【書評】『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』(井堀利宏)

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 お薦めの本の紹介です。
 井堀利宏さんの『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』です。

 井堀利宏(いほり・としひろ)さんは、東京大学大学院経済学研究科の元教授です。

「経済学的思考」を身に付けよう


 井堀さんは、「経済学」を学問として知っておくことが、いまビジネスの現場でますます必要とされていると指摘します。

 テレビや新聞で、経済についての話題が取り上げられない日は1日もありません。みなさんも、「日本のGDPが上がった(下がった)」「日銀がインフレターゲットを設定した」というニュース自体は、毎日見聞きするはずです。でも、ただ流れていく情報をインプットしているだけでは、本当の教養は身に付きません。
 ある経済の動きがどんな意味を持っているのかを理解するためには、経済学の思考の枠組みを身に付ける必要があります。
(中略)
 経済学の思考方法とはどんなものか。それは、「何ごとも相対的な関係性によって決まる」という考え方です。
 モノの値段も、市場における需要と供給との相対的な関係で決まります。いついかなるときも変わらない絶対的な正解というものは、経済学のなかにはまずありません。場合によって正解が異なります。
 世の中の動きを正確に理解するために、こうした経済学的な思考方法やバランス感覚を理解することは、とても役立つはずです。
 また、経済学では、人々が自分の意思で物事を決めて、自分にとってもっとも合理的に利益となる行動をとることを前提に世の中の動きを予測していきます。
 この考え方が身に付けば、たとえば政府がある新しい法律を作ろうとしているときに、それによって人々の行動がどう影響を受けるか、その法律は本当に狙い通りの効果があるのか、いろんなことを予測する力が身に付くでしょう。

 『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』 はじめに より 井堀利宏:著 KADOKAWA:刊

 経済学は私たちを「幸せ」にするための学問だと強調する井堀さん。
「経済学」は、現代社会を生きるうえで避けては通れない重要な学問です。

 経済の成り立ちを理解し、市場メカニズムを上手に活用すること。
 それが、社会全体の繁栄につながります。

 本書は、大学4年分の経済学の講義の内容をコンパクトにわかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「限界コスト」「限界メリット」とは?


 経済学では、「希少性」という考え方がとても重要です。
 希少性とは、社会的な必要性の高さです。

 希少性は、「需要」と「供給」の相対的な大きさで決まります。
 ただ、ある財(商品)の需要量と供給量はあらかじめ決まっているわけではありません。
 価格の変化からの影響を受けます。
 
 まず、価格が需要に与える影響を考えてみましょう。
 私たち(家計)が、ある財(たとえばリンゴ)を購入する場合、「何個買うか」の意思決定はどのように行われるのか。
 それを知るには、まず、「限界」という概念を理解する必要があります。

 限界とは、増加分のことで、井堀さんは、以下のように解説します。

 たとえば、1個100円のリンゴを、すでにあなたが3個購入していたとします。もう1個追加でリンゴを買うことがあなたにとって得になるか損になるかを、この限界概念を適用して考えてみましょう。
 あなたはすでに3個リンゴを購入しているので、もう1個リンゴを追加して購入すると、購入総金額は300円から400円に増えます。このとき、限界購入金額はいくらになるのでしょうか。
 限界購入金額は、1単位だけ余計にその財を購入するときにかかる総コストの増加分(=限界コスト)を意味します。このときの限界購入金額は、400−300=100円。このように、限界購入金額の100円は、リンゴの価格に等しくなります。つまり、価格はその財を消費する際の限界コストの指標になるのです。
(中略)
 一方、ある消費財の購入量を拡大すると、購入総コストが増加しますが、消費から得られる満足度も増加します。要は、リンゴ2個よりも3個買うほうが満足度が高くなる、ということです。
 しかし、リンゴを買うたびに、リンゴを1個買うことで得られる満足度は少なくなります。たとえば1個目を買うことで得られる満足度が200だとしたら、2個目を買うことで得られる満足度は180、3個は150と少なくなっていきます。このように、財をひとつ買うことで得られる満足度を金銭的な大きさに置き直したものを限界メリットといいます。もちろん、限界メリットは消費者の頭の中での主観的な評価ですが、ここでは金銭で表示できると考えます。
(中略)
 このように見たとき、最適な消費決定の条件は、限界メリットと限界コストが一致することです。
 さきほどの例であれば、リンゴを購入する際の限界コスト(=価格)は何個目でも100円です。もしあなたが3個目のリンゴを買って食べたときの限界メリットが150円だとすると、100円出しても得られる満足のほうが高いですから、あなたの得になります。
 しかしさらにもう1個、4個目のリンゴを購入したときの限界的なメリットが50円だとしたらどうでしょうか。限界的なコストよりも得られる満足のほうが低いから、買うのは損。つまり、家計にとってはリンゴ100円で3個まで購入し、4個目は購入しないのが最も望ましい消費行動ということになります。

 『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』 第1部 2章−01 より 井堀利宏:著 KADOKAWA:刊

 私たちは普段、「何を何個買うか」を頭のなかで考えながら買っています。
 つまり、自分にとって最も有利な条件を無意識に計算しているということですね。
 それをミクロ経済学的に表現すると、「限界メリットと限界コストが一致する」となります。

「需要曲線」と「供給曲線」とは?


 リンゴの価格が上昇すると、限界コストが上昇します。
 そのため、「リンゴの需要は減少する」と予測できます。

 価格と購入したい量(需要量)との組み合わせを、縦軸に価格、横軸に数量を取る図で表したのが「需要曲線」です。

 それでは、需要曲線にはどんな特徴があるのか、見ていきましょう。
 価格が上昇するほど需要は小さくなり、価格が低下すれば需要量は大きくなります。したがって、縦軸に価格、横軸に需要量を取ると、需要曲線は右下がりの曲線として描けます。
 通常、需要曲線は右下がりですが、その形状はいろいろありえます。たとえば、右ページの図(下の図1左を参照)では直角の双曲線が描かれています。
(中略)
 需要は、家計の可処分所得(実際に消費に回せる所得)にも依存します。あなただって、貰っているお給料が増えて懐具合がよくなると、いままで買ってないなかったモノを買いたくなるでしょう。それと同じことです。
 さきほどのリンゴの例でいえば、可処分所得が増えると、家計は同じ価格であっても前よりもたくさんリンゴを買いたいとと思うでしょう。たとえばリンゴの価格が100円の場合、3個ではなく5個買いたいと思うようになり、価格が200円では4個、3個ではなく5個買いたいと思うようになり、価格が200円では4個、価格が300円では3個買いたいと思うとしましょう。すると、Aの代わりにBのような価格と需要量との組み合わせが見られることになります。新しい需要曲線は古い需要曲線よりも右上方に押し上げられています。この需要曲線の移動を、需要曲線のシフトといいます。
 可処分所得以外にも、ある財と競合関係にあるような財の価格も需要に影響します。たとえば、ミカンなど他の果物の価格はリンゴの需要に影響します。例えば、ミカンなど他の果物の価格はリンゴの需要に影響します。また、ある財の嗜好の変化も同じように需要に影響します。

 『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』 第1部 2章−02 より 井堀利宏:著 KADOKAWA:刊

 需要曲線とは 2−02P31供給曲線とは 2 02P33
図1.需要曲線のシフト(左)と供給曲線のシフト(右)
(『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』 P31、33 より抜粋)

 一方、ある財(たとえばリンゴ)を供給する側の方を考えてみましょう。
 販売価格と企業が供給したい数量との関係をまとめたのが、「供給曲線」です。

 家計の需要曲線と同様の手法で企業の供給曲線を描いてみると、右上がりの曲線になります(上の図1右を参照)。企業は、市場で成立する価格のもとで、この供給曲線上の生産量を市場に供給します。
(中略)
 企業が生産する財(リンゴ)の供給は、その財(リンゴ)の価格以外の経済変数としてはどのようなものに依存しているのでしょうか。
 リンゴの限界的な生産コストに影響を与えるような経済変数が変化すればもちろん限界コストも変化するので、同じリンゴの価格のもとでも企業の供給したい数量は変化します。
 生産コストに影響を与える要因として重要なものは、生産要素の価格です。たとえば、賃金が上昇すれば生産コストも上昇するので、いままでよりも限界コストが上昇します。すると、いままでと同じ市場価格では採算がとれなくなりますから、その財(リンゴ)の供給は減少するでしょう。その財(リンゴ)の供給曲線は左上方に押し上げられます。これが供給曲線のシフトです。
 また、天候不順や予想外の技術的なトラブルなどが発生して、いままでよりも財(リンゴ)を生産するのにコストがかかりすぎる場合にも、供給曲線は左上方にシフトします。

 『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』 第1部 2章−03 より 井堀利宏:著 KADOKAWA:刊

 一般的に、規模を大きくすると効率が上がり、生産する財1個あたりの価格が下がります。
 つまり、限界コストが下がるということ。
 いわゆる、「スケール・メリット(規模のメリット)」ですね。

 メーカー企業が合併や企業買収をして、より大きくなろうとする。
 その理由のひとつに、限界コストを下げて競合他社よりも安く売り、優位に立つ狙いがあります。

「限界効用逓減の法則」とは?


 私たちは、いろいろなモノ(財やサービス)を消費して、経済的な満足度を高める消費活動を行います。
 消費量が増加すれば、その時点での効用水準(消費から得られる満足度)も増加します。
 しかし、消費が増えるにつれ、効用が増える程度は、だんだんと小さくなります。

 その財の消費量の増加分とその財の消費から得られる効用の増加分との比率「限界効用」といいます。
 限界効用は、以下の式で表わされます。

  限界効用=効用の増加分/消費の増加分

 この式は、モノ1単位分だけ消費が増加したとき、そのモノからどの程度効用が追加的に増加するかを示しています。
 たとえばブランドバッグを1個買って(消費の増加分)、その日の気分がウキウキだった(効用の増加分)。その満足感の増加分が、限界効用です。

 限界効用には、次のような特徴があります。

①限界効用はプラスである。
②限界効用は逓減する(だんだんと減る)


 財を消費すると、必ず満足が得られます。最初に少しだけ消費したときには、その財が新鮮に感じられるから、満足度の増加も大きいでしょう。つまり、限界効用が大きい状態です。
 しかし、同じ財をたくさん消費したあとでは、その財の追加的な消費はあまり新鮮に感じられなくなります。その財の消費にかなり飽きがきた状態では、追加的な消費から得られる効用の増加分も、最初ほど大きくありません。
 つまり、限界効用はプラスであり、その財の消費とともに次第に減少していくといえるのです。これを経済学では、限界効用逓減の法則といいます。「逓減(ていげん)」というのは普段まず使わない言葉ですが、要は「だんだん減る」ということです。
(中略)
 それでは家計の効用最大化行動を、ある予算制約の範囲内でリンゴとミカンというふたつの財をどう購入するかという配分問題で考えてみましょう。
 第2章のおさらいになりますが、家計にとって効用が最大になるのは、限界メリットと限界デメリットの均衡点でしたよね。つまり消費の主体的な均衡点は、選択対象となっているものを追加的に拡大したときの追加的なメリットと追加的なデメリットが一致する点に求められます。
 リンゴの消費量が増加すれば、効用水準も増加します。そして、効用の増加スピード(=限界効用)はプラスになりますが、消費量が大きいほどそのスピード小さくなります。リンゴの消費から得られる効用曲線は右上がりですが、その傾き(限界効用)はだんだんと小さくなります。つまり、限界効用は逓減します(限界効用逓減の法則)。
 リンゴの消費を1単位拡大する追加的なメリットは、リンゴの消費から得られる限界効用です。限界効用は逓減しますから、追加的なメリットもリンゴの消費とともに減少します。限界メリット曲線AAは右下がりの曲線となります(下図2を参照)。
 一方で、リンゴの消費の限界的なデメリットは、リンゴの消費を拡大することで他の財・サービスの購入に回す資金量が減少することです。リンゴの価格が1個100円とすれば、もう1個追加的にリンゴを購入すれば、他の財・サービスに回せる資金が100円少なくなります。ですから、限界デメリットはリンゴの価格と同じになります。限界デメリット曲線BBはリンゴの市場価格で与えられ、水平となります。
 主体的な均衡点(最適な消費を決める点)は、限界メリット曲線AAと限界デメリット曲線BBとの交点Eです。E点よりも左側では、リンゴを追加的に購入するメリットのほうがデメリットよりも大きいから、リンゴの購入を拡大することが望ましいことに。逆にE点の右側では、リンゴの購入の追加的拡大のデメリットのほうがメリットよりも大きいため、リンゴの購入を減らすほうが望ましいことになります。

 『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』 第1部 3章−01 より 井堀利宏:著 KADOKAWA:刊

リンゴの消費量はどう決まるか 2 03P41
図2.リンゴの消費量はどう決まるか
(『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』 P41 より抜粋)


 お腹が空いているときは、「食べ物が欲しい」という欲求は高まります。
 しかし、食べ物を食べて空腹が満たされるにつれて、その欲求は少なくなっていきますね。

 消費欲も、食欲と同様と考えることができます。
「限界効用逓減の法則」は、人間の欲求のあり方を定式化したものといえます。

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 お金を使うことは、経済活動を行うということ。
 経済なくして、私たちの社会は成り立ちません。
 しかし、経済がどう成り立っているのか、その仕組みをちゃんと理解している人はほとんどいないでしょう。

 日銀はなぜ、「ゼロ金利政策」を続けるのか?
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 日本はなぜ、1000兆円を超す借金を抱えていても潰れないのか?

 これらの疑問に答えるには、「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」、両方の知識が必要です。
 経済のしくみを知るには、世の中のしくみを知ること。

 本書は、各章が30分程度で理解できるよう、短くコンパクトにまとまっています。
 そのため、初心者が経済学の基礎を学ぶうえで、格好の“教科書”といえます。


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