【書評】『あたりまえを疑え。』(澤円)
お薦めの本の紹介です。 澤円さんの『あたりまえを疑え。 自己実現できる働き方のヒント』です。
澤円(さわ・まどか)さんは、日本マイクロソフトの業務執行役員です。 年間250回以上のプレゼンをこなすスペシャリストとしても、有名な方です。
あたりまえ=思い込み
「いい大学に入ればいい就職ができる」 「転職は35歳までがリミット」 「60歳で定年して、第2の人生を考えよう」
人それぞれに、いろいろな「あたりまえ」がありますね。
では、私たちはなぜ、それを「あたりまえ」と思うようになったのでしょうか。
「あたりまえ=思い込み」
それが澤さんの考えです。
たとえば、あなたが地方で暮らしているとします。すると、「都会に比べてチャンスが少ない」と感じることがあるかもしれません。当然、都会には圧倒的に多くの仕事があります。人口が集中しているので、チャンスの数自体は多いにちがいありません。 しかし、現実には多くの人がそこで自分本来の力を発揮できずに埋もれています。その一方で、地方に住むユニークネスを存分に活かし、都会よりも刺激的な仕事をしながらハッピーに生きている人もたくさんいます。
「田舎だからうまくいかないんだ・・・・・」
このように、自分のなかで勝手につくった「ものさし」で自分と他人を比較していると、気持ちはどんどん落ち込んでしまうことでしょう。 「英語が話せれば、もっとやりたい仕事ができたのに」 「定時に帰社したら、きっと上司から悪く思われる」 「もっと接待しなければ取引を止められる」 テーマはちがえど、「あたりまえ」という名の思い込みが僕たちの仕事や生活、そして人生のなかにはじつにたくさん存在しているのです。
「思うようにいかない理由」「自己実現できない理由」というのは、簡単に見つかります。恐ろしいことに、「〜だから無理」と思った瞬間、そこがゴールになってしまうのです。 そこで大切になるのは、そんな思い込みを捨てて「どうすればできるのだろう?」と考えること。なぜなら、思考は行動に直結するからです。これまで「あたりまえ」と思っていた思考のクセを根本から疑い、自分の頭で考えることができるようになれば、一歩前へと進んでいけるでしょう。
『あたりまえを疑え。』 はじめに より 澤円:著 セブン&アイ出版:刊
澤さんは、常識に縛られたら、思考は停止する
と指摘します。
「あたりまえ」という呪縛(じゅばく)から逃れ、自分の頭で思考して行動する。 そうすることで、私たちの人生は、輝きを増します。
本書は、役に立たない思い込みを捨て、現状を打破するための具体的なノウハウについてまとめた一冊です。 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
膨大なタスクを効率良くこなす「3つの原則」
私たちが、真っ先に疑うべき「あたりまえ」は、『時間』についてです。
結果を出せるビジネスパーソンに共通しているのは、「未来志向」を持っている
こと。
澤さんは、「時間はなんのためにあるか」を考え、未来を良くするために使うところに思考を持って
いかなければならないと述べています。
未来のことに時間を使うためには、いま現在のタスクを効率良くこなして「考える」時間をつくる必要が出てきます。 あなたのまわりには、すごく忙しいはずなのになぜかゆったりしているように見える人はいませんか? あくせくしていなくて、いつも悠々(ゆうゆう)とした雰囲気の人。こうした人たちは、優先順位の立て方が上手なこともありますが、タスクを効率的にこなすための「3つの原則」を確実に身につけています。
【タスクを効率的にこなす3つの原則】 ①できるタスクとできないタスクを理解している ②やると決めたひとつのタスクに集中している ③タスクにかかるスピードを把握してる
順に説明します。 ①できるタスクは自分でやりますが、自分がやるとかえって時間がかかる優先順位の低いタスクは、迷わずアウトソーシングする。具体的には、得意な人にやってもらったり、ツールを使って自動化したりするとベスト。また、「タスクとして捉えない」という選択肢もあります。そうした観点から、まずはタスクを取捨選択します。
②やると決めたタスクに集中しましょう。ひとつのタスクに集中して取り組むと、スピードが上がり作業にかかる時間が短くなります。
③それぞれのタスクにかかる時間を把握しておくと、急用が入っても予定を調整しやすくなります。たとえば、ある作業に2時間かかると知っていれば、たとえ急用で中断しても、前後1時間ずつ振りわけるなどして確実に終えられる算段ができるでしょう。このように自分が得意なことを着実に行いながら同じように他の人にも得意なことをしてもらい、ともに突っ走れる仲間を増やしていくこと。そのためには、「原則①」がより大切なポイントになります。ここでのアウトソーシングを、僕はこう呼んでいます。
他人と「時間の貸し借り」をする
たとえば、僕はプレゼンを専門分野にしていますから、限られた時間でオーディエンスにインパクトがある話をすることは得意中の得意。だからこそ、プレゼンの依頼が他方面から舞い込みます。 プレゼンで大切なのは、コンテンツ(中身)と当日のパフォーマンスに尽きます。ですから、まずはブレゼンに集中できる最良のコンディションをつくることに注力しなければなりません。 そこで、コンテンツの材料となるクライアントのプロファイル分析や事業内容の精査は他者と協働することにしています。いわば、他者の時間を借りるわけです。他にも、当日の参加者や前後のプレゼンのバランスなどについての質問も投げておき、情報収集をまかせています。 なぜこんなことができるのかと言えば、まわりから「この人がオーディエンスにもっともインパクトを与えるプレゼンができる」と思われているから。言い換えると、僕は僕で得意なことを他者に丸ごとまかされているというわけなのです。
『あたりまえを疑え。』 CHAPTER 01 より 澤円:著 セブン&アイ出版:刊
時間は、貴重な「リソース(資源)」である。
日本人は、とくにその認識が足りないですね。
相手の時間を奪っておきながら、まったく罪の意識を感じない。 それどころか、「あたりまえ」だと信じて疑わない。
そんな人たちが、どの職場にも群れをなしています。
「同調圧力」を感じたら・・・・・
「あたりまえ」が、もっとも象徴的かつ強力なかたちで表れているのが、『ルール・慣例』です。
澤さんは、社会にたくさんいる、ルールや慣例というものになんの疑問も抱かない人たち
を性別関係なく「おっさん」と呼んでいます。
過剰接待やパワハラまがいの振る舞い、男女差別。
そんな意味のないルールや慣習がまかり通る社会で、私たちはどのように行動していくべきでしょうか。
まずお伝えしたいのは、そんなルールや慣例、前例や過去の価値観などによる「同調圧力」には、まったく価値がないということです。 そして、できるならそれに対して声をあげてほしい。あるいは、その価値観に同調できないと思ったら、すぐにその場から逃げることもおおいにありでしょう。なぜなら、他者を変えることはかなり大変だからです。 おっさんたちを変えることに貴重な時間を割くくらいなら、自分の立ち位置を変えていくほうが良い選択肢になるでしょう。疑問を感じたら、自分の立ち位置をあらためて決め直したり、自分の振る舞いを変えてみたりする。そうしたことでごちゃごちゃ言われるなら、その場を去ることはひとつの方法だと思います。
僕もこれまで、同調圧力が強い場所とはできるだけ距離を置いてきました。ずいぶん前のことですが、中学校の夏期講習もそうでした。スパルタであることに美徳を感じている教師だったので、2日目からいくのをやめました。単純に、「この人からは、なにも教わりたくない」と思ったのです。 ただ、こうした行動は意外と勇気がいるものです。 なにせ日本では、小学生のころから学校やクラスのルールを厳守することを徹底され、同調圧力がすさまじい教育を受けさせられるため、「いったん決められたことに異を唱える」という発想がそもそも生まれにくくなっているからです。 そして、そんな思考停止状態の人たちが集まることで、同調圧力がさらに強まります。 「教師はあの人で、その人の言うことが絶対だから」と考える力を失った状態になると、どんなに暴力的な教師にも我慢することになり、結果としてその教師の発言力がますます強まってきます。
僕が見るに、若いビジネスパーソンでもそんな同調圧力に簡単に屈してしまう人や、同調圧力の存在に気づくことさえできていない人がたくさんいます。それは不幸なことに、子どものころから狭い価値観を持ったおっさんたちにルールや慣例を強制されて、思考停止のまま高校、大学まで進んでしまったからなのでしょう。
あるいは、「そういうものに従っておいたほうが、結果的にラクして生きられる」と、本能的に感じ取ってしまうこともあるのかもしれません。『あたりまえを疑え。』 CHAPTER 02 より 澤円:著 セブン&アイ出版:刊
日本人は、とくに集団での協調性や規律を重んじる傾向があります。 それ自体は長所でもあるのですが、度が過ぎると窮屈な空気を生み出します。
今、日本社会全体を覆う閉塞感も、強すぎる「同調圧力」による部分が大きいです。
異なる考え方を認め、許容する寛容さ。 それが、今まで以上に必要とされる時代になりますね。
「聞き手がハッピーになる」ことだけを考える
多いときには年に250回以上の登壇する「プレゼンの達人」である澤さん。
プレゼンの目的を、「聞いた人がよろこんで行動すること」と定義します。
プレゼンによって「相手がどんな状態になれば成功か」を示すもの。 それを「ビジョン」や「北極星」と呼びます。
澤さんは、北極星の位置をしっかり定めることが、プレゼンでは何よりも大切
だと指摘します。
結局のところ、プレゼンを成功させるには、先に書いた「聞き手はどうすればハッピーになるのか」を突き詰め、それをいかに「言語化」できるかにかかっています。 しかし、ほとんどの人が自社の製品やサービスをオーディエンスに理解させることを目的としてしまうのです。 でも、うまくいくプレゼンの要諦(ようたい)はそこにはありません。そうではなく、聞き手に「行動してもらおう」、さらには「ハッピーになってもらおう」と考えることがもっとも大切なことなのです。
これにはいくつもの先例があります。 この世に偉大なイノベーションを起こした人のほとんどは、みんなのハッピーな姿を思い描き、言語化し、ともに未来へ進もうと呼びかけた人ばかりでした。みなの視線の先にあるハッピーを見つめて北極星を掲げ、それを実現していったのです。
「わたしには夢がある」
そう語りかけて、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアは人種差別を批判し、黒人の地位を向上させることを実現していきました。
「すべての机と、すべての家庭にコンピュータを」
そう語りかけて、マイクロソフト社創業者のビル・ゲイツは画期的なOSによって、家庭とオフィスの風景を変えました。 そして、数々のイノベーションを生み出したスティーブ・ジョブズは、このように語りかけました。
「世界を変えることはできる。そう考えるクレイジーな人が、本当に世界を変えるんだ」
大袈裟な話に感じるでしょうか? 自分には関係のない天才たちの話だと思いますか? そこにこそ、罠があります。 「どうせ自分なんか」などと思ってはいけないのです。たしかに、彼らは天才だったかもしれません。いや、きっと天才だったのでしょう。しかし同時に、彼らは多くの人から変人と蔑(さげす)まれ、バカと呼ばれ、攻撃までされた人たちだったのです。 いったいどんな人からそんな扱いを受けたのでしょうか?
それは、あたりまえを疑わない人たちから
誰よりもみんなのハッピーのことを考え続けていたのは、みんなと同調できなかった人たちだったということです。僕たちは、彼らから大切なことを学べるはずです。
「自分の話を聞いた人は本当にハッピーになるだろうか?」
そう問いかけることは、きっと誰にでもできるでしょう。
『あたりまえを疑え。』 CHAPTER 03 より 澤円:著 セブン&アイ出版:刊
プレゼンというと、「いかに自分の考えを相手に伝えるか」という“話し手目線”になりがちです。
しかし、それでは相手の心には届かないということですね。
大切なのは、相手の感情を訴えかけ、希望を与えること。
誰もがハッピーになる、ぶれない軸「北極星」をしっかり見定めて、それに目を向けさせる。 そんな“聞き手目線”のプレゼンが、人々の心を動かし、世の中を変えるのですね。
過去の成功体験を疑うマネジメント術
マネージャーのやるべきことは、モチベーションが上がる環境を整えること。
チームの力を阻害するブロッカーを外していき、みんながのびのびと仕事ができる環境を整えることが重要な仕事
となります。
しかし、澤さんは、残念ながら、日本の企業ではマネージャー自身がブロッカーになっているケースがとても多く見ら
れると指摘します。
それは、日本企業のマネージャー(管理職)が「名誉職」
だからです。
突然ですが、メジャーリーグ史上でも屈指の名監督とされるトミー・ラソーダを知っていますか? かつて、野茂英雄投手が活躍したときもドジャースを率いていました。監督成績を振り返ると、もう文句なしのピカピカです。
1599勝1439敗(勝率・526)
地区優勝8回、リーグ優勝4回、ワールドシリーズ優勝2回
シドニーオリンピック金メダル、アメリカ野球殿堂入り、カナダ野球殿堂入り・・・・・ラソーダは、現役時代はピッチャーとしてメジャーリーグに在籍しました。「さぞや選手としての成績もすごいのだろう」と調べてみると、意外な事実に出くわします。
通算26試合に登板、0勝4敗。防御率6.48
驚くべきことに、なんと1勝もしていないではありませんか。メジャー在籍はたったの3年間。にもかかわらず、彼は監督としてメジャーの殿堂入りを果たしました。
つまり、選手としての能力と監督としての力量はまったく別物だったということです。このようなことが起こる事実が、アメリカではとても理解されています。だからこそ、リソースの最適配置ができるのです。「ラソーダはピッチャーとしては使いものにならなかったけれど、マネジメントの能力がある」と見極められる人が存在し、彼を的確に配置したというわけです。ラソーダは選手を引退したあとマネジメントの道に入り、マイナーリーグのコーチや監督としてキャリアを積み、最終的にはメジャーでずっとユニフォームを着ることになりました。 そんな彼がよく言っていた言葉があります。
「背中の名前のためにプレーするのではなく、胸の名前のためにプレーしろ」
メジャーリーグでは、背中には個人の名前、胸にはチームの名前が入るのが一般的です。つまり、ラソーダ監督は「チームの勝利に貢献すること」を選手に対して求めていたのです。 彼の最大の強みは、どんなスター選手であってもみんなと同じようにアプローチしたことでした。彼自身もマネージャー(監督)としてリソースを最適に配置し、最高の結果が得られるようにチーム全体を見事に統率したのです。 二流監督ならいざ知らず、名監督は自分の思いつきやわがままで人を動かすことなどしません。ましてや、自分の成功体験を押しつけることなど論外でしょう。なぜなら、プレイヤーとしての実績は、マネジメントとまったく関係ないからです。
過去の成功体験だけで判断すると、マネジメントは100%失敗する
僕はそう考えています。マネジメントでいちばんやらなければならないのはリソースの最適配置であり、もし過去に成功体験があるのなら、まずすべきはその成功体験を疑うことなのです。
『あたりまえを疑え。』 CHAPTER 04 より 澤円:著 セブン&アイ出版:刊
優秀な選手が、必ずしも、優秀な監督になれるというわけではありません。
時代や環境が変われば、求められる手法や戦術も変わります。
「自分のときは、これでうまくいったから」 と自分の考えに固執すると、うまくいかないことが多いです。
過去の栄光にすがらず、周りの意見も取り入れながら、変化に柔軟に対応できる。 それが優れたマネージャーになるために、最も必要な能力です。
世の中にはびこる、根拠のない無意味な「あたりまえ」。
それらを根源とする「同質性の強制」を解消していく役割を担う。
つまり、同調圧力に屈せず、偏見と戦う人びとを支持し、サポートする。 すると、周囲の風当たりは強くなりますが、人生が面白くなるのも事実です。
澤さんは、それは風あたりが強くなる=最前線にいる
ということだからだとおっしゃっています。
「あたりまえ」を疑い、自分の感覚を信じて行動する。 その小さな一歩を踏み出すと、日常の世界が一変します。
最初は、その風圧に戸惑うかもしれません。 しかし、それに慣れてくると、これまでとはまったく違う、刺激的な風景が眺めることができるようになります。
「あたりまえ」を疑い、自分らしく生きる人が増えるほど、世の中は明るく開放的になります。
本書は、私たちの未来を照らす道しるべ、「北極星」のような輝きを放つ一冊です。
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