【書評】『TPP興国論』(松田学)

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 お薦めの本の紹介です。
 松田学さんの『TPP興国論』です。

TPP、交渉に参加すべきか、しないべきか


 交渉に参加すべきか、参加しないべきか。
 いまだに、国を二分する議論となっている「TPP問題」

 松田学(まつだ・まなぶ)さんは、大学卒業後大蔵省(現財務省)に入省し、主に税務関係を仕事を手掛けられてきました。
 財務省管轄の関税局にも長く勤められた経験のある「関税のプロ」。
 まさにTPP問題を語る適任者と言えます。

  松田さん自身は、たしかにTPP賛成派ではあります。
 しかし、この本は無条件でTPPに参加することを主張するものではないと明言しています。

「賛成だ」「反対だ」という議論をする前に、日本の国民にTPPの中身がきっちり伝わっていないことを危惧しています。
 政治家の言葉が曖昧すぎて、断片的な言葉だけが独り歩きしている状態だと述べています。

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国際貿易の中での「TPP」の位置づけ


 TPPがいかにして作られたのか。
 簡単な経緯は、以下のようになります。

 1929年の世界恐慌の時、主要な国々は保護貿易主義に走ってブロック経済圏を作り、世界経済が分断されその結果、第二次世界大戦を引き起こす要因にもなりました。
 その反省として、戦後すぐに多国間協定の締結という形で発足したのが、「関税および貿易に関する一般協定」(GATT)です。

 そのGATTを吸収する形で、世界の貿易に関する取り決めを行う組織として立ち上げられたのが、「世界貿易機関」(WTO)です。

 WTOには、現在、世界150か国以上の国や地域が参加しています。
 一部の例外を除いて、各国一律のルール適用が原則となり、融通が利かないため、合意が進みにくいのが現実です。

 そこで、WTOルールの例外的な位置づけである「自由貿易協定」(FTA)が多用されるようになってきました。

 FTAは、関税や通商規則、サービス貿易などの障壁を取り除く自由貿易地域を結成することを目的とした、二国間以上の国際協定のことです。
 FTAには、自国との自由貿易ルールづくりで合意しやすい相手国を選び、それぞれの国の事情を反映したルールを柔軟に作れるというメリットがあります。

 もう一つ、「経済連携協定」(EPA)というものもあります。
 EPAは、関税撤廃など、通商上の障壁を除去するだけでなく、締結国の間での経済取引を円滑化するために、さまざまな経済領域で連携を強化し、協力を促進することなども含めた条約のことです。

 FTAで出遅れた日本は、EPAをより熱心に進めているとのこと。
 日本は現在、シンガポールなど12の国や地域とFTAやEPAを締結済みで、更に数か国と交渉中です。

 ところが、頭の痛い問題があります。
 主要な貿易相手国である米国や中国との間のFTAやEPAの取り組みが進まず、ライバルの韓国などと比べて大きく遅れていることです。
 

 しかし、主要な貿易相手国である米国や中国との間で、FTAやEPAの取り組みが遅れています。
 韓国はこれらの国々との交渉が進展し、うち米国とは署名済みとなり、EUとの間ではすでに発効に至っています。そのような韓国に比べ、日本の競争条件が不利になることが懸念されています。韓国と米国やEUとの間のFTAで、米国やEUの韓国製品に対する関税は撤廃されるのに、日本の製品には関税が維持されてしまうからです。
 これを「貿易転換効果」と言います。

   「TPP興国論」  第二章 より  松田学:著  KKロングセラーズ:刊

「貿易転換効果」というものがあるのですか。
 本当にそんなことになったら、大ごとですね。

 ただでさえ、円高や国内経済の不況で国内工場の海外移転が進んでいるのに、米国や中国への工業製品輸出のシェアを韓国企業に今以上に奪われることになったら、日本国内は更なる産業空洞化に見舞われるでしょう。

 地域ごとに自由貿易圏を作ろうという動きも活発になっています。
 ヨーロッパ共同体(EU)や米国、カナダ、メキシコによる「北米自由貿易協定」(NAFTA)などが知られています。
 TPPもその流れで設立された団体で、貿易だけでなく知的財産権の保護の強化、環境や労働なども含めた包括的なカバレッジと、レベルの高い自由化を特徴とする究極の自由貿易圏をめざすものとなっています。

「TPP」の意義と日本に与える影響


 TPPに参加するメリットとは、実際のところ何なのか。
 日本にとって重要な貿易相手国である米国が参加表明をしているとはいえ、たかだか十か国程度の経済協定に参加しなければならない理由はどこにあるのでしょうか。

 その答えを導くには、“現在”だけではなく、10年後の“将来”を見据える必要があります。

 現在、環太平洋地域の多国間経済協力を進めるための非公式フォーラムとして、「アジア太平洋経済協力」(APEC)があります。
 そのAPEC地域の広域経済圏をめざすものとして、「アジア太平洋自由貿易圏」(FTAAP)という構想が持ち上がっています。

 TPPは将来、FTAAPという、より大きな自由貿易圏へ発展させようという動きもあります。
 

 すでに、TPP交渉参加国のGDPが、APEC地域全体に占める割合は50%を超えています。日本の輸出額は年間60兆円を超えていますが、うち四分の一がTPP参加九ヵ国への輸出です。
 さらに、中国などを含めたAPEC地域全体でみると、日本の輸出額の四分の三を占めることになります。
 もし将来、TPPがFTAAPへとつながっていくものだとすれば、それへの参加は日本にとって死活問題だということになります。TPPは、APECという巨大な地域を律するルール、つまり、世界スタンダードそのものになります。

   「TPP興国論」  第二章 より  松田学:著  KKロングセラーズ:刊

 これから始まるTPP交渉で決まる協定が、FTAAPのルールの原型になる可能性が高いということです。

 TPP交渉に最初から参加しなければ、日本の意見は、この協定に反映させることは出来なくなります。
 交渉参加表明を急いだ理由はこんなところにあったんですね。

 また、松田さんは、日本がTPPに参加する意義について、以下のようにも述べています。
 

 TPPの日本にとっての性格をひとことで言ってしまいましょう。
 それは、まずEPAというものが、日本が自国企業のビジネス展開や海外の市場での競争環境を有利にするためのインフラであり、TPPはこれまで日本が積み上げてきたこのEPAのネットワークを、「線から面へ」と拡大するものです。
 米国やオーストラリア、ニュージーランドなど、まだ日本がEPAを結んでいない国々を取り込んで、アジア太平洋地域という「面」へと、「自由で公正な共通の繁栄プラットホーム」を広げていくという戦略的な意味が、そこにあります

   「TPP興国論」  第二章 より  松田学:著  KKロングセラーズ:刊

 FTAやEPAなどの2国間での交渉が遅れている日本にとっては、TPPへの参加は、“一発逆転”の大チャンスでもあります。
 日本企業にとっても、このような国際ルールがしっかり決まっていた方が、やりやすいに決まっています。

 最も気になる米国については、どうでしょう。
 米国製品が大量に流れ込んできて、日本の産業を衰退させるのでしょうか。

 松田さんは、そうはならないと断言しています。
 

 まず、近年、米国の輸出における日本の地位は低下しており、米国の全輸出に占める対日輸出のシェアは5%程度にすぎません。対日輸出を増やしても「輸出倍増」することなどできません。次に、対日輸出のほとんどは工業製品ですが、その関税はすでにゼロですから、TPPがそれを増やすものではありません。
 さらに、米国のTPP参加八ヵ国に対する輸出(シェアで7%)は対日輸出よりも大きく、将来、大きな拡大に期待をかけているのは、日本よりも、アジア太平洋の国々のほうです。

   「TPP興国論」  第二章 より  松田学:著  KKロングセラーズ:刊

  
 松田さんのこの見立ては、おそらく正しいです。
 米国は、輸出拡大について、日本にほとんど期待していないでしょう。

 世界でも有数の経済大国でもあり、輸出大国でもある日本が参加することで、TPPの存在価値が増すのは、間違いありません。

 米国が、日本の参加を歓迎しているのは、そのような理由からでしょう。

世界の中における日本の立ち位置を決めるきっかけに!


 松田さんは、このTPP参加交渉を近い将来の世界や東アジアにおける日本の立ち位置を真剣に考えるきっかけにしなければならないと述べています。
 その上で、日本にとってメリットが大きいと判断すれば参加すればいいし、そうでなければ見送ればいいと。

 グローバル化の流れは、もはや引き戻せない事実です。
 TPPは、日本にとって(特に農業分野の)産業を活性化させる大きな手段です。

 関税撤廃までの間に、少なくとも10年の猶予があります。
 農業を立て直すには、十分な時間です。

 また、中国や米国の「力」に、「ルール」で対抗できる唯一の手段にもなります。

 最後に、松田さんは日本へエールとして、以下のように述べています。
 

 グローバル化の時代とは、世界の同質化に抗して、各国民族が自らのアイデンティティーを意図的に求めようとする時代でもあります。
 しかし、もし日本だけが共通ルールへの参加によって独自性を失ってしまうとすれば、それは自らの力で独自性を築くこともできない私たち日本人自身の問題ではないでしょうか。

   「TPP興国論」  第二章 より  松田学:著  KKロングセラーズ:刊

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 厳しい指摘ですが、その通りです。

 参加する、しないということよりも、TPPという枠組み、ルールをどのように利用するか。
 日本という国の個性を確立させ、「日本ブランド」をどのように売り出していくか。

 その戦略を練る方が、現実的です。
 TPPという大きなイベントを、停滞した日本を良い方向へ導く起爆剤にしたいですね。

 何はともあれ、まずは、中身を把握することが大事です。
「おばけ」の正体も、分かってしまえば怖くないものです。

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