【書評】『やわらかい頭の作り方』(細谷功)

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 お薦めの本の紹介です。
 細谷功さんの『やわらかい頭の作り方: 身の回りの見えない構造を解明する』です。

 細谷功(ほそや・いさお)さんは、ビジネスコンサルタントです。
 日・仏・米系のコンサルティング会社にて、戦略策定、業務改革などのプロジェクトに携わられたご経験があります。
 現在は、問題解決や思考力に関する講演やセミナーを企業や大学などに対して多数実施されるなど、ご活躍中です。

「頭がやわらかい」人と「頭が固い」人の違いは?


「頭がやわらかい」人と「頭が固い」人。
 抽象的な表現ですが、これは何を意味しているのでしょうか。

 一般的に、「頭がやわらかい」というのは、以下のようなことを言うことが多いです。

  • 一つの価値観や考え方に固執せずに、状況や相手に応じて柔軟に変化することができる
  • 他人が考えつかないような、新しいアイデアを多数考え出すことができる

 本書が目指すのは、このような発想をするために、どのように普段世の中や身の回りの事象を見ていけばよいかのイメージを、読者につかんでもらうことです。
 そのためのキーワードは「目に見えない構造」です。まず前半の「目に見えない」についてです。人間にはよくも悪くも、直接的に目に見えないモノやコトを頭の中だけで「概念」として扱う能力があります。言葉や数というのがその代表です。頭のやわらかい人というのは、このように「目に見えない」概念を扱うのが得意な人です。ところが、それは難易度も高いのでなかなか真似できません。本書ではそれを「可視化」することで、容易に取り扱うコツをお伝えしたいと思います。

 もう一つのキーワードが後半の「構造化」です。ここで「構造化」というのは、複数の事象の間の「関係性」のことを言います。人間ならではの知的活動というのは、事象と事象の間の「関係性」を見出し、それを法則化することで、一つ一つの事象を個別に見るのではなく、まとめて見ることです。それによって、「一を聞いて十(あるいはそれ以上)を知る」ことが可能になります。これが人間の知能の最も基本的な機能ということになります。関係性の典型的な例が「原因」と「結果」の関係、つまり因果関係です。
 因果関係がわかれば、ある事象から他の事象への予測が可能になります。科学の法則や「ことわざ」というのもそれに相当します。「こういうことが起こったら、次にこういうことが起きる(にちがいない)」ということがわかれば、人間は直接見えていないことまで飛躍的に発想を広げることができるようになります。

 『やわらかい頭の作り方』 はじめに より 細谷功:著 筑摩書房:刊

 本書は、身の回りの「目に見えない構造」を明らかにし、固定観念から抜け出してやわらかい発想をするためのノウハウをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「思考回路」が行動を決める


 細谷さんは、人間の行動の多くは、各人の「思考回路」によって支配されていると述べています。

「個々の行動」の背後には必ず、その原因となる「思考回路」があります。
 行動習慣を変える場合、そのどちらにアプローチするかが、とても重要です。
 
 例えば、新入社員が上司や先輩から仕事を教わる場合にも、

  • 「個々の行動」のレベルの教え方
  • 「思考回路」レベルの教え方
の大きく二つのやり方があります。

 わかりやすい「個別の行動」の方から考えてみましょう。良い提案書を書くために、どういう構成にすればよいか、どういう体裁にすればよいか、あるいはどういう表現にすればよいのか、まずは自分が作ったものに対して上司や先輩から「赤ペン添削」(もはや電子の時代では違う方法になっていますが)してもらうのが、一番わかりやすい方法です。恐らく誰もがこのようにして仕事を覚えていったことでしょう。
 ところが、これだけではなかなか上達していかない場合があります。「赤ペン添削」の限界は、個別の事象に対してコメントしているために、下手をすると同じことや類似のことを何(十)回も指摘しなくてはいけないことです。
 そのために併せてやるのが必須なのが、「思考回路」のレベルでの指摘です。この場合の「思考回路」というのは、仕事をやる上での基本的な考え方や仕事に望む「哲学」のようなものです。会社のビジョンや文化、あるいは部門の方針というのもこれに相当します。提案書やプレゼンテーションの例で言えば、「受け手側の気持ちになって考える」という思考回路を持っている人は、何の資料を作っても、プレゼンテーションをしても、ひどい品質のものにはならないはずです。
 同じように、「自責」(失敗は全て自分の責任と考える)、「他責」(上手く行かないことは全て他人や環境のせいだと考える)というのも、個々の行動を支配している思考回路です。「時間がないからできなかった」という人は、十分な時間を与えれば今度は「予算が足りなかった」とか「他社が協力してくれなかった」というように、別の言い訳を考えてきます。
 このように、よく言われる「もぐらたたき」というのが個別の事象に対応していく様子です。個別の事象に対応していくことは、具体的な行動につながりやすくすぐに直接的な影響が出やすい半面で、根本的な原因に対処するような本質的な解決策にはつながりません。
 一方で、「思考回路を変える」のは、難易度が高く時間がかかる半面で、一度達成してしまえば、個別には対応しなくても全ての行動が一気に変わるという大きなメリットがあります(特に他人の思考回路を「変える」というのは、非常に時間がかかって難しいことです)。

「何度言ったらわかるの!?」
 こう言いたくなることはよくありますが、基本的にこういう相手は「思考回路」の方が変わっていないので、「行動レベル」のことを何百回言ってもすぐに元にもどります。「思考回路」が変わるための別の方法を考えない限り、時間の無駄です。
 あるいは自分の行動を変えたいときにも、個別の行動への対応策を考えるのも重要ですが、本当に必要な「思考回路の転換」を一緒に考えることで、「何度やろうとしてもできなかったこと」も改善できるのではないでしょうか(逆にそこが転換できない限りは、皆「三日坊主」に終わるので、別のことに時間やお金を使った方がよいでしょう)。

 『やわらかい頭の作り方』 第1章 より 細谷功:著 筑摩書房:刊

「思考回路」の多くは、潜在意識に隠れているため、自覚することは少ないです。
 しかし、それを変えないことには、結局何も変わらないということです。

「個々の行動」だけでなく、それを支えている「思考回路」も一緒に変える。
 仕事でも、プライベートでも、行動習慣を変える際には、意識したいですね。

「物理的世界」と「精神的世界」


 人間の頭脳の優秀なことの一つは、身の回りに起こっている物理的なことをすべて精神世界でも同じように再現しているところです。

 細谷さんは、それを「カラダの世界」と「アタマの世界」の二重性と呼んでいます。

 例えば、以下の動詞を見てください。
「投げる」(あきらめる)
「骨を折る」(苦労する)
「煙たい」(気詰まりだ)
 これらは、もともとすべて「物理的に」形あるものとしての表現を、「心理的・精神的」な状態(括弧内の意味)の表現にも用いられています。これらは何らかの形でのたとえ、隠喩であり、メタファーとも言われます。
 改めて考えてみると、私たちが体を動かして行う行為や物理的な状態を表す言葉のほとんどが、心理的・精神的な状態の表現のメタファーとして同じように用いられています。これは上記のような単なる動詞表現のみならず、以下のようなことわざや慣用句にも多数用いられています。
「水は低きに流る」
「覆水盆に返らず」
「危ない橋を渡る」
 これらはすべて身の回りの物理的現象や経験が、そのまま心理的・精神的な状況への「教訓」となっているものです。このように、物理的な現象を精神面への教訓とする例は、まだまだたくさんあり、様々な気づきを得ることが可能です。
 例えば「距離感」という表現があります。実際の人間同士に用いれば、もちろんこれは物理的な距離を意味することもあれば、「心理的な」距離を意味することもできます。
 物理的な距離が切実な問題として重要になる一つの例として、ボクシングが挙げられますが、ボクシングから学べることは、一番危ないパンチを食らうのは、相手と離れているときでも、また逆に思い切り近づいているときでもなく、「中途半端に近づいた」状態の場合が多いということです。
 これを心理面に応用しても、同じようなことが言えるのではないでしょうか。「距離が遠い」人からパンチ(批判や非難等)をされても届かないし、軽く受け流すことができます(そもそも本当に遠ければ相手もパンチを出す気にすらなりません)。逆に文字通り「懐に飛び込む」程度に思い切り近づいてしまえば、逆にこちらもパンチを浴びることはありません。
 相手からの「心理的パンチ」を一番浴びるのは、「不用意に中途半端に近づいた」(例えば、十分親しいと思って立ち入ったことを聞いてしまったり、十分に相手の交友関係を理解しているつもりで、共通の知り合いである第三者の批判をしてしまったりという状況)ときです。この例などはまさに「物理的な状況」と「心理的な状況」が同じ構造であることを示しています。
 先の「水は低きに流れる」というのも、物理的には重力のなせる業ということができますが、心理的状況に当てはめてみれば、「人間は放っておけば楽をする方向に自然に流れて行く」という形での応用ができるでしょう。
 一度低きに流れてしまった水は、自らの力だけでまた高いところまで上るのは不可能で、誰かがくみ上げるとか、道具を使うとか、何らかの「外力」に頼る必要があるという物理的な解決策も、心理的状況に応用することができます。
 人間の行動にも「できれば楽をしたい」という重力のような力が常に働いています。したがって、仕事でも勉強でも自然の流れに任せればより楽な方向に常に流れて行きます。一度楽を覚えてしまった状態から苦しい状態にもどすには、自らの力だけでは不可能に近いので、「誰かに手伝ってもらう」とか「道具の力を借りる」といった物理現象での解決策に近いことをやる必要があります。
 ダイエットにもこの構図が当てはまります。体重が増えていくというのは、「水が低きに流れる」という状態ですから、改めて元にもどすには、「外からの力」つまり何らかの努力が不可欠であることがわかるでしょう。

 『やわらかい頭の作り方』 第2章 より 細谷功:著 筑摩書房:刊

 精神世界は目に見えませんから、そこで生まれた考えやアイデアをそのまま言葉にするのは難しいこともあります。
 そんなときに有効なのが、「物理的現象や経験を利用する」方法です。

 物理的現象は目に見えるものですから、イメージしやすく伝わりやすいですね。
 ことわざや格言が今の時代にも脈々と生き続けているのには、それなりの理由があるということです。

「成功」の反意語は「失敗」か?


「成功」の反対は、「失敗」である。
 この常識も、見る視点を変えると、まったく違う結論が導けます。

 まずは「『成功』の反意語は、『失敗』である」という常識を違う方向で見てみます。成功と失敗は一般的には何らかの結果の「両極」であると考えられるためにこれらが反意語と見なされるわけです。つまり次ページの図の上段の横棒上のような関係になります(下図1の上段を参照)。
 ここでは成功と失敗が両端にある構図ですが、視点を変えるためにこの軸を真ん中から二つに「折り曲げて」みます(下図1の中段を参照)。
 こうすると、左の端には「成功」と「失敗」が並び、右端にはそれらの中間、つまり「成功でも失敗でもない」という状態が位置づけられます。ここで「成功でも失敗でもない」という状態を改めて考えてみましょう。そもそも何かをやれば、その結果がうまくいけば「成功」となり、そうでなければ失敗となります。たとえそれが失敗でも、やった結果やそこからの教訓は残るし、やった前とは状況は確実に違ってくるはずです。しかし、何もしなければ、「成功でも失敗でもない」状況がずっと続くことになります。そう考えると、「成功でも失敗でもない」という状況を一番作り出すのは「何もしない」という状況であることに気づきます。
 そう考えれば、この半分になった軸の両端が再び一つの考え方の軸になっていることがわかります。つまり、「何か行動する」と「何もしない」という二極になるということです(下図1の下段を参照)。
 この構図からおわかりでしょう。「成功」と「失敗」は実は紙一重の「同義語」で、それらの反意語は「何もしないこと」ということになるのです。
 1990年代を代表するイタリアのサッカー選手、ロベルト・バッジョは「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気のある者だけだ」という言葉を残しています。この言葉は先の「成功と失敗の構図」からみると非常によく理解できます。
 少なくともPKで失敗するためには、競技場に出ていってPKを蹴るだけの資格を得る必要があります。逆に失敗に一番遠い人というのは「観客席(やテレビの前)で座って見ている人」だということになります。

 『やわらかい頭の作り方』 第3章 より 細谷功:著 筑摩書房:刊

図1 成功 と 失敗 の構図 第3章P94
図1.「成功」と「失敗」の構図
(『やわらかい頭の作り方』 第3章 より抜粋)


 失敗は、何かにチャレンジをした証拠。
 チャレンジする権利を得なければ、失敗することもできません。

 表面上では反意語として扱われていても、見方を変えるとそうではない。
 そんな言葉は、意外と多いものです。

 常識にとらわれず、物ごとの本質を見抜く眼力を身につけたいですね。

「万馬券」を買える人、買えない人


 例えば、「競馬で万馬券を当てる」の不確実性の高いチャンスをモノにできるかできないか。
 それも「思考回路」に起因します。

 人間には、大きく「確率論」で考える人と「決定論」で考える人がいます。
 細谷さんは、どちらかといえば「決定論」で考える人のほうが多数派だと指摘します。

 それではこれらの思考回路はどのように異なっているかを下表(下図2を参照)で見ていきましょう。
 まず基本的なスタンスですが、決定論というのは、結果には必ずしかるべき原因があり、逆にいうと原因さえ明確であれば、その後物事がどのように進んでいくかはそれらによって必ず予測できるという発想です。
 これに対して、確率論というのは、物事の挙動は最終的にはある確率を持って決定されるが、それを一つの結果として予想することはできないという発想です。つまり、決定論では成功も失敗もすべてやり方が良かった(あるいは悪かった)からということになりますが、確率論では、(それまでは「人事を尽くす」としても)「最終的には成功も失敗も時の運」という発想です。成功や失敗の確率をコントロールしたり予想したりすることは、ある程度までしかできないというのが大前提です。
 結果として、決定論の人は「結果」が悪ければ、やってしまったことを「やるべきでなかった」といつまでも後悔します。なぜなら、失敗したということは、やると決めた自分の意思決定なりやり方が間違っていたと考えるからです。
 対して確率論の人は、「最善を尽くしても運が悪かった」とすぐに立ち直って次の挑戦に臨みます。

「穴馬券」のように「やってみなければわからない」ような、ギャンブルでも株式の投資でも新規事業でも、そのようなものに対しての投資の意思決定をする場面を考えてみます。もともと決定論の人は、「過去の因果関係やデータ」を最も信用します。なぜなら、「過去に起こったことが必ず未来につながっている」という、絶対的な因果関係を信じるというのが決定論の前提だからです。こう考えると、基本的に決定論の人は「過去の成功した結果の集大成」で物事を判断することになります。その方が論理やデータでの裏付けが簡単で、きちんと「結果が出ている」ものだからです。
 要は決定論者の人というのは基本的に過去志向、すなわち物事が「起こった後で」それを論ずるという思考回路になっているのです。よくも悪くも、「起こったことを説明する」ことが得意だということです。
(中略)

 不確実性が高い意思決定をしたりする場面で、結果が出る前と結果が出た後で両者の思考回路は大きく異なります。
 決定論者の人というのは、結果が出た途端に態度が豹変します。「終わりよければすべて良し」と、ある意味わかりやすい思考回路です。世の中の新しい動きについても、はじめのうちは(実績がないので)懐疑的でひややかな目でみています。実績があるもの、過去に成功したもの、そのような理由で前評判が高いもの(馬券で言えば本命)を常に良しとし、逆に過去の実績がないものはひややかに見ています。ところが、このようなものでも、有名人や有名企業が採用するといった形で「結果」が出た途端に態度や評価が一変しますが、しょせんこの時点ではもう後追いになってしまっています。
 一方、確率論者の人は、不確実性の高い意思決定は、事前のプロセスで最善を尽くしてもしょせん失敗する可能性もあることを自覚していますから、意思決定前に「うまくいくはずがない」と決定論者の人に言われても動じないと同時に、もしうまくいったとしても、そこで傲慢になることもありません。要は結果が出る前後で態度や姿勢が変わることはないのです。

 『やわらかい頭の作り方』 第4章 より 細谷功:著 筑摩書房:刊

図2 決定論 と 確率論 の違い 第4章P167
図2.「決定論」と「確率論」の違い
(『やわらかい頭の作り方』 第4章 より抜粋)


 成功も失敗も、紙一重。どちらに転ぶか、五分五分。
 それなら、チャレンジする回数を増やす方が、成功する確率は高くなりますね。

 決定論の人は、「成功」という結果にばかり目がいきがちです。
 そして、その下にたくさんの「失敗」が埋もれていることに気づきません。

 変化を望むなら、「確率論」で考える必要があります。
 リスクを取ることを恐れない勇気を持ちたいものです。

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「頭をやわらかくする」のに、最も重要かつ難しいこと。
 それは、まず頭の柔軟性がない(失われつつある)自分を認識することです。

 細谷さんは、問題というのは認識した時点でほとんど解決したも同然だとおっしゃっています。
「頭が固い」と認識しないうちは、「頭をやわらかくしよう」という発想は出てきませんね。

「毎日、同じことの繰り返しで、うんざり」
「最近、生活に刺激がなくて、つまらない」

 そう感じている方は、考え方がワンパターンになり、頭が固くなっている証拠です。
 現状を変えるには、まず発想の転換が必要です。
 同じ出来事でも、見方を変えると、まったく違った捉え方ができるようになります。

 本書の「頭の柔軟体操」を習慣にして、いつまでも若々しい気持ちで過ごしたいですね。


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