【書評】『任せる技術』(小倉広)
お薦めの本の紹介です。
小倉広さんの『任せる技術―わかっているようでわかっていないチームリーダーのきほん』です。
小倉広(おぐら・ひろし)さんは、経営コンサルタントです。
大学卒業後に大手出版社に入社、編集部や組織人事室の課長などを経て独立されています。
「任せられない」から「任せる」へ
「人材育成のプロ」でもある小倉さん。
自らのキャリアを振り返り、任されることで成長することができた
と述べています。
多くの企業では、人員の削減による合理化が避けられません。
一方、業務の多様化、専門化が進み、自分の抱えている仕事を、後輩や部下に任せなければ回らなくなるケースが増えています。
仕事を後輩・部下に任せることができれば、多くの仕事管理上の問題から解放される。
しかし、失敗のリスクなどを考えると、なかなか踏み切れない。
そんなジレンマを抱えている管理職の方は、多いでしょう。
本書は、「任せられない」を「任せられる」に変えるための一冊です。
業務移管に伴う諸々のリスクを最小限に抑えて、「任せる側」と「任される側」双方のレベルアップを目指すアイデアや方法がぎっしり詰まっています。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
部下が失敗する「権利」を奪うな!
小倉さんは、人が「任される」と育つ、最も大きなの理由の一つとして「失敗の経験」を挙げます。
「任される」ことで初めて「失敗」を経験し、「失敗」により人は多くを学ぶ
からです。
だからこそ、上司は部下の失敗する「権利」を奪ってはならない。部下が転んで膝をすりむいてしまわないようにと、先回りをして部下を守りすぎてはならない。それは部下の「権利」を奪うことになるからだ。
子供は野山を駆け回り、転び、膝をすりむく中で多くの学習をする。その体験を何一つしたことのない子供は危険だ。転んだ時の痛み、恐怖を知らない。それを回避する術を知らない。だから、いきなり骨折をしてしまうリスクが高いのだ。仕事においても同じことが言えるだろう。上司は部下に膝をすりむく経験を積ませてあげなければならない。つまりは、ムリを承知で任せる。そこから始めなくてはならないのだ。『任せる技術』 CHAPTER1 より 小倉広:著 日本経済新聞出版社:刊
部下に仕事を任せることは、部下を育てることそのものです。
部下を育てることは、子供を育てることに通じます。
放ったらかしではいけませんが、過保護でもダメ。
そのさじ加減が、重要です。
「作業」ではなく「責任」を任せる
仕事を「任せる」ということは、その仕事の責任ごと、部下に負わせるということです。
単に作業だけをやらせているだけでは、仕事を任せたことにはなりません。
管理職が部下に仕事を任せる時にやりがちな間違いは、「責任」を負わせずに「作業」だけを任せる、ということだ。それは、本当の意味で仕事を任せていることにはならない。「責任」は上司が背負ったまま、指示された一部の「作業」だけを部下に任せていることになるのだ。これでは部下は成長しない。そのことに上司自身が気づいていないのだ。
人は責任を負い、「責任」を果たすことで成長する。果たしていった「責任」の大きさに比例して成長するのだ。任せるとは、「作業」ではなく「責任」を与えることにほかならないのだ。『任せる技術』 CHAPTER2 より 小倉広:著 日本経済新聞出版社:刊
どのような仕事にも、きっちり期日までに仕上げる責任が発生します。
仕事を片付けることだけに目がいくと、つい、できると思われる作業だけを指示しがちです。
しかし、部下を育てるという観点から見ると、それだけでは不十分です。
その仕事に付随する責任まで、すべて背負わせる。
それで、初めて仕事を「任せた」ということになります。
信頼関係をつくるために
上司やリーダーは、日頃から部下との間に、強い信頼関係を築いておく必要があります。
仕事を任せることは、その仕事は部下にとって初めての経験ですから、大きなストレスとなります。
したがって、それを聞き入れてもらえるぐらいの信頼関係がないと、うまくいきません。
あなた自身が部下一人ひとりを家族や恋人のように大切に思い、家族や恋人と同じように接するのだ。それができれば、部下との信頼関係は深まり、それと逆の行動を取れば部下との信頼関係は壊れていくだろう。
それは言葉にするのは簡単だが、実行するのは難しいもの。赤の他人である部下を家族や恋人と同じように思うのは並大抵のことではない。しかし、絶対に不可能でもないのだ。それを実践している素晴らしいリーダーが全国に何千、何万といるのは間違いない。
(中略)
この考え方を逆手に取れば、誰に仕事を任せればうまくいくかがよくわかるはずだ。そう、能力がある部下に任せるのではなく、信頼関係ができている部下に任せる方がうまくいく。そう理解してもらえばいいだろう。『任せる技術』 CHAPTER3 より 小倉広:著 日本経済新聞出版社:刊
一番いいのは、部下全員と一人残らず、強い信頼関係で結ばれていることです。
小倉さんは、そこまで到達していないとするならば、信頼関係によって仕事を任せる相手を決めるという視点を持っておいた方がいい
とアドバイスします。
部下から、「あの人のいうことならば・・・」と思われる。
それだけの信頼関係が築けるかどうかが、大きなポイントになります。
フィードバックの5段階
いったん部下に仕事を任せると決めたら、上司は「黒子」に徹する必要があります。
小倉さんは、上司は部下から主役の座を奪ってはならず、会議や集会などの場面では、なるべく晴れがましい役柄を部下に譲るべき
だと述べています。
問題になるのは、上司のフォローの仕方です。
上司が部下に任せた仕事について指摘する場合の言い方には、気を遣う必要があります。
小倉さんは、以下のような5段階のフィードバックの方法を紹介しています。
トイレに行った部下会議室に戻ってきた。彼のズボンを見るとなんとチャックが開いたままになっている。さて、あなたはどのように彼にフィードバックをするだろうか?
第1段階:事実のフィードバック:「チャックが開いているよ」
第2段階:主観のフィードバック:「チャックが開いてるよ。おかしいよ」
第3段階:評価のフィードバック:「チャックが開いているよ。だらしないな」
第4段階:提案のフィードバック:「チャックが開いているよ。気をつけた方がいいよ」
第5段階:命令のフィードバック:「チャックが開いているよ。早くしめろ!」もうおわかりだろう。段階を追うごとにフィードバックが命令的になり、その分相手の主体性を奪うことになる。逆に段階が浅いほどに、相手に判断を委ねる中立的なフィードバックとなり、相手の主体性を奪うことは少なくなる。
(中略)
部下に仕事を任せる際に、部下の主体性を大切にするならばフィードバックは浅めがいい。僕のお勧めは第1段階と第2段階にとどめること。その他はガマンする。
どうしても第3段階、第4段階に踏み込みたい時には「独り言」をつぶやくことだ。それを受け入れるかどうかは部下に委ねる。そんな姿勢で臨みたいものだ。『任せる技術』 CHAPTER5 より 小倉広:著 日本経済新聞出版社:刊
仕事を任せているのならば、相手の自由度を奪わないこと。
できれば、判断を委ねるかたちの中立的なフィードバックが望ましいということです。
部下にとって、上司の言葉は絶対的なものに響きます。
それも踏まえて、フィードバックの内容ももちろん、方法についても細心の注意を払いたいですね。
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後輩・部下に仕事を任せることは、典型的な「WIN−WIN」の関係です。
小倉さんは、先輩・上司は仕事を任せることで余力が増えて一段階上の仕事に取り組むことができるし、後輩・部下も任された分だけ成長できるので、十分に魅力のあるチャレンジだ
とその効果を強調されています。
「仕事の山」に埋もれて、身動きが取れなくなる。
そうならないためにも、「任せる技術」は必須のスキルです。
本書は、管理職の方はもちろん、これから管理職になるであろう皆さんにも、是非ともお読み頂きたい一冊です。
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