【書評】『一流の「偏愛」力』(谷本有香)

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 お薦めの本の紹介です。
 谷本有香さんの『世界のトップリーダーに学ぶ 一流の「偏愛」力』です。

 谷本有香(たにむら・ゆか)さんは、経済ジャーナリストです。
 現在は、Forbes JAPAN副編集長 兼 チーフイベントプロデューサーを務められています。

トップリーダーに共通する「偏愛力」とは?


 今、もっとも注目されているトピックスのひとつに、「AI(人工知能)」があります。

 AI時代の到来により、さまざまな職業が淘汰されていく、と予想されています。

 谷本さんの認識は少し異なり、AIの到来によって淘汰されるのは「職業」ではなく、AI時代に対応できない「人」のほうだと述べています。

 では、どうすれば、AI時代に対応できるのか。

 谷本さんは、「正しい変化」をしていける人だけが、新時代のリーダーとして生き残ることができると指摘します。

 私はこれまで金融経済キャスターの経験を活かし、十数年におよび新旧3000人以上のトップリーダーたちと出会い、インタビューしてきました。過去には、トニー・ブレア元英国首相やスターバックス元会長兼CEOのハワード・シュルツ氏、個人投資家のジム・ロジャーズ氏やノーベル経済学賞を受賞されたポール・クルーグマン氏など、世界的なVIPから大企業の経営者まで、数え上げればキリがありません。
 経営哲学やビジネスに関する話題はもちろん、趣味や家族など、仕事以外の部分にも踏み込んだインタビューをすることで、「人となり」も含めて、その人たちをできるだけ感じてきました。
 なぜなら、そこにこそ彼らが「成功者」として活躍するにいたった要因の数々が、垣間見られたからです。私は何度も何度も、彼らの哲学や人柄に触れ、感銘を受けてきました。
 でも一方で、どうにも腑に落ちないと申しますか、次のような疑問を感じずにはいられないリーダーの方もいらっしゃいました。

「この人は本当に10年後も会社や社会、日本を引っ張っていけるのか?」

 正直な気持ちを申し上げるならば、特に日本人の経営者に対してそのように感じることが多いのです。創業者や起業家の方であればそのようなことはほとんどないのですが、そうではない経営者の方の多くに、私はこうした疑問を感じていました(もちろん、そうではない方もたくさんいらっしゃるのですが)。

 とはいえ、これまではその疑問の答えが見つからなかったので、私の胸のなかだけにひっそりと留めておくつもりでした。事実、私はこの疑問について、10年以上ものあいだ人に言ったことはありません。ビジネスパートナーはもちろん、親友にも、家族でさえも口にすることはありませんでした。
 そんな私でしたが、フォーブスジャパンでの仕事を通して、長年抱いてきたことの答えに驚くほどアッサリと気づくことができたのです。
 そしてその答えは、これからの時代を迎えるすべてのビジネスパーソンにとって役立つ内容といえるものでした。だからこそ私は、本書を通してその内容を多くの人に届けたい、そう思い執筆を決意したのです。

『一流の「偏愛」力』 第1章 より 谷本有香:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 本書は、トップリーダーに共通する「偏愛力」について解説し、それを身につけるにはどうすればいいかをまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「ビジネス・アイデンティティ」の重要性


 これからの時代、なぜ「偏愛性」が重視されるのか。
 それを理解するうえで、欠かせないのが「ビジネス・アイデンティティ」という視点です。

 

 ビジネス・アイデンティティとは読んで字のごとく「ビジネスにおけるアイデンティティ」ということですが、具体的には、「自分自身の核となり、他者貢献できるもの」と定義します。
 この「自分自身の核」「他者貢献」という二つの部分がポイントです。

「自分自身の核」とは、具体的にいえば、「自分自身が熱中して取り組めるほど好きなもの」。ですからビジネス・アイデンティティを言いかえると、次のようになります。

「熱中するほど好きなことで、他者貢献できるもの」

 リーダーに今求められる条件をすべて内包するのが、このビジネス・アイデンティティです。

 今世界で活躍しているトップリーダーたちが一様に「好きなことを仕事にしている」のは、それがビジネス・アイデンティティを軸にした仕事につながっているからだということができます。
 20世紀の大量生産、大量消費時代には、ビジネスにおけるアイデンティティはさほど重視されるものではありませんでした。それよりも、必要とされる商品やサービスをいかに効率的に生産し、消費者に届けるかのほうが重要で、それを可能にする組織づくりこそが求められました。とにかく売上を伸ばして、競合他社よりも市場シェアを高めること。そこに企業の価値が置かれたのです。バブル期にCI(コーポレート・アイデンティティ)という言葉がもてはやされたこともありましたが、企業のロゴデザインの刷新など表面的な変革にとどまった感があります。
 しかし、いよいよ市場は飽和・成熟して、消費者のニーズも多様化・複雑化しています。売上や市場シェアの拡大を図ろうにも、大量に生産して世の中にばらまけばいいという時代ではもはやありません。
 そうしたなか、会社を興して新たな商品やサービスを生み出すにせよ、企業で働きながらリーダーとして活躍するにせよ、そこで求められるのは、専門的なスキルや経営能力、リーダーシップよりも、ビジネス・アイデンティティです。

 実際に、数十億、数百億という額が世界中から投資されるベンチャー企業を見ると、どの企業もビジネス・アイデンティティが確立していることに気づくでしょう。逆にいえば、ビジネス・アイデンティティが定まっていない企業や人は、これからどんどん淘汰されていくだろうと私は思います。
 AIによって淘汰されるのは代替可能な人であり、ビジネス・アイデンティティを持たない人なのです

『一流の「偏愛」力』 第1章 より 谷本有香:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 偏愛性は、その人独自の感覚で、他の誰もマネできないものです。
 突き詰めるほどに、その独創的なアイデアは、深まっていきます。

 他と違っていることが、大きな武器となる。
 ビジネス・アイデンティティは、これからの時代に必須の視点といえますね。

「偏愛」と「共感」が「信頼」を生む


 谷本さんは、ビジネス・アイデンティティを持つことと信頼指数の高さは相関関係にあると述べています。

「偏愛」と「共感」が信頼を生む。

 谷本さんは、そのプロセスを以下のように解説しています。

 偏愛とは、自分が「特別に熱中できる度合い」の大きさのことであり、ビジネス・アイデンティティも偏愛の延長上に存在することがほとんどです。ロボットに対して偏愛を持つ人は、いつもロボットのことについて考えており、やがてこれまでにないロボットを生み出せるようになります。時代劇が好きな人であれば、やはり時代劇のことを普段から自然と考察し、いつか時代劇好きにとってはたまらない新たな作品や商品を生み出せるかもしれません。
 ロボットや時代劇が好きな人はたくさんいるかもしれません。しかし、それをいつも考えてしまうほど好きで、仕事にまでしようと思うくらい好きな人はごくわずか。その極端な情熱はまさに「偏愛」といえるでしょう。
 自分自身の「好きで好きでたまらない」という偏愛から生まれる意志や目標は、ビジネスにおける最大の「自己プロフィール」となるのです。

 価格や品質といった普遍的な価値ではなく、「偏愛」によって生まれる、他にはない「こだわりの品」や「驚きのサービス」に対して消費者は価値を置き、お金を払います。
「好きでたまらないこと」に対して、私たちは手を抜いたり、妥協したりすることは通常ありません。できるだけ品質のいいものを生み出そうとするのは、皆さんも経験があるのではないでしょうか。
 絵が大好きなら、学校の宿題であってもできるだけ上手に描きあげたいと思うでしょうし、プラモデルが大好きな人ならできるだけ精巧に組み立てて、塗装も完璧に仕上げたいと思うはずです。部品がちょっとずれてもいいやと思いながら組み立てる人は、好きな人ほどいないはずです。
 パンが大好きという職人が焼くパンは、きっと手抜きせずに生地をこね、絶妙な温度と時間で手間ひまかけてつくられたパンになるでしょう。ホテルの接客に感動したことがきっかけでホテルのプロデュースを手がける人であれば、きっと接客にこだわったホテルをプロデュースするでしょうし、本に人生を救われた人が書く本であれば、きっと読んだ人の人生を救う本になるでしょう。
「好きでたまらないことを仕事にしている」
「いつか絶対こんなことをやりたい」
「このこだわりは絶対になくさない」
 そういった偏愛性から生まれるものには自然と熱意やこだわりが加わり、それが他者の心に届くことで共感を生みます。この偏愛と共感の両面があってはじめて、人はそこに「信頼」を置くのです

『一流の「偏愛」力』 第2章 より 谷本有香:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

「好きこそものの上手なれ」

 とは、よくいったものです。

 好きで好きでたまらない。
 一日中、そのことばかり考えている。
 夢中になりすぎて、寝食を忘れてしまう。

 そんな人には、誰もかなわないということですね。

 自分が「偏愛」するものは何かを見つける。
 それを「共感」を生むまで、質を高める。

 これからの時代、「信頼」を得る最も確実な方法となるのでしょう。

「100年先」のビジョンを語る


 谷本さんは、これから先は100年先のビジョンを臆せずに語れる人だけが成功していく時代だと述べています。

 なぜなら、30年程度の未来であれば、利益や効率を軸としたビジョンでもイメージできるのですが、100年先となるとアイデンティティを軸にしたものでなければ、決して生き残っていかないからです。
 たとえばソフトバンクグループの孫正義(そんまさよし)会長は、300年先の未来をイメージしてビジョンを語ります。さすがにこれは孫会長だからこそ可能なのでしょうが、100年先までを考える視点は、これからいっそう求められるようになります。

 とはいえ、難しく考えたり、緻密な計画が必要だったりするわけではありません。100年先の未来を「予測」するわけではなく、自分の企業や仕事が「100年後にも生き残るか」という視点で考えればいいのです。
 人でも、企業でも、プロジェクトでも、ブランドでも、サービスでも、都市でも、100年後も残っているものには、「文化的背景」やアイデンティティが必ず存在していることに気づくはずです

 ここでひとつ、質問をします。
「ろうそく」は何のための道具でしょうか?
 おそらく大半の人は「火を灯すため」と答えるのではないかと思います。実際に、ろうそくは「火を灯す」ための道具としてそのほとんどが作られていました。しかし、そこに新たな意味合いを見出したのがアメリカのヤンキーキャンドルという会社です。
 照明器具の普及もあり、ろうそくが斜陽産業と言われるようになったころ、ヤンキーキャンドルはろうそくに「火を灯して明るくする」という機能ではなく「火を見ることで心が落ちつく、豊かな気持ちになる」という心理的側面を与えたのです。
 自分の秘密をカミングアウトするときにろうそくの明かりを利用することもあれば、海外ではお風呂でろうそくを灯してリラックスすることも珍しくありません。家族の団らんや誕生日会に利用することもあります。
 このように「人々の心に温もりを与える」とい価値創造をしたことで、ヤンキーキャンドルのろうそくは特別なアイデンティティを獲得しました。そしてそれは、彼らの「団らん」やリラックス空間という文化的背景に沿ったものだったために、人々の生活の一部として深く長く、根づくこととなったのです。
 経営に窮していたヤンキーキャンドルがその後、大きく成功し変貌を遂げたのはいうまでもありません。全米シェアナンバーワンのアロマキャンドルはこうして生まれたのです。

『一流の「偏愛」力』 第3章 より 谷本有香:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 明かりを灯す。
 その機能だけを取り出せば、ろうそくの果たす役割はすでに終えているといえます。

 ただ、ろうそくの火が持つ温かみや、心を落ち着かせる効果は、他では簡単に代替できません。

 さまざまな作業がAIに置き換わりつつある今の世の中。

 コンピューターが真似できないアナログ的な部分で、価値を創造する。
 そのこだわりが「100年先」のビジョンを生み出す重要なポイントになります。

「クレージージャーニー」に出かける


「好きなこと」に気づいたり、新しいことに興味を持つ。

 そのためには「感性」を刺激する習慣をつけることが大切です。

 谷本さんは、新しい体験を最も刺激的に行い、感性を揺さぶりたいなら、「クレイジージャーニー」に出かけることだと述べています。

「ダーツの旅」のように行き先を運に任せて決めて、その場所でのセレンディピティを楽しむという人もいます。「クレイジー」だからといって、なにも秘境に行かなければいけない、というわけではありませんのでご安心ください。「本能のおもむくままに」というのを心がけましょう。
「ずっと憧れていたあのホテルに泊まって豪華な食事を堪能する」というのも、今まで自分ができなかったことを思いっきり楽しんでいるので「クレイジージャーニー」です。とにかく、「ここに行きたい!」「ここに泊まりたい!」「こんなことをしたい!」という、自分がこれまでやらなかった新しいことに対して、本能の赴くままに行動することがポイントです。
 ずっとやりたかったことをやってみる。本能に従って行動することで、心から楽しい、やってみたいと思えることがダイレクトにわかります。

 そのほかにも次のような効果も期待できます。

 ①自分自身を見つめ直すことができる
 ②セレンディピティとの出会いから新たな価値観が生まれる


 株式会社ビズリーチ代表取締役社長の南壮一郎(みなみそういちろう)さんは、お忙しいにもかかわらず、必ず数か月旅をするそうです。その旅を通して、ご自身の核となるビジネス・アイデンティティの「チューニング作業」しているといいます。

 また、クレイジージャーニーは「旅」でなくても構いません。
 ずっとやってみたかったボイストレーニングやダンスレッスンをはじめるのも、立派なクレイジージャーニーです。
 とくに最近はこの傾向が強く、茶道を習いはじめた方やバンドを結成した方、学生時代に習っていたコントラバスをもう一度はじめた方など、それぞれに「ずっとやりたかったこと」を再開されています。

 年齢は関係ありません。なかには、50歳を過ぎてからやりたいことを一気に三つはじめた方などもいます。ソニーの元会長である出井伸之さんも御年80歳ですが、最近、フランス語の勉強を始められたといいます。
 みなさんに共通しているのは、趣味としてやっているわけではなく、自分が持っていた興味を思い出し、自分の可能性を広げる方法として本能の赴くままに行動し、習慣に取り入れているということです。

 セミナーなどに通って、人の言葉に刺激を受けるばかりではいけません。自らの本能が赴くままにやってみることで、新しい、わくわくする自分と出会ってほしいと思います。

『一流の「偏愛」力』 第4章 より 谷本有香:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 いつもと同じ場所で、いつもと同じことをする。

 そんな生活を繰り返しても、感性は育ちません。
 それどころか、衰えていくばかりです。

 ちょっとでも興味や関心を持ったら、実際に行動に移してみる。
 それを繰り返すことが、自分を知ることにつながります。

 偏愛力を高めるための「クレイジージャーニー」。
 ぜひ、試してみたいですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 谷本さんは、これからは「アイデンティティを実現することがお金になる」という図式こそが「仕事」となってくるとおっしゃっています。

 お金を稼ぐための「労働としてのワーク」は、AIの進化などによって激減します。
 そのなかで生き残るための武器が「アイデンティティ」だということです。

「自分が何が好きで、何がやりたいか」を把握し、とことんまで突き詰めること。
 それが仕事だけでなく、人生全体の幸福感に直結するようになったということです。

 これからは、「個性」や「自分らしさ」が価値を生む時代。
 同調性や協調性を重視するよう教育されてきた、私たち日本人は頭の切り替えが必要です。

「熱中するほどやりたいことで、かつ他社貢献できるもの」
 それは、すべての人に眠っていて、いくつになっても呼び起こすことができます。

 必要なのは、ちょっとした「気づき」と、ほんの少しの「勇気」。
 本書を読んで、これからの時代を生き抜くための一流の「偏愛力」を身につけたいですね。

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