【書評】『90秒にかけた男』(高田明、木ノ内敏久)

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 お薦めの本の紹介です。
 高田明さんと木ノ内敏久さんの『90秒にかけた男』です。

 高田明(たかた・あきら)さんは、企業経営者です。
「ジャパネットたかた」の創業者であり、現在は、プロサッカーチーム「V・ファーレン長崎」を務められています。

 木ノ内敏久(きのうち・としひさ)さんは、日本経済新聞出版社シニア・ディレクターです。

「90秒」にすべてを懸ける


 本書のタイトルにもある「90秒」という言葉には、深い意味が込められています。

 高田さんは、今、この一瞬一瞬を全力で生きる。中途半端に過ごすのではなく、一生懸命に今を積み重ねていけば、常に自己更新して成長できる。そんな私の信念をこの言葉に込めたと述べています。

 例えばMC(司会)の力。作家・井上ひさしさんの言葉に「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」というものがあります。MCもまったく同じです。どのように緩急をつけ、話を展開させれば商品の魅力を伝えられるのかが、常に試されています。
 MCが素晴らしければそれでいい、というものではありません。商品をどこに、どの向きに、どのくらいの高さで展示するかといった陳列や、商品の背景をつくる制作力も大切です。
 技術面でいえば、スタジオに複数あるカメラのどれで撮影するのか、どのタイミングでスイッチするのか、そしてズームの速さについてもコンマ1秒まで計算しています。他にも照明をどうするのか、テレビ画面へのテロップ文字をいつ挿入していくのかなど、様々な課題もあります。
 商品を選び、調達するバイヤーの存在にも大きなものがあります。最も重要なのは「旬」をかぎ分ける力。変化の激しい時代には、旬を過ぎたものをいくらプッシュしても売れません。それを見抜き、分析するマーケティング力が欠かせないのです。
 このように、全ての関係者が全力で90秒に立ち向かって初めて、モノが売れていくのです。90秒で20万円の商品を200台売ることだって可能です。私の人生は、そうやって全力で90秒と格闘し続け、お客さまが豊かで幸せな生活を送っていただけることに貢献してきたつもりです。

『90秒にかけた男』 はじめに より 高田明、木ノ内敏久:著 日本経済新聞出版社:刊

「90秒」という短時間に、商品の良さを伝える。
 高田さんは、経営者として、テレビショッピングのMCとして、そのことにすべてを注いできました。

 本書は、そんな高田さんが培ってきた信念と、これまでの生き様をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「風姿花伝」に秘められた、『伝える極意』


「伝える」プロ、高田さんが参考にした書物が、「風姿花伝」です。
 風姿花伝は、室町時代に世阿弥が書いた、能の奥義について書かれた文献です。

 世阿弥は何も世間一般に発信するためにメッセージを残したのではありません。能という芸術100年以上続くよう、彼がその人生をかけて得た蘊奥(うんのう)(=奥義)を後世に残したのです。舞う人がどう舞えば、人に伝わるか、能にはどういう役割があるかなどが書かれています。それが現代の我々に普遍的なメッセージとして強く響いてくるのです。
 同書で私が最も共感した教えは、人間は自己を更新し続ける努力を惜しむべきではないという一点です。何が大事かと言えば、謙虚さや真面目さです。
「風姿花伝」には「時分(じぶん)の花」と「まことの花」という言葉が出てきます。時分の花とは、若い人が持つ若さゆえの鮮やかさで魅力的な花のことですが、盛りが過ぎると散ってしまいます。これに対し、まことの花とは日々の鍛錬と精進によって初めて咲く花を指します。人間は修業によって本当の花になって感動を与えられるようになるのです。
 世阿弥はこの二つの花を間違うなと言っている。若い時分に脚光を浴びることを自分の本当の実力だと慢心するなかれというわけです。この教訓は今の我々が生きていく上でも当てはまる。「実るほど頭(こうべ)を垂れる」という成句がありますが、これも同じ趣旨のことを言っていますね。人生論として読めるのが「風姿花伝」の素晴らしいところです。
(中略)
 世阿弥は三つの目が必要だと述べています。まず、自分がどう見るかという「我見(がけん)」。「離見(りけん)」は、他者の目線を意識する感覚です。政治家に例えれば、国民や県民はあなたを見ていますよ、ということです。そしてそういう姿を客観的に俯瞰(ふかん)して全体を見る力が「離見の見(けん)」。
 この三つの視点はビジネスの世界でも通用します。自分たちの考えだけでは世間に通らない。お客さんはジャパネットたかたを、そして高田明を見ているのです。それに応えていくためには、謙虚に忠実な気持ちで精進することが大切です。こういうことが650年前に書かれているのです。
 世阿弥の考え方をビジネスに当てはめてみてください。業界の常識は消費者の常識ではないということを見失うと、商品のガラパゴス化が起きるわけです。良かれと思って製品を作っても消費者から支持されない。常に消費者の動向や消費者の思いを見ながら商品開発をすべきであり、特に変化の速い現代ではそのマインドセットが必要であるということにつながります。現代の私たちの課題に引きつけて考える契機を与えてくれるところが「風姿花伝」の面白いところです。

『90秒にかけた男』 2章 より 高田明、木ノ内敏久:著 日本経済新聞出版社:刊

「時分の花」と「まことの花」。
「我見」と「離見」と「離見の見」。

 能を極めた世阿弥の言葉は、すべてに通じる真理を表します。
 まさに、「一流は一流を知る」ということですね。

商品の「見えない価値」を顕在化させる


 すべての商品には、それを開発した人の思い、強い動機があります。

 高田さんは、その視点からモノを解明していけば、全ての商品に伝える価値はあると考えています。

 商品の見えない価値を顕在化させる例をご紹介しましょう。
 会議やインタビューで使う電子機器にボイスレコーダーがあります。私は通販番組で「おじいさんやお母さんこそ使うべきですよ」と視聴者にいつも訴えていました。なぜか。歳を重ねれば誰でも物忘れが多くなりますね。そんな時に何か伝えなければならないことや、ふと思ったことを、メモを取る代わりにボイスレコーダーに吹き込んでおけば、物忘れの心配は無くなりますよね。
 お母さんだったら、仕事へ行く前に、子供さんが学校から帰ったら、「お母さん6時ごろに帰るからね、おやつが冷蔵庫に入っているよ」とボイスレコーダーに肉声を残しておけば、お子様はその声を聞いて安心しますよね。そのような使い方の提案をいろいろテレビで伝えたらあれよあれよという間に何千台も売れました。私も何かアイデアが浮かんだら、すぐに音声に残します。私の実生活でもボイスレコーダーはいろんなシーンで利用しています。実に便利な商品です。
 私はメーカーが気づきにくかった新しい提案をしました。ボイスレコーダーは技術的には音声を記録する道具です。メーカーはいちいちシチュエーション別の利用法まで示しません。我々は伝えるために、視点を変えていくのです。使う側も知らない使い方を提案する時に初めてニーズが顕在化してくるのです。消費者も使いたい気持ちになる。使いたくなったら、そう使ってほしい。

『90秒にかけた男』 2章 より 高田明、木ノ内敏久:著 日本経済新聞出版社:刊

 巷には、ハイテクな電化製品があふれています。
 そんな中で、機能の高さだけをウリに宣伝をしても、消費者の心に響きません。

 大事なのは、その機能を使うことで、どんなメリットが期待できるか、です。

 作り手の思いと、使い手の思い。
 その二つを、掘り起こしてつなぎ合わせてこそ、ヒット商品が生まれるということです。

いつのまにか、「今のジャパネット」になっていた


 高田さんを成功に導いた力。
 それは、「一生懸命、その瞬間を生きること」でした。

 ジャパネットたかたが、テレビ通販に参入したのは1994年。
 それから、新聞チラシ・カタログの紙媒体、インターネット通販へと業容を広げていきました。

 現在は、ラジオ、テレビ、紙、インターネットという四つの媒体を使うメディアミックス戦略をとります。
 そのような成長戦略をとったのは、どのような理由からでしょうか。

 その時々で目の前にあったやるべきことを単に実行していくうちに、自然に出来上がったというのが答えです。自分が求めるものと、時代が求めるものが、自分なりに試行錯誤してやっているうちに一致してきたのかなと思います。通販というマーケティングが日本に根付き始め、1990年代半ばからインターネットという新しい市場ができた。ITの進歩で誰もが気軽に情報にアクセスできる時代を迎えた。これらの変化を私は予測していたわけではないのです。
 極端に言えば、「今」という瞬間をただやり通しただけです。私が現在、代表取締役を務めている会社の社名「A and Live(エー・アンド・ライブ)」(「今を活き活きと生きる世の中にしたい」という思いから命名)が示すように、「今を生きる」ということです。
「生きたつもり」にならず、今を一生懸命に生きる。瞬間瞬間を生き続けた結果として、ラジオに行き着き、ラジオを一生懸命やっていたらテレビに出合い、テレビを一生懸命やっていたら自社スタジオをつくらなければ(家電の新製品競争の)スピードに勝てないとなって自社スタジオを構えました。
 そうこうするうちに今度はラジオ、テレビだけのメディアを使うのでは、ご年配の方はちょっと抵抗があるんじゃないか、と考えてチラシ・カタログの紙メディアをやり始めました。20年近く前のことです。
 ラジオ・テレビの通販番組では購入意欲がわかなかった方でも、紙でじっくり見れば商品を買ってくれるのかな、と思ったのです。次に、インターネットが出てきた、「時代が求めるものがネットなのだろう」と判断しネット通販に進出しました。
 瞬間瞬間に自分らが向き合ってきただけのことで、特別なことは何もしていないのです。やっていたらいつの間にか、今のジャパネットになっていたというのはこういうわけです。

『90秒にかけた男』 3章 より 高田明、木ノ内敏久:著 日本経済新聞出版社:刊

 世の中、「一寸先は闇」です。

 10年後、20年後の先まで綿密な事業計画を立てても、その通りになることは、ありません。
 また、昨日うまくいったことが、今日もうまくいくとは限りません。

 大事なのは、過去でも未来でもなく、「今」この瞬間です。

 目の前で起きている事象に、全神経、全感覚を集中する。
 それが時代の流れに乗る、最も確実な方法だということです。

ミッションを「見える化」して共有する


 高田さんが、経営者として力を入れてきたことの一つ。
 それは、会社が求める行動指針、目指すミッション(使命)の共有です。

 そのための武器が「クレド」と呼ばれるものです。
 クレドは、ラテン語で「信条」「志」を意味し、企業活動においては「企業理念」を指す言葉です。

 クレド経営は、会社が求める行動指針、目指すミッションというものを、しっかり「見える化」して共有する経営です。企業が5人、10人、100人と大きくなっていけば、小さい組織の時はトップがじかに伝えられたものが伝えにくくなっていく。規模が1万人になっても10万人になってもクレドに基づいた行動指針を共有していくことが重要になるのです。
 ジャパネットがクレドを制定したのは2006年です。当初は1年、1年、その内容を社員が主体となって修正していきました。名刺入れに入るサイズで、社員はいつも携帯しています。
 どの会社にも社是やミッションというものがあります。しかし、会社の歴史が長くなればなるほど、それらが独り歩きしてしまって、社是やミッションを知っている「つもり」になってしまう社員が出てきたり、社是があるから大丈夫な「つもり」になってくる会社(経営者)が出てきたりします。
 それは怖いことです。自分たちには社是があるとジャパネットも社員が言っています。本当にクレド通りに行動し、ミッションを共有していけるかが大事ですね。
 ジャパネット社内では朝礼やミーティングの時にクレドについて語ったりします。当初のクレドは取引先向けのステークホルダー用と、社員用の二つありましたが、今は一本化しています。文言や中身は変わっていますが、根幹の考え方は変わっていません。それは顧客のために、社会のためになる価値を提供するという目標です。
 最初のクレドの冒頭で、私たちは次のように宣言しました。「モノの向こうにある生活や変化を伝えたい。より多くの人々の快適ライフのパートナーを目指して」
 最新版では全グループ会社にまたがる理念として、「『今を生きる楽しさ』を!」とうたい、「モノの向こうにある生活や変化を伝えることによって 見る人聴く人に『今』この時を楽しんでもらえるショッピングをつくること。そして商品を手にしたお客様の『今』が豊かなものになること。お客様とジャパネットが繋がったとき、その『今』が楽しいものであるように、ジャパネットグループは、それぞれの『今』に挑戦し続けます」と目指す方向を明らかにしています。
 歳月を経て細部は変わりましたが、根っこに流れる理念は不変です。

『90秒にかけた男』 4章 より 高田明、木ノ内敏久:著 日本経済新聞出版社:刊

 時代が移るとともに、会社の形態や扱う商品は、変化させる必要があります。
 ただ、会社の存在意義に直結する「核となる部分」は、変えてはいけないということです。

 創業経営者がいなくなっても、発展し続ける会社。
 それらは、創業当時の企業理念がしっかりと根づいているといえます。

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 高田さんが、長年にわたり、ラジオやテレビの前で行ってきたこと。
 それは、「人と人をつなぐ」ことでした。

「いい物を、より多くの人に伝えたい」

 そんな熱い想いが、テレビの画面を通して伝わってくる。
 だからこそ、「ジャパネットたかた」は、消費者から愛され続けているのでしょう。

 インターネット全盛で、何でもクリック一つで買える世の中。
 そのなかで、「ジャパネットたかた」は、あえてアナログな「通販」を武器にしています。

 あえて、ライバルたちとは、別の道を行く。
 その道を、誰も追いつけないように、徹底的に追求して走り抜く。

 高田さんの経営哲学は、多くの企業の参考になるのではないでしょうか。
 プロサッカーチーム経営という新たな道に挑戦を続ける、高田さんのこれからの活躍に期待します。

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