本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『NASAより宇宙に近い町工場』(植松努)

 お薦めの本の紹介です。
 植松努さんの「NASAより宇宙に近い町工場」です。

 植松努(うえまつ・つとむ)さんは、会社経営者です。

北海道の町工場がロケットを飛ばす原動力は?

 植松さんは、北海道の芦別市に生まれ、大学卒業後、航空宇宙関連企業に就職します。
 その後、お父さんの経営する植松電機に入社、リサイクルに使うマグネットを開発します。

 さらに、北海道大学大学院の永田晴紀教授とともにロケット開発します。
 ついには、ロケットや人工衛星の研究開発を行う会社を立ち上げます。

 大都市圏より経済状況が厳しい北海道。
 お世辞にも都会とは言えない土地で、このような型破りなビジネスが成り立つのはなぜでしょうか。

 このプロジェクトの推進力となる燃料は、植松さんをはじめとする、関係者の宇宙開発への熱い想いです。
 今の日本の大手メーカーが忘れかけているモノが、この北のはずれの町工場にはしっかりと息づいています。

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なぜ町工場で宇宙開発?

 植松さんは、「宇宙開発」というリスクの高い事業を始めた理由を、以下のように述べています。

 僕はそこで20人の会社を経営しています。リサイクルに使うパワーショベルにつけるマグネットを製造するのが仕事です。
 もうひとつ、僕らは宇宙開発という仕事もしています。
 ロケットがつくれるようになりました。人工衛星もつくれるようになりました。そして、世界に3カ所しかない無重力実験施設のうちの1カ所は、うちの会社にあります。
 周りの人たちからは、この宇宙開発ビジネスに関して、「将来的にはいくらぐらいの売り上げを見込んでいるのですか?」と、よく質問されます。
 でも僕はそのことについてはあまり考えていません。なぜなら、僕にとって宇宙はお金を稼ぐ対象ではないからです。
 宇宙開発には、もっと大切な意味があるように思えるからです。
 僕は、宇宙開発はあることを実現するための手段だと考えています。
 それは「どうせ無理」という言葉をこの世からなくすことです。
「どうせ無理」というたったひとことで、多く人が夢をあきらめてしまいます。本当に怖い言葉です。
 宇宙には月や銀河や星や、美しいものが無数にあります。そんな美しい宇宙ですが、簡単に行くことができないので、あきらめてしまいがちです。多くの人があきらめてしまう夢を、「そんなことないよ!」と言って実現できれば、あきらめない人が1人でも増えるのではないかと思っているのです。

  「NASAより宇宙に近い町工場」  第1章より  植松努:著  ディスカヴァー出版:刊

 宇宙開発は、植松さんにとって、「諦めなければ夢はかなう!」という熱い想いを発信する手段です。

「どうせ無理」という言葉を、この世からなくす。
 これは途方もなく大きな夢です。

 それに比べれば、ロケットを宇宙に打ち上げることは、「できて当然」のプロジェクトという意識なのでしょう。

 宇宙開発へ込めた理想の高さ、思い入れの強さ。
 それは、まさに「NASAより宇宙に近い」と表現するにふさわしいです。

成功する秘訣は、成功するまでやること

 ノウハウも何もない企業が、宇宙にロケットを飛ばす。
 それは、とても一筋縄ではいきません。

 案の定、ロケットのエンジンの燃焼試験は、失敗の繰り返しでした。

 植松さんは、何度も何度も、失敗を繰り返しながら、エンジンの開発を進めていきました。

 でも、この実験を通して、うちの会社の子たちや、北大の学生たちは、とてもいいことを学びました。それは、成功するための秘訣です。
 成功するための秘訣とは、成功するまでやるということです。
 こういうと当たり前の話のようですが、やっぱり成功するまでやることが、成功するための一番の秘訣だと思います。成功するまでやれば、どんなに苦しいこともつらいことも、全部笑い話になります。
 途中でやめてしまうと、ずっと後悔することになります。
 そして、状況を改善するまで努力を続けることは大切です。その努力を一方向からやっているだけではダメです。方向を変え、手を替え品を替えてさまざまな試みをするのがとても大切だということを、実験を通じて学ぶことができました。

  「NASAより宇宙に近い町工場」  第1章より  植松努:著  ディスカヴァー出版:刊

 発明王のエジソンが、白熱電球を開発したときのエピソードを思い出しますね。

 エジソンは、白熱電球を完成させるのに、1000回以上の失敗を繰り返します。

 周りの友人や同僚は、

「それだけ失敗していてどうして続けるんだい?無理だよ。諦めたほうがいいよ」

 と言いました。しかし、エジソンは、

「どうして?私は失敗していないよ?うまくいかないやりかたを1000種類発見することができたのだよ。」

 と言ったといいます。

 上手くいかないことがあっても、それを続けていく限り、「失敗」とは呼びません。

 経営的な問題から、リスクを怖がって大きな挑戦が出来ない。
 そんな多くの老舗メーカーに、じっくり聞かせたい言葉です。

「よりよく」を求めなくなったとき、社会はダメになる

 僕は小さいときから工夫をするのが大好きでした。だから、この世の中はみんな、工夫するのが好きなんだろうと思っていました。
 ところが、会社を始めて、そして、生まれて初めて人を雇うことになったとき、履歴書を持ってうちにやってくる人たちの大半が、そうではなかったんです。興味を持てない人、やる前にあきらめてしまう人、そして、自分で考えることを嫌がる人たちでした。
 この人たちのキーワードは、
「いやあ、自分なんて」という「謙遜」と、
「どうせ、無理ですよ」という「評論」でした。

 残念ながらこの人たちは「よりよく」を求めることができなくなっていました。「よりよく」を求めない人たちが増えていくということは、「よりよく」を求めない社会が生まれるということを意味しています。
 でも、ここでは恐ろしいことが起きます。もともと企業というものは、「よりよく」を追求するのが務めです。社会が「よりよく」を求めなくなると、企業にとって「よりよく」を追求し提供することが意味を失ってしまいます。そして、今の社会は「よりよく」ではなく「安い」と「早い」しか求めない社会ですから、企業は「安い」と「早い」という消費者への迎合しかできなくなってしまいました。そして「安い」「早い」だけなら、賃金が日本の10分の1の中国に負けるのは当たり前のことです。

  「NASAより宇宙に近い町工場」  第2章より  植松努:著  ディスカヴァー出版:刊

 日本のモノ作りが低迷している、大きな原因の一つですね。
 多くの企業が、消費者は「安い」「早い」しか求めていない、という思考停止状態に陥っています。

「よりよいものを、自分達にしか作れないものを!」

 そんな日本のモノ作りを支えてきたマインドが、いつの間にか、なくなってしまった。

 それを植松さんは、とても歯がゆく感じているのでしょう。

好きなことがない人は学ぶことができない

 好きという心がなければ、よりよくすることはできません。だから、指示をされないと何もできなくなるんです。「指示待ち族」という人々が問題になっています。ぼーっと突っ立っている人たちです。そういう人たちは、好きという心が持てないから動けないだけです。彼らが悪いのではなくて、彼らから好きという心を奪ってしまった仕組みに問題があります。
 では、その仕組みはどこにあるかというと、僕は学校の勉強にあるだろうと思っています。
(中略)
 好きなことは成績に関係ないからやめろと言われて、奪いとられます。そして、よい成績をとってしまったら、自分の好き嫌いにかかわらず、勝手に行く道を決められてしまうときもあります。特に田舎ではその傾向が強く、ちょっと成績がいい子がいたら、好き嫌い関係なしに医学部を受けさせられます。
(中略)
 でも、テストなんていうものは、世界の中のごく一部でしかありません。それは、人のすべてを表すものではないだろうと思います。「好き」というものを奪われて、無理やり勉強をする必要がある学校に入ってしまうと、その子たちは「好き」を持たないまま、大学へ行くことになります。

  「NASAより宇宙に近い町工場」  第5章より  植松努:著  ディスカヴァー出版:刊

 植松さんの鋭い指摘は、日本の教育の問題点に言及します。

 好きなことを、とことん追い求めて、結果を出し続けてきた。
 そんな植松さんの言葉だからこそ、重い意味を持ちます。

 ただでさえ、これから超高齢化社会を迎え、少子化が大きな問題である日本。
 教育の問題をどうにかしないことには、活力を失うことは、目に見えています。

自信がない人は「評価」をして他人の自信を奪う

 何もしないから自信が持てないのに、楽をして自信を得たいと思ったら、どうしたらいいでしょうか。自慢をすればいいんです。あら探しをすればいいんです。評論すればいいんです。
 一生懸命、自分が持っている知識をひけらかせばいいですね。
(中略)
 そして、「あいつ、あんな失敗してるよ」って、みんなで笑えば、失敗を恐れる人が誕生します。
(中略)
 人の自信を奪う評論、これはとても恐ろしいことです。評論する方もあまり気持ちがよくないし、されたほうはとてもつらいことです。つらくなった人は本当は努力をすればいいんですが、努力をしようと思った瞬間に「おまえ、何いい気になってるのよ」って言われたりもします。それでは努力ができなくなります。しょうがないから、自分より弱い人を見つけて、その人の自信を剥奪するしかなくなっていきます。

  「NASAより宇宙に近い町工場」  第5章より  植松努:著  ディスカヴァー出版:刊

 今、日本は、社会全体が冷めています。

「努力しても、どうせ無駄だ」

 そんな雰囲気が至る所で感じられます。

「努力しよう」「チャレンジしよう」とする人に、冷や水を掛ける人は、どこでも存在します。

 この「自信剥奪」の連鎖は、誰かが止めない限り、ずっと繋がり続けるものです。
 ただ、その連鎖は「いやなことは自分のところで食い止めるぞ」という「鋼のハート」を持った瞬間に、ブツッと鎖が切れます。

 植松さんは、だからこそ、皆が「鋼のハート」を持って持ち踏みとどまるべきだと力説します。

未来とは、未知なる進化の先にあるもの

 植松さんは、不況や震災のダメージで下を向く日本人に対して、メッセージを残しています。

 未来というものは、現在できることの先には絶対にありません。未来とは、未知なる進化の先にあるものです。子どもたちにあきらめ方さえ教えなければ、彼らは勝手に未来を切り開きます。どんなことでも、できる理由を考えればできるんです。できない理由を思いついたときは、それをひっくり返してください。それはできる理由になるんです。

 どんな夢も、「どうせ無理だ」ではなくて、「だったら、こうしてみたら」といったら必ずかないます。ただ、そのためには仲間が必要です。
 みんなで自分の夢や悲しみや苦しみを語り、そしてみんなで「だったら、こうしてみたら」と知恵を出し合えば、どんな問題も解決し、夢は必ずかないます。
 みんなで世の中を変えていきましょう。

  「NASAより宇宙に近い町工場」  第8章より  植松努:著  ディスカヴァー出版:刊

 できない理由ではなく、できる理由を考えること。
 できない理由なんて、どんなことにもあるし、誰でも思い付きます。

 必死に打開策を考え抜いてこそ、突破口は見つかります。
 それはどんなことでも一緒です。

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「どうせ無理だ」

 そんな考えを一掃すれば、必ず、先が見えてきます。
 
 植松さんは、技術立国・日本の長い歴史の中から生まれた、「モノ作りの申し子」の一人です。

 日本の「モノ作りのDNA」を絶やさない。
 そのためにも、多くのエンジニアが植松さんの後に続くことを願っています。

 植松さんの、これからの活躍を祈っています。

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