本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『中国人エリートは日本人をこう見る』(中島恵)

 お薦めの本の紹介です。
 中島恵さんの『中国人エリートは日本人をこう見る』です。

 中島恵(なかじま・けい)さんは、フリーのジャーナリストです。
 北京大学や香港中文大学に留学された経験をお持ちで、中国関連の記事などを数多く執筆されています。

中国の若者に人気のある小泉元首相

 一口に「中国人」といっても、広大な国土に多様な民族が住んでいます。
 価値観も、多種多様です。

 中島さんは、世界や日本に興味を持つ「80后(バーリンホウ)」、「90后(ジウリンホウ)」と言われる1980年代生まれの世代と1990年代生まれの世代にターゲットを絞っています。

 その中でも、いわゆる「エリート層」に焦点を当てて取材をしています。

 中島さんは、取材を続けていくうちに、ある日本の政治家が、中国の若者たちに人気であることを知ります。
 その政治家は、小泉純一郎元首相です。

 ある30代の中国人男性のコメントから。

 勢いにまかせた彼は、ある人物について自らの意見を語りはじめた。
「いや、でもね、小泉さんは別だと思います。僕だけではなく彼は中国ではかなり人気があるんですよ。小泉さんを好きだっていう中国人、まわりでもけっこう多いですから。本当です。とくに若い人の間では非常に人気があると思います」
(中略)
 納得しかねている私への説明として、彼自身も適当な言葉をなかなか見つけられないようだったが、いろいろ聞いていくと、つまりは「日本の立場に立つ日本の首相として、きちんと責任を果たした」「敵ながらあっぱれといえる一目置ける存在」というようなことがいいたいらしい。

 「中国人エリートは日本人をこう見る」 プロローグ より  中島恵:著  日本経済新聞出版社:刊

 小泉元首相と言えば、首相在任中の2001年から6年連続で靖国神社に参拝し、日中関係を冷え込ませるきっかけを作った、象徴的な存在です。

 そんな小泉元首相が、中国の若い人たちに、いまだに支持されているということに驚きです。

 強力なリーダーシップを発揮し、自分の意見を持って正しいと思う道を突き進む。
 中国政府に対しても、真っ向から立ち向かった姿勢。

 そんな姿に憧れを抱いた人達が、中国にも大勢いるようです。

 オープンで、面子を大事にする中国人の気質が、よく表れているエピソードといえますね。

 本編では、中島さんの2年間に渡る取材で得られた中国の若者の日本に対する「生の声」が多く載せられています。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「オタク」文化に対する称賛

 中国人にとって「日本といえば」真っ先に思い浮かぶものは、アニメや漫画、ゲームなどのサブカルチャーです。

 中国にも「オタク」は存在して、「宅男」「宅女」などと呼ばれています。
 オタクのための専門ウェブサイトもあるほどの大人気だそうです。

 コスプレも流行っていて、大学には「アニメ研究会」も存在するそうですから、本家の日本とあまり変わらないですね。

 背景には、1990年代から2000年代にかけて、日本のアニメや漫画が中国で大量に出回ったことが関係しています。

 現在、日本の大学院に留学中の男性のコメントから。

「大人はいつも『若者はダメだ、ダメだ』というけれど、私の目から見れば昔の日本人も今の日本人も本質は全然変わらない。草食男子だって日本人の魂をちゃんと持ってますよ。ひとつのゲームに三日間黙々とやり続けることができる日本人はすごいです。ただひたすらに、真っ直ぐに突き進んでいくのが日本人の特徴。一途だから日本人は強い。逆にいえば、海外の文化や外国人の考え方を柔軟に受け入れられない頑固者だともいえますが。オタクという言葉は、世界では断然よい言葉。日本人のオタク魂は職人魂ともいえるものだと思います」

 「中国人エリートは日本人をこう見る」 第1章 より  中島恵:著  日本経済新聞出版社:刊

 小さい頃から、日本の文化に影響を受けて育った、中国の若い世代。
 彼らは、それらを生み出した日本に対して、少なからず尊敬の気持ちを持っています。

 留学先に日本を選ぶ中国学生が多いのも、そのあたりが関係しているのでしょう。

「オタク魂は職人魂」ですか。
 なかなか鋭いですね。

 日本人以上に日本人をよく知っている、そんな印象です。

中国人が日本企業に就職する理由

 最近は、日本の企業に入社して、日本で働いている中国人も大勢います。

 国内経済が停滞し、縮小傾向にある日本。
 かたや、猛スピードで成長を続けている中国。

 わざわざ日本まで来て働く理由とは、何でしょうか。
 
 その理由として、まず、中国国内の就職事情の厳しさが挙げられます。

 90年代以降、中国の大学はすべて法人化されています。
 中国政府の高等教育拡大政策により、大学は学生数を急激に増やすように方向転換。
 企業が雇用できないほどの大量の大学生を生み出しました。

 その結果、就職できない「蟻族」(都市郊外に安い一軒家を借り、数人でシェアして住んでいる人達を呼ぶ言葉)が急増していることが背景にあります。
 大学を卒業しただけでは就職できないのは、中国でも一緒ですね。

 一方、日本企業自体にも、彼らにとっては、大きな魅力があるようです。

 世界に通じるブランド力。
 社員教育が徹底されていること。
 高い顧客意識。

 日本人が当然と感じている部分も、外から見ると、長所と受け止められています。

 日系企業の通訳を務めるある中国人女性のコメントから。

「日本企業の特徴はチームワークだと思います。誰かひとりがスタンドプレーをするのではなく、数人で協力して仕事を進める体制というのに重きを置いています。日本人がスポーツの団体競技に強いのと似ているかもしれない。日本人は自分の仕事の出来栄えだけでなく、次の担当者に迷惑をかけてはいけないとか、仲間に迷惑をかけてはいけないという意識がとても強い。その責任感や人ととのつながりを大切にして仕事をしているということがわかりました」

 「中国人エリートは日本人をこう見る」 第3章 より  中島恵:著  日本経済新聞出版社:刊

過渡期にある中国社会

 一足先に経済発展を遂げ、すでに成熟社会を迎えている日本。
 中国人は、私たちが思う以上に、注目しています。

 彼らは、この先日本が、バブル崩壊や高齢化社会にどのように対処していくのか、じっくり研究しています。

 以下、北京大学大学院に在学中の男性のコメントから。

「中国も日本と同様、過渡期にあるのだと思います。今の中国はGDPで世界第二位というランキングを除いたら何も残らない。中国という国名は、ご存じのように『世界の中心』という意味です。アヘン戦争で大敗し、混乱のうちに現体制が出来上がりましたが、それから60年以上経ち、体制に対する愛情はなくなった。国家のあり方が揺らぎ、民族問題も噴出しています。そこで政府は『中国人とはこれだ』というアイデンティティを構築しようとしていますが、まだその途上になると思います」

 「中国人エリートは日本人をこう見る」 エピローグ より  中島恵:著  日本経済新聞出版社:刊

 アイデンティティの構築に苦しんでいるのは、日本も同じです。

 日本と中国は、経済的にも地理的にも、歴史的にも、切っても切れない間柄の「隣人」です。
 お互いに尊重し合って共存していく必要があります。

 そのためには、相互理解が何より大事です。

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 中国の若者は、すべて人がそうでありませんが、日本をリスペクトし、好意的な目を向けています。

 そして、彼らの向上心の高さ、「豊かさ」への欲求の高さが(日本人の基準では)、尋常ではないレベルであることも感じました。
 その「果てない欲求」が、大きく変わり続ける中国のエネルギーの源です。
 彼らの目から見ると、日本はまだまだ自分達よりも上の存在であり、目標とみているようです。

 現状におごることなく、冷静な分析が出来る。
 それが、中国人の強さであり、したたかさですね。
 
 外から貪欲に知識を吸収しようとする姿勢など、私たち日本人も中国人から学ぶべきところは、多いです。

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