、お手軽にビジョンを浸透させるテクニックというものはありません。
 ただ、最も有効と思われる方法をあえてあげるとすれば、それは「リーダーが自らの声で語ること」です。

 ビジョンを伝える方法としては、すでにいろいろなものが紹介されていると思います。最近では、動画やメールなどを使ってメッセージを伝えるという方もいらっしゃいます。数多くのメンバーを抱える大きなチーム・組織であれば、こうしたツールを積極活用する知恵も必要なのですが、やはり最も効果があるのは、リーダーが自分の声で(口頭で)、メンバーに直接、何度も何度も語りかけることです。

 もちろん大企業の経営者や大きな部署のリーダーになると、メンバー全員に向かって語る機会は少なくなっていくでしょう。また、業績が振るわず精神的にも余裕がなくなってくると、メンバーと顔を突き合わせて話をすることにストレスを覚えるリーダーも多いと思います。
 しかし、そんなときこそ、リーダーが直接語りかけるべきです。経営危機から立ち直った経営者の方にお話を聞くと、「危機のときこそ、現場に行くようにした」と話す方が少なくありません。
(中略)
 随分と前のことですが、ANA(全日本空輸株式会社/本社 東京都)が経営再建に取り組むことになった当時、代表取締役社長だった大橋洋治さんは、クレドをつくって社員に配布しただけでなく、1年ものあいだ、毎日のように現場を回り、社員に直接語りかけ続けたといいます。
「我が社はこれからどうなっていくべきか」「何のために航空会社を続けるのか」――それを社員に直接伝えなければ再建できないと考え、トップリーダーとしての時間の多くをそれに使ったのです。

 当然のことながら、ビジョンに対して最も強い「思い入れ」を持てるのは、リーダー自身です。だからこそ、本人が自分の声を使って直接伝えようとしない限り、メンバーにはなかなか伝わりません。
 メンバーからすれば、「お客様を大切にしよう」とか「顧客第一主義」などという言葉は、どうしても「どこかで聞いたようなきれいごと」です。その意図や内実まではなかなか理解してもらえません。

 私がインタビューした会社のリーダーたちは、「普通に伝えただけでは、まずわかってもらえない」と思っているからこそ、「伝え方」の部分でかなり試行錯誤していました。
 ビジョンを表す言葉にしっかりとした「奥行き」を与えられるのは、リーダーだけです。
 ちょっとした紙を配ったり、ミーティングで一度話したぐらいでは、リーダーの思いはまず理解されないと思ったほうがいいでしょう。

 『最高のリーダーは何もしない』 第3の発想転換 より 藤沢久美:著 ダイヤモンド社:刊

 テクノロジーが進歩し、メッセージを伝える方法が星の数ほどある現代社会。
 それでも「自分の声で直接伝える」という、最も原始的で基本的な方法に敵うものはありません。

 表面的な文章だけ伝えてもだめです。
 言葉の裏に隠れる、リーダーの強い想いが伝わらないと、真意は理解されません。
 面倒ではあっても、それをおろそかにしては、強い組織はつくれないということです。

「敵をつくらない人」が、結局いつも成し遂げる


「ビジョンのあるリーダーが少ない」と言われて久しい日本。
 ただ、歴史をさかのぼると、しっかりとしたビジョンを持つリーダーも、確かに存在しました。

 少し意外な印象を受ける方もいらっしゃるかもしれませんが、日本の高度経済成長期の象徴的存在とも言える総理大臣・田中角榮氏は、ある意味、ビジョナリーな存在でした。「日本列島改造論」というビジョンで、日本国民をワクワクさせたリーダーです。

 田中元総理のリーダーとしての考え方をよく表した言葉を、ある人から教えていただきました。それは「広大な中間地帯をつくれ」という言葉です。

「政治家たるもの、自分を好いてくれる人と嫌う人、どちらか一方が増えすぎても、掲げたビジョンを実現することはできない。熱烈な支持者がいる政治家には、同じくらいたくさんの反対派が生まれるし、熱烈な支持者はいきなり苛烈な批判者に反転する可能性がある。だからこそ、好きでも嫌いでもない『中間層』をどれだけつくるかが大切だ」というのが、この言葉の意味です。

 これは企業でリーダーを務める人にとっても、参考になる考え方だと思います。とくに大企業では、「社内のある集団からは好かれ、他の集団からは嫌われている」といった人がリーダーになると、それは派閥に発展し、組織風土の悪化にもつながります。
 2015年のダボス会議での一幕ですが、夜のパーティの際に、三井物産の社長だった飯島彰巳(まさみ)さんのまわりに、大勢の人だかりができていました。ちょうど、飯島さんの「社長退任」と「役員序列32人抜きの同社最年少社長の就任」が発表された日の直後だったのです。
「どうやって次期社長を決めたんですか?」――集まった人たちからそんな質問が出ると、「人望ですよ」と飯島さんが答えていらしたのが印象的でした。

 また、日本を代表する経営者の1人である三菱商事小島順彦(よりひこ)会長が、かつて同社社長に就任した際にも、前社長がメディア上で「彼(小島さん)を悪くいう人はいないから」とコメントされていたのを覚えています。

「世界中のあらゆる分野でリスクをとる大手商社のトップ」と聞くと、「カリスマ的で大胆なリスクテイカー」をイメージしてしまいがちですが、どうやら違うようです。さまざまな国のさまざまな分野に関わるプロが集まる多様な組織だからこそ、人望が厚い、つまり、敵をつくらない人がリーダーになる。
 大きな仕事をするリーダーほど、じつは「嫌われない人」なのです。

 『最高のリーダーは何もしない』 第4の発想転換 より 藤沢久美:著 ダイヤモンド社:刊

 自分の周りに人が集まりすぎても、離れすぎてもだめ。
 思うような組織運営はできません。

 好かれなくてもいいが、嫌われてはいけない。
 大きな組織のリーダーほど、肝に銘じなくてはならない言葉です。

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「上善は水の如し」
 古代中国の思想家・老子の言葉ですが、今日求められる新しいリーダーシップの姿も、これに通じるものがあります。

 目立たないが、欠かすことのできない存在。
 何ももない時は、静かにその場にとどまるが、いざという時には、怒涛の勢いで岩を砕く。

 人々の価値観が多様化し、上から力で押さえつけるやり方では、うまくいかないことも増えています。
 肩書などの外部の力に頼らず、その人の持つ人間性、「徳」で周りを動かす。
 組織のメンバーのやる気を引き出し、一つの方向に向かって力を結集する。
 自らは動かずに、周囲を動かす。

 組織のあり方が大きく変わる中で、これからのリーダーに求められるものは何か。
 本書は、私たちにその指針を示してくれます。


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