【書評】『勝負強さ』(井端弘和)

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 お薦めの本の紹介です。
 井端弘和さんの『勝負強さ』です。

 井端弘和(いばた・ひろかず)さんは、プロ野球の選手です。
 堅実な守備と俊足巧打のユーティリティプレーヤーとしてご活躍されています。
 2013年には、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表にも選ばれました。

「スペシャリスト」として生き残る秘訣とは?


 井端さんは、身長173cmとプロ野球選手としてはかなり小柄です。
 首位打者やホームラン王など派手なタイトルともまったく無縁です。

 しかし、監督が代わっても、チームに欠かせない存在として、変わらずにグラウンドでいぶし銀の輝きを放ち続けています。

 多くのファンから、“職人”とも呼ばれる井端さん。
 自らも、脇役としてチームに貢献に生きる術を求めたスペシャリストであると認めています。

 鉄壁の守備力と、右打ち、バント、ファウル打ちなどのチームバッティング。
 そんな地味な道具を武器に、ドラフト5位から球界を代表する名選手にまで這い上がります。

 本書は、「勝負強さ」を身につけ、“スペシャリスト”として勝ち抜く心構えをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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あの人がミスしたら仕方がないと思わせる


 野球は団体競技です。
 ミスや失敗はその個人にだけではなく、チームに影響します。

 一方、野球は「失敗のスポーツ」でもあります。
 どんな一流バッターでも凡打はあります。
 どんな守備の名手でも、シーズンを通してみれば、必ずエラーはあります。

「ミスをすること」が前提の中で思い切ったプレーをする。
 そのために、どのような心構えで試合に臨むべきなのか。

 井端さんは、試合でしたとき、失敗をしたときに周囲の選手にどう思われるかがチームスポーツとしては非常に大事だと思っていると述べています。

「あの人がエラーしたら仕方がない」
「あの人が打てなかったら仕方がない」
 そう思われるぐらいの取り組みを普段からしておかなければならない。
 それが信頼ではないだろうか。
 もちろん結果、成績を残すことが一番であるが、それにグラウンド内での取り組みや姿勢が伴わなければ、信頼にはつながらない。
 例えば守備においても、捕って投げて、悪送球になったら、それでサヨナラ負けになるという勝負のかかったケースは少なくない。そういう状況では「おお、これをミスしたらサヨナラか」というネガティブな予測が頭をよぎる。
 それでも、そういう状況でこそリラックスして捕れるような準備が必要だ。
 絶体絶命のピンチの場面で、僕は「自分のところに絶対に飛んで来るんだ」と思って守っている。
「飛んで来ないでくれ」と弱気になっていることはほとんどない。

 『勝負強さ』 第1章 より 井端弘和:著 角川書店:刊

 普段の練習から、本番のしびれる場面を想定して、真剣に集中して取り組んでいるか。
 それが問われるということですね。

「絶対に大丈夫」
 揺るがない自信を持って本番に臨めるかどうかがポイントです。

「あの人が失敗したら仕方がない」
 そう思われるほど、どんな仕事でも、手を抜かずにベストを尽くしたいですね。

「右打ち」は生き残るための術


 井端さんは、人がいないところに打つのがバッティングの極意だと述べています。

 厳しいボールはファウルで粘る。
 そして、甘く入ったボールを、逆らわずに野手の間に打ち返す。

 そんな井端さんのしぶといバッティングを象徴するのが、「右打ち」のうまさです。
 右打ちは、プロの世界に入ってすぐ、仁村徹二軍監督(当時)に徹底的に叩き込まれたもの。

 バッティング練習では、常に「ミックス」と呼ばれる、変化球とストレートを無作為に混ぜ込む形で打たされた。試合での対応力を磨くためである。守備では、僕の一挙手一投足をチェックされ、バッターに背を向けることがあると「観察を怠るな!」と怒鳴りつけられた。あまりに激しい指導に反抗心もあった。しかし、僕は自分が一軍でプレーする力がないことを知っていた。そこだけは勘違いしていなかった。
 身の丈だけは知っていた。
 自分の身の丈をプロで通用するレベルに上げるには、まずは守備力、そして、三割は打てなくとも、繋ぎという意味で、チーム貢献ができて、ベンチから信頼の置かれる技術だけは最低限、会得することに全力を投じた。繋ぎのスペシャリストとしてプロの世界で生き残るための術が、右打ちの技術だったのだ。

 『勝負強さ』 第3章 より 井端弘和:著 角川書店:刊

 自分の実力を冷静に分析し、自分の特長は何か、足りないものは何かを探し求める。
 その結果が、「右打ち」という特技でした。

 まずは、自分の身の丈を知ること。
 そのうえで、自分の特長を生かす武器を磨いていく。

 それが大事だということですね。

“曲げない”というスタイル


 井端さんが貫ぬく人生のスタイルとは、“曲げないこと”です。

 曲げないということは、我慢という言葉と似ているかもしれない。
 曲げずに守っているルーティンワークもある。
 僕は、ナゴヤドームでのホームゲームでは、まず球場入りすると、風呂にゆっくりと入る。体を温め、筋肉を柔らかくするのだ。
 その後、グラウンドに出てスパイクを履かずに靴下だけでランニングをする。僕は、足の裏がすぐ張ってしまう癖がある。スパイクを履かずに走ると、そこが刺激されるので、足元からほぐれてくる感覚を持てる。
 2年前から始めたスタイルだ。それまでは、あまり疲れを知らなかった。35歳の節目にやり始めた。早めに体を動かして、その日のコンディションをチェックするという目的もある。自分の身体に「今日はどんな感じだ?」と聞く作業だ。
 練習で汗をかく前にお風呂で汗をかくのは、どうなんだろう? と疑問を抱く人もいるだろうが、このスタイルを決めて、それをルーティンワークにしてからは、逆にそうしなければ気持ちが悪い。スタイルを曲げないとはそういうことだ。

 『勝負強さ』 第5章 より 井端弘和:著 角川書店:刊

 自分が「いい」と思ったことは、他の人が何と言おうと、やり続ける信念を持つ。
 それが大切だということです。

 自分自身の感覚を信じること。
 自分のスタイルを曲げないこと。

 一流であり続けるためには、必要なことですね。

「華麗な守備」はいらない


 巻末に、コンビで長年、二遊間を守った二塁手の荒木雅博選手との対談が載っています。
 その中で、内野手の「ゴロのバウンドの合わせ方」の秘訣を、以下のように答えています。

井端 秘訣ですか? ないですよ(笑)。そんなものがあって全部の打球にバウンドを合わすことができていたら、ゴロは全部ミスなく捕れますからね。ひとつだけ絶対に守らねばならないことは、「アッ」と思うような打球に対してグラブを上げないことですね。内野手は、グラブが上がってしまった時点で、もう負けだと思うので。グラブの動きは下から上が基本です。我慢して下げておかねばなりません。バウンドが全部が全部、合えばいいですけど、逆に、そういう打球は少ないですよ。バウンドが合わないときにいかに捕るかが内野手の勝負だと思います。
荒木 セカンドは一塁に近いので、僕はもうバウンドが合わないと思ったら、体で止めに行きます。そこから落としても間に合うんです。でも、それはセカンドだからできること。ショートを2年ぐらいやったときに同じような感覚でバウンドが合わないからと体で止めにいったら、全部セーフなんですね。そう考えると井端さんは、体など使わず全部グラブで確実に捕っていた。バウンドが合わなくとも全部捕るんです。プロです。
ーその反応は練習で磨くしかないのですか。どんな取り組みをされていますか。
井端 僕は練習の中で突っ込んで逆シングルで捕球するようなことは、ほとんどやりません。練習では難しいことはやらないんです。常にどんな打球でも股を割って捕ろうと思っているんです。股を割ってゴロを捕球するという基本に忠実な動作を繰り返します。

 『勝負強さ』 アライバ対談 より 井端弘和:著 角川書店:刊

「股を割る」とは、打球の正面に入って捕球すること。
 内野ゴロをさばくときの、基本中の基本です。

 難しいゴロを、簡単にさばいているように見せるのが、プロの技です。

 何ごとも基本の積み重ねが大事。
 基本をおろそかにすると、上達しません。

 ゴールデングラブ賞七回受賞の守備の名手の言葉ですから、説得力がありますね。

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 野球はチームスポーツであり、一人ひとりにはそれぞれ重要な役割があります。

 四番とエースだけをかき集めても、本当に強いチームにはなりません。
 彼らを脇で支える“縁の下の力持ち”のような人が、絶対に必要です。

 野球などのスポーツに限ったことではありません。
 会社などの組織でも同じことがいえます。

 決して目立たないけれど、あの人がいてくれないと困る。
 皆からそう思われる人ほど、貴重な存在はありません。

 井端さんのように、主役ではないけれど、「替えの効かない人材」。
 そうやって生き残っていける、しぶとさを身につけたいですね。


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